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ダニエラの治療

 ダニエラが倒れ、ランドグリフは青ざめる。

 ワトラは、何がどうなったか分からず、その場に座り込んでいた。

 直ぐに、ランドグリフは、側によりダニエラの名前を呼ぶのであった。



「ダ、ダニエラ様、しっかりして下さい!」



 然し、ダニエラは全く反応しなかった。

 薫は、嫌な予感がした。

 直ぐに頭を回転させ、病気をピックアップする。

 最悪の事態になりかねない。

 そして、今迄のダニエラの病気の予兆を思い出す。

 頭が痛いと言っていた。

 しかし、そんな予兆でも、早く気付き、気に留めておけば、もっと早く治療できた。

 今、そのような事を思っても、後の祭りだ。

 薫は、最悪の事態の時は、『異空間手術室』を使う事になる。

 此処まで、使わずに済んでいたが、最後の最後でこれなのである。

 それも、一番見られたくない、エクリクスの治療師の前で、それを使わなくてはならないかもしれない。



「ランドグリフ、ちょっと離れてくれ」

「何をする気だ! ダニエラ様には、指一本触ることは許さん!」

「そのままやと、死ぬ危険性がある言うとんねん。やから、そこを退け!」



 薫の言葉にたじろぐ。

 しかし、納得のできる説明も無く、退く事は出来ない。

 薫は、今一分一秒が、惜しいという状況であった。

 薫が、ダニエラの初期症状を考えて、出した病名は脳梗塞だ。

 脳の血管が詰まり、早期の処置をしなければ、後遺症が残る。

 薫は、早く検査をし、病名の確定と、初期症状なら投薬をしなければならいが、ランドグリフはそれを制止するのであった。



「ランドグリフさん、薫様を信じてください……お願いです。薫様がこう言う時は、説明してる暇が無いほどの重病の時です」

「……」

「そういう事や。俺は、その病気を知っとるし、治す事もできる。それでも止めるんなら、もう俺は手を出さん」



 薫は、そう言うのであった。

 ランドグリフは考える。

 自身の回復魔法では、どう足掻いても、治せない事くらい分かっている。

 この様な症状に、出くわした事が殆どない。

 貧血などで、倒れた者などはいたが、それとは全く違う症状なのだ。

 下手をすれば、自身の責任になる。

 そのような責任を負うことなどできないのだ。

 ましてや、十賢人のダニエラの治療など恐れ多い。



「わかった……お前に任せる。だが、本当に治せるのか?」



 薫は頷いた。

 ランドグリフは、この街の新種の病すら治した薫の実績を、信じるしかなかった。

 薫は、すぐに行動に移す。

 アリシアに、気道を確保して貰い、ダニエラに『診断』を掛ける。

 結果は、薫の思った通り、脳梗塞だった。

 脳梗塞は、脳の血管内に血栓という塊ができ、通常通るはずの血液を遮断し、脳に酸素や栄養素を送れなくする。そして、その状態が長く続くと脳に深刻なダメージを与えてしまう病だ。

