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妖精と精霊の国と王女様

 薫たちは、妖精と精霊の国に着く。

 人間は一人もおらず、殆どが妖精と精霊で構成されている街。

 古城はかなり古く、苔やツルなどがいたるところに生えている。

 そして、その街の上空にはドラゴンが5体ほど徘徊しているのだ。

 


「レイアドラゴン……」



 フーリが指差し言う。

 お目目を輝かせながらである。



「か、薫様……」

「ああ、これはちょうどええタイミングやな……。入る前にしばくか」

「レアドロップ……お肉」

 

 

 三人は、完全にレイアドラゴンのお肉に目が行っている。

 薫は、一体ずつ戦闘に持ち込むために、寸分の狂いもなく一番近くのレイアドラゴンに威圧を当てる。

 こっちに注意を向ける為、わざと喧嘩を売るのだ。

 すると、不機嫌になったのかこちらに飛んでくる。

 

 

「さぁ、狩りの始まりや」

「お肉になってください!」

「ごくり」

 

 

 三人は、そんな感じでレイアドラゴンと対峙する。

 フーリの頭に乗っていたピンクラビィは、戦闘と思ったのかぴょんと降りてお城の中へと入っていった。

 アリシアは、残念そうに姿が消えるまでじっと見つめる。

 戦闘に入ってから、レイアドラゴンは飛行していて攻撃を当てることが困難だった。

 大きさは4mを越えで、羽を広げるともっとでかい。

 羽ばたくたびに風圧が薫達を襲う。

 薫は、若干イラっとしていた。

 ちょこまかと飛び回るレイアドラゴンをハエとしか思っていない。

 スプレーで、シュッと吹きかけて地上に落とせないものかと思うのだ。

 フーリも器用に炎鬼を操り空中に飛ばす。

 しかし、軽く避けられてしまうのだ。

 

 

「ちょこまかとしおるなぁ」

「飛んでるとこっちが不利なのですよ。どうしましょうか……」

「そうやなぁ……。フーリ、炎鬼を放り投げてええか?」

「え? う、うん。大丈夫」

「いや……蹴り飛ばして、ぶち当てたほうが早いかもしれへんなぁ」

 

 

 そう言って薫はフーリと連携して、レイアドラゴンを地上に落とすことを目論む。

 フーリにどうするかを耳打ちで言い、即効で合わせる事にした。

 炎鬼を薫の方へジャンプさせる。

 そのまま薫は、レイアドラゴンの飛行経路を予測しながら回し蹴りを繰り出す。

 薫の蹴りと炎鬼の足がぴったり合致した瞬間、足にピンポイント強化を掛ける。

 蹴り飛ばした瞬間、空気を割く音がズドンっと鳴り響く。

 凄まじいスピードで、レイアドラゴン目掛けて飛んで行く炎鬼。

 フーリは、魔糸をどんどん伸ばしていく。

 そして、炎鬼を操りボティブローをレイアドラゴンに決める。

 ぽっこりと出ているお腹に、炎鬼の拳がめり込んでいく。

 薫の蹴りの勢いと相まって凄まじい力が加わっている。

 レイアドラゴンは空中で体がくの字に曲がり、「ギャアアアアア!」っと奇声を上げながら地上へと落下していく。

 

 

「よっしゃ、大当たり!」

「落っこちてくるのですよ!」

「よし、追い討ちをかけるで」

「うん」

 

 

 そう言って、瞬間的加速で一気に薫は落ちてくるレイアドラゴンを蹴りを繰り出す。

 体を捻り、遠心力を掛けて首元に叩き込んだ。

 ズドンっと鈍い音とともに土煙が舞う。

 力の加減をしていた為、レイアドラゴンは地面に顔を突っ込んだ状態になった。

 まだ、体力が残っているのだろう。

 光の粒子に変換されない。

 

 

「ちょっと加減し過ぎたけど。まぁ、ええか」

「め、めり込んでます。一番可哀想な状態なのです」

「あれで死んでない。苦痛」

 

