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フーリのお買い物と書類

 手術が終わり、薫はフーリを抱え異空間手術室から出てくる。

 フーリは、幸せそうな表情で眠っている。

 

 

「どんな夢を見てるんでしょうか」

「案外、お姉ちゃんと一緒に遊んどるんちゃうか?」

「えへへ、ありそうですね」

 

 

 薫はフーリをベッドに寝かせる。

 両腕とも手術したところが腫脹しないように、肘関節を90°に曲げて布で固定している。

 

 

「うっぷ……」

「お? 今頃になって来たか」

「だ、大丈夫です……うっぷ」

 

 

 気が抜けて、アリシアは手術の光景を思い出し、ちょっとグロッキーな状態になってしまった。

 研修医で、血が出たり皮膚を切ったりした時に、倒れたりする人がいる。

 そういう人は、色々な事を為し克服する。

 薫は、どういった事でアリシアにこれを克服させるかなと思うのであった。

 背中を擦り、どうにか落ち着かせる。

 ゆっくりと撫でる。

 そうすると、アリシアはほんの少し楽になったのだろう。

 もう大丈夫といった感じで、薫にギュッと抱きつくのだ。

 

 

「薫様は、お体大丈夫なのですか?」

「ん? ああ、今のところ気を抜いてない分、アドレナリンでなんとか平常心保っとる感じやな。これが切れたらどっと来るでいつものが……」

 

 

 ちょっと嫌な表情になる。

 かなり体調が崩れるからだ。

 

 

「では、供給をしてしまいましょう!」

 

 

 満面の笑みで薫を見るアリシア。

 薫は、苦笑いになる。

 アリシアはペロリと舌を出し、小悪魔化しているのである。

 ああ、これから数日はこれの餌食になるのかと薫は思う。

 魔力欠乏症に比べたらまあいいかと思うのであった。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 朝を迎える。

 ベッドは三つあるのに、ちゃっかり薫のベッドに潜り込むピンクラビィのパジャマを着たアリシア。

 寒くて丸まっている格好は、もはや大型のピンクラビィと言っていいだろう。

 気持ちよさそうに眠っている頬をツンっと突くと、「きゅー」と鳴くのである。

 これは、完全にピンクラビィですわ。

 薫はフーリの寝ているベッドを見ると、フーリも気持ちよさそうに眠っていた。

 その表情を見て薫は笑顔になるのであった。

 そのまま薫は、二人が起きるまでのんびりとしていた。

 魔力欠乏症は相変わらずで、もう三日くらいはこの状況を味わわなければならない。

 薫は少し憂鬱になるのである。

 アリシアがもぞもぞとしだす。

 目が合う。

 そのままキスをして甘い声をアリシアは奏でる。

 

 

「お、おはようございます」

「おはよう。何で俺のベッドに居るんや?」

「ふ、夫婦ですから……」

「何で赤くなっとんねん」

「えへへ」

 

 

 アリシアはそう言って、薫の胸に顔を埋める。

 すりすりと頬を擦りつけるのだ。

 

 

「薫様、しゅりしゅり~」

「はいはい」

 

 

 薫は、アリシアの頭を撫でる。

 嬉しそうに喉を鳴らす。

 愛くるしい表情で薫見る。

 抱きしめたくなる衝動にかられる薫。

 そんなことを思っているとフーリが目を覚ました。

 むくりと体を起こした。

 目を擦りながら周りをキョロキョロしだす。

 

 

「おはよう、フーリ。どうや? 肘の痛みはあるか?」

「お、おはよう御座います。ま、まだわかんない。でも、しびれは感じない」

「うん、ならええわ」

 

 

 そう言ってゆっくり体を起こし、そのまま伸びをする。

 けだるい感じははっきりと感じる。

 

 

「フーリ、今日はお留守番な」

「え?」

「何きょとんとした表情になってんねん。治療して、直ぐに動けると思っとたんやったら大きな大間違いやで」

「そうなのですよ。回復魔法とかと違うのですよ。だから、ゆっくりこれからリハビリというものをしていかないといけないのです。これからが大変なのですよ」

 

 

