新たな仲間と感染拡大
ブルグ滞在三日目、早朝からダルク達は、ワトラのいる小屋へ向かっていた。
「あー、絶対にカッとしない。絶対にカッとしないぞ!」
「バッド、五月蝿いわよ」
「う、すまねぇ。言い聞かせとかないと、どうも言いそうでよぉ」
「バッドは、脳筋だからなぁ〜」
「カール、お前にだけは言われたくねーよ」
「な、なんでだよ!」
そんな会話をしながら、道を歩く。
歩いてる最中に何人もの冒険者に会う。
「ちょっと多くねぇか?」
「はい、何かあったのでしょうか?」
「ちょっと聞いてくるから待っとけ」
そう言ってカールが、徒歩で歩く冒険者に、話を聞きに行くのであった。
少しして、カールはもの凄い勢いで帰ってくる。
息を切らせ、ダルク達に先程、冒険者から聞いた内容を話す。
ファルグリッドとファルシスがした事をだ。
「なんて無茶な事をしてるんですか……」
「頭逝ってるんじゃないの?」
「いや、あの街は無法地帯だ。それでいて、統率も取れてる。もしかしたらだが、何か企んでる可能性が高いな」
「何かってなんだ?」
「それは、知らん。だが、そんな事をして住民の鬱憤が、溜まりに溜まってるのなら、とうの昔にあの街は崩壊してるって事だよ。しないって事は、それだけの価値をキディッシュが出してるって事だろ」
「そういや、あそこって人身売買普通にやってたよな……」
「奴隷商人を通さずするのは、罪になるはずよ」
「そこら辺も、キディッシュが牛耳ってるから、奴の匙加減で無かった事にできるはずだ」
「げっ! 私らそんな所に居て、よく無事だったわよね」
「そりゃ、俺らに【蒼き聖獣】の後ろ盾があるからに決まってんだろ」
「あー、マスターの後ろ盾って、こんなにも頼もしいのね」
「流石に、キディッシュも表だって行動はしないだろ。だから、今まで陰湿な行動だったんだからな」
「Sランクってやっぱ凄いんだなぁ。確かに、一回しばかれた事あるけど、死ぬ一歩前までいったし」
カールは笑いながらそう言う。
ダルク達は、こいつ何やってんだと思うのである。
「Sランクは、普通に考えて化け物しかいないからな、一度怒らせたら、都市一個ぶっ飛ぶって言われてるんだぜ。聞いた話だがな」
「何それめっちゃ見たいぞ!」
「カールさんやめときなさい。あれは、そう言った興味本位で見るものじゃないよ」
「ダルクさん見た事あんのかよ!」
「いや……どちらかと言うと、巻き込まれただけですね。偶々、居合わせたんです」
「「ダルクさん災難だな」」
バッドとティストは、ハンカチを目に当て言うのである。
「ど、どんな感じだったんですか?」
興味津々に聞いてくるカールに簡単に説明した。
Sランク同士の対決。
【時の旅団】副団長のディアラと【炎帝】のユグウィだった。
そうなった背景は、【時の旅団】の団長に、ユグウィが色仕掛けで迫ったとの言いがかりから始まり、巨大都市が一瞬で蒸発したとの事。
住民は、全員ディアラのスキルにより無傷であったが、住む所や食料は、全てが蒸発して無くなり、巨大都市は大損害をうけた。
後始末は、全てユグウィに任せ、ディアラはさっさとトンズラを図ったという。
「え? 一瞬ですか? 炎帝が居た巨大都市って、今のグランパレスの1.5倍の大きさですよ!」
「一瞬でしたよ。寝床が消し炭になりましたから。まだ、若かったからやり直せましたけど、あんな状況もう二度とごめんですよ」
思い出しただけで、寒気がするといった感じで言う。
聞いてただけで、人の皮を被った化け物と分かるほどだ。
「さあ、無駄話はそのくらいにして、さっさとワトラの所に行くわよ」
「そうでしたね。嫌な雲行きになってきましたし、早めに行きましょう」
そう言って、ワトラの小屋を目指す。
歩いていると、草むらに見覚えのある格好の者がいた。
「あ、ワトラ発見」
ティストがそう言うとビクっと驚き反応する。
相変わらず、汚れた格好で薬草を摘んでいた。
「へー、このちっこいのがワトラって子か?」
「お前も居ただろ……」
「気分悪かったし、覚えてねーや」
そんな会話をしているとワトラはそっぽを向く。
「何しに来たんだよ! 迷惑なんだよ……。こんな朝早くから来て!」
「「「……」」」
ワトラのその言葉に、バッドは無理そうだと思うのであった。
ティストも、バッドと同じく考えていた。
ダルクも、これ以上深く入ると、却って傷付けてしまう気がした。
それに、自身の厄介ごとに巻き込むのも、心が苦しくなった。
「すいませんでした。早朝から伺って。もうここには来ませんので……色々傷付けてしまい、本当にすいませんでした」
「ぁ……」
笑顔でそう言い頭を下げる。
ワトラは、胸に痛みが走る。
こんな事を言いたかったんじゃない。
一緒に行きたい。
只、それだけを言う事すら出来ない自分に嫌気がさす。
もしも、今日また此処にダルク達が来たら、一緒に行きたいと言いたかった。
憎まれ口を言うために居るんじゃないのにと。
ダルク達は、引き返そうとした時、カールがワトラに近寄る。
また、何をするつもりだと思いながら、バッドが止めようとした瞬間。
「お前、本当は行きたいんじゃねーの」
「な、何言ってるんだ。僕は、お前らと一緒になんか行きたくない」
「本当にそう思ってんのか? 俺には、そんな風に感じねーんだけどよ」
「!!!?」
座り込んでいるワトラの正面に回り込み、カールも座る。
カールの言葉が理解できない三人。
突拍子も無い行動をよくとるが、今回はまた特別に突拍子も無い行動だった。
