カオルVSアリシア 一日言うこと聞く券争奪戦
砕け散ったリングは直され、キングサハギンの鱗のコーティングを二重に重ねがけされた。
これで大丈夫だろうといった感じで、闘技場の職員は額の汗を拭うのだ。
「うーん」
「どうされましたマリー様」
「いや……やっぱりこれ割れないよね」
「割ったら人外ですよ……」
マリーは、コーティングされたリングを魔力強化して踏みつけるが傷ひとつ付かない。
「マリー様のスキルなら、割ることは出来なくてもぶっ飛ばせるからいいじゃないですか」
「えー、私もガッシャーンって割ってみたいじゃない。その方がなんかSランクって感じしない?」
「いえ……もう十分お強いのでいいです。それ以上強くなったら私の居場所がなくなりますよ……」
「やだー。ミィシャ可愛い。置いて行かれるのが寂しいの? ねぇ、私に置いて行かれるのが寂しいの??」
マリーは、凄くいい笑顔でミィシャに抱きつくのだ。
相変わらず鬱陶しいと言った表情のミィシャだが、やはり尻尾は左右に揺れるのだ。
「別に、勝手に行ってもかまいませんよ。私はのんびりニーグリルへお引っ越ししますから」
「え゛!? それはダメよ! ミィシャは私のモノなんだから!」
「いつ、マリー様のモノになったんですか? どうせ、修理要員にしか思ってないですよね?」
そっと目を逸らすマリー様に、ミィシャは本気でニーグリルに移り住もうかなと思うのであった。
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会場にお客さんが続々と戻ってくる。
最終決戦の時間まで残り僅か。
今回のトーナメントを引っ掻き回した二人組みの決勝戦なのだ。
「はーーーい! 皆さんお待たせしました!!! 今回のトーナメント最終決戦をもうすぐ行いますよおおおお!!!」
そう言って、会場を一気に沸かせる。
「お前どっちに賭けた?」
「俺は、小悪魔少女アリシアちゃんに決まってるだろ! 奇跡を起こしてくれると信じての賭けさ」
「このロリコンめ! 俺は手堅くカオルに賭けたぜ。つーか、今回トーナメント運営かなり儲けてるだろうな。最初の二試合といい、かなり手堅い勝ちだから相当な金額賭けてると思うしな」
「ああ、どんだけ売上あったんだろうな……。はぁ、これでカオルに賭けてるが……もし負けたら……明日から未開の地に出稼ぎか……。行きたくねぇよ」
「敵強すぎるんだよな……一日探索して、治療院に行ったら利益がトントンとかまじ笑えねぇもん。この娯楽でパーッと夢見るしかねぇな」
そう言って話をしているのだ。
少しすると会場がざわめきだす。
ついに最終戦が行われるようだ。
「はーい! 最終戦の準備が整いましたあああああ! 皆さん最後の試合ですよぉおおお! 賭けは済んだかぁあああ! そして、この最終戦は二人共Eランクの化物だぁああああ」
観客席から「うぉおおおおお!」と言う大きな声が響く。
会場全体がその声で揺れるような感覚がする。
ここまで盛り上がったトーナメントは、なかなか存在しない。
レートも高く、皆楽しんで賭けているのだ。
「よーし! では、選手の紹介をしちゃうぞおおおおお! まずは、アリシア・ヘルゲン選手!!!! 種族は人間族! 皆もご存知! ピンクラビィが大好きな美少女治療師だぁあああ!!! もうねぇ……どんだけ可愛いんだよこんちくしょう!!! 武器は、刀……えーっと、本人から聞いたのですが、この刀……ニーグリルのフェンリル工房で作ってもらったSランク武器だそうです!!!! って、なんでそんな物Eランクで扱っちゃってるんですかぁああああ! まさに、規格外の少女! もう、この街ではピンクの小悪魔少女アリシアちゃんなどと呼ばれておりまああああす!!!!」
アリシアの紹介に大きな声援が飛び交う。
口笛を吹く者もいれば、ハチマキにアリシアLOVEと書かれて応援している者もいる。
かってにファンクラブまで作られているのだ。
そんな事も露知らず、アリシアはとことことリングに上がるのだ。
会場に手を振り声援に答える。