 

 地面に頭が刺さったままピクリとも動かないレイアドラゴン。

 まるで、土下座をしているような光景に、ちょっといたたまれなくなる。

 薫は妖精の国の入り口にいた為、建物を壊したくなかったというのもある。

 仕方ないよねと言った感じで、次の獲物に喧嘩を売るのであった。

 結果は、五匹のレイアドラゴンは全て一列に頭部をめり込ませた状態で鎮座する。

 

 

「なんか、凄い」

「ちょっと可哀想なのですよ薫様」

「そうか? ここまで綺麗に並ぶとちょっと圧巻と言うか……。ああ、やっぱ無いわ。可哀想やから倒すか……肉のドロップを願いながらな」

 

 

 そう言って、薫たちはレイアドラゴンの止めを刺す。

 軽いパンチのみで光の粒子へと変換される。

 アリシアもそうだ。

 雪時雨でツンと突くだけでレイアドラゴンは光の粒子へと変換されるのだ。

 フーリもナイフでツンと突く。

 

 

「出ないのですよ……」

「こっちもアカンかったわ。角なら出たんやけど」

「角もレア! そう聞いた」

「お! じゃあええか」

「お肉、出ず」

 

 

 そんなことを言いながら残りの二匹も倒す。

 だが、肉のドロップはしなかった。

 

 

「やっぱ、レアなだけあってなかなかドロップはせえへんのやろうな」

「残念なのですよ……」

「がっくり」

 

 

 三人共がっかりした表情でドロップ品の角を回収する。

 角は二本ドロップした。

 

 

「まぁ、また沸いたら狩るってことでええか」

「はい、せめて一つはほしいのですよ」

「一つで人生幸せ……」

 

 

 そう言いながら妖精の国へと入って行くのであった。

 誰もいない門をくぐると、そこは光の楽園なのではないかというくらい光り輝いていた。

 精霊や妖精が飛び交う。

 まるでダンスをしているかのような感じだった。

 薫たちは心を奪われ、しばしその光景を見とれてしまった。

 

 

「やばい、これはめっちゃ感動するな」

「凄いのですよ。この世のものとは思えない光景です。ぴっかぴかなのですよ!」

「優しい光。綺麗」

 

 

 三人はそれぞれ、そのように口から感想が溢れ落ちるのだ。

 太古からあるのではないかと思わせる町並み。

 所々ひび割れたり、つるや苔が生えているが、またそれが味があっていいのだ。

 そして、町中至る所に木の実や果実がたわわに実る木々がある。

 水の精霊がその周りを輝きながら水を撒いている。

 飛び交う精霊たちは楽しそうに笑顔を作っていた。

 掌に乗るくらいの大きさの者や、魔力の集まりと言った人型でないものまでいる。

 

 

「か、薫様! こ、小人ちゃんなのですよ! 私の足下に寄って来てるのですよ」

「ん? あ! ほんまやな」

「これ、氷の精霊」

 

 

 フーリは、そう言いながら足下に群がる精霊たちを座って構うのだ。

 指で優しく撫でると小さな精霊は「きゃっきゃ」と言いながら喜ぶのだ。

 少しして、薫とアリシアの声が聞こえないことに気付きフーリが顔を上げると、大量の色んな属性の精霊達が薫とアリシアに引っ付いているのだ。

 

 

「え? え?」

 

 

 ちょっと異常な光景に、フーリは口をパクパクさせながら見る。

 

 

「「「「「魔力多い! 魔力多い! 頂戴! 頂戴!」」」」」

 

 

 そのように言いながら薫とアリシアに引っ付いているのだ。

 

 

「なぁ、これどうしたらええんや?」

「わ、わからないですよぉ」

「群がりすぎ……」

 

 

 薫とアリシアは、魔力を全身から流すようにすると、精霊たちは喜びながら強い光を放つのだ。

 