 そう二人で言うのだ。

 フーリも、やはり治療して直ぐに動けると思っていたみたいだ。

 薫は仕方ないかと思いながら1つずつ説明していく。

 今回の治療でどのような風になっていたかなどだ。

 

 

「とりあえず、治療は完璧に出来とる。動かしていいのは一週間後や」

「そ、そんなにかかるの?」

「そんなにかかるんや。その前に動かしたりしたら治るもんも治らへんぞ」

「わ、わかった。ジッとしとく」



 薫の治らないという言葉が効いたのか、スッとベッドに体を寝かせる。



「よろしい。ちょっと俺らは、Cランクになる為の書類を貰ってくるからな」

「い、いってらっしゃいませ」

「畏まった言い方はせんでええからな」

「う、うん。いってらっしゃい」

「ああ、行ってきます。そうや、魔力のコントロールくらいならやっとってええで」

「うん。試してみる!」

「では、フーリちゃん行ってきますなのですよ」

「いってらっしゃいアリシアちゃん」

 

 

 フーリは、笑顔で二人を見送る。

 薫とアリシアは着替えを済ませ宿屋を出た。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 薫とアリシアは、領主の屋敷に来ていた。

 このトルキアでは一番佇まいが立派で重々しい雰囲気を醸し出している。

 石造りで立てられた三階建ての大きな屋敷だ。

 庭園もあり、色とりどりの薬草などが植えられている。

 門番に薫は話しかける。

 

 

「すまんけど、マリーさんと約束があるんやけど」

「ん? 約束? って、お前カオル・ヘルゲンじゃねーか」

 

 

 門番は、薫とアリシアを見てそういうのだ。

 昨日のトーナメントを見ていたのだろうか。

 

 

「そうやで」

「かぁ~! まじかー。昨日のトーナメントで圧勝したの見てたぞ。マリー様から来たら通すように言われてる。この街ではお前達は有名人だからな」

 

 

 物凄く楽しそうな、そしてほくほくとした表情なのだ。

 薫は、自分達に賭けて大儲けでもしたのかなと思うのであった。

 中に通される。

 屋敷の中に入り、廊下を歩いていると奥の方から声が聞こえてくる。

 

 

「嫌です~! 絶対駄目です~! なんで昨日戦ってスッキリしたって言ってたじゃないですか!」

「昨日は昨日、今日には変わるのよ。ミィシャ、お願いもう一回遊ばせてよぉ。昨日は殆ど全力で戦えてないのぉ」

 

 

 ミィシャの腰に手を回した状態で、ずるずると引きずられるマリー。

 涙目でずっと「戦いたいよ~」と言いながら頬ずりをしているのだ。

 その様子を見て、薫とアリシアは「こんなのが領主でいいのか」と思うのであった。

 マリーとミィシャは、薫とアリシアがいることに気が付き直ぐに態度を変える。

 だがもう遅い。

 完全にアホの子としか思えないのだ。

 

 

「いやー、よく来たね。カオルさんにアリシアちゃん」

「うん、なんて言うんやろうな。別にさっきの続けといてもええんやで」

「うわーん、ミィシャ見られてたよぉ……」

「崩れるの早すぎですよマリー様」

 

 

 溜息を吐きながら、ミィシャは引っ付くマリーを引き離そうと必死になっていた。

 傍から見たら面白いので、アリシアと二人で行く末を見守るのだ。

 最終的には、ミィシャの勝ちで終わった。

 Sクラスが、そう簡単に全力で戦っていいものではないからだ。

 

 

「お見苦しいところを見せてしまいました」

「ええよ。おもろいもん見れたし」

「はい、もっといじめてもいいと思うのですよ」

 

 

 満面の笑みでそう言うアリシア。

 アリシアは、何故かマリーに厳しい。

 思い当たる節があったから、薫はそのことには触れなかった。

 下手に突くと蛇が出るか鬼が出るかわからないからだ。

 

 

「今日は、Cクラスに昇格させる書類を貰いに来たんや」

「ああ、それね。はいはい。直ぐ準備するよ」

 

 

