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ニーグリル探索! 新婚旅行?

 ニーグリルの商業区域を歩く二人。

 日が、傾きだした頃だった。



「色んな衣類がありますね」

「そうやな。グランパレスでは、見ないような物ばかりやなぁ」



 仲良く手を繋ぎ、歩く。

 アリシアは、嬉しそうな表情であった。

 観光客が多くて、皆特産品のユカタなどを見る。

 薫達も、気に入った物が無いか、のんびり歩きながら見る。



「薫様、あれ可愛くないですか?」



 アリシアは、そう言って、ユカタを指差し言う。



「ピンクラビィ色……幸せになれそうです」

「ほんと好きやなぁ」



 薫は、そう言って笑うのであった。

 薫達は、その店に入る。

 そして、アリシアが気に入った、ピンクラビィ色のユカタ一式を購入するのであった。

 ご丁寧に、お尻の部分に尻尾が付いていた。

 狙って、やってるんだろうなと思う。

 ユカタは安くて、庶民でも買える値段の物が多かった。

 高い物もあると思うが、こういった値段で、購入出来るのはありがたい。

 薫も、色々と見ていく。

 すると、アリシアが手招きをするのであった。

 何かと思い、薫はアリシアの下に行く。



「薫様、これなんてどうでしょう?」



 そう言って、藍色のユカタを指差し言う。

 薫は、一目見て気に入った。

 無駄な刺繍などが殆ど無い。

 ワンポイントだけ、刺繍が胸元に入っているのみだった。

 凄くシンプルなのだ。



「何やろうな……このマーク」

「なんでしょうね? 色合いが素敵でしたので」

「色は、凄く良えと思うわぁ。俺の好みやしな」



 薫の言葉に、アリシアは喜ぶ。

 自分が選んだ品を、気に入ってくれたからだ。

 然し、刺繍のマークの意味が気になるのだ。

 羽のようにも見える。

 薫は、気になり店員に聞くと、羽をもじったマークで、合っていたようだ。

 意味は、自由の翼らしい。

 製作者は、イザーク・ハイドリッヒ。

 マイナーな製作者だが、一度買った者は、大抵ファンになっていると言われている。

 全て、一品物だと言われた。



「値段は、なんぼなん?」

「3000リラです」

「一品物で、その値段なんか?」

「これだけ、なかなか売れないんですよね。本当は、6000リラで売りたいのですが」



 薫は、何かの縁だろう思い、このユカタを購入する。

 店員は、やっと売れたと喜び、このユカタのその他一式を、無料で付けてくれるのだ。

 薫は、儲けたと思い、一式を貰うのであった。

 購入ついでに、薫とアリシアは、ここで浴衣に着替える事にした。

 二人は、奥に通され着付ける。

 薫は、自分で着付けられるので、さっさと着替える。

 店員は、綺麗に着付けている薫を見て驚くのだ。

 意外と、ユカタの着付けは難しい。

 手順、帯の締め方、一人ですると緩かったり、崩れたりするのだが、薫は全くそのような事にはなってない。



「凄いですねお客様。着た事あるんですか?」

「昔、ちょっとな」



 そう言って薫は、からからと笑うのであった。

 先に薫は、部屋を出た。

 アリシアの着付けは、まだ終わらないようだ。

 部屋の中から、悲鳴のような声が聞こえるが、気にしないでおこう。

 薫は、ニコニコした表情で、アリシアの着替えが終わるのを待つのであった。

 ようやく着替え終えたのか、げっそりとした表情で、アリシアは出てくる。



「お! 終わったんや」

「は、はい。ちょっと、お腹をぎゅっとされて……うっぷ」



 アリシアの表情を見て、薫は笑うのであった。

 ムスッとした表情になるアリシア。

 まさか、このような締め上げを食らうとは、思っても見なかった。



「よう、似合っとるやん。めっちゃ綺麗やで」

「そ、そうですか?」



 でれっとした表情になるアリシア。

 二人は、着付けてくれた店員さんにお礼を言って、お店を後にするのであった。

 道を歩きながら、薫はアリシアに、ジグに作って貰う物をどうするか聞く。



「迷ってます……。アクセサリーでも、良いのでしょうか?」

「良えんやないか」

「でも、使えるのなら、武器のほうがいいのでしょうか……」



 アリシアは、頭を抱えながら、「うーん」などと、小さな声が出てしまうのであった。



「折角、商業区域にいるんやから。そこん所も、見て回ろうか?」

「は、はい!」



 そう言って、夕方まで二人で商業区域を回るのであった。

 武器屋、防具屋、アクセサリー屋など、時間はたっぷりあるので、二人は練り歩くのであった。

 そして、外観がおしゃれなお店に入る。

 店内は、全て一品物のようだ。

 全てが、ショーケースに大事に飾られている。

 ライトアップされ、高級感が出ていた。



「た、高そうなのです……」

「いやいや、高過ぎやん。値札に一個20万リラって、書いてあるやん」



 若干、武器の高さにドン引きする二人。

 そんな二人を見て、店員さんが笑うのであった。



「これらは、妥当な値段ですよ。最近出たばかりの、付加属性の武器ですからね。まだ、完全ではないですが、普通に使える代物ですよ」



 店員の言った言葉に薫は、なるほどと思うのだ。

 これが、ジグの言っていた物なのかと、じっくり見る。

 一般の武器では、このようなぶっ飛んだ値段にはならない。

 素材の値段でも変わってくるが、今回の付加属性は、特殊なのだろうと思う。

 そして、本当にこの研究が成功したら、値段がもっと跳ね上がる。

 素材も最高級の物を使えば、そこからまだまだ上がるだろうなと思う。

 発展途上のこの分野なだけに、ちょっと面白いなと思うのであった。



「お客様、こちらの商品なんてどうでしょう。癒しの杖に、光属性がついています」

「どんな効果なんや?」

「こちらはですね。回復魔法の能力向上効果と、魔力を流す事で、光の属性攻撃が打てます」

「杖に、光属性の魔法でも組み込まれとるんか?」

「少し違いますね。光属性の弱い素材を使ってるんです」

「素材で属性が付くんか……。じゃあ、もっと属性の強い素材を使えば、強力な属性攻撃が使えるんやないか?」



 薫は、店員に質問をぶつける。

 すると、詳しく教えてくれた。

 いくら、強い属性の素材を使っても、それ相応の魔力が必要になる。

 寧ろ、使えない者の方が多いのだ。

 なので、基本的には初級から中級までの属性攻撃が限界とされる。

 使用者は、魔導師や治療師など、魔力を多く持っている者だけではない。

 戦士や武道家など、魔力量が少ない者は、そういった者は扱う事が困難になる。

 魔物も、魔法攻撃しか効かないのもいる。

 これを使うことにより、簡単に魔法攻撃が出来る。

 しかし、属性攻撃は、通常の二倍の魔力を必要とする。

 魔導師をパーティーに入れた方が良いのだが、そういった人材を確保する方が難しい。

 それと、この属性などには、相性もある。

 気に入った物を買ったが、使い物にならないといった物もある。

 なので、購入する者は、試しで使うことが出来るようになっている。



「なる程な……。てか、これらの武器とかは、ここで作っとるんか?」

「そうですよ。このアーラルド大工房で生産されてます」



 薫は、店員の言葉にジグの言っていた大手の研究機関かと思うのであった。

 まだ、完全に出来てないという事は、角が手に入ってないのだろうと思う。



「か、薫様……これ凄く可愛いです」



 そう言って、アリシアはショーケースの中に飾られる、一本の刀を指差し言う。

 刀身がピンク色をしていた。

 ピンク好きにも、ほどがあるだろ!