「お前に何がわかるんだよ!」
「さっぱりわからん。マジ難しいの勘弁」
「なら、放っておけよ!」
「それはできない話なんだよなぁ」
「なんでだよ! あいつらに言われたから、そんな事言ってんだろ!」
「全っ然、これっぽっちも考えてないから安心しやがれ。俺、馬鹿だし、そんな事に回す脳みそ無いからな」
そう言って笑うカール。
カールのそんな姿を見て、ダルク達は見守る。
ワトラは、今までに無いタイプの人物にパニックになる。
「お前、おかしいんじゃねーの!」
「素直になれよ。楽になると思うぞ」
「僕は、今思ってることを言ってるだけだ!」
「本当は行きたいくせに、素直になれなくて、こんなこと言ってるやつがよく言うな……」
カッと顔を赤くし、ワトラは手が出てしまった。
カールの頬にクリーンヒットする。
然し、全く動じないカール。
叩いた手が痛い。
素の状態の全く強化してないビンタは、胸の痛みと同じ感じがした。
「じゃあ、お前は俺らが帰っても後悔しないか?」
「……」
「こんな、悪態ついて本心も言わないで別れて……本当に後悔しないんだな?」
「……」
「返事がないってことは、後悔するってことになるぞ? いいのか?」
ニッと笑うカール。
そのまま、ワトラの頬をつねり、軽く引っ張る。
「な、なにぃすんだよー」
「え? なんとなくだよ。ほら、さっさと自分の口で言えよ。でないと、連れて行ってやんねーぞ」
「!!」
「これが最後だ。よく考えて答えろよ。付いて来るか。それともここに残って、自分の殻に閉じこもって人生無駄にするのどっちがいいんだ?」
「…………たい」
「聞こえないぞ。ハッキリ言え~」
「いき……たい」
「はい! 元気よく~!」
「行きたいって言ってんだよ! バカ犬!」
「ふぼらばぁー……」
ワトラがそう言って顔を真赤にさせ、今度は強化したビンタがカールの頬を撃ちぬく。
そのまま、近くの木にぶち当たる。
そんな、いつものカールにダルク達は笑う。
衝突したカールは、ムクリと立ち上がり、ダルク達にサムズアップするのであった。
その後は、ダルク達に「自分の口で言えるよな」とカールに言われ、ムスッとした顔で「言えるし、子供扱いすんな」というのであった。
昨日の事と今日の事を謝り、今にも泣きそうな顔で、ダルクに頭を下げ、一緒に行ってもいいか聞く。
ダルクは、笑顔でぜひお願いしますというのであった。
ワトラは、荷物の整理をしておいでとカールから言われ、相変わらず憎まれ口を叩きながら、小屋へと向かっていった。
「しっかし、いつものカールじゃなかったように見えたな」
「ほんと、男前に見えたわ。目が腐ってるみたい私」
「ひでー言い草だな……軽くショックをうけちまうぞ!」
「でも、なんでカールさんは、ワトラさんが行きたがってる事がわかったんですか?」
「そうよ。なんでわかったの? あんた特殊スキルでもあんの?」
「ねーよ。あったらとっくにいい女捕まえて、ウッハウハになってるに決まってんだろ?」
「じゃあ、特殊なスキルでもないのかよ」
「ないない。あったらこえーじゃん。皆、気が付かなかったのかよ……」
「「「めんぼくない」」」
息ピッタリに頭を掻く三人。
それを見て、「あー、ほんとに分からなかったのか」と思うカール。
「俺には、弟がいるんだよ。昔の性格っていうかさ。ワトラがとってる感じがすっげー似てたんだよ」
「「「あー、なるほど」」」
カールは、笑いながら説明する。
言ってる事とやってる事が矛盾してる。
行動ひとつとっても、言葉を一つとってもそうだ。
本音を言えない。
素直になれない。
本人を目の前にしたら、つい悪態をついたり、傷つけるような言葉を使う。
あげく、図星を突かれると手が出てしまうとのこと。
背中を押してあげないと、中々前に出れないところなど。
ぺらぺらと懐しそうな表情で話をするカール。
「面倒くさい弟だったんだな」
「もしかしたら、カールより面倒いかもね」
そう言ってバッドとティストは笑うのだが、カールの雰囲気が違うことに気付き、それ以上突くのをやめる。
「もう死んじまったからさぁ。気付いてやれねーんだわ」
「な、なんかごめん」
「無神経だった。すまん」
「いいって、昔の話だしな。もう気にしてねーし」
そう言いながら、カールは「ワトラおせーぞ」や「このまま置いてったら、どんな表情するかな?」など、ちょっとアレな発言をするのであった。
整理も済んだのか、駆け足で戻ってくるワトラ。
服装は、変わらずだが、少し綺麗な白衣とズボンに変わっていた。
裾は引きずったままだが……。
カールの横を歩き、ムスッとした表情になる。
「なんで、ムスッとしてんだよ」
「さっきの言葉少し聞こえた……」
「お、置いていったりしねーし、な、なんだよ。子供かよ!」
「う、うるさい! 駄犬のくせに! そっちだって子供みたいなことしやがって」
何やら賑やかになったなと思いながら、カールとワトラを見る三人。
兄弟喧嘩をしているようで、微笑ましいなと思うのであった。
そのまま、バッド達は山を降り、一旦ブルグへと向う。
ラズに挨拶をするためだ。
すると、心配そうにブルグの門の前でキョロキョロしているラズを発見する。
昨日、このくらいの時間に行くと言っていたから、心配して見に来たのだろう。
ダルクは、クスリと笑い手を振るのであった。
「ダルクさん、うまくいったんですね」
「ええ、なんとか無事良い報告ができそうです」
「ほんとに良かったです。ほんとに……」