 しゅんとした表情で、とぼとぼと書斎へと向うマリー。

 薫達もそれに続く。

 書斎に入ると、山のような書類が所狭しと積み上げられている。

 薫は、絶対に領主などしたくないと思うのであった。

 アリシアもその光景に自分は無理と思うのだ。

 

 

「ご、ごめんね。昨日トーナメントに行って、仕事放棄しちゃったから物凄い数の書類が貯まっちゃってるのよ」

「さっさとして下さいマリー様。これからこの倍の書類があるんですから」

「え゛?! 私を殺す気なの? ミィシャ手伝ってよぉ」

「領主なんですから、それくらい一人でやって下さいよ」

 

 

 ミィシャは、自業自得といった表情でそう言うのだ。

 多分、昨日の事も引っくるめての表情なのだろうなと思う。

 マリーが暴れたら、その後処理をミィシャがしないといけないからだ。

 薫は、何となくそのような態度をとりたくなる気持ちがわかった。

 

 

「はい、さらさらーっと、はい出来たよ」

「おお、すまんやったな。これで妖精の国へ行けるわ」

 

 

 薫はマリーから書類を貰う。

 それをアイテムボックスへと入れる。

 

 

「お二人は、本当に妖精の国に行かれるのですよね?」

「はい、ピンクラビィちゃんの群れに会いに行くのですよ!」

「でしたら、迷宮の位置だけでも探してもらえないでしょうか」

「ついででええなら別に構わへんよ」

 

 

 薫はそれを了承する。

 

 

「最近、なかなか思うように進んでなくて困ってるんですよ。妖精の国を発見したはいいのですが、魔物が冒険者のみを襲うという現象が起きてるんです」

「妖精さんには害がないのですか?」

「そうなんです。妖精には魔物は見向きもしないくて、冒険者のみを襲うんです。だから冒険者は、折角妖精の国に入っても休むことができないです。そこにいる魔物は、殆どがAランクの魔物が多いので、ずっと滞在することは不可能なんです」

「なるほどな。まぁ、旅行ついでやからそこら辺は任せといてもらってもええで」

「さすが、Sランクの治療師ですね……。あっさりこんなことを了承できるとかもう人として間違ってる感じがしますよ」

「そう? 私もSランクだけど契約なかったらカオルさんと同じことするかなぁ」

「マリー様には聞いてません。さっさと書類を片付けて下さい」

「酷いよ! ミィシャ、私をなんだと思ってるのよ」

「わがまま領主ですよー」

「むきー! 後で覚えときなさいよ! 隅々まで可愛がってあげるんだからね」

 

 

 マリーは、高速で書類に目を通しながら魔印を押していく。

 

 

「その頃には、私はニーグリルへ長期休暇ですね」

「イヤだー。ごめんなさい。私を一人にしないでよぉ―。もうカオルさんでいいから、私のお婿さんになってこの仕事手伝ってよ~」

「ああ、パスで」

「あっさりしてるわねぇ。いいのよ? このナイスバディな私の体を弄んでも」

「駄目なのですよ! 薫様に色仕掛けする悪い悪魔なのです!」

「そんなちんちくりんな体じゃあ物足りないでしょ? ねぇ、カオルさん」

「ち、ちんちくりんってなんですかぁ―! ま、まだ成長中ですよ!」



 薫の後ろに隠れ、顔だけを出しマリーと火花を散らすアリシア。

 薫は笑顔のまま「うわぁ、めんどくせー」と思い思考を停止させるのであった。



「マリー様、それ以上お二方に迷惑かけるなら仕事二倍に増やしますよ」

「え゛? なんでよ」

「そのまま、追撃するのです! ミィシャちゃんファイトなのですよ。一生、この書斎に閉じ込めておいて下さい!」

 

 

 完全にアリシアは、マリーを敵とみなしているようです。

 マリーは、アリシアの言葉に威圧込みでじろりと睨みを入れる。

 薫の背後で顔だけだし、頬を膨らませるアリシア。

 うるうるな瞳を向けながら、「薫様にちょっかいかけるな」と言った感じなのだ。

 

 

「まぁ、俺は書類貰ったらもうここには用ないしな」

「うわー、なんてひどい言葉なのよ」

「すまんな、俺はアリシアが大事なんよ」

 