 後遺症は、ダメージを負った部分で変わってくる。

 言語障害、半身麻痺など、普通に私生活を送れなくなる危険性が出てくる。

 早期治療で、脳にダメージを与えないようにしなければならない。

 脳のダメージは、ほとんど回復しない。

 一つでも失うと、一生障害と一緒に、生活しなければならない。

 薫は、ダニエラの脳が、どうなっているかを調べるため、『医療魔法ーーCT』を掛ける。

 ステータス画面に画像が出る。

 そして、薫は直ちに『医療魔法ーー注射・アルテプラーゼ(t-PA)』、『医療魔法ーー点滴・アルテプラーゼ(t-PA)』をダニエラに投与する。

 投与する量は、0.6mg/kgの10%を注射で、残りの90%は、点滴で1時間で終わるように設定する。

 アルテプラーゼ(t-PA)は、血栓を溶かす薬だ。

 これは、血栓溶解治療と呼ばれる。

 脳梗塞になって、4時間半以内の患者に使用すると、最も効果的な治療と言われる。

 薫は、まずそれを試す。

 そして、『解析』を使う事により、薬の効果があるかを見る。



「駄目か……上手い事、溶解されへんか」



 薫は、そう言いながら唇を噛む。

 アリシアは、不安そうに薫を見る。

 そして、少し考えランドグリフに言う。



「ランドグリフ、今からする事は他言無用にできるか?」

「事によっては、報告させてもらう」

「じゃあ、一回目の治療の後は、俺はもう面倒見んけどええか? 後の処置せえへんと、また命に関わるんやけど」

「なっ!!? お、お前、脅すつもりか!」



 薫の言葉に焦る。



「脅し? そんな事せえへんよ。お願いしとるんや。今からする事だけ、見なかった事にな」

「薫様……そ、それは脅しですよ!」



 気道を確保しながら、アリシアは薫にツッコミを入れる。

 ダニエラの治療をするに当たって、『異空間手術室』の事を、完全に口封じをするつもりなのだ。

 それも、ランドグリフはダニエラを尊敬し、崇めてすらいるのだ。

 そこを薫は、利用するのだ。

 裏切れば、ダニエラは死ぬぞと言った感じでだ。



「わ、わかった。だが、絶対に治すんだぞ! 失敗は許さん! もしもの時は、お前の命で払ってもらうぞ!」



 苦虫を噛み潰したような表情でそう言う。

 薫は、交渉成立と言った感じで、立ち上がる。

 そして、ダニエラの治療に必要な設備を思い浮かべ、右手を正面に翳す。



「固有スキル……『異空間手術室』」



 そう唱えると、金色に輝きながら、時空が歪み、強烈な稲光が迸る。

 強大な魔力が、空間をバキバキと鈍い音を響かせ、歪ませる。

 そして、手術室の入り口が形成され出現するのであった。

 ランドグリフとワトラは、口を開けあんぐりとしていた。

 声が出ない。

 異質な扉が、ひとりでに開く。



「アリシア、ちょっと手伝ってくれ」

「は、はいです」



 薫は、手術室の中からストレッチャー(キャスター付き移動ベッド)を出して、ダニエラを乗せる。

 そのまま、薫はダニエラを手術室に運ぶのであった。

 アリシアも薫に付いて行く。

 手伝ってくれと言われたが、何をするのだろうと思う。

 まだ、医学は、ほとんど理解していない。

 そんな、自分をこの中に入れて、どうするのだろうと思うのだ。

 手術室の扉は、ゆっくりと閉まる。

 ランドグリフは、扉が閉まるまで、動く事さえ出来なかった。

 慌てて、扉に向かい開けようとするが、全くもってビクともしない。

 無駄に体力を消耗するだけであった。



「な、なんなんだこれは……傷一つ付かない扉など存在するのか……」

「か、薫って何者なんだよ。僕の思ってる、斜め上もいいところだ」



 ワトラは、扉を見ながらそう言う。

 ランドグリフは、ワトラを掴み言う。



「あの男は、何者なんだ! 知ってる事を言え」

「ぼ、僕も知らないよ。つい先日、会ったばかりだし。でも……知識は、僕らなんかより、遥かに持ってることは事実だよ。全く知らない魔法を使ったりしてたしって、痛いよ……ランドグリフさん……」



 力一杯肩を掴まれていた為、ワトラは涙目になりながら訴える。



「す、すまない」



 そう言って、ランドグリフはワトラを離す。

 手術室に入れない以上、ここで待つしかないのである。

 ランドグリフは、忙しなく扉の前を右往左往するのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 手術室の中、辺りは明るく、アリシアは懐かしく思う。

 自分の手術も此処でした。

 少し内装と機材が違うが、雰囲気は同じであった。



「アリシア、ダニエラさんを手術衣に着替えさせてくれ」

「俺は、準備をするから」

「わ、分かりました」



 アリシアは、テキパキとダニエラを着替えさせる。

 薫は、裏に回り、手術用の服に着替える。



「終わりました」

「ああ、ならアリシアも手術用の服に着替えてくれ」

「え? 私も此処に居ていいのですか?」

「勉強やと思って、よう見とけよ。これら全部、アリシアに仕込むからな」



 薫の言葉に、唾を飲み込む。

 医学という薫の技術が、目の前で観れるのだ。

 薫の指示で、アリシアも手をブラシで洗い消毒し、綺麗に洗う。

 そして、手術用のゴム手袋をはめる。



「よし、それじゃあ、気合入れて行くで」

「は、はい!」



 そう言って、手術室に戻るのであった。

 ダニエラに手術の準備をする。

 先ず、『医療魔法ーー心電図・ベクトル1』『医療魔法ーー血圧計・ベクトル1』を掛ける。

 そして、『医療魔法ーー酸素マスク・ベクトル1』を使う。




「これから、麻酔を掛けていく」

「ますい? ですか?」

「体を切ったりしても、痛みを感じんようにする薬や」

「な、成る程です」



 アリシアは、頷きながら見る。

 薫は、口を動かしつつ、テキパキと進めていく。



「『医療魔法ーー局部麻酔・ベクトル1』」




 手の平を、ダニエラの足の付け根に当て、麻酔を掛ける。

 薫は、『解析』を掛け、麻酔の効きを見る。

 そして、準備が整ったところで、薫は消毒液を塗り、足の付け根にある大腿動脈に、専用の針を刺す。

 アリシアは、針が体に入っていくのを見て、表情をしかめる。

 初めて見るのだから、仕方ないかと薫は思う。

 針を大腿動脈に差し込んだら、その中にガイドワイヤー(細く柔らかい針金)を入れる。

 ガイドワイヤーに沿うように挿入シース(菅)を血管内に入れ、穴を広げる。

 三方活栓をはめて、造影剤などを入れる準備をする。

 この状態で、カテーテルを入れる準備ができる。

 アリシアは、その様をジッと見つめる。

 必死に『記憶の図書館メモリアルライブラリ』を使いながらであった。

 サラの劣化で、見たものを記憶はできないが、知識としては、記憶できるのかを試す。

 薫は、その都度アリシアに説明していく。

 今回の手術は、血管内手術だ。

 血管の中に、直径2mmの針金のような物を通し、現在ダニエラの脳の血管を塞き止めている血栓を、回収して血液を正常通り流す手術なのだ。

 お腹を開いて行う手術と違い、血があまり出ない。

 そして、患者の負担も少ないのだ。

 アリシアから見たら、簡単な手術のように見えるが、血管というものは、脆い。

 カテーテルで、血管内を傷つけてしまうと、大変な事になる。

 熟練の技術がいると言うことは、今のところ理解はできていないようだ。

 しかし、薫の手捌きには、見惚れてしまっていた。

 正確に、そして速いのだ。

 薫は、カテーテル(トレボプロビューレトリーバー)という器具を挿入する。

 最新の血栓回収器具である。

 三方活栓から『医療魔法ーー造影剤・ベクトル1』を入れ、『医療魔法ーーX線透視・ベクトル1』を使い、ステータス画面に透視画像を拡大した物を映し、血管の形や走行を確認しながら、カテーテルを血栓の手前まで走らせるのだ。