「あら、気に入ってしまいましたか?」



 店員は、そう言ってケースから刀を出すのであった。

 そして、部屋の奥へと案内される、

 少し広い場所があった。



「こちらで、試しに魔力を込めて振ってみてはどうでしょう」

「い、いいのですか!?」

「大丈夫ですよ。一応、属性相性がありますけど」



 そう言って店員は、アリシアに刀を渡す。

 ずっしりと重い。

 アリシアは、魔力強化をして持つ。

 そして、刀に魔力を込める。

 すると、ピンク色の刀身から、桜の花びらのような火の粉が出るのであった。



「す、凄く綺麗なのですよ薫様」

「うふふ、気に入って頂けましたか? その刀は、炎刀・桜花といって、火属性の武器です」



 店員の言葉に、目を輝かせながら刀を見るアリシア。

 かなり、お気に召したようだ。

 物凄い笑顔で、こちらを見てくる。

 ユカタ姿に刀ときたら、薫は完全に時代劇を、思い浮かべてしまうのであった。

 その内、罪人でも引っ捕らえるのではないかと思う。

 しかし、全くの初心者で、構えもなっていないところを見ると、格好はつかないなと思うのであった。



「属性相性もバッチリみたいですね。本当は、最初に調べなければいけないのですが、あまりにも、気に入ってらっしゃったので、調べませんでした」

「調べることが出来るんか?」

「はい、出来ますよ。この属性石を使えばですが。大体は、魔導師になられた方が、自身との属性相性を調べる為の物です」

「あー、なるほどな。伸ばせる属性が、決まっとるって事か?」

「そうですね。大抵は、一人一属性か稀に二属性です。あと、魔導師になられる方は、かなり特殊ですからね。人生かけてますし、あの人達は」



 薫は、魔導師について聞く。

 特殊というのは、何なのかと思うからだ。

 すると、魔導師になる為には、特殊なアイテムを使わなければならない。

 魔導結晶という物を使い、幼い時から訓練をしないと魔導師にはなれない。

 しかし、完全に適性の無い者はなれない。

 HPが高く、MPが低い者は、前衛型。

 HP、MPが均等な者は、バランス型。

 HPが低く、MPが高い者は、後衛型。

 このように分かれる。

 適性が無いのは、前衛型。

 バランス型と後衛型は、魔導師になれそうだが、バランス型は伸びしろがわからない。

 一生を左右する職なので、安易にバランス型の者は、魔導師を選べないのだ。

 適性がなければ、その時間の全てを、ドブに捨てるのと同じだからだ。

 だから大半は、パラディンなどの総合職に就く。

 そして、後衛型は魔導師もしくは治療師などといった、魔力に特化した職にする者が多い。



「アリシア、調べてみたらどうや?」

「え? 私は、火属性ではないのですか??」



首を傾げて、薫を見るアリシア。

可愛いなこんちくしょう。



「では、一応調べてみましょうか」

「わかりました」



 アリシアは、店員の言う通りに石の上に手を置き、魔力を込める。

 すると、店員は驚くのであった。

 金色の光に水色の輪が周りに漂うのだ。



「え? 全属性に適正がある!!? 私は、聞いたことないですよ!」

「ふぇ?」



 何が起こってるのか、理解できないアリシア。

 興奮しながら、店員はアリシアに説明する。

 全属性が中級まで上がると出ていた。

 そして、氷属性が突出しているのだ。



「あ、あなたは、魔導師ですか?」

「い、いえ、治療師ですよ」

「も、勿体無い~~~~~!」



 そう言って店員は、アリシアの肩を掴むのであった。

 アリシアは、目が点になり、理解していないようだった。

 ようするに、魔導師として幼少期から訓練すれば、全属性が中級まで使え、氷属性にいたっては、上級もしくは、最上級まで使えたかもしれないのだ。

 それを聞きアリシアは、驚くのであった。

 しかし、現実を突きつけられる。

 もうアリシアは、魔導師にはなれない。

 幼い頃に、魔導結晶を使い訓練などしてないからだ。

 がっくりと肩を落とすアリシア。

 脳内で、輝かしい魔導師アリシアちゃんは、儚く散ったのだ。

 薫は、一喜一憂するアリシアを見て、大笑いするのであった。