 

 さらっとそう言いのける薫に、マリーは入る余地はないと思うのであった。

 ちょっと残念といった感じで、書斎の椅子に背中を預ける。

 伸びをしながら、楽しみが減ったと思うのだ。

 

 

「薫様をいいように使おうとする人は嫌いなのです」

「なるほど……自身の欲を出さないで、カオルさんの為に行動する人ならいいの?」

「そうです! マリーさんは私欲で薫様を自分のものにしようとしてるのが嫌なのです!」

「もうええかな? これ以上するとバトルが勃発しそうや」

「そうですね。ああ、カオルさんとアリシアさん、今度この街の美味しい店をマリー様抜きで一緒に回りませんか?」

「はい、よろこんでなのですよ」

「ああ、そういうのなら大歓迎や」

「な、なんでミィシャは速攻でオッケー出してるのよ。不公平じゃない」

 

 

 涙目で、マリーは3人の輪の中入ろうとする。

 しかし、今回はミィシャがそれを阻止する。

 

 

「マリー様は、ちょっと反省が必要です。私もマリー様の我が儘に付き合ってかなり疲れてるんです。だから、これくらいよいのです」

 

 

 笑顔でそう言われ、マリーは渋々書類に目を通しながら魔印を押す作業をするのである。

 ミィシャと約束を取り付け、薫とアリシアは屋敷を後にする。

 丁度お昼頃になっていた。

 一度、宿屋に戻ってフーリと一緒にお昼ご飯にしようと思うのである。

 薫達は、宿屋に戻った。

 

 

「あ! お帰りなさい」

「ただいまです」

「帰ったで、お腹すいてないか?」

「だ、大丈夫です」

 

 

 フーリはそう言うが、お腹がグ~っと鳴るのである。

 薫は笑いながら、フーリを連れて宿屋の一階にある食堂へと向う。

 薫たちは椅子に座り、店員を呼んで注文を入れる。

 

 

「このヒートピックのパラパラ焼き飯と野菜と羽魚の餡掛けで、何か他に頼みたいのあるか?」

「私は、このとろとろロースの壷釜蒸しが食べたいのです」

「んじゃあ、それも。フーリは?」

「こ、これ、ふわふわコドラの卵肉まんが食べたい」

「じゃあ、それも追加で。他に無いか?」

「もう大丈夫ですよ」

「大丈夫」

「なら、それでお願いするわ」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 

 注文を終えて、薫たちは料理が来るのを待つ。

 十五分くらいだろうか、料理が運ばれてきた。

 薫はアリシアとフーリに取り分ける。

 栄養バランスが偏らないように、しっかり野菜も盛り付ける。

 

 

「こ、このヒートピックのぱらぱら焼き飯は凄く美味しいのですよ! フーリちゃん、はい、あーん」

「はむ……うん、おいひぃ」

 

 

