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動き出す者達

 早朝ブルグの宿屋で呻くカールの姿があった。



「ぎもじわるい……」

「あんたって本当に……」



 呆れながら頭を抱えるティスト。

 バッドとダルクは、苦笑いするのであった。

 昨日の夜、いい感じに話が進みそうな兆しが見えた為、カールはドンチャン騒ぎで飲みまくったのだ。

 それに釣られ、バッドも参加した為、バッドも強く言えない。



「し、しかし、良かったですねダルクさん。元知り合いの娘さんがここの領主で」

「そうですね。張本人には会えませんでしたけど。元気にやってるみたいです」

「て言うか、ダルクさんの知り合いって事は、同じパーティ組んだりとかもしてたの?」

「ええ。良きライバルであり、戦友みたいなものですよ。玉に瑕なのは、モテ過ぎるといった所でしょうかねぇ……」



 そう言うとダルクは、懐かしいなと思いながら、思い出に耽るのであった。



「ダ、ダルクさん。その方って美人ですか? いや美人っすよね! モッテモテだったって言うんだから間違いない。会ってみたいっす」



 呻いていたカールは、身を起こしキラキラした目で見てくる。

 こう言った話には、すぐに食いついてくる。

 先程までのグロッキーな状態は何処へやらと言った感じだ。

 バッドとティストは、「この馬鹿は……」と思いながら見るのである。



「ええ、美人ですよ。怖いくらいにね……」

「え? な、なんで目逸らしながら言うっすか?」



 嫌な思い出も掘り返してしまったダルク。

 バッドとティストは、掘り返さないであげようと思うのであった。

 しかし、空気の読めないカールは、気になりズカズカと掘っていくのである。



「でも、結婚して子供も居るんだから、その旦那が羨ましいっすねぇ」

「だ、旦那は居ないんだよ」

「な、なんですとぉー!!」



 カールは、驚き一瞬で妄想に耽る。

 勝手に妄想で、未だ見ぬ女性と極楽新婚生活まで完結させた。

 そして、顎に手を当て真面目な顔で言うのである。



「俺にもワンチャンあるな……」

「や、やめといた方がいいよカールさん。寧ろ、お勧め出来ないし」

「な、なんでっすか?」

「ベルニスは、自分のスキルと合う男性と結婚した後、子供が出来たら別れたんだよ……」

「へ?」



 ポカンと口を開け何度か聞き返す。

 その度に、同じ説明をする。

 そう、ベルニスは冒険者として、子供に最高のスキルを残し、自身と同じ道で大成して欲しいが為に、そのような事をしたのだ。



「こ、子供思いっすね」

「いえ、かなりの自己中ですよ。寧ろ、自分の為でもあるようですし……はぁ」



 溜息を吐きながら言うダルクに、カールはそれ以上聞くのをやめるのであった。

 関わってはならないと言う、ダルクの気持ちを察したかのように。



「ほら、こんな所で時間潰すんじゃなくて、さっさと治療師に会いに行くわよ」

「そうですね」

「ティストの言う通りだ。準備したら出るぞ」

「ういーっす」



 皆は、準備しブルグの山の中間地点に住むワトラの下に行くのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 日が昇り、気持ちいい天気になっていた。