「薫様、笑いすぎですよ!」

「いやー、すまんすまん。あまりにもアリシアの顔が、変化するんでついな……」



 しかし、薫は自身の影響も、多分受けているんだろうなと思う。

 自身と同じ、金色の魔力を放つアリシア。

 もしも、今薫が調べたら、全属性適応の上位クラスまで使えると、診断されそうと思うのであった。

 多分、アリシアは、氷属性の適性しか元は、無かったのではないかと思う。

 心臓移植によって、薫の魔力の影響を受けた副産物だろう。



「どうでしょう……ご購入は?」

「あー、もうちょっと考えてみるんで、今日はええわ」



 薫は、そう言って断るのであった。

 店員は、残念そうに「わかりました」と言う。

 薫とアリシアは、そのままお店を出るのであった。



「魔導師……魔導師……」

「引きずっとるんか? まぁ、あんなに絶賛されれば、そうもなるか」

「いえ、最初は、ちょっと驚きましたけど、私は治療師になれましたのでいいんです。病気でしたし、魔導師にはなれませんでした」



 そう言って、笑顔で返すアリシア。

 先ほどまでの、落ち込んだような雰囲気はなかった。



「もう少し、早く出会っとったら、選択肢を広げれたんやけどな」

「いえ、それはないと思います。私の夢は、治療師になりたいでしたから」

「そうか……」



 アリシアは、そっと薫に寄り添うのであった。

 二人は、十分に商業地区を堪能したので、そのまま泊まる翡翠館へと戻った。

 すると、受付の人が出迎える。



「お帰りなさいませ、お部屋に案内いたしますね」

「宜しく頼むわ」

「どんなお部屋なんでしょうか。ワクワクしますね薫様」



 そう言って、案内係の女性に、薫達は案内される。

 階段を登り、五階へと向う。

 部屋は、一番奥であった。

 案内係の女性は、扉にプレートを差しこむ。



「こちらが、この部屋の鍵です。認識させる為に、お二方はこのプレートに魔力を流して下さい」

「なるほど、これは安全そうやな」

「見たことない鍵です」



 そう言いながら、差し込まれた鍵に二人は、魔力を流すのであった。

 そうすると、カチャっと音がして扉が開く。

 部屋の中は、廊下が少しあり、15.5畳の数寄屋造りの部屋があった。

 大きな漆塗りのテーブルに、背もたれ付きの座布団が置かれていた。

 壁は白く、掛け軸が飾られ、その下に藤色の花が飾られていた。

 光量は、提灯の様な物が使ってあり、仄かにオレンジ色に光る。

 そして、障子で仕切ってある。

 まだ、二つ以上の部屋があるようだ。

 薫達は、中に入る。

 そして、窓側に行く。

 窓際には、リラクゼーションチェアが、二つ置かれていた。

 山々は段々に開拓した一番上に位置する、この翡翠館から外を見ると、景色が抜群に良かった。

 紅葉シーズンで、山々は赤に黄色と色づいていた。

 大自然の色合いと、夕日が山に沈んでいく風景に、つい二人は「おお!」と声が出てしまうのであった。



「うふふ、気に入って頂けましたか?」

「これは、圧巻やな」

「綺麗です。これを皆さん見に来てるのですね」

「一度は、見てみたいと思われる気持ちが、わかりますでしょ?」

「ああ、高いだけの事はあるな。こんな凄い景色、今まで生きてきた中で、見たことないわ。これは、価値があるわ」



 大絶賛な二人。

 窓際の椅子に座り、景色を堪能する。



「この最高級の客室だけ、この景色が味わえる露天風呂を完備しています。自然な風景を贅沢に味わいながら、お酒を飲むのもいいかと思いますよ」



 そう言って、案内係の女性は言う。



「お、温泉がお部屋にあるのですか!」

「他の部屋にもあるにはありますが、この一番良い景色が見れるのは、この部屋だけです」

「本当に、特別な部屋なんやなぁ」

「高いだけの事は、ありますよ」



 そう言って案内係の女性は、笑うのであった。



「お食事は、7時頃にお持ちしますね」

「ああ、それでお願いするわ」

「では、ごゆっくりお過ごし下さい」



 そう言って、案内係の女性は深く一礼をして、部屋を後にするのであった。

 薫とアリシアは、そのまま部屋を探索する。

 お風呂を見に行くのだ。