 両手を固定しているので、アリシアが食事の補助をする。

 二人は、にっこり笑顔で料理を食べるのである。

 薫も料理を口に運ぶ。

 噛むとピリッとして、ヒートピックの肉汁が口の中に広がる。

 肉は甘くしつこくない味で、食べると体がぽかぽかする。

 寒いこの季節にぴったりの料理だった。

 野菜と羽魚の餡掛けにも手をつける。

 羽魚は、一口サイズの切り身を油でサッと揚げ、外はカリカリ中はジューシーといった感じになっていた。

 甘酢のような餡に野菜と一緒に絡まり光沢を放つ。

 匂いで食欲を増進させる。

 薫は、フォークで刺し口に運ぶ。

 弾力はあり外のカリカリ感がなんとも言えない。

 新鮮な魚を使ってもこのような食感にはならない。

 思わず唸ってしまう一品であった。

 アリシアもフーリと一緒に食べると、幸せそうな表情で噛み締めていた。



「なんなのでしょう……幸せなのですよ」

「カリカリ、ジュワジュワ、とっても美味しい」

「よく噛んで食べるんやで」

「「はーい」」



 二人は、いい返事をしながらフォークが進む。

 薫が取り分けた二品目をペロリと食べてしまった。

 そして、残るは二人が頼んだとろとろロースの壷釜蒸しとふわふわコドラの肉まんだ。

 壷釜蒸しは量が少なく、厚さ1cmくらいで100gのサーロインステーキのような感じであった。

 アリシアは、フォークでロースを刺して壷からお皿に出す。

 そのまま切り分けて口に運ぶ。

 パクリと頬張った瞬間、アリシアは薫に向かって「ん〜♪」と言うのだ。

 満面の笑みで、美味しさを表現するがなかなか伝わらない。

 フーリにも一切れ食べさせると、同じような行動をとるのだ。

 なんとも微笑ましい光景に、薫は笑顔になるのである。



「薫様、物凄いです! 物凄いのですよ!」

「これ、凄い。ジュワジュワとろろーん!」



 二人の美味しさの表現がちょっと面白い。

 蒸してるのにジュワジュワという事は、かなり脂分が強いのかとも思う。

 しかし、ロースを使っているのにおかしいと思うのだ。



「薫様、あーん」



 屈託のない笑顔で、ロースを薫に食べさせようとする。

 その笑顔は信じていいのだろうか。

 最近、妙な知恵をつけてきているだけに、少し警戒してしまう。

 それに周りの目線が、異常な殺気を含んでいる。

 薫は気にすることなく口に含むと、衝撃が走った。

 1cmの厚さのお肉は、口に含み噛み締めると一気に旨味が口一杯に広がるのだ。

 今まで食べた中で、一番旨いと言ってもいい。

 蒸し焼きにしているおかげで、無駄な脂が一切ない。

 それなのにパサパサせず、旨味が1cmの肉の中に閉じ込められているのだ。



「これって、なんの肉なんてやろうな」

「気になりますね」

「気になる」



 即座に店員を呼んで、薫はロースの正体を聞く。

 この肉の正体は、レイヤドラゴンの肉らしい。

 Aランクの魔物で、ドラゴンで最も強いと言われる。

 そのレイヤドラゴンのレアドロップがこの肉なのだ。

 たまたま、今回仕入れで入ったのでメニューに出しているらしい。

 薫はメニューを確認すると、一番高かった。

 値段を見ていなかったので、今気がつくのである。



「このレイヤドラゴンって未開の地にいるんか?」

「はい、沸く事は稀ですがいますよ」

「じゅるり」

「わくわく」



 アリシアとフーリの言動に店員は苦笑いを浮かべる。



「取り敢えず、見つけたら速攻で狩るか。ドロップする迄、狩り尽くすのもありやな」

「瞬殺で行きましょう!」

「美味しいご飯が食べれそう」



 薫とアリシアは、確実に殺る気に満々なのだ。

 フーリは雛鳥のように、馬車でお留守番する気満々なのだ。



「いやいやいや、レイヤドラゴンを狩るなんて何人AランクとBランクの冒険者が必要だと思ってるんですか! Sランクのマリー様なら兎も角普通に考えたら死にに行くようなものですよ!」