 仕事を終えた薫とアリシアは、ルナと娘のニウを家から引っ張り出し、砂浜へやって来ていた。

 まだ、1歳のニウはルナに抱えられ、一緒に横になってるのであった。

 小さな川の字が、もう少しで完成しそうな微笑ましい光景であった。



「ああ、気持ちいい天気ですね」

「はいですよ。ぽっかぽかです」



 シートを引いた上に寝っ転がる3人を見ながら、薫は笑うのであった。

 ニウは、ウトウトしながらお眠状態である。



「薫さん、本当にありがとうございます」

「ん? 何がや?」

「ダルクの力になって下さってです」



 深々と頭を下げるルナ。

 薫は、そういうのはやめてくれと言うのである。

 小っ恥ずかしいのであった。

 アリシアは、クスクス笑いながらそんな薫を見る。



「今回も、ブルグに行けるのもそうです。今までだったら、一人で行かせるなんてできませんでした」

「遠いもんなぁ。それに邪魔されそうやし」

「それもありますけど、探求者の方の護衛を付けたりしたら、この島で迷宮に潜るサイクルが崩れて、魔物が湧くことが出てきます。そうなれば、村が襲われます。それを今回、薫さんが上手く回してくれてると私は思ってますよ」

「そんな大層なことしてへんよ」

「うふふ、まぁ、そういう事にしときますよ」



 何やら、勘のいい人だなと思いながら、薫は頭を掻く。

 アリシアは何も言わずに、ちょっと嬉しそうな顔をするのであった。



「ルナさんも、気分転換せえへんと体壊すで。折角こんな良え所におるんやからな」

「そうですね。娘の事とか、ダルクの事で、殆どこのように島を見る事が無くなってましたから、かなり新鮮ですよ」



 そう言ってルナは笑うのであった。



「後は、ダルクが良い報告をしてくれれば、心のつっかえが取れるのですけどね」

「焦らず行こうや。焦れば悪い方に行く事だってあるんやからな」

「はい。のんびり待つとしましょうか」

「「きゅー♪」」

「?」

「……」



 薫は、アリシアの頭の上に乗っかる、2匹のピンクラビィに目線をやってしまう。

 アリシアは、サッと目線を逸らす。

 ルナも驚き、ジッとアリシアの頭の上にいるピンクラビィを見つめるのであった。

 アリシアは、ダラダラと汗を掻きながら、ピンクラビィの鳴き声を真似するのであった。



「きゅ、きゅ〜」



 苦しすぎる無駄な抵抗だ。

 声の高さが、明らかにピンクラビィより低いのだ。

 バレたら大事になるから、隠しておくと薫から言われていたのだが、これはアウトだ。

 普段はぬいぐるみの様に、ちっとも動かないピンクラビィなのだが、今日に限ってこのような行動に出ている。

 ルナは、ピンクラビィに熱い視線を送る。

 すると、その視線に耐えかねたのか、ぴょんっとアリシアの頭から飛び降り、薫の肩まで素早く移動するのであった。

 定位置にして1番安全だと理解してるのであろう。

 やはり、頭はいいようだ。

 ルナは、本物のピンクラビィに驚き癒されるのであった。



「え? ほ、本物よね!!? ど、どうしてこんな所に?」