「こ、これが、けっかん? ですか?」

「ああ、心臓のポンプで全身に血液を送り出してんねん」



 アリシアは、薫のX線透視の映像を見て驚く。

 心臓の鼓動によって血流が見えるのだ。

 そして、カテーテルの影もである。

 薫は、血流に乗せ、どんどん進める。

 アリシアは、細長い針金が、薫の手によって生き物のように、変幻自在に血管の中を走るのを見て驚く。

 あんなに細い物を、正確に脳の最深部の血栓の場所まで移動させるのは、不可能と思うのだ。

 もしも、アリシアがした場合、血管を傷付け、患者を死に至らしめる事が容易に理解できる。

 そして、今回の病気は、速さが命と言っていた。

 ここに来て、薫の技術の凄さがよくわかったのだ。

 地味な作業に見えるが、繊細で正確のいる高い技術を持つ薫だからこそ出来ると思うのであった。

 そして、血栓の手前に到着すると、マイクロカテーテルをカテーテルから出す。

 直径0.5mmのカテーテルだ。



「ほ、ホントです! 血液が殆ど流れてません」

「ここが、血栓で詰まっとるんや。」



 アリシアは、画面に表示される詰まった血管を見て言う。

 薫は、マイクロカテーテルを伸ばしていく。

 そして、そのまま血栓を貫通させる。

 薫は、マイクロカテーテルを操作し、筒状のカテーテルを網状に展開する。

 形状記憶されているカテーテルは、網状の筒に展開されながら、血栓を切り刻み、血管の壁まで綺麗に広がる。

 網目の面積を広めに取ってある。

 その為、血栓を確実に絡め取ることができるのだ。

 薫は、ゆっくりと血栓を絡めて、カテーテルに収納していく。



「す、凄いです。塊がどんどん筒に入っていきます」



 アリシアは、驚きながらX線透視下映像を見る。

 X線透視下で、血流が綺麗に回復する。

 薫は、これで少し様子見かなと思うのであった。

 別の場所に、血栓の欠片が流れて、詰まってないかを調べる。

 薫は、血栓に対して『解析』を使いながら、異変がないかを調べるのであった。

 結果は、異常なし。

 それがわかると、カテーテルを回収し、血管から抜き取る。

 手術後の処置を終える。

 薫は、ダニエラの頭部に『解析』を掛け、後遺症などが残らないかを見る。

 脳の一部に、血流が行かなくなれば、脳にダメージを与える。

 時間が、掛かれば掛かるほど、後遺症が出る危険性がある。

 結果は、リハビリさえすれば、戻るとの結果が出た。

 体力も消費しているだろうから、薫はダニエラに、『回復魔法――体力全回復《アポロンの光》』と『回復魔法――体力定期回復《アポロンの加護》』使い終了させる。

 一安心したその瞬間、足元がふらつく。

 神経を擦り減らす様な集中力を解いたせいもあり、一気に魔力欠乏症の波が押し寄せる。



「薫様!」



 アリシアは、薫を支える。

 間一髪、ぶっ倒れずに済んだ。



「如何にか、これで一山越えたわ」

「お疲れ様です。後は、任せてください! 薫様は、私が守ります。それに、ダニエラさんはもう何とも無いのですよね?」

「ああ、最初は、少し体に麻痺が残るが、アリシアにやってやったリハビリで、数日後には元通りや。しかし、アリシアも頼もしくなったなぁ。そしたら、ちょっと休憩するわ」



 薫は、意識の飛びそうな感覚を、なんとか踏ん張り、ダニエラを手術室から外へ出す。

 手術室から出ると、ランドグリフは飛び掛かるように、ダニエラの様子を見る。

 規則正しい呼吸を繰り返す。



「な、治ったのか? ダニエラ様は、無事なんだろうな!」

「ああ、バッチリ治ったで。もう大丈夫や」

「薫! 凄過ぎだよ!」



 薫のその言葉を聞き、ランドグリフは、わんわん泣くのであった。

 ワトラは、どうやって治したのかを考える。

 ホントは、今すぐにでも聞きたいが、薫の消耗っぷりに、それどころではないとすぐに分かった。

 椅子に座り、頬杖を突きながら、答えを聞かずに考えるのだ。

 そして、薫が治療して大丈夫といえば、大丈夫な気がする。

 少しでも、薫と一緒にいれば、並外れた技術と知識があるのは、すぐに分かるからだ。

 ワトラは、聞きたい気持ちをグッと堪え、薫が元気になれば聞こうと思うのであった。

 薫は、魔力欠乏症になり、自身で踏ん張っているのも、辛い状況であった。

 薫が『異空間手術室』から出て無人になってから、空間はバキバキと異質な音を立て、何も無くなった。

 そして、アリシアに支えられながら、薫を空いている大きなソファに寝かされる。

 せっせと、大きなブランケットを掛けるアリシア。



「ああ、マジでしんどい……」

「……」



 何故か、横にアリシアがモゾモゾと入って来て、添い寝しているが、今は考えるのも面倒なので、眠りにつこうとする。

 するとアリシアは、薫の唇を奪う。

 柔らかく心地よい。

 アリシアは、そのまま薫に、魔力を流し込む。

 暖かく、心が癒される感覚がした。

 少しでも、薫の回復を早くする為の行為なのだろうが、別にキスでなくても良い。

 手を翳し、相手に分け与えるように魔力を練り、流し込むようにすれば出来るはずだ。

 アリシアは、睡眠時間から計算し、自身の魔力が完全回復できる量まで、薫に分け与えるのであった。

 途中、ランドグリフが来たが、二人を見て、そそくさと立ち去った。

 意外と空気の読める奴のようだ。

 少しずつ、魔力をゆっくりと薫に注ぎ込む。

 今までの鬱憤が溜まってるのか?