「おう、店員の姉ちゃん。そいつらなら安心していいぜ。マリー様と同格だからな」

「寧ろ、マリー様を倒しちまった男だぞ。そこに居るカオルはな」

「え゛〜!?」



 周りの客の言葉に変な声が出る。

 そんな面白い表現になっている店員を見て、冒険者達は大いに笑うのだ。

 この街の領主よりも強いとか、もう化け物以上ということになる。

 ヘラヘラとした薫からは、そんな風には見えないのだ。

 楽しそうに話す三人に、もう呆れるしかない店員なのである。

 薫達は最後にふわふわコドラの卵肉まんを食べたが、レイヤドラゴンのロースを食べた後なだけに、物足りないと思ってしまうのであった。

 食事を終えて、一旦部屋に帰った。



「取り敢えず、フーリのリハビリを終わらせてから未開の地に入るか」

「フーリちゃんは、どうしましょうか?」

「お留守番でええんやないやろうか? 約束もあるしな」

「一緒に行く。馬車の中でお留守番する」



 フーリは、むふーっと鼻息を荒くさせ、そのように言うのだ。

 レイヤドラゴンの肉が効いているのか、この街でお留守番は嫌と言った感じであった。

 薫は仕方ないかと思いながら頭を掻くが、冒険者ランクにフーリは引っかかることを思い出す。



「そう言えば、フーリはランクDやんな」

「うん」

「どうやって、未開の地に入ったんや?」

「袋に詰められて」

「ああ、やっぱそうなるよな」



 Cランク以下のフーリを、未開の地に連れて行くにはその方法しか無い。

 薫は弱ったなと思うのであった。

 完治してリハビリを始めても、どれくらいの時間で元の強さに戻れるかの確証がない。

 フーリ次第といった感じなのだ。

 そこまで急ぐこともないので、のんびりとしてくかなと思うのであった。

 アリシアにも説明をすると、フーリの体が第一と言って直ぐに了承した。

 これから、毎日が忙しくなる。

 薫も、魔力欠乏症の改善に努めようと思うのだ。

 薫の背後に、じゅるりと舌なめずりをして立つ者がいる。

 気付いて気付いてと言わんばかりの雰囲気を出すのだが、薫は気にしたら負けと思いながら、ラックスティーを飲み背後に立つアリシアをスルーするのであった。

 そのまま放置プレイをしていると、小悪魔のような表情は崩れて薫に抱きつき「かまって下さい」と言って泣きつくのだ。

 アリシアはMだなと思うのであった。

 その後は、薫はアリシアの勉強用の医学書を作成していた。

 アリシアとフーリは互いに魔力コントロールの練習に明け暮れる。



「ふ、フーリちゃん、どうしてそんなにうまいのですか!」

「ん? これくらい出来ないと、繊細な魔糸で傀儡をコントロールできない」

「こ、コツを教えて下さい。私も強くなりたいのです!」

「うん、いいよー」



 ほんわかした二人は楽しそうに練習をしていた。

 薫は、そんな二人を横目に笑顔になるのであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 翌日になり、フーリの腕につけていた持続吸引ドレーンを取り外した。