「そして、対戦者はもちろんこの男! アリシアちゃんの旦那にして治療師の師匠。本人からの取材で、治療師ではなくやみいしゃ? という職業だそうです! 法外な金額で何でも治療してやるから治療して欲しい奴は死ぬ気で来いとのことです! もう意味がわかりません! カオル・ヘルゲン選手!!!! 種族は、人間族! こちらも規格外の人物!!! あのザルバック選手をあっさりと下したEランク冒険者だああああ!!!! あの黒い笑みと目付きの悪さはもう裏で何かやってるとしか思えねぇええ!!!! おっと、ここで最新の情報です。ん!!!? この二人、参加する前から優勝したら、一日言う事聞く券なる物を賭けてトーナメントに参加していた模様です。こいつら他のところで、なんという物を賭けてるんですかねぇ……。おっと、口が悪くなってしまいました。失礼!!!」
そのように言って薫の紹介を切る。
薫は、頭を抱えながらリングに向う。
罵声が飛び交っているのだ。
殆どが嫉妬と言っていいだろう。
「なんだよ! 一日言う事聞く券って……イチャイチャしたいなら他でやれよこんちくしょう!」
「こっちは、彼女いない歴=年齢なんだぞこんちくしょう!」
「どっちに転んでもうまうまな券配布しやがって……爆発しろ!」
「さっさと別れちまえ!! アリシアちゃんは俺が幸せにするんだクソ治療師!!」
皆言いたいことを言いまくっている。
薫は最後の言葉に耳がピクンと動き、その者に向かって尋常ではない威圧を飛ばす。
その者は、一瞬で失禁し白目を剥くのだった。
それを見た周りの者は、口を手で抑え自分たちは言ってませんアピールをするのだった。
かなり離れたところから、ピンポイントで狙える魔力コントロールに化物と思うのである。
そして、本当に逆らったら殺されると思うのだ。
「ミィシャ! 今の見た? すっごいね! あれはかなり修行してないとできないよ」
「確かにすごいです……私には到底真似できない芸当ですね。悔しいです」
「あら、ミィシャも戦いたくなっちゃったの?」
「瞬殺されるのが落ちですよ。無理です」
そう言いながらも、尻尾と耳をぴょこぴょこするところを見ると、戦いたいのだなと思うマリー。
「まぁ、この勝負が終わったらちょっと遊んでくるよ」
「くれぐれも最小限の被害でお願いしますよ」
「大丈夫、怪我人は出さないから安心して」
いい笑顔で返すが、ミィシャは街の被害は大丈夫ではなさそうと思うのであった。
今にも涙が、滝のように流れ出しそうな表情になるのだ。
「それではぁあああああ、昼の部トーナメント最終戦を開始しまあああす。はっじめえええええええええ!!!!」
戦いの合図があった瞬間、アリシアが先に動く。
薫は、笑顔でその行動を見守るのだ。
「ふっふっふ、薫様にはカウンタースキルがある事は知ってるのですよ! だから遠距離での攻撃ならその対象外なのですよ―!!!」
そう勝ち誇ったような表情で言いながら、アリシアは雪時雨の斬撃を薫に繰り出す。
連続で網目状にし、薫の逃げ場を塞ぐ。
デナンの時にやった技だ。
「おおっと、これは更に進化している! アリシア選手、デナン選手戦の時に出したものより精密になっているぞおおおおおお。果たして、カオル選手はこの攻撃にどう対処するのでしょうかぁあああああ! かなりの魔力を込めて撃つアリシア選手の斬撃は、簡単に防御できるものではないぞぉおおおおお!!!!!」
そう言ってテレーズは、白熱した解説を入れるのだ。
手に汗握るといった感じでマイクを持ち、テーブルに足を上げ乗り出して解説をするのだ。
「かなり正確に斬撃を出せるようになったんやなぁ……。やけど、こんなんでやられるわけにはイカンからなぁ」
そう言って、薫は斬撃に対して蹴りで合わせる。
アリシアと同じように、ピンポイントで超強化し同じ魔力量で相殺する。
アリシアは薫の行動を見て、「ほぇー」と言いながらアホな子のような表情になるのだ。
まぁ、返されますよねぇといった感じはある。
これで勝てるような相手ではない。