そう言いながら、涙を流すのであった。
ダルクは、ラズの頭を撫でながら、「心配かけました」と言う。
ワトラもラズに深々と頭を下げる。
「ラズ様、今まですいませんでした。迷惑も一杯かけてしまって……」
「全然いいですよ。あなたが新たな道に進むのなら、私は応援します。それに、私の尊敬するダルク様の下なのですから心配なさそうです」
「はい、期待に添えるように頑張ります」
「それと、あの家は残しておきます。帰る場所があるということだけ、覚えておいて下さいね」
「は、はい。あ、ありがとうございます」
「では、私達は急ぎますので、これで失礼しますね」
「頑張ってください。それと、また来て下さいね~」
そう言ってラズは、両手を振るのであった。
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馬車に乗り込み、走らせる。
片道六時間の旅だ。
小さめの馬車に、五人乗っているため若干窮屈なのだ。
少し、馬車で走った頃。
「うーん」
「やっぱ、あれだよな」
「そうね」
「失礼ですけど、しかたないですかねぇ……」
「?」
ワトラを除く四人は、一つの問題に直面していた。
これは、長く旅をするには、かなり深刻なことなのだ。
意を決し、誰が言葉にするかを目線で探りあう。
最終的にカールに決定する。
頭を掻きながらカールは、ワトラの肩を叩く。
「非常に言いにくいんだが、お前何時風呂入った?」
「んー、最後に水浴びしたのは4日前かな?」
「だからだよー、もっそい臭うんだよー!」
「ちょ、カールあんた傷つけないように、配慮した言葉を選びなさいよ!」
「!!!!」
カーっと顔を赤くさせるワトラ。
もう帰ると言った勢いで、馬車から飛び出そうとするのをカールが押さえつけるのであった。
小さな身体のため簡単に押さえつけられ、身動きがとれなくなる。
うーっとカールに威嚇する。
すぐ近くにブルグから流れる川がある。
それを知っていた為、そこで一旦ワトラの汚れを洗い流す事になった。
ワトラは、それを聞き「いやだー!」と言いながら暴れる。
カールは、面倒くさくなった為、ロープでささっと縛り上げ、口も塞ぐのであった。
川の近くに着くと、ティストがカールにブラシとタオル、花香剤を投げる。
「弟みたいなもんでしょ? ファイトー」
「お前に一番なついてるからな、俺だとまた喧嘩になっちまうし。ついでに、そいつの根性も洗い流して綺麗にしてきてくれ」
「私も、馬車の番をしておきますので。カールさんよろしくお願いします」
三人共息ぴったりでちょっと腹が立つカール。
また、自分に厄介事を押し付けやがってと思いながら、ワトラをヒョイッと持ち川に向う。
道から川の方へ抜ける。
大自然の中に大きな川が広がる。
水は、透き通り底の石がよく見える。
水深は、80cmくらいだろうか。
流れも穏やかで雰囲気もいい。
「おお、すんげー綺麗だな! うおおお、テンション上がってきたー!」
「んー! んー!」
「お? お前もテンション上がってんのか?」
ワトラは、首をブンブン横に振るが、まったくそんな事を見ていないカール。
そのまま、ワトラを川に投げたら、さすがに怒るかななどと考えていた。
とりあえず、ブラシで髪のほつれを梳かすかと思い、岩の上に座りワトラを膝の上に乗っける。
相変わらず、うーうー唸っている。
カールは、優しく毛先から梳かしていく。
「なんか、弟の髪梳かしてるみて~だ」
「……」
「まぁ、お前と違ってクセ毛じゃなかったけどな」
そう言うとまた騒ぎ出す。
完全に誂って言っているカール。
大きな声で楽しそうに笑う。
その大きな笑い声は、バッド達の所まで届いていた。
三人は、顔を合わせ笑顔になるのであった。
「よーし、なかなか手強かったな」
カールは、ワトラの髪の毛を綺麗に梳かしきった。
途中からワトラは、頭皮をブラシで掻かれて、気持ちよさそうにしていた。
「そんじゃあ、お楽しみの水浴びとしようか!」
「!!!! んんーーー!」
「なんだよ~。こんなに綺麗なんだから俺も入ってやるよ」
そうじゃないといった雰囲気を醸し出すが、まったく気づかないカール。
寧ろ、気付いてて、やってるようにも見える。
嫌がると、ついついそこを突きたくなるものなのだ。
ロープを解き、服を掴もうとすると、ワトラは逃げるように走りだした。
「た、助けてー!」
「おま、どんだけ身体洗うの嫌いなんだよ!」
「そうじゃない、こっちくんな!」
「断る!」
一瞬でワトラは、捕まりそのままカールは、白衣とズボンをひっぺがし、白い下着上下だけになったワトラを、川へと放り投げるのであった。
「行ってこーい!」
「うわぁあああああ」
ザバーンといい音と、飛沫を上げながら着水するワトラ。
ちょっと強引だったかな? などと思っていたら、ワトラは向こう岸まで、頑張ってカールから逃げようとする。
これは、遊んで欲しいのかな? などとカールは思い、花香剤を手に持ちワトラを追いかける。
筋力の違いもあり、あっさり追いつかれる。
ワトラは、前かがみになり、丸まりながら、口をパクパクさせ、震えるのであった。
「ほれ、いい加減観念しろ!」
「自分でできるから、お前はあっち行ってろ!」
「はぁ、たくほんとに可愛げのねーな」
「う、うるさいなぁ! いいだろ」
プイッとそっぽを向く。
そんなワトラの頭に花香剤をタラリと垂らす。
「もー! お前は、何がしたいんだよ!」
「遊びたいだけかな? いや、スキンシップ的な何かじゃねーの? そうじゃね?」