 フーリは肘の手術跡を見て、「ふわぁー」といいながら珍しそうに見るのだ。



「薫様、ここを切ったんだよね?」



 フーリは、手術あとを手で触りながらそう言うのだ。



「そうやで、中に出来てた悪い部分を取り除いたんや。傷が気になるなら消せるけどどないする?」

「け、消せるの?」

「薫様なら朝飯前なのですよ!」

「なんで、アリシアがドヤ顔なんや」

「えへへ」



 薫は、フーリの横に座る。

 両肘に手を乗せて、回復魔法を唱える。



「回復魔法――『皮膚再生エンジェルブレス』」



 青白く温かい風のような物がフーリの肘を優しく包む。

 数秒で全く傷がなくなってしまった。



「す、凄い。薫様、凄い」



 ぴょんぴょん跳ねながら喜ぶフーリ。

 薫は、ついでに診察もしていく。

 手術後に腕を固定して炎症を出さないようにしているが、どのくらいで外していいのかを確実に調べるため『解析』を掛けるのだ。

 結果は、今日から動かしてもいいと出た。

 薫は、その結果に驚く。

 普通なら、一週間ほど腕を固定させなければいけないのが普通なのだ。

 ミズチ一族だからかと思うのだ。

 普通の人ならありえないといった感じだ。



「フーリ、今日からもうリハビリしてもええわ」

「え? いいの?」

「ああ、全く問題ないわ」

「では、私の出番なのですよ!」

「アリシアは、こっちおろうなぁ」

「しょぼーん」



 やる気に満ちた表情で、アリシアがリハビリを教えると名乗りでたが、今回は肘の為まだやり方を教えてない。

 なので薫はアリシアをヒョイッと抱え、フーリの横にちょこんと座らせる。

 薫が教えるのを見て覚えて貰う形をとるのだ。



「私は役立たずなのです……。フーリちゃんの役に立ちたいのです……」

「はいはい、アリシアはこれからちゃんと覚えてイカンといけないんやから。しっかり見て覚えるようにな」

「は~い」



 ちょっと不貞腐れた表情のアリシア。

 薫とフーリは、そんなアリシアの頭を撫でてご機嫌を直してもらうのであった。



「アリシアちゃん。気持ちだけでもうれしいよ」

「フーリちゃん。ひしっ!」



 可愛らしく笑顔を作るフーリに、アリシアは抱きつき頬ずりをするのであった。

 薫は、簡単なリハビリから教えていった。

 一通りゆっくりと覚えてもらったら、お昼までかかった。

 お腹も減った三人は、食堂へ行きお昼を食べ部屋に戻る。

 お腹いっぱいになった三人は、椅子に座りラックスティーを飲むのであった。



「ああ、そうや。フーリもう少ししたら買い物行くで。フーリの着る服とかをな」

「え? いいの?」

「いいに決まってるじゃないですか! どんな服が似合いますかね」

「アリシア、着せ替え人形みたいなことしたらアカンで」

「し、しませんよ! い、いやですねぇ……私がフーリちゃんで遊ぶわけ無いですよー」



 薫から先に釘を刺され、少し焦るアリシア。

 ああ、これは着せ替え人形にする気まんまんだったんだろうなと思うのである。

 目を泳がせるアリシアを見て、薫はからからと笑うのだ。

 二人のやり取りを見て、フーリもくすくすと笑う。



「アリシアちゃん、わかりやすい」

「にゃんと! ふ、フーリちゃんまで私の完璧な嘘を見抜くのですか!」

「何処が完璧なんや。ハリボテもええところやん。ぼろっぼろやんか」

「!?」



 薫の突っ込みにアリシアはクワッ! っと口を開けて驚く。

 あれの何処が、完璧なのか小一時間問い詰めたい。

 ポーカーフェイスもクソもないのだ。



「で、では! 出発なのですよ―」



 アリシアは、腕を高らかに上げて元気よくそう言うのだ。

 これ以上、ツッコミを食らうと立ち上がれそうにないからだ。

 3人はトルキアの商業区域へと足を運ぶのであった。

 商店が並ぶ道は、人で溢れていた。

 主に回復アイテムや食料を買う者が多い。

 皆、未開の地に入る者達だろう。

 薫達は、衣服の売ってある通りに入る。

 アリシアとフーリは、色々な服が並ぶ通りを見て目を輝かせるのであった。



「フーリちゃん、あそこのお店の服が可愛いのですよ」

「ピンク……」



 アリシアは、ピンクラビィ衣服専門店らしきお店を指さしそう言った。

 フーリはちょっと困った表情でアリシアを見るのだ。

 フーリをそっちの世界に勧誘はやめましょう。

 そんな事を思いながら、薫は二人を見ながら苦笑いになるのだ。



「こ、こっちのも可愛いよ」



 フーリは着物のような物が陳列されているお店を指さす。

 お店の前に何着か並べられていた。



「ユカタ? ですかね?」

「どっちかって言うと、じんべいっぽいな。生地はユカタみたいに少し厚めなんやな……いや、柔らかくていいな」

「じんべい? よくわからないのですが、薫様はこれを知ってるのですか?」

「ああ、でもこんなに露出度は高くなかったな」

「お腹が出て寒そうなのですよ」

「そうやな、この季節はちょっと寒いかもしれへんで」

「でも、これ懐かしいの。昔から村で着てたのに似てる」



 フーリは、そう言って懐かしそうな表情になるのであった。

