手っ取り早く金を稼ぐためにちょっと手術してきます
手術シーンが含まれます。
※8/15 携帯で改変中に文章の途中を消してしまってました。申し訳ございません。
【大迷宮都市グランパレス】の町中を歩く薫、周りをキョロキョロとし医療系の店を探す。
なかなか、お目当ての店が見つからず、表情をしかめため息をつく。
街が広すぎるせいもあり、だんだん疲れが溜まっていく。
ちょうど、目の前に門番兵らしき人が居たので、聞いてみることにした。
「すんません。ここら辺に、医療系の店ってあらへんの?」
「医療系ですか? それでしたら西の医療区域に行かないとないですよ。ここは東の商業区域ですから」
笑顔で答えてくれる門番兵に薫は、おおきに! と手を挙げてそそくさと商業区域を立ち去った。
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疲れた身体を引きずるようにして、歩き西の医療区域へと着いた。
そこには、たくさんの治療院があった。
人もたくさんおり、行列のできる店もある。
一人、一人どんなケガをしているかを目で見て、確かめていた。
擦り傷、打ち身、などなど。
ほとんど、みんな似たり寄ったりやなぁと思いながら歩く。
この異世界の医療の情報を、手っ取り早く手に入れる為に、医療区域に来た。
人が多すぎると、聞く時間が取れそうにない。
なので、空いてる店を探した。
「お、発見! って、潰れそうやなぁここ。まぁええか」
そう言いながら、看板に書いてある『リース治療院』へと入っていく。
「どうもーやってますかー? なんや真っ暗やなぁ潰れとったか……」
薫は、残念そうに言うのであるが、
「失礼ね! やってるわよ」
少し、機嫌の悪い声で返事が返ってきた。
奥を見るとそこには、綺麗な金髪で、腰まで伸ばした少女がいた。
華奢な肢体で、白のワイシャツに黒のスカートを履いて、白衣を纏っていた。
「なんや。居るんやったらはよ返事せな。客やったら帰っとるで」
ちょっと、おちょくる感じで話をする薫。
スラっとした長身で、175cmくらいだろうか。
銀髪をオールバックにして、アロハシャツに半パンを履いている。
シャツの上に、白衣を羽織っている。
目つきは、悪いがイケメンだった。
その格好から、同業者かと思い少女は、睨みを利かせ薫を見る。
「そんな、怖い顔せんといてぇ~な。別に、取って食ったりはせんよ。ちょっと、聞きたいことがあってな。それで来てん」
からからと笑いながら、薫はその少女を見る。
「おっと、自己紹介がまだやったな。俺は芦屋薫や。」
「リース・クレイドルよ。で? お客じゃないのよね?」
先ほどのおちょくられたのも相まって、イライラが増すリース。
「無一文やからな。ちょっと情報が欲しくてここへ来たんや」
頭を掻きながら薫は、言う。
「金が無いなら帰ってどうぞ! 出口はこちらです」
出口にリースは立ち、さっさと帰って来れと言わんばかりに睨む。
「話くらいええやん。なんで、そんな怒っとるんや?」
薫は、カラカラと笑いながら、リースに話しかけるが、さらにリースの表情に苛つきが増していく。
「あんたも、お店を潰そうとしてる奴の仲間なんでしょ! さっさと帰って! 二度と私に関わらないで!」
そう言って、目の前にある本を薫に投げつけた。
それは、見事に薫の瞼に当たり、綺麗にパックリと切れた。
血が、ツーっと流れ落ちていく。
「ん? 何言ってるんや? 勘違いは、ようないで。俺がここに来たんは、この町で治せない重症患者が居るのかを聞きに来ただけや。リース、勝手な思い込みで、他人に当たらんでほしいな。ハッキリ言って気分悪いわ。それに、治療しに来る場所で、怪我させてどないすんねん」
口調は、変わらないが声のトーンは、少し低くなる。真剣な眼差しでリースをみる。