「僕に聞くなよ!」
「ちんたらしてるから、手伝ってやってるんだよ! たぶん。あー、これがラズちゃんだったら、誠心誠意心を込めて、全身隈なく洗ってあげるのに」
「ちっ……どうせ僕なんて……」
「てめぇ! 舌打ちしやがったな! アワアワの刑にしてやる!」
カールは、そう言うと頭をワシャワシャと洗っていく。
「どうだ? 気持ちいいだろ?」
「べ、別に……」
「こういう時は、素直に言うもんだろ」
「まぁまぁ」
「可愛くねーな、俺の弟のほうが、もっと素直だったぞ。多分だけど」
「うっさい。駄犬! じゃあ、お前の弟にしてやればいいだろ!」
「……もう死んじまったからなぁ。できねーんだわ」
「!!……」
「おいおい、黙るなよ。物凄く気まずい雰囲気になったみて~じゃねーかよ」
「お、お前がしたんだろ……」
「あははは、そうだったか? で? どうだ? 気持ちいいんだろ?」
「全然気持ちよくない……」
そう言いながらも、尻尾がひょこひょこ動いているところを見ると、カールも嬉しくなるのであった。
「ホラ下着も脱げ、洗えないだろ」
「こ、こら触んな!」
そう言って、下着のシャツに手をかけると、ほんのり柔らかい弾力のある物が、掌で感じ取れた。
「え? この感触はおっp……」
「あ、あ、いやあああああああああああああ」
「ぷげろべえええええええ」
カールは、水面を跳ねながら飛んで行く。
豪快なビンタに一瞬意識が遠のきかけた。
何とか持ちこたえ、立ち上がるカール。
「お、お前、女だったのかよー!」
「男だって言った覚え無い!」
「僕、僕言ってるからてっきり男かと……」
「勝手にそう思ってただけだろ!」
「それにあの感触は、お前意外とあるな」
「サイテーだなお前! 何、鼻血出してんだよ! こっちくんな~ケダモノ~」
わーわー騒いでる声にダルク達は、元気だね~などと言って、のんびりお茶を飲んでいるのであった。
その後、カールはワトラと少し距離をおき、ティストの下へ行き、着ない服ないかと言ったら、二発ほど打たれた。
事情を話より見て貰ったほうが早いと思い、ワトラの下に連れて行くと「うっそーん」と言って驚いていた。
ここから、ティストは、可愛くしてバッドとダルクを、驚かそう作戦という事になり、アイテムボックスから、可愛らしいローブを取り出し、クセ毛を綺麗に梳かして乾かす。
ツインテールにして前髪をピンで止めて、今まで見えなかった目を出す。
出来上がるまで、カールも見ていなかった。
ティストが、「出来たわよ! 見てみなさい」と言ってきたので振り返る。
「カール、これは原石だわ!」
「……」
「あ、あれ? カール? もしもーし」
ワトラを見た瞬間、カールは目が点になる。
まず、心の中で思ったことは、この美少女は誰? であった。
カールは、ワトラの前に跪き手をとる。
「とりあえず、俺と結婚してくれ! 子供何人欲しい? 俺、三人はほしいんだよね」
「……」
ワトラは、顔を真っ赤にさせ、押し黙ってしまった。
おちゃらけていたカールが、凛々しい顔でいきなりプロポーズをしてきた。
今まで、会った事のないタイプのカールに、どう対処すればいいかわからないのであった。
「うん、いいんじゃない? あんたら、付き合っちゃいなさいよ」
「え、えええええ! ぼ、僕は、そんな不健全なことできません」
「どんだけ、経験ないかよくわかったわ……こういうのを純粋っていうのかしら?」
その後は、ダルク達と合流すると、二人は持っていたカップを地面にストーンと落とす、いいリアクションをとるのであった。
ティストは、面白い顔を見て大笑いするのである。
ワトラは、気まずそうにオドオドするのであった。
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昼間に伸びをし、肩を揉む薫。
「やばい、机に向かいすぎた。めっちゃ肩痛いわぁ。それに、ダルクさん達も帰ってくるんが、ぎりぎりになりそうやな」
最悪の事態にならなければいいがと思いながら首を回す。
「か、薫様。か、肩をお、お揉みしましょうか?」
「ええんか? じゃあ、お言葉に甘えようかな」
そう言って薫は、ベッドにうつ伏せに突っ伏する。
ベッドに身体が沈み込む。
ずっとペンを走らせていたせいか、完全に肩こり状態になっていた。
うつ伏せの薫の上に馬乗りになるアリシア。
「で、では、ごくり」
「……」
「ど、どうでしょうか……」
「なんて言ってええんやろうか……なんか触り方がエロい」
「な、な、何言ってるんですか! やましいことなど考えておりません。断じてないのです!」
慌てふためくアリシアにくすりと笑うのであった。
「冗談やて、気持ちええから続けてくれるとありがたいわ」
「はい、任せて下さい」
アリシアが肩を揉んでいると、薫はうとうとし始める。
心地よい力加減と、手の温もりで眠気が襲うのである。
少しして、薫は寝息を立てるのであった。
ここ数日、完全に働き過ぎていた為、疲れが出たのだ。
ベッドで寝る事が殆どなかった。
そのため、少しでも休んでほしいと思い、アリシアは今回の作戦に出たのである。
「少しでもいいので休んで下さい。夕方までゆっくりされれば、少しは変わると思います」
「「きゅっきゅー」」
アリシアは、そうつぶやきゆっくり身体を薫に重ねる。
ちょっとだけ充電などと言いながら、少しの間その状態でいるのであった。
「充電完了なのです!」