「なんや? ルナさん見たことないんか?」

「ないない。無いに決まってるじゃない」

「ほんまに無いんや。今まで、いろんな所に冒険しとってないんか?」

「生まれてこの方見たことないわよ!」



 ルナは、凄く興奮している。

 女性は、ピンクラビィが好きなのだなと思う薫。

 薫は、その価値を知らないから仕方がない。

 金持ちの娯楽とまで言われるくらいの大金が動く事もある。



「薫さん幸せ分けてください。頭に乗られるだけで、幸福になると言われてます」

「いや、俺に言われても困るわ……触ろうとすると、警戒して逃げるから、触るのは無しでええか?」

「は、はい」



 ドキドキした様子でルナは、頷く。



「「きゅっきゅー」」



 元気良く鳴く2匹。

 耳元に近い為に煩いのだ。

 薫は、仕方なく肩に乗る2匹をひょいっと捕まえ、ルナとニウの頭に乗せる。

 乗せた途端、ルナはデレっと表情が崩れる。

 アリシアはドヤ顔で薫を見る。

 コレが、ピンクラビィの力だと言わんとばかりにだ。

 薫は、アリシアをスルーし、ピンクラビィが『運吸収ラッキーバースト』を使わないか冷や冷やしながら、見守るのであった。

 ニウは、まだ幼いから何をするか分からない。

 もしもの時は、引き剥がさないといけないなどと考えていたのだが、そのような心配はいらなかった。

 ぐっすりと眠るニウ。

 ニウの肩に乗り丸まるピンクラビィ。



「い、一瞬で、心を許したのです。私には、中々許してくれなかったのに!」



 アリシアはそう言いながら、四つん這いになりショックを受けるのだった。

 薫は、見なかった事にして、ルナに乗っかるピンクラビィを見る。

 此方も、何も問題ないようだ。

 何とか、ショックから立ち直ったアリシア。



「ピンクラビィが、頭に乗ると幸運が舞い込んで来ると言われています。なので、二人共必ず上手くいきますよ」

「その逆もあるけどね……」

「悪しき心のある者には厄災を。清き心の者には奇跡をと言われています。なので大丈夫ですよ」

「アリシアには、厄災じゃなくて鍋が落ちたんやけどな」

「か、薫様それは言わない約束です!」

「おっと、うっかり口が……いかんな」

「うー。酷いです。酷いですよー薫様」



 わざとらしく言う薫。

 そんな薫をポカポカと叩くアリシア。

 顔を真っ赤にさせてである。

 そんな光景を見て、ルナは笑うのであった。



「まぁ、深く考えすぎないようにな。ピンクラビィに頼らんでも、自分たちの力でどうにかせんと、意味無いんやないか?」

「そ、そうですね。私とした事が……ダルクを信じてないみたいですね」



 ルナも笑顔になったところで、昼食タイムに突入するのであった。

 誘った薫とアリシアで準備していたお弁当だ。

 人数分取り分け、みんなで食べる。

 ちょっと、賑やかな昼食となるのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 お昼前にブルグの山の中腹に着く。