 

「「「「「お腹いっぱい。お腹いっぱい。ありがと。ありがと」」」」」

 

 

 そのように言って離れていくのだ。

 

 

「ちょっとびっくりしたわ。害はないとは思うんやけど……多すぎて一瞬はたき落としそうになったわ」

「せ、精霊さんが死んでしまいますよ! 絶対にやっちゃ駄目ですよ薫様」

「いや、さすがにせえへんかったやん。なんか手出したら、あとあと面倒なこと起きるんやないかと思ってなぁ」

「危ない……」


 

 そう言いながら、薫は頭を掻く。

 未だに薫とアリシアの周りを色んな属性の精霊が飛び交う。

 魔力を分け与えたおかげもあり、ぴょんぴょん元気よく跳ねている。

 しばらくすると、騎士の真似ごとのような格好をした可愛らしい精霊が数人こちらにやってくる。

 

 

「カオル・ヘルゲンご一行で間違いない?」

 

 

 木の精霊なのだろうか、頭からぴょこんと葉っぱが出ている。

 身長は、70cmくらいだろうか。

 目はくりくりで、愛らしい表情でこちらを見てくる。

 人間ではないのは見れば分かる。

 全身から神秘的な光が漂っているのだ。

 

 

「なんで名前を知っとるんや?」

「それは秘密。女王様が会いたがってるの。付いて来て」

 

 

 そう言って可愛らしく手招きをする。

 アリシアは、終始笑顔でその精霊をじっと見る。

 歩く度におしりをふりふりして歩く。

 

 

「か、薫様、可愛いのです」

「なんか、色んなマスコットキャラの国に来たみたいやな」

「精霊さん、可愛い」

 

 

 三人は、精霊に連れられ街の中心にある古城を目指す。

 薫たちは、古城の中に入ると水晶のような物がいたるところに生えている。

 天然物なのだろうかと思いながら薫は横目で見る。

 アリシアとフーリも目をキラキラとさせながら、周りをキョロキョロとしていた。

 ちょっと可愛いな。

 大広間を抜け、大きな扉がある。

 その扉が開かれると、謁見の間のような部屋が広がる。

 真っ赤な絨毯に金色の刺繍が施されてある。

 この上を歩いてもいいのかと躊躇してしまうくらい綺麗なのだ。

 一番奥には天井から白いレースが掛けられ、薄っすらと椅子に座る女性のシルエットが見える。

 キラキラと光る羽が生えているのが目に付く。

 

 

「初めまして、カオルさん。このような挨拶で申し訳ありません。この空間から出ると魔力が不安定ですので……」

 

 

 おっとりとした声で名前を呼ばれる。

 薫は少し警戒する。

 

 

「あ、え、えっと、警戒とかしないで下さい」

「いや、初めて会う人から、自分の名前を言い当てられたらさすがに警戒するやろ」

「そ、そうですよね。す、すいません。え、えっと」

 

 

 シルエットでもおろおろしているのがよく分かる。

 ちょっと拍子抜けをくらう薫。

 アリシアとフーリもポケーっとしている。

 ちょっと蚊帳の外感が半端では無いからだ。

 

 

「何で俺の名前知っとるんや? 色々と聞きたいことあるんやけど」

「あ、はい。えっと一から説明しますね。えーっと、ビスタ島でピンクラビィを助けていただきましたよね?」

「はい、助けて一緒に生活してたのですよ! 幸せなひとときでした」

「うふふ、良くしてくれたと言う報告が私にも入ってますよ。あの子達からの情報を私が受信してるんです」

「そ、そんなことが出来るのですか!」

「通信できる。便利」

「はい、私は妖精の王女ですから……。あ、すいません名前を名乗ってませんでした。私は、プリシラといいます」

「プリシラさんね。で? なんか俺に用でもあったんか?」

 

 

 薫がそのように聞くとプリシラは、申し訳ないといった雰囲気を醸し出しながら薫にお願いするのだ。

 