そう言うと薫から離れる。
ゆっくりと、起こさないように慎重にである。
「「きゅ?」」
「駄目ですよ。薫様は疲れてるんですから、乗ったらめ! です」
「「きゅー」」
薫の頭によじ登ろうとするピンクラピィに、両手でペケマークをしてやめさせる。
ちょっと、ムスッとした表情になるピンクラビィを、優しく抱えて自分の頭の上に乗っける。
「夕方まで、ここで我慢して下さい」
「「きゅーっきゅー!」」
ぽよんぽよんと頭の上で跳ねるピンクラビィ。
ちょっとアリシアの表情が緩むのであった。
そのまま、今日しなければならない仕事を済ませていく。
薫が起きて、無駄な仕事が無いように、一つずつチェックしていきながらである。
日が沈む頃に薫は目を覚ます。
目を擦りながら辺りを見回し、現在の時刻を把握する。
「あかん……」
そう言うと、私服の上に白衣を羽織り、そのまま治療スペースへと早足で向かう。
すると、治療を終えたアリシアが、ニッコリとこちらを見て、微笑んでいた。
「すまん、仕事は……終わってるみたいやな」
「はい、全部完璧に終わらせてるのですよ」
「「きゅーっきゅーー!」」
えっへんといった感じで、胸を張るアリシア。
ピンクラビィも同じような感じで、撫でてもいいぞといった感じであった。
薫は微笑み、アリシアの頭を撫でる。
「助かったわ。全部一人でやったんか?」
「はい、出来る女なのですよ!」
えへへと笑いながら、薫に撫でられ嬉しそうにする。
ピンクラビィは、羨ましそうにそれを見つめている。
スーッと体が青白く光り始めたので、それを制止するように撫でる。
少し遅ければ、アリシアに鍋が落下するところだった。
「「きゅ〜」」
耳をぴょこぴょこさせながら、コロコロする。
随分なついてしまったが、野生に帰れるだろうかと薫は思う。
その時は、その時で考えるかなと思いその思考を止める。
「殆ど、終わってますので後は、ゆっくり薫様のしなければいけない事をやって下さいね。チラッチラ」
「……ほんまに助かったよ。支えてくれてありがとな」
そう言うと薫は、アリシアを軽く抱きしめる。
プシュ〜っと真っ赤になるアリシア。
可愛いやつだなと思う。
アリシアはその間、くんくんと薫の匂いを嗅いでるのであった。
ちょっと残念な子になってきた。
そうしていると、カランカランと治療院の扉が開く。
「薫さん、今無事に帰r……」
「薫帰ったぞ〜って、ほーう」
「あらら〜」
「くそ、今から楽しみかよ!」
「だ、抱き合ってる……」
ダルク達の帰還である。
若干一名、知らない者がいるところを見ると、収穫ありだなと思うのであった。
「おかえり、遅かったやないか。期日まで残り2日やで」
「色々ありましてね」
「みたいやな、その子がそうか?」
「はい、ワトラさんです」
「……」
ワトラは、反射的にカールの後ろに隠れる。
ちょこんと顔を出し、薫とアリシアを見る。
「犯罪者? カールと一緒か?」
「なんで俺と一緒になんだよ! つーか、俺の後ろに隠れてないで、ちゃんと挨拶くらいしろ」
カールは、前に出ようとしないワトラを捕まえ引っ張る。
「わ、分かったから! って、ど、どさくさ紛れに何処触ってんだよ! こ、コラ! 器用に指先だけ動かすな駄犬!!」
にししと笑いながらカールは、ワトラで遊ぶ。
カール、それはセクハラだぞ。
然し、賑やかな奴が増えたなと思う。
やっと、カールから解放されたワトラは、前に出て薫に挨拶をする。
「僕は、ワトラだ。その……よ、よろしくお願いします」
「よろしくな、俺は薫や」
「宜しくですぅ! 私は、アリシアです」
三人は挨拶をする。
ワトラは薫とわかった瞬間、行動に出る。
「あ、あの……これ見てくれないか?」
ワトラは、そう言ってアイテムボックスを出し、1cm程度の紙の束を取り出し薫に渡す。
何だろうと思いパラパラめくる。
内容は、微生物に関することが、曖昧だが自分なりに調べて、まとめた物が書かれていた。
まだまだ荒いが、これをちゃんとした段階を踏んで研究すれば、微生物(細菌)などに効く薬を作る、基礎になるだろうなと思うのであった。
流し読みしていく薫。
「良い着眼点やな。ちょっとまだ荒いけどな」
「分かるのか!!?」
「まぁ、基礎やしな。細菌とか眼に見えんから、他人に説明するんは難しいやろうけど、このまま頑張れば、これで色んな特効薬ができると思うで」
パァーっと表情が明るくなる。
今まで、誰一人理解すらしてくれなかったこの論文。
然し、今目の前に理解してくれる人がいるのだ。
「せ、先生と呼んでもいいですか!」
「そういうの止めてくれ。大層なことなんてできへんから。それにむず痒いしな」
「そ、そうですか……」
ちょっと残念そうにするワトラ。
次の瞬間、ワトラは背筋の凍るような目線を感じる。
その原因は、アリシアだ。
無言の圧力。
嫉妬の塊で、全力で牽制する。
薫と専門分野でイチャイチャしたらめ! っといった感じなのだろう。
然し、薫のチョップでそれは終わる。
「あう、痛いです薫様」
チョップされた頭を摩るアリシア。
ちょっと泣きそうな表情である。
ほとんど、強化なしの素でのチョップだが、アリシアの心に響いたようだ。
「えっと、お二人の関係って」
「見りゃ分かるだろ。新婚さんだ。爆発しろ」
「おい、カール、最後に私怨が入ってたぞ」
「気のせいだって、あはははは」
「新婚って事は、結婚してるのか!」
ワトラは、びっくりしていた。
なぜ、そんなにビックリしてるのだろうと思う。