「うっ……」
薫の真っ直ぐな目線に、たじろぐリース。
しかし、自分の勝手な勘違いで、負わせてしまった傷を見て、言い返すことも出来なかった。
しゅんとした顔で、佇むリース。
薫は、その表情を見て「うわぁ可愛い顔が見れたわ」と、からから笑いながら言うのであった。
その言葉に、顔を真赤にしてリースは黙りこむ。
そして、「早とちりしてごめんなさい」と謝ってくるのであった。
「手当します。傷口を見せてください」
リースが、そう言ってきたが、薫は自身のスキルを試してみたかったのでそれを制した。
「回復魔法って、最上級はなんていう魔法なん?」
ステータス画面で見たが、合ってるかどうかの確認も兼ねてリースに聞く。
「えっ? 確か『完全治癒』だったと思うよ。傷が残ったりとかは、ほとんどないみたいだけど……。それを使えるは、聖霊都市【エクリクス】の大神官様くらいだし」
「へー、そうなんや。回復魔法――『完全治癒』」
ぽわぁーと、傷口に淡い黄緑色の光が集中し留まる。
薫の瞼の傷が消えていく。
かなり深く切れていたが、傷は跡形もなく消えていた。
その傷のあったところを薫は、手で触る。
おお! すごいやんと思うのであった。
リースは、口をぱくぱくさせながら、「何やってんのよあんた!」という具合で、薫の胸ぐらを掴み、がくがくと揺らすのだ。
「リース、すまんけど気分悪なってきた。ちょっと、揺らすんやめて……酔う。マジで酔うから出る。お昼に食べたの出ちゃうからぁああああ」
「あ……ご、ごめん」
リースが、離してくれた時には、もう顔色が悪く椅子にぐったりとしていた。
「あー、気持ち悪い。もう……動けへん。頭いたいわ~。どないしよう……このおなごは、負傷しとる男にトドメ刺しに来おったぞ……うっぷ」
そう言いながら、ちらちらとリースを見る。
うっ、とバツの悪そうな表情でリースは言う。
「わ、わかったわよ。休んでいけばいいでしょ! どうせ、私が悪いんですから!」
「ほ、ホンマにええんやな? 絶対やで。約束破ったら、身体で払ってもらうで? あと、飯も出してくれると有難いんやけど」
薫は、「おかゆでも良えから、食いたいわ~。お腹を、優しさで満たしてほしいわぁ~」などと、具合の悪そうな声で、リースに語りかける。
まるで、呪文のようにである。
「いいわよ! 作ってやろうじゃないのよ!」
半ば逆ギレのような感じで言い放つリース。
「え? ほんまに? やったで宿確保や!」
先ほどまでの顔色の悪さは、どこへやらといった感じで、ガッツポーズする薫。
その表情に、リースはしまった、してやられた! と、肩をぷるぷる震わせながら思うのであった。
扱い易いなぁと言いながら薫は、からからと笑うのであった。
宿と晩飯を確保した薫は、リースに欲しかった情報を聞く。
「さっきの話やけど。この街で、治せない重症患者はいるんかなぁ?」
「えっと、たしか貴族区域に居たはずだけど。でも、絶対に治せないよ。大神官様ですら『完全治癒』で、治らなかったんだもん」
「なるほどねぇ。で? その貴族様は、どんな症状なん?」
薫は、仕事モードになる。
「たしか、心臓が弱いって言ってたわ。生まれつきみたいで……今、16歳なんだけど歩くことも困難で、寝たきりになってるらしいの」
リースの発言に薫は、病名を何個か頭に出すのであった。
「そうか……。あともう一つ。回復魔法以外に、なんか特殊な人体を治す魔法はあるんか?」
顎に手を当ててリースに問う。
リースは、何当たり前なこと言ってるんだ?と言わんばかりの表情で、
「あるわけないじゃない。大体、回復魔法なんて、傷の手当とか、外傷の傷を治すものがほとんどよ? 毒とか、あそこら辺は、体内の毒物を中和させるための魔法だし。あと、聞いた話だけど大神官様が使う『完全治癒』は、噛みちぎられた四肢をくっつけたり、顔をモンスターに抉られた人も、元に戻したり出来るらしいけど」