 アリシアは、障子を開け、横の部屋を見る。

 10畳くらいの部屋だ。

 夕日で部屋の中は、明るかった。

 窓際に、こちらも藤色の綺麗な花が飾られている。

 ここは、寝ていても外の景色がよく見えるように、設計されている。

 すると、アリシアは吹き出すのであった。

 布団が二枚引っ付くように並んでいた。

 薫が、どうしたのかとアリシアの下に行こうとすると、ピシャリと勢い良く障子を閉めて、「ここでは、なかったのです」と言うのであった。

 ちょっと、頬が赤い。

 薫は、アリシアの反応が気になったが、「そうか」と言い、もう一つの部屋へと行く。

 そこを開けると、廊下があった。

 短い距離だが、部屋が3部屋ある。

 洗面所に、トイレ、そして、露天風呂なのである。

 1番奥の扉を開けると、露天風呂があった。

 ヒノキのような、木で作られた大きな露天風呂だ。

 三、四人は、楽々入れる広さなのだ。

 景色も、部屋で見たものと変わらず、圧巻である。

 二人は、またしても息ピッタリに「おお!」と、言うのであった。

 お湯は、源泉掛け流しであった。



「こ、これは入るの楽しみですね。ごくり」

「ほんまやな。ゆっくり、旅の疲れをとるとするかな」



 二人はそう言って、部屋へと戻る。

 アリシアは、お茶を入れに行く。

 テーブルの上には、お菓子などが置かれていた。

 薫は、まだひとつ見てない部屋へと足を運ぶ。

 先程アリシアが、頬を赤らめていた部屋だ。



「何で、あんな表情しとったんやろ……」



 薫は障子を開け中を確認したあと、スッと閉めた。

 素知らぬ顔で戻ろうとしたが、アリシアがこちらを見て頬を赤らめていた。

 これはヤバイ。

 回避しようのないこの空気。

 話題を替えたいが、出てこないのであった。



「か、薫様……」



 薫の心臓の鼓動が高くなる。

 ユカタ姿のアリシアは、妙に色っぽかった。

 アリシアは、薫の横に来てキュッと、ユカタを摘むのであった。

 上目遣いで、こちらを見てくる。

 薫が、待たせているだけに、どうも強く言えない。



「薫様……その、まだ……」



 そう言って、最後まで言わずに言葉を切る。

 アリシアの言いたい事もわかる。

 自身の精神的な物の為、アリシアも強く言えないのであった。



「すまんな……」



 そう言って、アリシアの頭を撫でる薫。



「その、少しでもいいので、話してくださると……嬉しいです」

「内容は、つまらんで? しょうもない事やろうと思うし……」

「そ、それでも、私は薫様の事をもっと知りたいです」



 薫は頭を掻きながら、ちょっと気まずそうに話すのであった。

 アリシアは薫にとって特別で、大切だからこそ、手が出せない事。

 手を出すと、目に見えない何かが、壊れてしまいそうな気がして、踏み込むのを躊躇ってしまう事。

 昔、大切だった仲間に裏切られた事。

 そこから、一度壊れた心には、少し恐怖というものが植えつけられてしまった事。

 変わってしまう怖さという鎖のような物が、体に掛けられているような気がする事。

 薫は、苦笑いしながら話すのであった。

 アリシアは、薫の抱えているこのような気持ちを、初めて知った。

 そして、アリシアは目尻には涙を浮かべるのであった。

 大切に思われている事、薫のトラウマの事、アリシアの知らない薫を、今日初めて知れた気がしたのだ。



「話してくれて、有難うございます」

「な? しょうもないやろ」

「そんな事ないです。大切な人から裏切られたら、誰だって傷つきます。しょうもないとか、そんな言葉で片付けては、駄目だと思います」

「ごもっともやなぁ……」



 薫は、少し俯きながらそう言う。

 昔の事を少し思い出してしまったからでもある。

 少し、表情が曇る。

 アリシアは、自身の守護のペンドラグルをギュッと握り言う。



「私は、どんな事があっても、薫様の味方です。薫様が、私から離れていっても、見つけ出して、死ぬまでずっとずーっと、一緒に居ます。私は、絶対に薫様を裏切りません。この大陸の人達が、薫様を裏切っても、私だけは薫様を裏切りません……だから……だから……」