この世界なら15歳で、結婚できる筈だがと思う。
そんな事を考えていたら、カールが元気よく「今日は宴会だ」と言うのであった。
確かに、良い報告も兼ねて、みんなで騒ぐのも良いかもなと思う。
「カール、お前は飲み過ぎるなよ。でないと体悪くするで」
「おうバッチリだ。任しとけ」
そう言うと良い笑顔でサムズアップする。
これは、絶対にやらかす顔だと薫は思うのであった。
アリシアも、ワクワクした感じで、薫の服の裾を引っ張るのであった。
早速カールは、村の皆に声を掛けに治療院を後にする。
相変わらず行動力だけはある。
それから、少し時間が経つと、ぞろぞろと宿屋の前に、人が集まっていた。
調理スペースと座席がセッティングしてあり、もう既に飲みあってる奴らまでいた。
食材は、ニケの商店が大盤振る舞いしていた。
秘蔵の肉や魚が、ぽんぽんアイテムボックスから出てくるのである。
そして、酒も豊富に台の上に並べられる。
ルナとニウも参加していた。
子供を抱え、笑顔でジュースを飲んでいるのである。
皆、ワトラを見てダルクが成功して帰還したことを分かっていたからだ。
薫達も参加し、アリシアと一緒に、酒のつまみになる料理サクサク作っていく。
宿屋の人も大忙しで、料理を作るのであった。
皆、大いに楽しんだ。
そして、迷宮から帰ってきた者と交代で、酔いの回ったまま探求者達は、迷宮に入って行く。
薫は、大丈夫だろうかと思ったが、探求者達は一階層で、のんびり敵を狩るから大丈夫とサムズアップするのであった。
帰っていた者に、薫、アリシアが治療魔法を掛ける。
疲れていた表情は、一瞬で吹っ飛び、そのまま宴会に参加するのであった。
そんな中、カールがまたしてもやらかす。
テーブルの上に乗り、串焼きの肉を手に持ちつつ、酒をラッパ飲みしているのであった。
薫は、溜息を吐きながら、テーブルのお盆を投げる。
綺麗なカーブを描き、カールの後頭部にコンっとヒットて、そのままカールはテーブルから落ちるのであった。
「何しやがるんだ薫!」
「お前なぁ、この前言ったばかりやないか……酒は程々にせんと死ぬぞ」
「そんなんで死ぬわけねーだろ!」
舌を出し、まったくもって言うことを聞かない。
酒のせいか、気が大きくなり、薫に喧嘩を売るカール。
しかし、そんな中ワトラは、興味津々に薫の言うことに聞き耳を立てるのであった。
「お前の身体は、アルコールを分解しにくい体なんやから、急性アルコール中毒になりやすいんや」
「なんだよ! わけの分からん事言いやがって! 女がいる奴はいいよなぁ。余裕があるからよ~! あー、畜生、俺も可愛いおにゃのこと、毎日イチャイチャしてぇーよ」
「アホな子が、酒の力でもっとアホな子になっとるんやけど……面倒いなぁ。どうでもいいが、ちゃんとこの前渡した錠剤飲んどけよ」
「言われなくても飲むって~の! ヒィック」
完全に悪酔いしている。
バッドとティストは、関わらないように遠くでカールを見守っていた。
ちょっといい雰囲気になっていた。
薫は、カールをどうにかしてくれないかなと思うのであった。
そんな時、薫の服をクイクイと引っ張る者がいた。
ワトラである。
「その、さっき言ってた、アルコールを分解しにくい身体って、どういうことだ?」
ワトラは、酒を少し飲んでるためだろうか、頬がほんのりと赤いのだ。
薫は、簡単ではあるが説明する。
急性アルコール中毒は、身体に短時間でアルコールを大量に摂取する事で発症する中毒症状だ。
主に、アルコールは、脳を麻痺させる性質がある。
アルコールを摂取すると麻痺は、大脳編緑部から呼吸や心臓の働きを制御する脳幹部にまで進み、最終的には生命維持に関わる中枢部分までも麻痺させる。
その結果、呼吸機能や心肺機能を停止させて死に至る。
大体、血中アルコール濃度が0.4%を超えた場合、1~2時間で死にいたる。
元いた世界では、解毒薬はない。
対処法としては、輸液と利尿とを施して、アルコールを体外に排出させることしか出来ない。
しかし、この異世界には、血中アルコール濃度を下げる、無害な成分を持つ微生物が居たのだ。
薫は、それを薬として精製し、主にカールと同行するバッドと、本人のカールに渡して酒を飲んだ後、気分が悪くなったら飲めと言っていたのだ。
ポカーンとした表情で、ワトラは薫を見つめていた。
分からなかったかなと思い、もう少し分かりやすくするには、どうしたらいいかなと思うのであった。
「凄すぎる! そんな事まで知ってるあなたは凄すぎる! 天才と言ってもいいくらいだ」
小さな身体で、もっと教えてとピョンピョン跳ねるワトラ。
その背後で、目が据わっているアリシアの視線に気づいていない。
薫は、見なかったことにしようと思い視線をそらす。
ワトラの肩をガシッと掴んだアリシアは、そのまま「お話があります。ちょっと来て下さい。拒否権はないのです」と言いながら、ずるずるとワトラを引きずって、宿屋の中に行ってしまった。
ワトラは、「まだ聞きたいことが!」と言っていたが、薫は合唱してそのまま見送るのであった。
止めたら面倒なことになりそうだったので、ここは敢えてスルーするのであった。
アリシアは、宿屋の食堂までワトラを引きずって来て手を離す。
起きてる者は、殆ど人は居ない、居るのは飲み過ぎて眠っている人達であった。
自分の部屋まで帰れず、床で寝ている者が殆どだ。
「わ、ワトラさん! 薫様を誘惑するなんて酷いです!」
「え? そんなことしてないよ?」