「こ、これは小手調べなのですよ!」
「うんうん、わかっとるよ。頑張らんと直ぐ終わってまうで」
薫はそう言って笑顔を作る。
その表情を見て、アリシアの表情がほんの少し曇る。
薫との手合わせは、ほぼ毎日している。
今まで、一度足りとも勝てたことがない。
それは、薫に一本入れなければいけないという条件付きの話だ。
対人戦のみ絶対的カウンタースキルの存在する薫に、一本入れるなど不可能な話なのだ。
しかし、このトーナメントは違う。
遠距離での攻撃ならば、薫はカウンターを使えない。
そこを突こうと思うのだ。
寧ろ、それしか勝ち筋はない。
「なんというハイレベルなバトルなのでしょうかああああ! 今まで避けることすら出来ず、殆どの選手を沈めたアリシア選手の斬撃をカオル選手は軽々と相殺してしまったぁあああああ!! 相変わらずのスペックと言ってよいのでしょうかあああああ!」
観客達はアリシアの斬撃に、一瞬で勝負が決まると思っていたが、そうならず全く表情を変えることなく相殺する薫に驚くのだ。
しかし、リングを割ったレベルの魔力があるのだから、それくらいは出来るかと納得する者も出てくる。
段々それが普通と思っていく。
完全に毒されていってるのであった。
「こ、ここからが本番ですよ! 絶対に薫様に色んなイチャイチャプレイをしてもらうのです!」
「……」
薫は、アリシアのペロリと舌を出した表情に寒気を感じるのだ。
そして、アリシアは雪時雨に大量の魔力を食わせる。
そのまま雪時雨をリングへと突き立てる。
スーッとリングに飲み込まれる雪時雨。
その瞬間、白銀の世界へとリング上が一瞬にして姿を変える。
デナン戦で見せたレベルとは桁違いのものだ。
凄まじい冷気を漂わせる。
「うわぁ……これはまたすごいなぁ」
「うわぁ……これって大丈夫なのでしょうか……。自分でやっててなんですがドン引きですよ」
二人は一緒になってリング外を見ると、魔導師達の結界を遥かにオーバーしたのかリング外に影響を及ぼしているのだ。
魔導師達は大急ぎで最大限の魔力を注ぎ、外に影響のないように必死で食い止めようとする。
「アホな子みたいな表情で、感想を言い合ってる場合ではありませええええん!!! なんとアリシア選手、デナン選手戦とは比べ物にならない白銀の世界を作り上げたぁあああああ! て言うか、めちゃくちゃ寒いんですけどおおおおお!!!! 結界をはってる魔導師達は何やってんの! って、四人でも抑えきれないレベルのなのかぁあああああ」
テレーズは、鼻水を垂らしながら頑張って実況する。
そして、テレーズは気づく。
薫は全く寒そうにしていない。
それと観客席の冒険者もそうだ。
薫は、冷気に対して魔力強化で凌いでいた。
その姿を見てアリシアは薫に抗議するのだ。
「薫様、寒くないのですか! どうやったのですか! ふ、不公平です!」
「ん? ああ、魔力強化でこういうのって凌げるの知っとるからな」
「私は、寒いのですよ……おちえて下さい……風邪をひいちゃいます」
ぴよんっと鼻水を出すアリシア。
今にも泣きそうな表情で、薫にとことこと詰め寄るのだ。
薫は仕方ないといった感じで、やり方を簡単に教えるとアリシアはすぐに覚えた。
すぐに元の位置までとことこと戻っていくアリシア。
「ふっふっふ。薫様、私にこれを教えたのが運の尽きですよ! 私はもう寒くもなんともないのです」
どやぁっといった感じで胸を張るアリシア。
試合中に、相手の選手に聞くという前代未聞の行動をとってるにも関わらず、まったく悪びれた様子もない。
そして薫も、「こうやって、こんな感じで魔力を流せばええんやで」と優しくレクチャーする。
なんとも微笑ましい光景だ。
回りは白銀の世界と化していようが、まったくそんなのお構いなしでやっている。
テレーズはこの二人の行動に、もうツッコミを入れるのも疲れたといった感じで、そろそろマイクを机に置こうかと思うのだ。
「では、参りますよぉ~」
そう言って、アリシアは雪時雨で白銀の世界をぶち壊す。