 必死にそう言うアリシア。

 気持ちが、薫の心に響く。

 温かい気持ちになるのだ。

 今まで、何を迷っていたんだと思う。

 心の中の鎖が緩み、ガシャンと音をたてて外れていく気がした。

 気持ちが楽になる。

 アリシアと居るだけで、もう何もいらないといった感じであった。

 そう思うと、笑ってしまうのであった。



「なんか、アリシアからプロポーズされたみたいやな」

「な、何言ってるんですか薫様! もう私達、結婚してるんですよ」

「ん? 何時したんや??」

「え? 苗字が、ヘルゲンに変わってるじゃないですか」

「あれって、偽造の為の、仮の設定ってやつやないんか?」



 なんだか、アリシアと噛み合ってない気がした。

 とても、嫌な予感がする。



「苗字の変更は、結婚しないと出来ませんよ。それに、ギルドカードも身分証明ですから、嘘は書けませんし」

「じゃあ……。俺達は、何時結婚したんや?」

「たぶん、お父様が……。薫様、何か書類を書きませんでしたか? ギルドカードを作るとか言われて」

「あ……!」



 薫は、過去を振り返る。

 カインに、ギルドカードを作ってもらう時に、書類を書いたのを思い出す。

 あの時、カインは偽造の為などと言っていた。

 表情は、満面の笑みであったのを覚えていた。

 そして、アリシアの事で、ぼーっとしていた為、あまり書類を確認していなかった。



「くっそー、やられたぁああ」



 薫は、そう言って悔しがるのであった。

 完全に勘違いしていた。

 そして、今まで夫婦と言う設定と思っていたのが、実は結婚してましたと言うオチ付きなのだ。

 舌を出し、「てへ」っと言ってる、カインの腹立たしい表情が、容易に想像できる。

 猛烈に、カインを殴りたいと思うのであった。



「そ、その……私との結婚は、嫌でしたか……?」

「あー、ちゃうねん。その逆や! するんなら、ちゃんとしたかったって言うだけや。くっそ、まんまとカインさんに、はめられたってオチかい」



 薫の言葉に、久々に体まで赤くなるアリシア。

 そんなアリシアを見て、薫まで赤くなるのであった。

 そして、アリシアは薫に抱きつき、顔を埋めるのであった。

 恥ずかしいのと、嬉しいのとで、訳がわからなくなり、表情を見られたくない一心で、隠すのだ。



「アリシア、ちょっと顔見せてみ」

「だ、駄目です。今は駄目なのです」



 そう言って、埋めたまま動こうとしない。



「大事な事、言うんやけど、そんな格好でええか?」



 薫の声のトーンが、いつもと違う事に気付く。

 アリシアは、スッと薫から離れる。

 そして、薫を見つめるのであった。

 薫は、一呼吸してから言う。



「こう言うのは、ちゃんと、しときたいねん。けじめでもあるしな。……アリシア、俺と結婚してくれ、心配事や、迷惑を一杯かけると思うんやけど……」

「……はい。喜んで、お受けします」



 お互い、真っ赤になりながらであった。

 そして、誓いの口づけをする。



「その……すまんやった。色々、勘違いもしとったしな」

「わ、私も……可怪しいなとは、思ってたのですが。まさか、ここまで食い違っているとは……」



 そう言って、二人は笑うのであった。

 そうしていたら、扉を叩く音がした。

 薫とアリシアは、扉へと向う。

 開けると、料理を持った館の人がいたのだ。

 時刻は、7時になっていたのだ。



「す、すごい量なのです!」

「これは、また豪華やなぁ」



 テーブルの上に、運ばれる料理の数々。

 小さな鍋や、お刺身、天ぷらなど、完全に日本の料亭で食べられるような、品物ばかりなのだ。

 使っている食材は違うけれど、目で見て楽しめる料理としては、最高峰と言ってもいい。

 二人は、十分に舌鼓を打ち、料理を味わいつくすのであった。



「堪能したなぁ……」

「これが、あと9日も続くのですね……。最高ですね」



 二人して、寝っ転がりそう言うのであった。

 食事は片付けられ、テーブルの上には、お茶が置かれていた。



「さて、露天風呂にでも入るか」

「はい」



 そう言って、脱衣所へと向かう。



「え? 一緒に入るんか?」



 シレッと、トコトコ付いて来るアリシア。

 首を傾げながら、「それが何か?」と言わんばかりの表情なのだ。

 薫は、タオルを巻けばいいかと思い、仕方なく了承する。

 頬が赤いが、喜ぶアリシア。

 二人とも、タオルを巻き、露天風呂に入る。

 透き通るお湯、ほんのりぬるりとして、肌がつるつるする。

 夜になると、少し肌寒くなっていた為、温泉の温度がちょうどいい。



「あ~、疲れが取れるなぁ~」

「肌がつるつるで、不思議な感覚です」



 二人は、隣り合う形で入っていた。

 アリシアの肌が、横を見れば見える。

 薫は、心臓の脈打つ速度が速くなるのであった。



「紅葉が綺麗ですね……」

「そうやなぁ……」



 街に広がる紅葉を見ながら薫はそう言う。

 湯船に浮かぶ酒を手に取り、薫はそれをグッと飲むのであった。

 お酌は、アリシアがしていた。

 アリシアも、少しお酒を飲むのであった。



「アリシア……」

「はい?」

「ちょっと、近くないか?」

「そうですか?」



 薫は、確信犯だろと思うのであった。

 無駄に、引っ付いてくるのだ。

 胸が当たるのだ。

 襲われたいのか? そうなのか?