 何度もキスをするアリシアは、とても楽しそうで、悪い顔をしているのであった。

 全ての治療を終え、静まり返るファルシス。

 ワトラも、疲れていたのだろう。

 考えながら、いつのまにか眠っていた。

 よだれを垂らしながら、今日救った患者の笑顔を思い出し、にやけるのであった。

 明日になれば、皆の体力も、少しは回復するだろうと思いながら、薫も眠りにつくのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 朝を迎える。

 いつもは、賑わいのあるファルシスも、静か過ぎて気持ちが悪いと言った感じであろう。

 ダニエラは、目を覚ます。

 朝日が心地よい。

 右手に少し、痺れがある感覚がした。

 体を起こし、周りを見る。

 皆、眠っていた。

 昨日の記憶が、かなり曖昧になっている。

 薫達と会話をした後、倒れたのは覚えているが、気が付くと朝になっていたといった感じである。

 痺れる右手を閉じたり開いたりする。

 私生活には、支障は無いかと思うが、不安もよぎる。

 ふと、目線を下げると、ランドグリフが床に突っ伏し、眠っていた。

 起こして、何があったかを聞きたかったが、昨日のあの惨事を切り抜けたのだから、もう少し寝かせておくかと思うのであった。

 ベッドから降りようとして、足を付くと何か違和感がする。

 右側半身が、少し痺れる感覚がする。

 原因が分からない。

 何が起きてるのか、今まで通りに行動しづらい。

 何かわからない恐怖の様なものが襲い掛かる。

 このしびれが、元に戻らないのではないかと、精神的なダメージが積み上がっていく。

 その場で、ぺたんと座り込んでしまった。

 少し放心状態になる。

 そんなダニエラの前に、立つ者がいた。



「ダニエラさん、大丈夫ですか?」

「……アリシアさん。ちょっと、体が……」


 声が震える。

 初めて、このような状況になり、体が震える。



「大丈夫ですよ。薫様が治療しましたから、ちゃんとリハビリをすれば、元通りになるそうですよ」

「!!?」



 アリシアの言葉に驚く。

 ダニエラの体の中で、何が起こっているか、分かっているような口調なのだ。

 ダニエラは、アリシアに聞きたい事が山程あったが、先ずはベッドに帰る事を優先させた。

 ベッドの上に横になるダニエラに、アリシアは手からリハビリを始める。

 ダニエラの肌は綺麗で、仄かにいい匂いがした。

 ダニエラの手を、マッサージしてゆっくりとほぐしていく。



「聞きたい事が、山程あると言った感じですね」



 ダニエラは、アリシアの言葉に頷く。

 アリシアは、苦笑いしながら、一個ずつ話す。

 倒れた時、ダニエラがどのような病気の症状を起こしていたか。

 そして、薫が治療した事。

 治療に関して、詳しくは説明しない。

 そういう事は、薫が全て説明するだろうから、アリシアは省くのであった。

 ダニエラは、アリシアから聞いた内容に驚く。

 脳内の血管が詰まる事によって起こる病。

 聞いた事がない。

 寧ろ、調べようが無い。

 今までも、そのような症状で、亡くなってる者もいる可能性もある。

 証拠が無い以上、信用も出来ないのだ。

 