全力で雪時雨を振り、バキバキと異常な音と共に白銀の世界は一気に崩壊し、ダイアモンドダストを引き起こす。
光の反射で幻想的に見えるその光景に、観客達は目を奪われるのだ。
その幻想的な光景は、リングの中で悍ましい結果をもたらす。
アリシアを避けるように突風が吹き荒れ、薫へと小さな破片がとんでもないスピードで飛来するのだ。
一撃でも生身で受ければ蜂の巣になる事が分かるのだ。
「こ、これは薫選手、万事休すかぁああああああ!!! この広範囲攻撃を躱すことなど不可能に近いぞぉおおおおお!!!!」
そう言って最後の力を振り絞ってテレーズは叫ぶ。
「あーあ、こりゃあのお嬢ちゃんの負けだね」
「ん? 何でですか? マリー様」
「見てればわかるよ。しかし、あのお嬢ちゃんもちゃんと剣術習えばもっと強くなるわね。魔力制御も、もう少し頑張らないといけないし、技のバリエーションも、増やさないと簡単に弱点突かれて負けるでしょうね。全て完璧に出来たら、Sランクに足突っ込むってかんじかしら」
「Sランク冒険者の治療師とかかなりレアじゃないですか……。何処のコミュニティでも引っ張りだこですよ」
「まぁ、一生安定のレベルよねぇ」
そう言って、マリーとミィシャは試合の結末を見守る。
「ふっふっふ。さすがの薫様もこれは受け切れません。私の勝ちなのです~!」
そう言って、ダイアモンドダストが薫に当たると思った瞬間、残像のように薫の姿が消える。
アリシアは背後に気配を感じ、慌ててぴょんっと横にダイブしてその場から離れる。
ぺたんとリングに張り付くアリシアは、目の前に足がある事に気が付く。
そして、サーッと青ざめる。
ゆっくり顔を上げるといつもの笑顔の薫が見える。
「え、えへへ。あ、あれぇ……薫様ノーダメージなのですよぉ……。す、凄いのですぅ」
「まぁな。はい、これでゲームオーバーや」
「はうわぁあああ」
薫は、アリシアの脇に手を入れヒョイッと持ち上げる。
ぷらーんと力なく持ち上げられるアリシア。
ピクリとも動かずカチンコチンになるのだ。
ピンクラビィフードの耳がへにょりとしぼむ。
今にも泣き出しそうな表情で、「ゆ、指先を動かさないで下さい薫様。擽りだけは……」と涙声で懇願する。
「まだ、勝負するか?」
薫は笑顔でそう言う。
アリシアの返答次第で攻撃開始といった感じなのだ。
寧ろ、参ったと言わない限り永久に擽る気満々なのだ。
その事を察したのだろう。
「ま、参りました……。ぐすん」
そう言うと、薫はスッとリングに下ろす。
悔しそうな表情で、アリシアは薫を見るのだ。
まだまだ、自分の力では薫に及ばないということがよくわかった。
今回の試合、薫は全くアリシアに攻撃をしていないのだ。
試合が終わったあとに気付き、自身とのレベルの違いを思い知る。
参りました宣言が入ったので、テレーズは大きな声で「勝者、カオル・ヘルゲン選手!!!!」と勝者宣言するのであった。
「おいおいおい! 持ち上げられただけで負けを認めるとかどうなってんだよぉ!!!!」
「そうだそうだ! なめてんのかよぉ」
「こっちはお金を賭けてるのよ! そんな事で負けとか……納得いかないわ」
そう言って、若干ブーイングらしき物が起こる。
大体が、Cランクの者が騒いでいるようだ。
ある一定の実力を持っている者は、薫がダイアモンドダストを回避してすぐに、アリシアの背後を捕らえ、数回手刀を入れられる隙があるにも関わらず、わざとしなかったことのを確認できた為この敗北宣言は妥当と判断するのだ。
寧ろ、試合開始直後から瞬殺出来るレベルの薫に、アリシアが敵うわけがないのだ。
力量を完全に理解していた。
絶対に戦いたくない相手とも思う。
故に、その者達は抗議の声を上げないのである。
それに、完全に手加減してあのレベルだ。
「文句言ってる奴は、力量差を測れねぇのか?」
「奇跡が起こると思って賭けたんだろうが。アリシアちゃん頑張ってただろ。労うくらいはしてもいいんじゃね-か」
そう言って、数人がブーイングする者に言うのだ。
そう言われた者は、押し黙ってしまった。
リングの上では、アリシアは薫に引っ付き顔を埋めていた。