 若干一名、グロッキーな顔をしているが、誰もふれない。



「マジで気持ち悪い。死ぬ」

「も、もうちょっとですから、我慢してください」



 山登り中に、再度二日酔いの気持ち悪さがこみあげてきたのだ。

 顔色は青く、いつもは凛々しく立つ耳もぐにゃりと倒れていた。

 皆、溜息を吐きながらカールを見る。

 残念なイケメンと呼ばれるだけの事はあると思うのであった。

 そうこうしている内に、目的地に着く。

 小さな小屋が見えた。

 ビスタ島の治療院と同じくらいの大きさだ。

 バッドは、ドアを叩く。

 返事が無い。

 もう一度、今度は強めに叩くと、中から呻くような声が聞こえた。

 バッドは、何を言ってるのか聞き取りにくかったので、ドアに耳を当てる。

 その瞬間、バーンと扉が勢い良く開く。



「僕は、税金なんて払えないって言ったでしょうガァ〜!!!!」



 バッドは、扉が開く勢いに巻き込まれ、吹っ飛んで岩にめり込む。

 その光景にバッドを除く3人は、口を開きポカーンとするのであった。

 一瞬の出来事に、唖然とする。



「あ……え、えっと……」



 ダルク達の事を見て、税徴収の役人ではないことが分かった。

 その後は、回復魔法をバッドに掛けながら、平謝りなのである。



「うわー。すいませんすいません。確認もしないですいません」

「いい力持ってんじゃねーか。ビックリしちまったよ」



 岩にぶつけた頭を擦りながらそう言うバッド。

 ティストは、バッドの頭を見ながら石頭と思うのであった。



「すいません。まさか、そんな所にいるなんて思わなかったんです」

「と、取り敢えず落ち着きましょう」

「は、はい」



 栗色の髪の毛、前髪が長く目を隠していた。

 まとまりの悪い癖っ毛で、ゴワゴワしている。

 そのゴワゴワの中に、獣の耳らしきものの先端が少しだけ出ていた。

 見た目は小さい。

 年齢は、17歳くらいだろうか。

 服装は、白衣にダボダボのズボン、ハタから見ればまんま治療師で間違いないのだが、ちょっと不衛生なのだ。

 華奢な体で、長い白衣は床に付き引きずる形になっていた。

 白い白衣は、少し黄ばみ、薬剤を零したのか、所々に緑や青などのシミが付いている。



「いやー。お恥ずかしいこのような格好で。今日は何のようですか? 簡単な治療なら出来ますよ」

「お! いい奴そうじゃねーか」

「?」

「えっと、ワトラさんで間違いないでしょうか?」



 ダルクが名前を口にした瞬間、雰囲気が変わる。

 嫌な汗を掻く。



「ええ、そうですが……。何か?」

「は、はい、相談がありまして今日は来たんですが……」

「用件だけ言ってもらえますか? それに僕の事、色々調べたんでしょ」

「……」



 ワトラは、声のトーンが下がる。

 すごく不機嫌な空気に胃が痛くなるダルク。



「率直に言います。治療師を探しています。あなたの力を借りたいんです」

「そう言うのは、断ってます」



 ワトラは、そう言い放ち家に戻ろうとする。

 何とかダルクが、ドアが閉まる前に引き止める。



「お願いです。話だけでも聞いてくれませんか」

「ちっ……」



 ダルクの気迫に押され、話だけ聞く事になった。

 小屋の中に入る。

 人数分の椅子がないのでダルク、バッドそしてワトラが座る。

 ダルクは、今のビスタ島の現状を説明するのであった。

 ワトラは、興味なさげに適当に話を聞く。

 ダルク達がどうなろうと知ったことではない。



「大変ですね。僕には関係ないですけど」

「は、はい。ごもっともなんですが。宜しければ、その島の治療師をしてもらえないでしょうか」

「無理です。研究が忙しいので、そんな余裕無いです。それに、僕みたいな治療師は、どうせ厄介事があれば、すぐお払い箱になるくらいわかってますしね」



 深い闇を抱えるような目になる。

 しかし、こんな自分が必要とされるとは思っても見なかった。

 少し嬉しいとも思った。



「そのような事で、私は追い出したりなどしません。それは信じて下さい」

「どうだか……。僕のこと色々調べたんでしょ? だったらわかるはずだよ。無能の治療師と言われてるんだから……Eランク以下の治療師だよ」

「……」



 ワトラが言う出来損ないとは、治療師ギルドが治療師に評価を下す。

 その評価で、待遇も変わってくる。

 主に、A~Eの五段階に分けられる。

 例外と特例もあるが。

 ワトラの評価は、Eより下になる。

 そういう評価を受け、ワトラと治療師ギルドの間でいざこざがあり追放された。

 ワトラはちゃんと話は聞いたから、さっさと帰れといった雰囲気を醸し出す。



「僕は、研究で忙しいから無理。街で見つければいいじゃないか」

「それが出来たら苦労はしてねーんだよ。つーか、てめぇさっきその話聞いてるだろ!」

「何? 訳ありなのぉ??」



 先ほど、ダルクから説明を聞いているのに、厭味ったらしく嘲笑う表情で見るワトラ。

 そんな、ワトラにイラつくバッドは、今にも殴りそうな勢いがあった。

 それを必死で、止めるカール。

 相変わらず顔色が悪い。



「てめぇ〜だって、訳ありだろうが! 他人を見下して楽しいのかよ!」

「なっ! 僕は、お前らとは違う!! 僕はこの先、偉業を成し遂げる者だ」

「小さな目に見えない生物を探すのが偉業か? つーか、お前必死に頑張ってる奴にそんな糞みたいな態度よくとれるな! 色んな意味で、終わってんじゃねーのかよ! だから、追放されるんじゃねーのかよ!」