「まぁ、信じられないと思います。実際に見てみないと、私でさえ疑ってしまいそうですから」

「あ、アリシアさんは、その光景を見たのですか!」



 ダニエラの言葉に、アリシアは悩んだ末言う。



「詳しくは、薫様から聞いた方が、良いかと思います。そこら辺は、専門分野と言ってましたから」



 アリシアの言葉に、ダニエラは承諾して、これ以上アリシアには、聞く事はなかった。

 聞いても、はぐらかされるかなと思ったからだ。

 アリシアは、絶対聞きたいだろうなと思いながら、リハビリをするのであった。

 すると、ランドグリフが目を覚ます。



「だ、ダニエラ様! 大丈夫ですか?」

「ええ、少し体に痺れがありますけど、大丈夫ですよ」

「!!!? し、痺れですか!」



 ダニエラの言葉を聞き、ソファで眠っている薫を見る。

 治療は、成功したと言っていたのに、麻痺症状が出ている。

 嘘を言ったと思い、薫を問いただそうとするのであった。

 アリシアは、直ぐランドグリフを止める。



「ランドグリフさん、ちゃんと話を聞いてください! この痺れは、数日後には無くなります。きちんと処置すればですけど」

「そ、そうなのか?」



 ランドグリフやダニエラは、術後のリハビリなどを知らない。

 術後に、リハビリをする事によって、現在の症状を無くせるのだ。

 アリシアも、初めて手術を受けた後、リハビリや薬を服用していた。

 継続して、薬とリハビリで回復させ、動けるようになった。

 何故そのようにするか、普段の外傷の治療とは、全くもって違う事を説明しなければいけない。

 一度治療すれば、もうしなくても良いと言う考え方が、普通になっているこの世界。

 現在の治療師には、理解に苦しみそうだなと思うアリシア。

 一応、アリシアは説明してみる。

 二人は、成る程と言った感じで頷く。

 意外とあっさり理解してくれて、ちょっと拍子抜けなアリシア。

 アリシアは、どうして? なぜ? と言った疑問が沢山出て、理解するまで結構かかった。

 エクリクスの治療師は、柔軟性もあるのかななどと思うのであった。



「そう言えば、どの様にして、私を治療したのですかランドグリフ?」



 薫が、どのようにして自身の病気を治したかを聞く。

 先程、アリシアに聞いたが、聞き出せなかったからだ。

 ランドグリフならば、その場で何らかの魔法でも見ていると思って聞くのだ。

 アリシアは、横目でランドグリフを見る。

 心臓をバクバクさせながらであった。

 薫との約束を守らなければ、この先の治療はしないと言われている。

 ランドグリフは、素知らぬ顔でダニエラに言う。



「すみませんダニエラ様。よく見えませんでした……。私も慌てていたので……申し訳ございません……」



 ダニエラは、ランドグリフの言葉を聞き、笑顔で「そうですか」と言って話を切る。

 アリシアは、ホッと胸を撫で下ろす。

 ここで、ランドグリフがダニエラに喋ってしまった場合、薫と一緒に逃げなければならない。

 しかも、薫が現在眠っている。

 今回は、前回のようにでたらめな魔力消費をしていない。

 だから、起こせばなんとか起きられると思うが、戦えるような体調ではないと思うのであった。



「薫さんは、起きませんね」



 ダニエラは、そう言ってアリシアを見る。

 ビクリと反応するアリシアは、「疲れているのでしょう」と言いダニエラのリハビリをする。

 非常に分かりやすい反応をするアリシア。

 当の本人は、バレていないと思っている。

 ダニエラは、敢えてそれには触れずに会話をするのであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 時刻は、10時を過ぎた頃だろうか。

 町中が少し騒がしくなってくる。



「お、俺ら、助かったんだー!」

「俺……昨日、天使を見ちまった……赤髪の天使様だよ!」

「え? お前もかよ! 実は俺もだ」



 そのよな事を口にする者が多かった。

 町の住民は、疲労しているものの至って元気であった。

 病と魔物の襲来で、死を意識した中での生還を果たした。

 皆喜び合っていた。

 そんな中、動ける治療師が、皆に体力回復魔法を使ったりなどの処置を行っていく。

 亞人が、今のファルシスでは、ほとんどを占めている為、本調子の者がない。

 そんな中、ランドグリフも治療しに混ざり、治療をする。

 ワトラもそうだ。

 アリシアは、ダニエラと薫の所で待機とランドグリフからの指示を受けている。



「薫様……起きないのです……」

「ここまで疲弊して眠りにつくって事は、相当な魔力を使ったのですね」



 ダニエラの言葉にヒヤヒヤするアリシア。

 そんな時だった。

 薫が目を覚ます。

 