薫は泣いているのかと思い頭を撫でる。
「うへへ、薫様ぁ……」
泣いてはいないようです。
ちょっと安心する薫。
するとリングに乱入する者が現れた。
「はーい。優勝おめでとう!」
「ん? あんた誰や?」
薫は、露出度の高い踊り子服を着た女性にそう言う。
165cmくらいだろうか、モデル体型なのに出るところは出ている。
肌は小麦色で耳がエルフ耳であった。
派手なピンク色の髪をサイドテールにして、ほんのりウェーブが掛かっている。
「私は、ここの領主のマリーっていうの。カオルさん、優勝おめでとうそして、私と勝負しなさい!!!!」
ビシっと薫に指をさしてそういうのだ。
しかし、薫は笑顔でこう答えるのである。
「あー、パスで」
「え゛?」
薫は、全くやる気が無いといった感じであった。
まさかの返しにきょとんとするマリー。
そして、会場もざわつくのだ。
Sランクのマリーの戦いが見れるかもしれないからだ。
「一日言う事聞く券手に入ったし、あんたと戦う旨味もないしな」
「え、いや、ちょ、ちょっと、あなた戦いが好きじゃないの?」
「ん? まさか冗談を、俺はのんびり過ごしたいだけや。今回は特別や。冒険者ギルドでCランクに昇格する条件が、この闘技場での優勝やったからな」
「そうなのです。お小遣いを稼げて一石二鳥を狙っただけなのですよ」
二人の言葉にがっくりと肩を落とすマリー。
出てきた手前、何かしらしないといけない雰囲気が会場を支配する。
寧ろ、皆期待の眼差しでこちらを見ているのだ。
「ど、どうしよう……え、えっと戦ってはくれないのよね?」
「全くやる気ないで」
笑顔で返され、あたふたしだす。
もうやけだとばかりに、マリーは扇子を二本取り出し、薫に向けてビシッと開く。
「た、戦ってくれないと困るのよ―! 私の為に戦ってよ~」
そう言いながら、薫とアリシアに向かって突っ込んでくる。
薫はアリシアを自身の後にやり、構えもせずにマリーを迎える。
扇を振りマリーを守るように風を纏っていく。
そよ風が突風に変化し、どんどん魔力を食らってトルネードへと変化していく。
ガリガリと異常な音と、中心へと吸い込まれるような風が薫とアリシア襲う。
「はぁ……これ、絶対避けたら会場ごとぶっ飛ぶやろうなぁ」
「薫様……私飛んじゃいますよぉ~」
そう言ってアリシアは、薫の腰にしがみつき足を浮かせていた。
ちょっと涙目で訴えてくるアリシアは可愛かった。
「ほんま、勘弁してくれへんかなぁ」
そう言いながら、飛ばされないようにリングに片足を簡単にめり込ませる。
そして、アリシアを脇に抱え片手を前に出し、トルネードに向けて正拳突きを放つ。
衝撃波のようなものが発生し、トルネードは消し飛ばされマリーの姿が現れる。
ちょっとびっくりした表情のまま、薫に扇子での斬撃攻撃を繰りだそうとする。
残像のように四人に増えたマリーの近接攻撃は、避けれないいといった感じなのだ。
「あ……、薫様のカウンタースキル範囲内です……」
そう、ぼそっとアリシアは言う。
ちょっと可哀想な表情をするのだ。
マリーの分身は全て消え、本物だけを薫のカウンタースキルが捉える。
薫は、片手でマリーをねじ伏せる。
「うっそぉー!」
マリーはリングにうつ伏せに倒され、両腕を背中に持って行かれ関節技を決められているのだ。
今まで数えるほどしか負けてない。
こんな完全敗北は久しぶりなのだ。
それに、先程発生させたトルネードもそうだが、打ち消される事はほぼ不可能と思っていた。
アリシアのダイアモンドダストと違い、自身に纏う形で防御にも使えるようにしているのだ。
簡単に、それも拳の衝撃波でぶっ飛ばされるとは思いもしなかったのだ。
「参ったよ。降参」
そう言って、薫に負けを認めるのだ。
薫は、手を離してマリーから一歩離れる。
マリーは、その場であぐらをかきムスッとする。
「面倒なことせんでくれへんかなぁ」
「いや、だって普通こうやって乱入してきたら戦うのが普通でしょ!」
「それは、あんたの価値観であってそれが全て適応されるわけないやろ?」