「う、うるさい。お前らに僕の苦しみがわかってたまるか!」

「んなもんわかるかボケ!」



 バッドの言葉に、ワトラはカーッと血が昇る。

 まったく成果も出ていない。

 どうすればいいか分からず、毎日無駄に時間が過ぎていっていた。

 自身の持つスキルが頼りだが、それを他人に上手く説明出来ない。

 自身にしか見ることができない為、説明しようがないのである。

 研究に行き詰まり、どうしようもない気持ちになっている。

 その時に、この言葉が胸を抉る。

 口ばかりで、痛いことを突かれると手が出てしまう性格。

 そのせいで、治療師ギルドからも追い出された。

 そして、その後は治療の失敗により、街にすら住めなくなった。

 無能と言うレッテルを貼られ、どの地域に行っても仕事が無い状態になってしまった。



「なんで、今日会ったばかりの奴に、こんな事言われなくちゃならないんだよ! 帰れ!」

「二度と来るか馬鹿野郎!」

「ちょ、ちょっと落ち着いてください二人共」

「五月蝿い! お前ら全員帰れ!」

「も、もう無理……」



 喧嘩の中、カールがその場でドサッと倒れた。

 先程から顔色が悪かったが、もっと悪くなり、青ざめていた。



「ちょっと、あんた達喧嘩してる場合じゃないわよ」

「はっ! お、おい、カールどうしたんだよ」

「苦しい……」

「な、なんだよ……。僕は何もしてないぞ」



 ワトラは、パニック状態になる。

 少し、動揺の仕方が異常だ。



「僕じゃない、僕は、悪くない……」

「?」



 ワトラは、頭を抱え蹲り、「僕のせいじゃない」と言うだけであった。

 ワトラが、街に居られなくなった原因の患者の症状と同じだった。

 原因が分からず、対処の仕様がなかった。

 出来たことといえば、体力回復魔法を掛けることぐらいだった。

 治療に失敗しその人は亡くなった。

 家族やその仲間から罵倒や、陰湿な行為で精神が持たなくなり、ブルグの領主のラズに頭を下げて、無理を言い街から少し離れた山の中腹に住ませて貰う事になった。

 ワトラは、助けられなかった患者の光景が、フラッシュバックする。

 体に力が入らず、どうすることも出来ない。

 無力な自分がそこに居るだけと言った感じであった。



「バッド! カールに薫から貰った錠剤飲まさなかったの?」

「え? いや、こいつも持ってるはずだぞ? ってまさかカールのやつ飲んでねーのかよ」



 バッドとティストは、何やら口論になっていた。



「バッド、錠剤あるならさっさと飲ませないと危ないわよ」

「そ、そうだな。ちょっと待ってろ」

「ダルクさん、水ありますか?」

「ちょっと待ってください。あったと思います」



 バッドが、アイテムボックスから出した、小さな袋に錠剤が二個入っていた。

 一つをカールの口に放り込み、ダルクが差し出した水と一緒に流し込ませる。

 なんとか飲み込んだカールは、少し息遣いが良くなるのであった。



「ふぅ……危ねぇ、危ねぇ」

「バッド、なんで朝飲まさなかったのよ」

「の、飲んでるものだと思ってたんだよ」

「まぁまぁ、落ち着いて下さい。少しすれば回復すると言われてるんですよね?」

「薫がそう言ってたしな。たくよぉ、カールにも困ったもんだぜ」



 ダルク達三人は、そう言いながらほっとするのであった。

 しかし、ワトラはありえないと言った表情でダルク達に迫る。



「な、なんで、あの状態から回復するんだよ!」

「な、なんでって言われても知らねーよ。これは、薫からカールがこんな状態になったら、飲ませろって言われただけだしな」

「飲ませるだけで治る? そんな馬鹿な……僕は、何も出来なかった症状を錠剤一個で治せるだと」

「お、おい。顔色悪いけどお前大丈夫か?」

「おかしい、そんな事できるわけない……。そんな簡単な症状じゃないはず……いや、僕が治療した患者とは、類似してるだけで全くの別の病気なだけさ……じゃなきゃ……じゃなきゃ……」