「薫様―!」



 目を開けた薫に飛びつくアリシア。

 少し涙ぐんでいた。



「ああ、アリシアおはよ」

「もう、10時過ぎてます」

「そうか……」



 薫は、そう言ってダニエラを見る。

 意識は取り戻したようだなと思い立ち上がる。

 相変わらずの気だるさに嫌気が差す。



「ダニエラさん、調子はどうや?」

「元気ですが、手足のしびれがほんの少し感じますね。今まで、アリシアさんに、りはびり? と言うものを教わってました」

「そうか、まぁ、一時的なものやから心配せんでええよ。それ続けとったら、全く問題ないから。最初は、不安やと思うけどな」



 そう言って薫は、笑いながら言う。

 ダニエラが、最初に思っていた事を言われ、ドキッとする。

 そして、少し恥ずかしく思うのであった。

 アリシアは、薫にダニエラにどこまで教えたかを伝える。

 薫は、頷きアリシアの頭を撫でるのであった。

 嬉しそうに喉を鳴らしながら、薫にべったりなアリシア。

 そんな姿を見て、ダニエラは、ティナを思い出すのであった。



「一応、診察だけしとこうか。他にもなんか病気あったらあかんしな」



 薫は、そう言って撫でていた手を退け、アリシアを下ろす。

 ちょっと、寂しそうな顔で薫を見るが、すぐに気合を入れ、キリッとした表情になる。



「別に、何かの病気になってるとかは無いわよ?」

「現在進行形って言うやつや。これから、罹りかねない病気とかもあんねん」



 薫にそう言われ、ダニエラは従う。

 手を翳し、薫は、『診断』『解析』をダニエラに無詠唱で掛ける。

 そして、予防できる病気を調べるのであった。

 特に、死に至る病は罹ってないようだ。

 しかし、今回の脳梗塞のこともあり、少し深く『解析』でそうなった原因を調べる。

 すると、一つの答えが出てきた。



「ダニエラさんのスキルか魔法で、かなり大きい魔力使うやつってあるか?」

「ええ、ありますよ? それが何か?」

「それ、少し改良とか出来へんか?」

「え、えっと、よくわからないのだけれども……」



 薫は、ダニエラに今回の脳梗塞の原因を教える。

 普通は、食生活など脂肪分の多い食事や高齢といった事などで発症しやすい。

 血液の流れが悪く、詰まったり、血管に微量ずつ蓄積などするからだ。

 ダニエラは、まだ若い。

 それに、血液の流れは特に問題ない。

 血中濃度もそうだ。

 正常値を示している。

 しかし、ダニエラは、脳梗塞になった。

 これは、血液中に魔力を走らせるからだった。

 ダニエラの使う魔力で、流れが不安定になる魔法か、スキルがあるとすれば、それが原因になっていた。

 特に、膨大な魔力を使うと、血液中もしくは、体内でそれ相応の流れが生まれる。

 血液と一緒で、体内で詰まったり、流れが悪いと魔法であれば、無駄に消費し、効果はいまいちと言った結果になる。

 体に合っていないと、それが原因で、今回のような病気が起こると『解析』で結果が出たのだ。

 その他にもあるが、今はこれだけ分かればいいかと思い『解析』を解く。




「そうですね。体に負担をかけてると思うのは、固有スキルの『火龍円舞かりゅうえんぶ』ですかね。体を覆うくらいの魔力を発生させますから」

「龍みたいに見えたあれか?」

「ええ、そうですよ」



 薫が助けに入る少し前に、ダニエラが使っていたものを思い出す。

 火龍を思い浮かべるような容姿に変わっていた。



「そのスキルが、今回の病気の原因やな。使うなとは言わんけど、少し改善できるんやったら、した方がええと思うで。このまま使い続けると、同じように脳の血管が詰まったり、心臓の方も何かしら影響が出かねないからな」



 薫は、ダニエラに言う。

 ダニエラは、顎に手を当て考える。



「あー、一緒に来いとか言っても行かんからな」

「あら? 分かりました?」

「何となく、先に釘刺しとこうと思うてな。それに、人を見下したり、自分たちの利権を突き詰める奴らは、大嫌いやからな」



 二人共、笑顔でそのような事を言う。

 アリシアは、ハラハラしながら見る。

 そして、アリシアは早くこの街から出たいと思うのであった。

 ハッキリ言って胃に来るのである。

 先程から、この会話が続くだけで、お腹がキューッとしていた。



「あと、リハビリをちゃんと毎日続ければ、しびれは取れるんやから、欠かさずするんやで」

「ええ、わかりました」



 薫は、そう言って街に出る。

 これ以上あそこに居ると、面倒事が増えそうと思うからだ。

 ダニエラに伝える事は伝えた、

 この街も、あとは回復に向かうだろうと思う。

 薫は現在、目眩や頭痛はするが、動きまわるのに支障はない。

 アリシアが、横で支えながら歩く。



「薫様、どうしましょう?」

「そうやな。若干、迷宮に入る探求者の数がちょっと危ないかもな」

「では、薫様が入るのですか?」

「まさか、アリシア連れて迷宮なんて言ったら危ないやん」

「だ、大丈夫ですよ! 私も戦えます。薫様と今回パーティーを組んでいましたし。そのおかげもあって、またレベルが上がりました」

「そのうち、俺より強くなったりしてな」

「か、薫様を守れるように頑張りますよ!」

「あははは、まだ、俺に守られてくれんかなぁ」

「え、えっと、は、はい。もうちょっとだけ、あ、甘えちゃいます。デレデレ」



 楽しく会話をしていると、ワトラがこちらに走ってやってきた。



「あー、薫! 起きたんだ」

「ワトラ、昨日はご苦労さん」

「ま、まぁね。出来る事をしたまでだよ」

「そんな偉い子には、これを授けよう」



 薫は、ワトラの頭の上にポンと5cmくらいの分厚い本を乗っける。

 ワトラは、何かと思いその本を取り中身を見ると。



「え?!! ちょ、ちょっと、薫! これって」

「頑張ったご褒美や。ワトラに渡そうと思っとったんや」

「も、貰えないよ! これ、この街を襲った病気の薬の作り方と病原の見つけ方、それに新しい魔法も載ってるんだけど! これの価値わかってるのか?!!」

「え?! 薫様! 私も見たいです!」




 ワトラは、飛び上がるほどびっくりする。

 薫が、ビスタ島で調べあげていたことのほぼ全てが書かれてある。

 しかし、そのまま渡しても、理解できない部分があると思ったので、改変してわかりやすく簡単にされている。

 アリシアは、「ワトラにだけはずるい」などと言いながら、薫の白衣をグイグイ引っ張る。

 あとで、教えるんだけどなと思いながら、薫はアリシアの頭を、こねくり回しながら落ち着かせる。



「これから、研究したいんやろ?」

「そ、それはそうだけど……」

「その基盤を作って欲しいからな。この騒ぎが終わってビスタ島に帰ったら、ダルクさんに言って貰えば話は勝手に進んでいくと思う。それは、ワトラの地位を約束してくれる。出資もダニエラがしてくれるみたいやし。後ろ盾は、バッド達が所属してる【蒼き聖獣】にでも入るといいんやないか?」