「専門的な話をしてイチャイチャしてたじゃないですか!」
「へ? な、何か勘違いしてないかい? 僕は、そんな気ないよ」
「ふぇ?」
「だ、大体、結婚してる人にて、手を出したりなんて出来ないよ!」
あたふたとしながら、ワトラは答える。
完全に、アリシアの勘違いと、嫉妬心からくる盲目で、勝手な解釈をしていたのだから仕方がない。
恥ずかしくなり、ポンっと顔を赤くするアリシア。
ペコペコ謝るのであった。
「いいよ、謝らなくても。け、けど、凄い知識量だね。あの知識は、僕もほしいよ」
「薫様は、凄いのですよ」
「うん、さっきも駄犬が、なんでお酒を飲み過ぎたらいけないかを聞いたんだ」
「だ、駄犬? 誰でしょう??」
「か、カールだよ」
小さな声だった。
ちょっとムスッとした感じで答える。
頬が赤い。
「カールさんですか、凄くいい人ですよね」
「ど、何処がだよ! 無神経で、人の心の中をわかってるかのように、ずかずか入ってくる奴の何処が……いい人なんだよ。人の裸見るし、む、胸まで揉んでくるんだぞ! 只の駄犬だろ!」
アリシアは、ブルグで何かあったのだなと思う。
それに、小さな恋の予感がしたのであった。
何となくそんな気がした。
アリシアは、そういう所にはよく気づくのである。
自身の恋にはあれだが……。
アリシアは、他人の恋話が大好きなのだ。
薫との進展の為の参考にするのである。
「あいつは、本当にどうしようもない駄犬だ!」
ムスッとしたままそう言うのである。
その後は、ワトラともアリシアは打ち解け、ここに来るまでの話をしてくれるのである。
そんな話をしていたら、宿屋の亭主が人を担いで中に入ってくる。
「おお、アリシアちゃん丁度よかった」
アリシアとワトラは、なんだろうとクエッションマークを頭の上に出しながら話を聞く。
どんちゃん騒ぎで、テーブルから落下した数人が、怪我をしたとの事。
薫からは、自業自得やと言われ、アリシアかワトラに頼めと言われた。
仕方なく、アリシア達が入った宿屋に連れてきたのだ。
「なるほどです」
「どうしたんだ? とりあえず、見てやってくれないか?」
そう言うと、アリシアとワトラは、患者を見る。
全員、軽傷だった。
打ち身、打撲、擦り傷などで重傷な者はいなかった。
アリシアは、薫が気を利かせて、こちらに回したのかなと思う。
でなければ、普通にこのくらいの傷は、一瞬で治せてしまうからだ。
ワトラがこの島の住人と接するきっかけを作ったのだなと思う。
クスリと笑いアリシアは、患者の傷口に回復魔法を掛けるのであった。
ワトラも頑張り、患者を見ていく。
そして、治していった。
全員終わると、ワトラは、疲れきった顔でその場に座り込むのである。
宿屋の亭主や、患者から薫とは大違いだと言われながら、感謝されるのである。
ちょっと照れながら、ワトラは頭を掻くのであった。
そうしていると、今度はカールが運ばれてくる。
前回同様、グロッキー状態であった。
「この駄犬は……学習能力がないのか?」
「こいつ、また飲みまくってこのザマだ。二階の部屋に連れて行くから。えっと、ワトラさんだっけ? ちょっとこいつに回復魔法だけでも掛けといてくれないか」
「えー、僕じゃなくても……」
探求者から、名指しされ、ちょっと嫌そうな顔をする。
カールの顔を見ると、苦しそうにしていたので、仕方ないと思い探求者と一緒に部屋へと向う。
階段を上がってる時、探求者にカールが錠剤を飲んだかを確認する。
飲んでなければ大変なことになると、薫が言っていたからだ。
探求者は、薫から無理やり飲まされていたそうだ。
それを聞き、ちょっと安心する。
部屋に着くと、探求者はカールをベッドにポイっと投げて、後は宜しくなと言って宴会へと戻っていく。
取り残されたワトラは、溜息を吐きながらカールの横に立ち、カールの体に触れ、残り少ない魔力でカールに回復魔法を掛ける。
すると、少し息遣いが緩やかになる。
殆ど、魔力が空の状態になり、けだるい感覚が襲う。
宴会に戻ろうと思った瞬間、カールに手を掴まれ、そのまま引っ張られる。
「うわぁああ」
「ぐふふふふ」
カールに捕まり動けなくなる。
酒臭い。
「離せぇ! この駄犬」
「ぐー、ぐー」
「う、嘘だろ……おい、起きろよ。なんで、僕を捕まえたまま寝るんだよ!」
「もう飲めねぇ~……ぐー」
「やだぁー、はーなーせー」
ワトラはそう言って、カールを叩くのだが、先ほどの回復魔法で、魔力は尽きて強化もできない。
完全にどうしようもない状況なのであった。
涙目になり、今にも泣きそうな表情になる。
少しして、小さな声でカールは寝言を言う。
「ごめんな……気付いてやれなかった。許してくれ……」
「え?」
そう言いながら、ワトラをぎゅっと強く抱きしめられる。
顔が赤くなり、どうすればいいかわからないワトラ。
「恨んでもいい……俺が全部悪いんだ……気づけなかったから……だから……戻ってきてくれ」
「……」
魘されるように、カールはそう呟く。
ワトラは、弟の事を言ってるのだなと思う。
恐る恐る、カールの頭を撫でてみる。
何故、そのような行動をとったか分からなかった。
ただ、そうしたいと思った。
撫でると、魘されていたカールは、少し落ち着くのであった。
ほっとするワトラだが、この状況から抜け出せない事には、変わりなかった。
魔力の消耗のし過ぎで、睡魔も襲ってくる。
眠ったら駄目と思うが、それに逆らえなかった。
宴会の中にアリシアも戻っていた。
薫の横で、いそいそとお酒を注ぐのである。