「聞いちゃいねーな」



 ワトラは、頭を掻き毟るのであった。

 その後は、ブツブツと何かわからないことを呟く。

 ダルクは、ワトラと今話せる状態ではないと思い、バッド達に小声で一旦宿屋に戻ろうと言うのであった。

 バッド、ティストは、頷きカールをおんぶし、ワトラの家を出るのであった。



「にしても、かなり癖の強いやつだったな……」

「バッド、いい加減そのカッとなりやすいの、どうにかした方がいいんじゃないの?」

「ぐぅ……、いや、わかっちゃいるんだけどよぉ。中々、ああいう性格の奴見ると言いたくなっちまうんだよ」

「仕方ないですよ。それに、あのような感じでしたらもう無理そうですし。他を当たるしかなさそうです」

「せっかくここまで来たのに……収穫なしとはねぇ」



 ダルク達は、そう言いながら山を下っていく。

 カールは、よだれを垂らしながら夢見心地になっていた。



「どうします? 今日にでも発ちますか?」

「まぁ、ダメ元で明日もう一度行ってからビスタ島に戻りましょう」

「またなんか俺言いそうだ……」

「今度は、黙っときなさいよバッド」



 そう釘を刺すティストなのであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 その頃、ワトラは椅子に座ったままずっと考え込んでいた。

 先程の薬を作れる程の治療師がビスタ島にいる。

 自身が対処出来なかった症状を、完璧に治せる技術を持っている。

 そんな人だったら、仮説で自身が立てた理論を、理解してくれるかもしれない。

 理解してくれなくても、あの薬を作れるノウハウは習いたいと思うのであった。

 寧ろ、自分の知らない知識を持っているのは間違いない。

 今まで停滞していた実験にも、いい刺激になるやもしれない。

 故郷である、ブルグを離れたくないと思う気持ちで、ラズに頭を下げた。

 両親の残した治療院も引き払い、今の生活に当てている。

 だが、現状何も変わらず、ただ無駄に時間と金を使い潰す日々に、苛立ちを感じていた。

 あの薬を作れるカオルという人物に、会ってみたいという気持ちが大きくなる。

 然し、先程ついカッとなって、言い合いになってしまった。

 どう言えば良いか、どのように次会えばいいかわからないのだ。

 人との関わり合いを避けてきたツケが、此処に来て降り掛かる。

 ふと、自身の安易な考えに嫌気がさす。

 次があると思っている。

 あんな酷いことを言って、また明日ダルク達が来ると思っているのだ。

 もうダルク達は、来ないかもしれないという事を考えてなかった。

 我ながら脳みそがお花畑だなと思うのであった。



「僕は、馬鹿だな……。せっかくのチャンスも活かせない。自らそのチャンスを棒に振るうなんて……なんで、素直に言えないんだろ」



 目を真っ赤にさせ、自身のどうしようもない思考を恨むのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ブルグの宿屋でダルク達は、話し合うのであった。