「えー! バッド達の所って【蒼き聖獣】なの!」

「らしいで。やから、下手に襲ってこんやろうと思うしな。邪魔されとうないやろ?」

「うう、で、でもいいのか? 僕にこんなの渡して……」

「バッド達が、信用してるみたいやし。それに、俺も話して思ったのは、ワトラやったらええかなって思ったんや。見る目は、悪く無いと思っとるんやけど」



 そう言って、薫は意地の悪い顔をする。



「ぜ、絶対。薫をびっくりさせるような研究成果をあげるからな! こ、これは貸しってことにしといて」

「おう、期待しとるで。それに、そう言う気持ちがあれば、仲間もどんどん増えると思うしな」

「僕と同じような考えの人って居るのかな……」

「居るやろ。俺もその一人なんやけどな」



 ちょっと嬉しそうにワトラは頷く。

 そのやり取りを見て、羨ましそうに見つめるアリシア。

 しかし、終始こねくり回され、顔は蕩けていた。

 その後は、薫達と一緒に治療を行っていく。

 早めに、探求者達の回復を優先させた。

 現在も、ダニエラの部下が頑張ってる状況で、回しているかもしれないからだ。

 その交代要員が居ないといけない。

 なので、探求者から治療していく。

 大体の治療が終わったのは、日が傾きだした頃であった。

 薫は、範囲系で回復を使わなかったのが時間に出ている。

 薫達は、一旦ダニエラ達の居る宿屋へ帰って、遅めの昼ご飯でも食べるかなと思っていた。

 そんな時だった。

 空中を凄まじいスピードで飛ぶワイバーンが現れた。

 そのワイバーンは、ダニエラの居る宿屋の前に着地する。

 ダニエラが、それに気付き宿屋から出てくる。



「あら、お帰りなさい」

「グルルルルルゥウ」



 ダニエラに頬ずりをするワイバーン。

 そして、ワイバーンは預かり物を入れるポシェットをダニエラに渡す。

 ダニエラは、そのポシェットから正方形の形をした箱を取り出す。



「ちゃんと動いたみたいね。あの老害さん。『小さな箱庭リトルガーデン』をちゃんと使ってくれたみたい」



 そう言って、ダニエラがその箱に魔力を注ぐと一瞬にして開放される。

 部隊兵100人が宿屋の前に整列しているのだ。



「「「「「ダニエラ様、応援に駆けつけました」」」」」



 全員が綺麗にハモリ、ダニエラに礼をする。



「よく来てくれました。これから命を出します。ファルシスとファルグリッドに別れて、町の住民の回復及び、迷宮から魔物が湧かないように動きなさい」

「は! 仰せのままに……」



 一歩前に出て、跪く一人の女性。

 黒髪に青い目、ボブヘアの小さな女の子。

 服装は、周りの兵より高貴な神官服を着ている。

 エストックを腰に下げている。



「ダニエラ様、髪は降ろされたほうが可愛いですね」

「無駄口はいいです。プリム……あなたは隊長なのですから、もう少し言葉遣いをどうにかしなさい」

「えへへ、はーい」



 無邪気に笑うプリム。

 部隊の方を振り返ると闘気のような物を纏わせ、二つの部隊に分かれさす。

 ランドグリフもワイバーンが戻ってきたのを見て、駆けつける。



「遅いよ。ランドグリフ副隊長」

「プリム隊長……」

「ランドグリフ副隊長は、今からこの50人の部隊をファルグリッドへ向けて移動ね」

「分かりました」



 ランドグリフは、無駄口一つ叩かず、50人に命を飛ばし移動を開始する。

 移動中に、現在のファルグリッドの状況を皆に伝達するのであった。

 ファルシスからファルグリッドまで馬で、約1時間半の距離だ。

 魔力強化をして走った方が早いので、皆足のみを強化し移動する。



「しっかし、凄いね。街二つ、昨日のうちに治療し終わるなんてね」



 ランドグリフの伝達の情報がプリムにも入っていた。

 ニコニコした表情でそう言うのであった。



「ダニエラ様、こちらは現在何が残ってます?」



 プリムは、そう言ってダニエラを見る。



「そうですね。そちらに居る、薫さん達に聞かれたほうが早いと思います」

「かおる?」



 そう言って、ダニエラは薫達が居る方を指を指し言う。

 プリムは振り返り、薫を発見する。



「へぇ、あんたがこの病を治した立役者? カオルって言ったっけ?」



 そう言いながら薫に近づいてくる。

 なんとも言えない。

 ニコニコしているのに、全くと言っていいほど、そのように感じないのだ。

 寧ろ、威嚇しているのかと間違えるくらいだ。



「ああ、そうや。ほんで? あんたは誰なん?」

「申し遅れました。私は、プリム。ダニエラ様の親衛隊隊長です。こんなんですが一応一番強いんですよ」



 そう言って薫を見てニコニコしていた。

 何故だろう。

 非常にムカつくのだが。

 そんな事を思いながら薫も笑顔で返す。



「そうなんや。じゃあ、後は任せてもええかな」

「何を仰ってるんですか……色々手伝って頂きますよ」

「ん? もう十分仕事は果たしたつもりやけど」

「そっちではなく。薬ですよ薬。ダニエラ様に調合方法を献上して下さい。あなたが持っていても、宝の持ち腐れですからね。わかるでしょ? 地位もないようなそこら辺に居る治療師と変わらない人間が持つものではないのです」