 薫は、ふと山の方を見ると、スーッとライトアップされるのだ。

 ほんのり明るく、闇の中に紅葉を咲かせる。



「これはまた……凄いなぁ。こんな事まで、するんやなぁ」



 そう言って、お酒を飲む薫。

 薫は、少しの間、夜の紅葉を楽しむ。

 ふと、アリシアの方を見ると、キューっと言いながら、お風呂に沈みかけていた。

 目を回しているのだった。

 少量でも、温泉に入りながらのお酒で、少し酔ってしまったようだ。

 薫は、焦ってアリシアを抱きかかえ、お風呂を出る。

 即座に、水分補給をさせる。

 そして、脱衣所に用意していたタオルで体をふき、アリシアにユカタを着せる。

 薫は、アリシアを抱きかかえ、部屋まで連れて行くのであった。

 リラクゼーションチェアに座らせ、うちわで扇ぐ。



「気持ちいいのです……。えへへ」



 アリシアは、目を瞑ったままそう言うのであった。

 本当に、気持ちよさそうに団扇の風をうけるのだ。

 薫は、頬杖を突きながら、そんなアリシアを見る。

 そうしていると、可愛らしい笑顔で、こちらを見てくる。



「アリシア、大丈夫か?」

「う、大丈夫です……」



 そう言いながら、薫が用意した水をこくこくと飲む。

 ちょっと、まだ顔が赤い。

 薫の処置で、酔いは殆ど無いようだ。

 しかし、少し恥ずかしそうな表情であった。



「もう、休むか?」

「んっ……」



 こくんと、頷くアリシア。

 薫は、アリシアを抱え、布団に寝かせる。

 ユカタが少しはだけ、胸元が見えるのであった。

 薫は、スッと目をそらす。



「薫様……」



 然し、アリシアは気にする事なく、薫の首に手を回す。

 そして、キスをするのであった。

 そっと離して、見つめ合う。



「薫様……愛してます……」



 そう言って、またキスをする。

 少し、ぎこちない。

 緊張しているのか。

 薫も、それに応える。

 薫は、アリシアに話し、自分の精神的な物が無くなった。

 そっと、アリシアの頬を撫でる。

 ピクンと反応する。



「ああ、俺もや。その……待たせて悪かった」



 そう言って、抱きしめる。

 アリシアの鼓動が早くなる。

 薫も一緒であった。



「薫様、心臓の音が早いですよ」

「アリシアもやん」



 そう言って二人は、クスリと笑うのであった。

 アリシアの緊張も少しほぐれる。

 そして、また二人はキスをし、舌を絡ませた。

 アリシアの舌を味わいながら、薫はアリシアのユカタに手をかけた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 目が覚めると、薫はアリシアを抱きしめていた。

 幸せそうな顔で、眠るアリシア。

 相変わらず、起きない。

 朝の弱さは、まだまだ治りそうにない。

 薫は、起きようとしたが、アリシアが薫の腕をギュッと掴むのだ。

 起きてるんじゃないかと思う。

 胸が、腕に当たるのだ。

 柔らかく、心地よい。

 薫は、良いかと思い、そのまま起きるのを諦める。

 そして、アリシアの頭を撫でる。

 撫でられると、嬉しそうにするのだ。

 薫は、そのまま二度寝するのであった。

 二人が起きたのは、午前9時であった。



「お、おはようございます……」

「おはよ」



 ちょっと、恥ずかしそうに布団をかぶり、頭だけ出すアリシア。

 そんなアリシアの頬を、薫は突くのだ。



「意地悪です……。薫様は、意地悪です」

「そんなん、会った時から分かっとったやろ」

「ぐぬぬ……」



 そう言って、薫は笑うのであった。

 二人は起きて、着替える。

 そして、街に繰り出すのであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ファルシスの宿屋で、ダニエラはバルバトスの知り合いが来るのを椅子に座り待っていた。

 プリムとランドグリフは、無言で立ち待つ。

 プリムは、目に生気が殆ど感じられない状態であった。

 ランドグリフは、そんなプリムを心配そうに見るのであった。

 すると、外が騒がしくなる。

 ダニエラは、やっと来たかと言わんばかりに、立ち上がるのであった。

 