リースは、説明する。
「ん? 病気とかは、どないするんや?」
薫は、外傷などの治癒は、回復魔法で出来る事がわかった。だが人は、必ず何かしらの病気に罹ったりする。なのに、病気のびょの字も出なかったことに疑問を覚えた。
「あ~、うんそれはね。治せないのよ。原因も、わからないし。回復魔法も効かないんだもん。だから、健康状態には皆、人一倍気を使ってるの。外の光景見たらわかるでしょ? 少しの怪我でも、みんな治療院に通うのよ。身体が動かなくなったら、それは死ぬのと一緒だからね。そういうのは、今【エクリクス】で色々研究してるみたいだけど、全く駄目みたい」
リースは、「なんとかなればいいんだけどね」と言った感じで、リースは教えてくれた。
薫は、情報を聞き笑顔で言う。
「よし、じゃあちょっくら仕事に行ってくるわ。晩御飯よろしゅうな」
そう言うと、素早い身のこなしで立ち上がり、出口へと出て行く。
「なんなのよ、あの人は……」
リースは、大きな溜息を吐き、薬剤の整理に戻る。
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薫は、貴族区域に入り、歩きながらタバコに火を着けてふかしていた。
「仕事前やし、落ち着かんとなぁ~。あ、貴族の家の場所わからんかったわ。まぁ、そこら辺で聞けばわかるやろ」
からからと笑いながら歩く。
ちょうど目の前に、人の良さそうな貴婦人がいたので、話しかけることにした。
「ちょっとすんません。お尋ねしたいんやけど、ここの区域に、重病患者がいる家って何処にありますか?」
「あの、失礼ですけど治療師さん? ですよね」
「あ~、すんませんね、周りからは、そんな風に見えへんって、よう言われるんですがね。俺は、【エクリクス】から来た治療師なんやけど。重病を抱えたお宅の場所がわからんくて、途方に暮れとったんですよ」
困ったわぁ~と言った感じのジェスチャーで貴婦人に言うのだ。
薫は、ふと貴婦人の手首に目を向ける。
包帯らしき物が、ちらつくのが見える。
「怪我されてますよね? どないしたんですか?」
心配そうな、表情を作り貴婦人に語りかける。
「お恥ずかしいのですが。昨日、娘に私が昔作ったお菓子を作ってとせがまれましてね。久しぶりに、張り切って作ってたのよ。その時に、娘がいたずらして来てね。たまたま、油が手首にかかってしまって、火傷してしまったのよ」
大丈夫よと言った感じで話をしてくれた貴婦人に薫は言う。
「ほしたら。さっさと治したほうがええよ」
「ええ。今お隣さんの家からの帰りなのよ。帰ってから、治療院に向かおうと思ってます。お気遣いありがとうございます」
微笑み、そう言う貴婦人。
「もしよかったら、怪我治したるよ? 女性の肌は、繊細やからなぁ。下手な回復魔法で治療すると、治るもんも治らんし、それに痕だって残ってまう」
基部人は、少し悩んだ感じで考えこむ。
もうひと押しかなと薫は思い言う。
「仕事で、この街来とるんで。色々、調査もしたかったんですよ。大神官様からの命なのでね。まぁ、こんな若造やけど、騙されたと思って、一回試したらええやん。見てくれが、コレやから疑われるのもあれやし。そこそこの腕は、あるんやで」
薫は、自分を卑下にしながら、相手の警戒心を解いていく。
そして、からからと笑いながら言う。
すると貴婦人は、くすくすと笑いながら、
「じゃあ、一回騙されてみようかしらね」
そういうと貴婦人は、近くにあったベンチに座る。
貴婦人は、火傷をおった手首をすっと出す。
「意外と深くやらかしたなぁ」
火傷した場所は、水ぶくれになり熱を持って腫れていた。