凄くいい顔をして、ハイピッチで飲ませる。
薫は、何となく魂胆がわかった。
その魂胆を打ちのめす一言を、アリシアにぶつけるのであった。
「アリシア、すまんけど俺酔わへんよ」
「!!!!?」
なんですとー! と言った表情で薫を見るアリシア。
すでに、1Lの瓶のお酒を2本空けていた。
ほろ酔い程度から一項に薫に変化はない。
そう、可笑しいとは思っていた。
飲んでも全く変わらずニコニコしていたからだ。
アリシアは、心の中で舌打ちをする。
酔った薫を、看病するという目論見が、一瞬にして崩れてしまった。
あわよくば、膝枕や、一線を越えるきっかけになるなどと、甘い考えがあった。
アリシアは、表情に出さないように細心の注意を払いながら言葉を返していく。
「ソ、ソウナンデスカー。ワー、カオルサマスゴイノデスー」
「あははははは、隠しきれてへんでぇ」
薫は、アリシアの表情を見て、笑うのであった。
ムスッとふくれっ面になるアリシア。
その後は、ごくごくとお酒を呷っていった。
もちろん、酔いが回り、薫が世話するはめになる。
薫とアリシアは、途中で治療院に戻った。
明日の仕事もあるためだ。
皆は、大はしゃぎし、宴会は朝方まで続いた。
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ファルグリッドの町中。
治療院の前には、長蛇の列が並んでいた。
発熱と下痢などで、体力の無くなった亞人達が、体力回復魔法をかけてもらうために並んでいるのだ。
「どうなってるんだ! 迷宮熱じゃないのかこれは」
「わかりません。皆同じ症状なのですが……特に亞人の人達が最も症状が悪いです」
「おいおい、うちの治療院の前でゲロ吐きやがって……最悪だぜ」
3階建ての治療院の一室で、窓の外を治療師達は見ながら、そのようなことを言っていた。
深夜帯にもかかわらず、これだけの人数が並ぶのは、今まで一度もない。
完全に異常事態なのだ。
「この混乱をキディッシュ様に報告したのか?」
「いや、それがキディッシュ様も同じような症状で……マスターが、今行ってます」
「おいおい、本当にどうなっちまってるんだよ。大丈夫なのか? この街は」
頭を抱える治療師達。
新たな病に、手も足も出ないのである。
「くそ、俺もあの時この街を出てれば、こんな面倒事に巻き込まれなかったのに……」
「今そんな事を言っても仕方ないだろ。なんとか俺らで、これを食い止めないとさすがにやばそうだ……」
「伝染るかもしれないのにか? そんな危険おかせるわけ無いだろ!」
「治療師ギルドも混乱状態だ……他に応援もできないだろうしな」
「ちっ!」
人間族の男と亜人族の男が口論になる。
ただ言えるのは、今逃げても、手遅れの可能性が高いという事しかないのである。
それに、エクリクスとの繋がりを切っているため、治療師ギルドは、回復魔法を施す事しか具体的な対策はできないのである。
どうなるかは、自分達の力量次第と思うのであった。
キディッシュの屋敷も深刻な状態であった。
嘔吐と下痢で、一気に体力を持って行かれたキディッシュ。
ベッドに横になり、屋敷に治療師を呼んで、永続的に体力回復魔法をかけさせていた。
「糞が、お前始めにこれは迷宮熱と診断しただろうが!」
「わ、私も、こんな症状は初めてなんです。どう対処していいのか……」
「俺は、これからやらねばならんことが山ほどあるんだ! こんな形で幕引きなんてまっぴらごめんだ!」
「キディッシュ様どうか落ち着いて下さい」
「お前にも高い金と権力を渡してるんだ! それ相応の対価は払ってもらうぞ」
「それは、分かってます。ですが、MPが尽きそうです。回復薬を頂けないでしょうか」
「おい、誰か! MP回復薬をありったけ買ってこい! 今すぐだ!」
そう、キディッシュは、大声で叫ぶ。
人間族のメイドが、駆け足で慌ただしくこちらにやってくる。
金を受け取り、そのまま屋敷を後にするのであった。
「すぐに調達してくる。それまでお前自身の魔力でなんとかしろ」
「わかりました。それと、ここに来る前ですが……インリケが意識不明になったそうです」
「!!? どうなってんだこれは……」
苦虫を噛み潰したような表情になるキディッシュ。
屋敷の機能も、殆ど止まった状態になっていた。
メイドなどの係の者の三分の二が亞人だった。
残りの三分の一は、人間族だったが、それらも迷宮熱などに掛かり、体調を崩していた。
キディッシュは、このままではまずいと思い、どうにか思考を走らせるが、いい案は浮かばない。
「ヴォルド達は、どうなっている」
「わかりません。ただ、言える事とすれば、向こうも同じような惨状ではないかと思います……」
「あいつもしぶといからな、大丈夫とは思うが……」
そう言いながら、不安がよぎる。
目眩が襲い、意識が朦朧としていく。
「少し、休む。お前は、体力回復魔法を掛けておけ」
「はっ」
そう言ってキディッシュは、目を瞑り意識を手放すのであった
無駄に、書きたいことが多いため、文字数がいつもの7割増です。
見てくださった方、感想まで描いてくださった方、Twitterの方でも絡んでくださった方、有難うございます。
人との絡みを書きたくなってしまいました。
まだまだ、書き方がうまくないので、読みにくいかもしれませんが、暖かく見守ってくれるとありがたいです。
次の話は、一週間以内に投稿します。
書き溜めが少しあるため、早くなるかもしれません。