「いやー、遅れてすまないすまない」



 そう言って、魔導師のローブを着た老人が馬に乗ってやってきた。

 馬には、帝国の紋章の布が巻かれている。

 白髪で、髭を蓄えていた。

 耳が尖っている。

 エルフのようだ。

 目は、ニコニコとしているのだ。



「あなたが、ダニエラ嬢かな? バルバトス坊やから聞いとったが、また綺麗じゃのう」



 そう言って、髭をいじりながらダニエラを見る。



「おっと、すまないな。自己紹介がまだであった。元帝国軍の軍師をしておった、ザルバックと言ったらわかるかな?」

「「「!?」」」



 ダニエラ達は、驚くのであった。

 オーランドと組み、名を馳せた者だ。

 かなり、頭のキレる者と聞いている。



「オーランドは、元気でやってるかな?」

「ええ、相変わらずですよ」

「そうかそうか、ならいいんじゃよ」



 そう言って、笑うのであった。

 ダニエラは、ちょっと拍子抜けしそうになる。

 しかし、オーランドと同じく、異質なオーラを纏っているのだ。

 だからこそ、気が抜けない。

 オーランドが、力でねじ伏せ支配するのなら、このザルバックという男は、頭で場を支配する。

 冒険者ランクCで、この地位まで行った者は、この男だけなのだ。



「警戒せんでもいいぞ。もう老ぼれじゃからな」

「そんな風に言って、力を隠している者を知ってますからね」

「フォッフォッフォ、何となく誰か分かってしまうのう」



 いい笑顔で言う。

 全く隙を見せない。



「こんな老いぼれを、まだこき使う帝国も鬼畜じゃのう」

「お断りすれば、良かったのでは?」

「暇しとったからのう。まあ、良い頭の体操にはなるじゃろう。それで、このファルシスと、ファルグリッドの状況を教えてくれるかのう」



 ダニエラは、現在の状況を全て話す。

 すると、髭を触りながら「うーむ」と言う。

 まるで、新しい玩具を手に入れた、子供のように考えるのであった。

 そして、行動に移るのであった。



「ダニエラ嬢、もうあなたはお帰りなさい。色々と、やる事があるんじゃろ?」



 ダニエラに、そう言うのだ。

 ダニエラは、ザルバックに一礼をして、ワイバーンを3頭召喚する。

 皆、先に帰らせた。

 残っているのは、ダニエラとプリムとランドグリフだけなのだ。



「ほう、これがダニエラ嬢のワイバーンか。昔、手を焼いたわい。まぁ、攻略してしまえば、どうという事はないトカゲじゃがなぁ」



 そう言って、笑うのだ。

 ダニエラは、ゾッとする。

 冒険者ランクAランクのダニエラでさえ、かなり苦戦したのに、それ以下のザルバックが、ワイバーンをトカゲ扱いするのだ。

 それは、耳を疑うレベルなのだ。

 色々聞きたい事はあるが、今は薫に会い、話をしたいと思うのだ。

 まだ、お礼すら言えてないし、今回の成果をあげたのは、薫である。

 報酬の話も出来てないのだ。

 そして、一番話したい事は、エクリクスに入らせるという事だ。

 薫を連れて来た場所、ビスタ島に向かう。

 ランドグリフとプリムは、ザルバックに一礼をし、ワイバーンに乗り込む。

 そして、一瞬で空中に飛び上がり、空の彼方に消えるのであった。



「若いのう。さて、悪しき行為をしていた輩を懲らしめて、この街を綺麗にしてみるかのう。簡単に終わらんでくれよ。フォッフォッフォ」



 そう言って、のんびりとアイテムボックスから、翼の生えた杖を取り出す。

 それを地面に突き立てる。



「完全固有スキル……『支配する盤上コントロールゲームボード』」



 そう言って、ファルシスとファルグリッドの街二つを覆う、魔法陣が展開されるのであった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ビスタ島に着いたダニエラは、肩を落とす。