 カールは、すっかり元気になっていた。

 これからの事、明日ダメならもう一つの隣町まで行くかだ。

 ダルクは、一度戻ってからでないとダメだと言う。

 現在無理を言って、バッド達を迷宮のローテーションから外してもらっている。

 何も連絡のないまま、これ以上迷惑は掛けられないと思っているからだ。

 ダルクの意見に対してバッド達は頷く。

 皆の意見が纏まったところで、扉を叩く音がする。

 誰だろうと思い、ダルクが扉を開けると、そこにはラズが立っていた。



「ら、ラズさん如何したんですか?」

「その……どうなったのか気になってしまって」



 照れ臭そうに頭を掻く。

 可愛らしい表情に、カールが反応する。

 跪き、ラズの手を取りキリッとした目つきで言う。



「ラズちゃん……なんと可愛らしい。宜しければ、この後おty……ぐぼらばぁ〜」

「見境ないのも程があるでしょうがぁ〜!」



 最後まで言う前に、ティストの延髄蹴りがカールにヒットする。

 ぐにゃりとその場に倒れ込む。

 そんなカールの首を掴み、引き摺りながら離す。

 ラズは、苦笑いを浮かべるのであった。



「え、えっと。それでどうなりましたか?」

「あ、はい。ちょっと話が縺れてしまい、ラズさんに良い報告はできそうにありません」

「そうですか……」



 ちょっとしょんぼりした表情になる。

 ここら辺のは、年相応だなと思うダルクなのである。



「でもまだ諦めてません。明日、もう一度会って駄目でしたら諦めます」

「分かりました。ダルク様、頑張ってください」

「様付けはやめてください。むず痒いです」

「も、申し訳ありません。昨日から、ずっとそう言ってしまいました」

「良いですよ。同じ領主ですし、まあ私は村長といった形ですがね」

「そんな事ないです。絶対にダルク様は上手くできるはずです。って私また……」



 顔に手を当てうぅ〜と言いながらしゃがみ込む。

 様付けが取れないのであった。

 相当尊敬してるのだなと、バッドとティストは思うのであった。

 若干一名、様付している人物が浮かぶが、その名前は出さなかった。



「それにしても、ラズさんは若そうですね」

「はい、十歳ですから若いというより子供ですよ」

「「え!!?」」

「あれ? ダルクさm、さん、皆様に言ってなかったのですか?」

「言うの忘れてました」

「十歳で、ブルグを此処までにしたのかよ……。俺は、野山を走り回ってたぞ……」

「同じ年の時の私を殴りたいわ……。こんなに、しっかりしてなかった」



 バッドとティストは、驚きと自分がその年の時と比べ、ショックを受けるのである。

 ダルクは、追い打ちをかけるように言う。



「本当に凄いんですよラズさんは、三年で村からこの街まで拡大させたんですからね」

「「七歳からかよ!!」」



 二人は声を揃えて突っ込むのであった。

 天才は、居るのだななどと言いながら自分を納得させる。

 そんな二人を笑いながらダルクは見る。



「ラズさんは、この後は?」

「お昼の休憩です。そ、そのよく行くお店があるので案内したくて」

「美味いものがあるのか!」

「はい、ありますよ。とっても美味しいです」

「行きましょうよ。ダルクさん」

「そうですね。今のところやる事がないので、少し気分転換も兼ねて皆さんで行きましょうか」



 ダルクがそう言うと、ラズは飛び跳ねるように喜ぶのであった。

 三人は、そのままラズに連れられお勧めの店に行く。

 床に突っ伏したまま、放置されているカールの事を忘れているのであった。

 帰った時にやっと思い出した。

 それまで、全く気付くことなく、ラズ達と楽しく話をしていた為、思い出すことがなかった。

 冒険者として、いろんな場所に行ったり、バッド達とどのようにして出会ったかなどで、盛り上がったせいもある。

 人魂を背後に灯し、どんよりとした雰囲気でいじけている。



「いいんだ。俺はお邪魔虫なんだ」



 そんな事を言って、立ち直るまでにちょっと時間がかかった。

 ラズが頭を下げた為、いつものお調子者のテンションで回復する。

 手を取り、撫で回しながら「もう大丈夫回復した。ラズちゃん天使!」などと言いながらだ。

 ティストは、そんなカールに耳元で、ラズの年齢をそっと教えると、「畜生! あと、五年待たないといけねーじゃねーか! 俺、犯罪者じゃん」と本気で悔しがる。

 バッドは、いつもの事と思いお茶を飲んでいた。

 ティストは、ゴミを見るかのような目線で、カールを見る。

 ラズは、頭の上にクエッションマークを出しながら、ニコニコしながらカールを見るのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ファルグリッドの宿場通り、咳をする者が多い。