 薫はその表情を見てこの服にするかなと思うのだ。



「じゃあ、この店にしようか?」

「うん。あ、で、でも高い」

「気にしなくていいのですよ! 昨日いっぱい稼ぎましたからね」

「そうそう、金は天下の回りものってな。使わなかったら経済が回らへんからええんや」



 薫の言葉が理解できず、二人して首を傾げる。

 なんかちょっと可愛いなもう……。

 三人で中へと入る。

 フーリは、色んなじんべいを見て回っている。

 かなり楽しそうだ。

 薫は二人を見ながら、どのようなものを選ぶかなと思うのだ。

 多分かなり時間はかかるだろうから、薫は腰掛けに座りゆっくりする。

 店員も加わり、色々オススメしてきているみたいだ。

 四十分くらい経っただろうか。



「薫様、私はこれにしました」

「私は、これ」



 アリシアは言わずもがなわかるよね? 薄いピンク色のピンクラビィ柄だ。

 フーリは、藍色で枝垂れ桜のような花が散りばめられてるじんべいを手にしていた。



「試着はせんでええんか?」

「薫様に見てもらう為にちょっと着てくるのですよ♪」

「わ、私はいい」

「遠慮せんでええよ」



 そう言って、フーリも試着してくるように促す。

 サイズなどもちゃんと合わせなければ、買った後で着れないなどがある。

 じんべいでそのようなことは殆どないが、薫はちょっと見てみたいと思ったから促すのだ。

 アリシアに連れられ、フーリは試着室へと入る。

 数分後、試着室から出てきた二人はなんとも可愛らしいのだ。

 アリシアは、ちょっと恥ずかしそうにお腹を隠しながら出てきた。

 上に羽織りを着ていた。

 セットで付いて来るようだ。



「アリシアよう似合っとるよ」

「そ、そうですか? えへへ」

「お腹がぽっこりして可愛いやん」

「むー! 薫様のいじわるー!」

「冗談やって、出てへんやん」



 そう言って薫はからからと笑うのであった。

 薫を叩こうと手を伸ばすが、薫の手がアリシアの頭を制して届いていない。

 アリシアは、「むー!」っと、言いながら必死に手だけが回転するのだ。

 そんな事をしているとフーリが試着室から出てくる。

 薫とアリシアは、フーリの姿に目を奪われてしまった。



「え、えっと、ど、どうでしょう?」

「す、すっごく似合ってますよ! か、可愛らしいのですよ~」

「凄いな、ここまでに似合ってるって思うんは初めてかも知れへん」

「そ、そうかな?」



 じんべいを着て、その上に羽織りを着たフーリは照れくさそうに頬を掻く。

 アリシアはフーリの一部分に目が行ってしまう。

 大きいのだ。

 フーリの一部分がだ。



「お、大っきいのです! か、カディッシュメロンなのですよ!」

「アリシアちゃん、あ、あんまり見ないで……」



 そう言いながらフーリは胸とお腹をおさえる。

 アリシアの視線にちょっと恥ずかしいといった感じなのだ。



「薫様、見てはいけません。あれは凶器です。薫様をダメ人間へと誘惑しているのです!」

「あー、はいはい」



 薫の呆れた返しに、アリシアはムスッとするのであった。

 今まで、だぼっとした服装だったので二人は気が付かなかった。

 身長はアリシアとほぼ同じだが、胸はフーリの方が大きかった。

 アリシアがリンゴなら、フーリはメロンといった感じの大きさだった。



「そのまま、会計するからな。アリシアとフーリはそのままの格好でええか?」

「は、はい、大丈夫です。何でしょう……適当に流された感じが否めません」

「うん、これが一番落ち着く」



 アリシアはまだご機嫌斜めのようだ。

 フーリは柔らかい生地に頬を当て、頬ずりをしているのだ。

 かなり気に入ったようだ。

 薫は、アリシアとフーリが迷っていた物を、試着中にこっそりと店員に通していた。

 お金を払って、袋に詰められた物を貰うと薫は二人に渡すのだ。

 なんだろうといった感じで、二人は薫から袋を受け取る。

 二人は中の物を確認する。



「こ、これは……さ、さすが薫様なのですよ! 私が迷ってた物です!」

「こ、こんなにいいの? 物凄く高かったよ?」

「でも、最後まで迷っとったみたいやからな。今回はプレゼントや。一着だけやったら替えがないやろ?」



 そう言って、薫は二人の頭を撫でるのだ。

 満面の笑みを浮かべる二人は、スキップをしながら両手で袋を持っているのだ。

 余程、嬉しかったのだろう。

 薫は買ってよかったと思うのだった。

 その後は、フーリの下着などを買い揃えた。

 これからフーリのリハビリ次第で、未開の地に出発する日にちを見極めるのだ。

 無理をさせると再発したりするかもしれない。

 時間は沢山ある。

 薫は、ゆっくりと進めていけばいいかなと思うのであった。


読んで下さった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、有難うございます。

感想の方もちゃんと見させて頂いております。

次回も一週間以内の投稿です。

ではー!

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