 表情一つ変えず、そう言うプリム。

 それが、当たり前のような言い方なのである。

 ダニエラは、頭を抱える。

 プリムの悪い癖が出ている。

 このような性格ゆえに、今回の視察は副隊長のランドグリフが選抜されたのだ。

 主人を思う良き隊長なのだが、度が過ぎるのであった。

 それに加えて、強いがゆえに、そのように立ち振舞が許されている。

 ダニエラは、薫になんと言って、謝ろうかと思うのであった。

 だが、それは一瞬で解決した。



「プリムさんでしたっけ? 薫様にそのような事を言う人は、いくらダニエラさんの護衛隊長さんでも許せません!」

「え? ホントのことでしょ? だって、私達よりも下の人間が……あ! あなたも入ってますよ? このような大勢を治しをしても、後悔するだけですよ。だから、ダニエラ様が有効に使って下さるんですよ。ほら、さっさと渡して……」



 ニコニコしていたプリムの表情が歪む。

 アリシアの許せない部分に触れる。

 アリシアは、プリムを睨みつける。

 薫様を侮辱するな! と言った感情だけでの強烈な威圧をぶつける。

 制御が甘い為、周りにも少し影響する。

 プリムは、尻もちを付き震え上がるのであった。

 回りにいた部隊の者も、少なからず気絶したりする者もいた。

 ダニエラも驚く。

 薫の後に隠れたりしていたアリシアが、このような潜在能力を持っていたとは、思っても見なかった。



「訂正して下さい……薫様は……薫様は……」

「はい、ストップ」

「はふ~」



 薫は、アリシアをそっと止め、威圧を解除させる。

 もう一度、こねくり回しながら、プリムに言う。



「すまんなぁ。ちょっとあんたは、言葉を選んだほうがええし、自身が強いと思って相手の力量も測らんかったんか? アリシアは、お前よりも格上や。喧嘩売るんなら、それくらい把握してから売った方がええで」

「……」

「それと、俺もお前よりも上や。さっきから聞いとったら、よくペラペラと舌の回る餓鬼やな。自分らの利権しか考えとらん奴らに、教える事はなんもないわ」



 そう言って薫は、瞬間的にプリムの意識を刈り取ってしまった。

 瞬間的だが、アリシアよりも、かなりでかい魔力をぶち当てている。

 化物を見るかのように皆、薫たちを見る。



「はぁ……まさか最後の最後で、こんな変なん来るとは思わんかったわ」

「すいまふぇん。かぉりゅさまぁ……」



 頬をこねていた為、呂律の回らない言葉になる。



「ええよ。かなり、俺も我慢しとったし。すっきりしたわ。我慢は毒や」

「そ、そうですか?」



 薫とアリシアは、そのような会話をする。



「ダニエラさん、これやからそっちには、行きたくないねん」

「……」



 返す言葉もないといった感じであった。

 ダニエラは、一礼してから威圧で無事であった者に、治療をするように指示を出す。

 薫を引き込む事は叶わないと思うのであった。

 部下の仕出かした事とはいえ、薫が嫌いと言っていた行動をとっている。

 これは、どうしようもない事実である。

 薫との繋がりが無くなるという損害のデカさに、元気もなくなり、俯いてしまうダニエラ。

 薫は、頭を掻きながら。



「ダニエラさん、それじゃあ、ワトラの事よろしく頼むで」

「え?」

「言うとっやろ? 研究費出してくれるって」

「は、はい。え?」

「ワトラは、俺達を良くしてくれた所で、治療師するんや。ちゃんと面倒見たってや」



 そう言って、手をひらひらと振るのであった。

 薫は、ダニエラという話のわかるエクリクスの人材は、もっと欲しいと思うのであった。

 持ちつ持たれつかなと思いながら、そのような行動を取った。

 ワトラを通じて、まだ薫との繋がりがあると思わせるのであった。

 ダニエラは、笑顔で「はい」と言うのであった。

 その後は、ダニエラに緊急用として、ワトラが持っていた薬を渡す。

 そして、薫達は馬を借り、ビスタ島へと戻るのであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 暗闇の中、水晶球に映る薫達を眺める者が居た。



「クソ……。デタラメな威圧をぶち込んできやがって……老体にはきつすぎる。闇で操る傀儡が受けるダメージは、こちらが被るからいよいよイカンな。しかし、何故ダニエラは気付かんのだ? あの女はオルビスの娘のはずだが。それに、となりにいる男が今回の薬を作った者か……。待てよ……あいつが例のカオル・アシヤでは? ひっひっひっひっひ。これは、おもしろい。気付いているのは、ワシだけという事か」



 ニッと、皺くちゃな顔を歪め笑う男。



「さて、カオルとか言う男の能力……ワシも欲しくなったぞ。これさえあれば、十賢人の中でも突出する存在になれるぞ……。ひっひっひっひっひ」



 そう言って笑っているともう一度、今度は薫の威圧が飛んでくる。

 傀儡は、人と認識しなかったのだろう。

 凄まじい威圧は、一瞬にして闇へと誘われたのであった。

 その男は、気味の悪い顔のまま気を失うのであった。


読んで下さった方、感想まで書いて下さった方、Twitterの方でも絡んで下さった方、本当に有難うございます。

間に合いませんでした。

ちょっと遅れてしまったorz

えー、家の方のバタバタが、ようやく落ち着きましたので、これからは普通に投稿してから、一週間以内で投稿できます。

感想などでの誤字脱字のコメント有難うございます。

直す時間が取れ次第、一気に直していきます。

どの行数か、探すのだけでもかなり時間罹りますので……

それと、今回の話の手術なのですが、資料が少なすぎました。

ツッコミはなしでお願いします。

マジで、どこに手順とか転がってるんですかねぇ……

では、次回も楽しく書いていきたいと思います。

宜しければ次回もお暇な時に見てください。

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