 皆、今年の迷宮熱は、遅くに罹ったなと思うのであった。

 皆、咳き込みながら、治療院へと向かう。

 特効薬が出来たこの病は、もはや怖くないのだ。

 ファルグリッドにも、オルビス商会からの流通で、治療師ギルドに特効薬が届いていた。

 その事を皆知っている為、混乱はない。



「本当すげーよな」

「迷宮熱の特効薬だろ? 作った奴は、相当儲けてるんじゃねー」

「いや、レシピを公開して、庶民でも治療できる料金設定にしたから、そんなに儲けはないって聞いてるぞ」

「マジかよ、神様じゃねーか!」

「おまけに、まだ若い治療師らしいぜ」

「女神か! いいっすなぁ」

「けど、地位は貰ったとかで、爵位持ちだ。勝ち組中の勝ち組だろ」

「一目、見てみたいなぁ。エクリクスなんて、ずっと音沙汰なしだろ?」

「一般の治療師の方が、余程頑張ってるのがわかるぜ」

「そうだよな。彼奴らなんて、大金払わねーと、なんもしてくれないしな」

「「「世の中金のクズ集団ときたもんだ」」」



 そんなことを言いながら、大笑いする探求者達。

 そんな事を話していると、治療院で揉め事が発生していた。



「ふっざけんなよ!! 40000リラだとよ!!! 迷宮熱の薬一個がその値段って言いやがったぞ!」

「おいおい、確かグランパレスでの料金は、500リラって言ってたはずだぞ!」

「ボッタクリかよ!」



 探求者達の鬱憤が溜まる。

 ファルグリッドで、一番大きい治療院の治療師が口を開く。



「お前ら、よく聞け。迷宮熱の特効薬はあるが、此処まで運ぶ手間などが発生してこの値段になった。文句のある奴は、治療はしない! それに、キディッシュ様にもちゃんと許可を取ってある」



 譲る気一つない。

 暴動が起こりそうな緊迫したこの状況で、キディッシュと言う名前に逆らえない探求者達は、渋々その金を払うのであった。

 渋々支払った者は、主に亜人が多かった。

 亜人の中でも上位種に位置するキディッシュ。

 逆らえば、自分と同じ種族が、どうなるかわからないからだ。

 払わなかった者は、ファルグリッドを後にする。

 ブルグに行けば、もっとましな金額になることを知っているからだ。

 そして、ファルグリッドとファルシスは、完全に力関係で治療師ギルドに勝っているため、治療師ギルドも何も言わない。

 寧ろ、エクリクスの下にいるよりか、キディッシュの下にいた方が、美味しい思いができるからでもある。

 そういった背景があるため、それを知る者は、そそくさと拠点を移すのであった。

 主に動いたのは、人であった。

 亜人のそういった格差に囚われない者が動く。

 そして、ファルグリッドの殆どの人口が亜人になった。



「バカな奴らだ、これから、この街はもっと勢力を増すというのに……」

「良いじゃねーか、キディッシュ。殆ど、無法地帯と化してるこの街は、もはやお前のさじ加減で、捌けるんだからよ。あははははは」

「そうだな。その内、ブルグもビスタ島も手中に納めてやるさ。俺の国を作るためのな。俺が法律となる国作りをするぞ」

「いやー、楽しそうだぜ。女子供は、少し分けろよな」

「ヴォルド……お前はそればかりだな……。まぁ、好きにすればいいさ。罪にならないからな」

「あははははは。最高の国作りをしようぜ!」



 そう言って、二人は笑うのであった。


見てくださった方、感想まで描いてくださった方、Twitterの方でも絡んでくれた方有難うございます。

次回は、早く投稿できそうです。

書きたいところまで、今回の話で書けませんでした。

主に文字数的な意味でですが……。

では、楽しんでいただければ幸いです。

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