 

「私の病気を治して頂けないでしょうか……。カオルさんは、色んな病気に精通していると報告で聞いてます」

「ん? どういうことや?」

「その、ここ数ヶ月前から体調が優れず、思うようにスキルが使えなくてこの国の存在を外に漏らしてしまっているんです」

「そ、そうなのですか! 大変なのですよ薫様!」

「ああ、確かに……。妖精とかでも、ピンクラビィはかなり高額で取引されるって聞いたことあるな。変なんがこの街に入ったら、多分乱獲されて裏で流されたりするかも知れへん」





 薫の言葉に、プリシラは寂しそうな声色に変わる。





「今のところは、そのような被害は出てません。ですが、このままこの状況が続いてしまうといずれそのような事が起こり得ます。それと、魔物からの被害を受け無いように、今はピンクラビィ達の力を使ってますが……ずっと使えるわけではありません。効果が切れれば、私達は襲われてしまいます」

「何とかしてあげたいのですよ薫様」

「薫様、治してあげよ」



 2人は、薫の白衣をキュッと摘んでそう言うのだ。



「まあ、治すのは構わへんよ」

「ほ、本当ですか? ありがとうございます」



 シルエットが左右に揺れてるのがよくわかる。

 本当に嬉しいのだろうなと思うのだ。



「こんな綺麗なところが無くなったり、荒らされたりされるのは嫌やからな」

「はい、こんなピンクラビィちゃんの楽園を壊されるのは嫌なのですよ。私が守ってあげるのですよ」



 むふーッと、アリシアは気合い十分といった感じでそう言うのだ。



「取り敢えず、なんの病気か調べへんとな。そっちに行ってええか?」

「はい」

「アリシア、行くで。フーリは少し待っとってくれ」

「はいなのですよ!」

「うん」



 薫とアリシアは、プリシラの下へ向かう。

 レースを潜り中に入ると、薫ですらレースで囲われているこの空間だけ異常に魔力が濃いのがわかる。

 そして、プリシラの姿が目に入る。

 淡い桃色のゆるふわロングヘアで、長さは腰まである。

 頭の上に花のサークレットを付け水晶などで装飾されている。

 真っ白なワンピースに、大量のフリルがあしらわれており、モデル体型というかちょっと華奢な印象ではあるが、胸は大きくオロオロしていると体に合わせて揺れるのだ。



「すごく綺麗やな」

「ほわほわな雰囲気が、物凄く守ってあげないといけない気がするのです」

「え? あ、ありがとうございます。き、綺麗だなんて言われるに初めてで……そのどういった反応をして良いのかわかりません」

「素直に喜んどったらええんやないか。それじゃあ診断を始めてええか?」

「はい」



 薫は、問診から入る。

 アリシアもそれを聞きながら、手順を確認していく。

 薫と違い、アリシアは『診断』『解析』は使えない。

 それを補う為には、このように一個ずつ患者から病気の自覚症状や何時頃からおかしいかなどを聞いていかなければならない。

 これを基盤に患者の病気の解明をしていく。



「体に違和感が出たんは何時頃や?」

「結構前からですが自覚したのは三ヶ月前でしょうか……」

「症状はどんな感じなんや?」

「ここら辺がズーンって痛むんです。大体1時間から4時間くらいでしょうか」



 そう言いながら、こめかみを押さえるプリシラ。

 アリシアは、「わかりました!」と言わんばかりに手をビシッと上げる。



「はい、アリシアなんや?」

「病気は、【脳梗塞】です! まだ初期状態だと思うのですよ。その予兆で痛みを発しているのだと思います」