 ダルクから、ラックスティを出され、それを飲むのであった。



「薫さんは、ここには居ないのですね……」

「はい。かれこれ、1週間前くらいでしょうか」



 ダニエラは、大きな溜息を吐く。

 その行動に、怯えるプリム。



「何処へ行ったかは、分かりますか?」

「すみません。どちらに向かわれたかまでは、把握して無いんですよ」

「そうですよね」



 それを聞き、場の空気も重くなる。

 顔が青くなり、泡を吹きそうなプリム。

 また、あのお仕置きを、喰らうかもしれないという恐怖に、涙目になる。

 何か、良い情報は無いのかと本気で、懇願するのであった。

 言葉には出せない。

 また、出しゃばった事をすれば、もう精神が、崩壊するかもしれないからだ。

 ぷるぷるとプリムは、震えるのであった。



「そう言えば、薫さんから預かっている物がありますよ」

「それは、本当ですか!」



 ダニエラの表情が、一気に明るくなる。

 プリムも、助かったと思うのであった。

 そんな、一喜一憂するプリムを、可哀想な目で見るランドグリフ。



「此処に、来られるかもと言ってましたので、手紙を預かってます」



 ダニエラは、何もかもお見通しかと思いながら、ダルクから手紙を受け取る。

 中を見て、ダニエラは笑うのであった。

 書かれていたのは、今回の報酬の事、ビスタ島に寄付として、入れて欲しい事。

 ワトラの研究機関をちゃんとやる事。

 そして、ダニエラの治療の報酬は貸しだという事。

 これらの約束を守っていれば、次会った時、ダニエラの話す事を、検討しても良いと書かれていた。

 ダニエラは小さな声で、「検討するとは、また上手く立ち回る人だ」そう言って、顎に手を当てクスクス笑う。

 一本取られたと思うのだ。

 薫との関わりは消えてない。

 然し、この内容を受けなければ、話も聞いてもらえないのだ。

 おまけに、貸しまで放り込んできた。

 俺の能力が欲しければ、言う事聞いてねと、言ってるようなものなのだ。

 向こうからしたら、別にダニエラが言う事を聞こうが、聞くまいが関係ない。

 関わらなくても、良いのだから。

 然し、ダニエラからすれば、薫は是が非でも欲しい人材だ。

 そして、薫からすれば、デメリットが全くない事なだけに、放置しても良い。

 薫は、最高のポジションをとっている。

 変な気を起こして、ビスタ島に何かした時には、Sランク相当の化け物が、エクリクスに君臨する事になるのだから、そんな馬鹿な事はしない。



「面白いですね。会える日を、楽しみにしておきましょう」



 気分が良くなるダニエラ。

 ほっと、一安心するプリム。



「それと、数日前に冒険者が、この島に立ち寄ったんです。その時に、小耳に挟んだ話があります……」

「どういった内容ですか?」



 ダルクは、カオル・アシヤという人物の話をする。

 薫と関わりがあるか、本人ではないかと思っているからだ。

 治療師ギルドから、賞金が出るという事も言う。

 ダニエラは、眉間に皺を寄せる。

 その反応に、ダルクは確信を持つ。

 そして、それ以上聞く事も、言う事もしないのであった。

 現在の、ファルシスとファルグリッドの治療師ギルドは、機能していない。

 だからダニエラは、今ここで、そのような事態になってる事を知る。

 ダニエラも直ぐに、十賢人の誰かが、横槍を入れてきた事が容易にわかった。

 ダニエラは、ダルクの話を聞くと、直ぐに立ち上がり、礼をしてダルクに一枚の紙を渡し、帰るのであった。

 ランドグリフとプリムは、後に続く。

 ワイバーンに乗り、飛び立っていった。



「凄いな……ありゃ化け物だわ」

「カール、物凄く失礼よそれ」

「だってよぉ〜、あの若さで、Aランクだろ? 美人で、あの巨乳だぜ?」

「どんな目で見てんのよ……」

「こんな目に決まってんだろ」



 そう言って、笑うのであった。



「そういや、ワトラはどうしたんだ?」

「あいつなら、今治療中だ」

「あら、バッドお帰り」



 アイテムボックスに、買った商品を入れながら、こっちに来るバッド。



「マジか、あいつ残念がるだろうな」

「嬉しそうに言うあんたは、最低だって事が分かるわ」

「そ、そんな事ねーよ! すんげー、大切にしてるじゃねーか」



 カールの大切の言葉に、ジト目で見るティスト。

 ワトラに対して、セクハラが多いカールなだけに、大切という言葉を、履き違えてるのではないかと思うのだ。

 いっぺん、辞書で調べて来いと思うティストであった。



「す、すいませーん。お釣り間違ってました」



 そう言って、此方に慌てて走ってくる亜人の娘がいた。

 肩にピンクラビィを乗せてである。



「おお、シュリさん。別に明日でも良かったのに。てか、もう島には慣れたのか?」

「はい。気持ちよくて、色々と考えさせられてます」



 そう言って笑うのであった。



「おっちょこちょいだなぁ。シュリさんは、ドジっ子メイドで、ピンクラビィ付きとか、最高だよな。そのむっちり太ももの上で、耳掃除して欲しいぜ」

「……」



 そう言って、サムズアップするカール。

 シュリは、なんとも言えない表情になる。

 その瞬間、真上からタライがポンと出てきて、カールの脳天に直撃する。

 ガンっといい音が鳴り、そのまま倒れるのであった。



「きゅー!」



 ピンクラビィが、青白く光っていた。

 これが、ピンクラビィの能力かと思いながら、カールを見る。

 大きなたんこぶを作り、涙目になっているのだ。



 シュリは、ペコペコと謝り、ニケの経営する商店に戻って行く。



「あんた、学習能力ないわね」

「お前は、知らないんだ。ピンクラビィのあの攻撃……。避け続けると、最終的に全力で殺しに来るからな。タライを食らった方が安い」

「あんたバカでしょ……。あと、何そこまで経験してんのよ……」

「はぁ、お前らさっさと迷宮に潜るぞ! 冒険者ギルドが、もう直ぐこの村で、開業するんだ。それまでに、マッピングで稼ぐぞ」



 バッドが、呆れながら、そう言ってまとめるのだ。

 ティストとカールは、気を引き締める。



「「りょうかーい」」



 そう言って、バッド達は迷宮に入って行くのだった。


読んで下さった方、感想を書いて下さった方、Twitterの方でもからんでくれた方、有難うございます。

のんびり書いていましたら、この文字数ですよ……。

楽しく書いてるのでいいですよね。

はい、ランキング入り久々にしました。

皆様、本当に有難うございます。

次回も、一週間以内に上げたいと思います。



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