「ぐぬぬ……」
薫に言われ、言い返せないマリー。
ちょっと不貞腐れているのだ。
アリシアは、「どうだ! 薫様は強いだろ!」と言わんばかりのドヤ顔でマリーを見るのだ。
それに気がついたのか、マリーはアリシアを睨む。
アリシアはサッと目線を逸し、吹けない口笛を吹きながら薫にベッタリと引っ付くのだ。
「ああ、そうや。あんたがCランクの仮発行してくれるんやろ?」
「まぁ、できるけど……。まさか、未開の地に行くの?」
「ああ、ちょっと妖精の国があるって言ってたからな。アリシアが行きたいってせがむから、ちょっと寄り道で行く感じやな」
「はぁ……。ちょっと寄り道で行くところではないわよ……。まぁ、あんた達だったら死ぬ事はないでしょうけど、もう数人仲間を入れたほうがいいわよ」
「仲間ねぇ……」
「最奥地で一応発見されたみたいだけど、そこまで行くのにかなり日にちがかかるのよ。睡眠とるのに交代で出来るの?」
「あ! 無理やな」
「な、なぜこちらを見て言うのですか! 私はそのくらい出来るのですよ!」
引っ付くアリシアを見て薫は物凄く不安になる。
夜は、直ぐお眠になるアリシア。
そして、朝が弱い。
下手をすると寝ている間にあの世行きも考えられる。
これは、早急に解決しなければならない事案だと薫は思うのだ。
「私を連れて行かない? 安くしとくよ」
「薫様、駄目です! こんな野獣さんは連れて行ったら駄目なのですよ!」
アリシアは、マリーの表情を見てこの女は危ないと思うのだ。
私欲の為に、薫を使おうとしているのがよくわかるからだ。
そんなアリシアをジッと睨むマリー。
二人の間に、目に見えない火花が散る。
「ねぇ……お願い。私の体一緒にいる時は好きにしてもいいからさぁ」
「は、破廉恥なのですよー! 絶対ダメです!!!!」
がるるる、と言った感じでアリシアはマリーを威嚇するのだ。
薫は、これ以上面倒事が増えるのは厄介と思う。
それに、まだリングの上でこのような話をしているのだ。
さっさと帰りたいと思うのだった。
「おいおいおい! マリー様を好きにしていいとか、うらやまけしからん!」
「あんな豊満なボディーを毎晩楽しめるとか……あのやろうぶっ殺してやる!」
「マリー様を見守る会会長の私を差し置いて、あのカオルとかいう男……地獄に落ちてしまえ! 呪われろぉおおお!」
「寧ろ、マリー様の生足で毎日踏まれたい! って、そんな事言ってる場合じゃねぇええ!あのやろう小悪魔少女アリシアちゃんだけでは物足りず、俺らのマリー様まで毒牙に賭けるつもりかよ! マジでころっころにしてやんよ!」
色んな意味で会場が沸く。
先ほどまでの対決の事など既に忘れさられているのだ。
皆、マリーの言葉が強烈過ぎた。
テレーズももうお手上げで、テーブルに突っ伏し「面倒です」と言った感じで全てを放棄するのであった。
その後は、なんとかミィシャが出てきて収めてくれた。
何やら街の崩壊を救ってくれたからとの事。
薫はその言葉で察しがつき、ミィシャに「ありがとな」と言うのであった。
トーナメント戦も終わり、会場を薫とアリシアは後にする。
その際、かなり恨みや妬みの視線を壮大に受けることになった。
しかし、強さを知ってるだけに誰も薫に手を出す者など居なかった。
「はぁ、なんかどっと疲れたわ……」
「薫様大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかな。もうこんなん絶対せぇへん」
今回だけ特別と思いながら、宿屋へと向う。
すると、広場で何やら騒ぎが起こっていた。
奴隷の館が立ち並ぶ方で人集りができているのだ。
薫とアリシアは気になり、人集りの方へと向のであった。
読んで下さった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、有難うございます。
感想の方もちゃんと見させて頂いております。
三日間連続投稿です。
今日でラストです!
また一週間以内の投稿に戻ります。
ではー