「ほう、そう思うのはなんでなん?」

「ダニエラさんの時と同じような感じだからです」

「なるほどな。アリシアはそう思うんやな」

「はい」



 自身満々なアリシア。

 プリシラは、2人の会話が理解できないでいる。

 軽い呪文のような感じなのだ。

 薫は、アリシアの考えをまとめながら問診を続けていく。



「すまんな。プリシラさん問診を続けるで」

「はい」

「何か食生活を替えたりとかは無いか?」

「そうですね……。カカオラと言う木の実の栽培がやっと成功したのでここ数ヶ月は、そればかり食べてました。とっても甘くて、とろとろふわふわで美味しいんですよ」



 笑顔で薫に言う。



「チョコの原材料ですね! あのとろとろの中に果物を付けて食べると幸せになれるのですよ」



 アリシアの言葉で、何となく病気の概要が見えてくる。

 然し、まだ足りない。

 薫は確定的なものを探りに行く。

 薫は、段々病気を絞っていく為に、ピンポイントな質問に切り替え聞いていく。

 アリシアは薫の行動を見て、段々自信がなくなっていく。



「そうやなぁ、これが最後の質問な。その症状が出る前になんらかの疲労するような事はあったか? 体を動かすとかでは無いんやけど、精神的な緊張でもええ」

「そうですね。私の子供達が、誰かに捕まってしまったりとかそういう事件が多く起きました。私は、無力で隠れる事しかできませんから守る事ができません」



 そう言って、ぽろぽろと涙を流す。



「まぁ、それはあんたのせいやないんやから。あんまり思いつめんでええよ。無理かもしれへんけどなぁ」



 薫は、椅子に座るプリシラの頭を撫でる。

 嬉しいのか羽がぱたぱたと動く。



「あ、ありがとうございます。お心遣い感謝します」

「ええよ。じゃあ、診断結果や。言うてええか?」

「は、はい。えっと、あれだけの質問でわかるものなのですか?」

「ほぼ確定て感じやな。妖精の診断は初めてやけど一般的な病状から見ると合致する病気があるんや。これから精密検査も入れるけど、死んでしまう病気ではないから安心してええよ」



 そう言って笑顔を見せる。

 その表情を見て、プリシラも少し不安が消えるのだ。



「病名は、【偏頭痛】や。女性に罹りやすいやつやな。まあ、精密検査無しで断定できる要素はほぼ出そろっているからな」

「へんずつうですか?」

「あ!」



 アリシアは、薫の答えに「その病気がありました」と言った表情になる。

 しょぼんとして薫の回答を聞き、正確な判断と自身での解析能力の低さに全く追いつける気がしなかった。



「答え合わせやな『診断』」



 結果が表示される。

 ・病名、【妖精偏頭痛】

 ・主な症状、継続的に1時間から4時間の間、ズーンとした痛みがこめかみから走る。

 ひどい時は、ガンガンと脈打つような痛みや吐き気を催す。

 周期は短く、痛みで魔力が練れない事がある。

 慢性化すると、一日中寝たきりにもなる。

 ・原因、過度なストレス、チラミンの過剰摂取、不規則な生活、睡眠不足など。

 ・治療方法、生活習慣の改善、薬【ロキシー】の服用。



「当たりやな」

「うー、間違ってたのですよ……。偏頭痛を忘れてたのです」

「ちょっと早く結論出しすぎやな。まぁ、あながち間違ってはないで。俺も脳関係の病気は、最後まで選択肢の中に残っとったからな。何かの予兆ととらえるのも頷けるし。前例があるから余計にやろ」



 薫はそう言って、アリシアの頭を撫でる。

 失敗は成功の元といった感じで褒めるのだ。

 この失敗を次に活かせれればそれでいい。

 嬉しそうに喉を鳴らしながら、ご機嫌状態になるアリシア。

 そんなアリシアを羨ましそうに見るプリシラ。



「治るまでに時間がかかるんやけど。大丈夫か?」

「あ、はい。その間は、この街でよければご自由にお使いください」

「ああ、そうさせて貰うわ。プリシラさんは、取り敢えず食生活から変えて貰うで。薬だけでどうこう出来るものやないからな」

「え? 何か食べてはならない物があるのですか?」

「カカオラがアウトや」

「!?」



 その言葉を聞いたプリシラは、ショックを受ける。

 かなり好きな物なんだろうなと思う。

 一瞬だが、表情に出たのを薫は見逃さなかった。

 これは、監視を付けねばなるまいと思う。

 絶対に食べそうなのだ。



「わ、わかりました。治るまでの間は、た、食べません」

「薫様、何か言葉の端々が震えてるように思うのですが? 気のせいでしょうか?」



 気のせいではない。

 完全に動揺しているのがわかる。



「気のせいやろ。なんてったって、妖精の王女様がそんな食べ物に負けたりせえへんよ」

「そうですよね」

「……意地悪です」



 薫の釘の刺し方に、小さな声でプリシラはそう呟くのであった。

 可愛い顔は、ムスッとしてそっぽを向いているのだ。



「まぁ、ちょっとくらいならええけど。主食にしたら駄目って言い換えとこうか。カカオラの中に入ってる、チラミンって成分を過剰摂取さえしなければええだけや。心臓に卵円孔っていう穴が空いとるけど、普通に生活しとっても別にどうってことはないんや。やけど、チラミンって言う成分のせいで、この穴が大きくなる可能性があるそうなったら手術したほうがええかなと思う。原因の1つとしてもあげられてるからな」



 薫は、プリシラの不貞腐れた顔を見て、からからと笑いながらそう言う。

 チラミンは、血管収縮作用(収縮した後に拡張する)が含まれている。

 偏頭痛のメカニズムは、脳の毛細血管が拡張する事で炎症を起こし、その周辺にある三叉神経(眼神経、上顎神経、下顎神経に分かれる神経。脳神経の中で最も大きい神経)を刺激して、その刺激が脳に伝達され痛みを感じる。

 だから、チラミンを過剰に摂取する事で毛細血管が拡張し、偏頭痛を引き起こす事になる。



「薬もあるみたいやからそれも出しとく。ちゃんと飲むんやで」

「はい」



 薫は、【ロキシー】という妖精偏頭痛に効く薬を精製する。

 それを一週間分袋に入れ渡す。



「そうや! プリシラさん、迷宮はどこにあるんや?」

「迷宮ですか? 確か、泉の北側にあったと思いますけど……。かなり昔に土砂崩れで埋まってしまってるんですよ。何か用でもあるんですか?」

「ああ、トルキアの領主に頼まれとるんや」

「うーん、入るのは難しいと思います。私達、妖精や精霊の上位の者でもどうにもなりませんでしたから」



 そうプリシラは言うのである。

 薫は、別に攻略をするわけではないので、場所さえわかればそれでよかった。



「ああ、それだけ有力な情報が入ればええわ」

「お役に立てたのなら何よりです」



 そう言ってプリシラは笑顔を薫に向けるのだ。

 しかし、直ぐにその笑顔は崩れる。

 妖精偏頭痛が来たようだ。

 薫は、アリシアに雪時雨で氷を作るように言う。

 アリシアは、アイテムボックスから雪時雨を引っ張り出す。

 途中、大きなピンクラビィのぬいぐるみが顔を出したが気にしないでおこう。

 いつの間に、あのような大きなぬいぐるみを買ったのか、問い詰めたくなる気持ちを抑える。

 アリシアは、ほんの少し魔力を雪時雨に食べさせる。

 そして、一振りすると拳くらいの大きさの氷が床に転がる。

 それを薫は拾い、タオルに包みプリシラの痛みを発する患部にそっと引っ付ける。



「あー、気持ちいいです。痛みが少し和らいだ感じがします」



 そう言って、アリシアに見えないように薫の手にそっと自身の手を重ねる。

 目を瞑り、気持ち良さそうな表情を見せる。



「痛くなったら、冷やすとええよ」

「はい、ありがとうございます」



 そうしていると、ピリッと嫌な威圧を感じ取る。

 薫は、そっとプリシラから離れる。



「ちょっと探索にでも行くか。何者かがこの街の近くに居るわ」

「え? もう行ってしまわれるのですか?」

「直ぐ戻るから安心してええよ。それに、この街に来れる者がおるやろうけど、ええ人間とは限らんからな。威嚇がてら、ちょっと挨拶でもして来るだけや」

「今から行くのですか?」

「ああ、ここまで来れるいう事は、それなりの手練れって事やろ? ここまで来るまでに、色んな冒険者に会ったが皆強いってわけやなかったやん?」

「私達に便乗して、安全に先に進もうとしてた人もいました。薫様が威圧のコントロールで撃退しちゃいましたけど」

「そんだけこの未開の地はレベルが高いって事なんやろうからな」



 そう言って、薫は立ち上がりちょっと悪そうな表情をする。

 アリシアは、薫が何かする気なのだなと思うのであった。

 プリシラに心配せずに、ゆっくりするように言ってレースを潜り外に出る。

 外に出ると、フーリは火の精霊達とじゃれ合っていた。

 寝っ転がって、掌サイズの火の精霊達がフーリの体の上に乗って跳ねたりしているのだ。

 胸の上で飛んでいる精霊は、他の精霊よりぽよ〜んっとよく跳ねていた。

 薫とアリシアに気が付いたフーリは体を起こす。



「薫様、アリシアちゃんお帰り。どうだった?」

「病気は大丈夫や。薬も出したしな。後は、本人次第やな」



 薫は、ちょっと面倒くさそうな顔をする。

 プリシラの行動などを考えて、何かに似ていると思ってしまう。

 まだ確証は持てないが、そのうち分かるかなと思う。

 薫はフーリに冒険者がこの街の近くまで来ている事と、どのような人か見定める為にちょっと遊ぶ事を言う。

 フーリは、足手まといにならないように頑張るというのであった。

 薫達は、そのまま古城を出て門へと向かった。



「ああ、行ってしまわれました……」

「きゅっきゅー」

「あら、お帰りなさい。怪我とかは無いですか?」

「きゅー!」



 ピンクラビィが、プリシラの膝の上に乗りぴょんぴょん跳ねる。



「ああ、よかった。見ましたか? カオルさん、やっぱり撫で方が異常に上手でした。報告通りです。あれは神の手ですよ。私達ピンクラビィ族を駄目にする魔性の手です。あの子達の報告は毎日幸せとか、美味しい手作り料理を食べて、カオルさんに優しく撫でてもらったとか……。一緒に寝たりとか……。羨ましい報告ばかりなのですもの。私もよしよしされたいです」

「きゅっきゅっきゅ〜!」



 そうだそうだ! と言ってるかのようにピンクラビィは鳴くのである。



「そうよ。あなたもして欲しいですよね! 私だってピンクラビィから初めて上位クラスまで昇格したんです。ここを守ってきた先代の妖精様達は遊びに何処かの地に行ってしまわれるし……。撫で撫でのほわほわにされないと割りに合いません。頑張ったねって言って欲しいです。あわよくば、カオルさんにギュッとされたいんです。きゅっきゅ〜!」



 痛みが走るこめかみにタオルをそっと引っ付けながら、ピンっとピンクラビィの耳を真上に立て言うのである。



「きゅっきゅ!」

「え? 耳? あ! いけないですね……。興奮したら耳が出てきてしまいました。あ! 尻尾も……」



 あせあせと髪の毛にしまい込む。



「いいですか? 私の病気が治る期間までに、撫で撫でのフルコースを堪能するんです。力を貸して下さい」

「きゅー!」



 プリシラは、自身に従うこの妖精と精霊の国の総力を挙げ、薫に撫でて貰う大作戦を開始するのであった。


読んで下さった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、有難うございます。

感想の方もちゃんと見させて頂いております。

次回も一週間以内の投稿を頑張りたいと思います。

ではー

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