薫は、「【完全治癒】の方が、綺麗に治るんやけど。使ったら、大変なことになりそうやからな。回復魔法で、なんか代用効く奴でも使っとくか」と、思いながら魔法を使う。
「『回復魔法――皮膚再生』」
淡い水色の風が、貴婦人の手首に優しく取り巻く。
そして、優しい光で火傷したところは、綺麗な元の肌に戻る。
薫は、「再生しきれてへんなぁ。最上級の方が、効果が高いな」と思う。
「っ!!?」
貴婦人は、言葉を失う。
回復魔法の上級に位置する魔法を使ったからだ。
上級を扱える人は、この街にはいない。
せいぜい、中級までしか使えないからだ。
「もう大丈夫やで」
笑顔で、貴婦人に言うのである。
「なんと言っていいか。あなたは、ほんとに【エクリクス】から来られた治療師さんなんですね。えっとお代は、」
薫は、手で貴婦人のカバンからお金を出す手を制して、
「お金は、いらんよ。そのかわり、重病患者の家の案内と、俺が【エクリクス】から来た治療師と証明してもらえませんかねぇ? 証明しようがあらへんから頼めますかね?」
貴婦人に両手を合わせお願いや! と言った感じで頼むのだ。
それを快く了承してくれる。
薫は、ちょろいなと思う。
この異世界で、回復魔法の上級と【エクリクス】という単語は、かなりの力があるんだなと思う。
軽い名刺代わりのようだと、薫は思うのであった。
目当ての場所は、すぐ近くで、名前はオルビス家だそうだ。
そのまま二人は、歩きオルビス家に向かう。
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オルビス家正門前に着く。
「どうも~。ごめんくださ~い。オルビスさん、いらっしゃいますかぁ~」
その声に扉が、ガチャリと開く。
中から、メイドさんが出てくる。
ほんまもんのメイドさんやん! パチもんしか、見たことあらへんから新鮮や! などと思う。
「【エクリクス】から来た。治療師の芦屋薫です。大神官様からの命で来ました」
「!?」
薫の言葉に、メイドは反応する。
そして、貴婦人にも証明してもらう。
この貴婦人は、意外と有力者なようであっさりと薫を信用した。
「娘さんの病気のことで、新しい回復魔法を試してこいと言われましてね。どないしますか?」
そう言うと、メイドさんは慌てて家に消えていった。そして、数分後に出てきた。
「旦那様から許可が出ました。中へどうぞ薫様」
「ああ、どうも。お邪魔しますわ~」
からからと笑いながら、オルビス家の中へと案内される。
貴婦人とは、そこで別れた。
廊下の端には、絵画やら高そうな花瓶などが置かれている。
うわぁ、またごっつい豪華な家やなぁと溜息をつきながら歩いて行く。
目の前に、大きな扉があり。「どうぞお入りください」とメイドから指示がでる。
「ほんなら、患者とごたいめーん。って、あらら? なんや、この部屋の空気は……。葬式前ちゃうんやから、重っ苦しい空気やめーや。こっちまで滅入るわ」
薫は、ため息を吐きながら、少女の部屋へと足を踏み入れる。
そこには、父親だろうか。
その人とベッドで横たわった少女がいた。
親は、辛気臭そうな表情を浮かべ、薫を見て軽く会釈をする。
「どうも【エクリクス】から来ました。芦屋薫です。娘さんの容態を見てもいいですか?」
「わざわざ、遠いところからありがとうございます。私は、父親のカイン・オルビスです。それと、娘のアリシアです。どうか……娘を元気にしてやってください……。治して頂けるのでしたら、何だってお礼はいたします。」
その言葉を聞いた薫は、ウマそうな話やなぁと思う。
ちょっと、悪どい顔になるが、すぐに抑えて診察に入る。
「今から診察を始めますんで。少しの間、出て行ってもらってもええですかね?」
「一緒に居てはいけませんか? 私は心配で……」
「居てもいいけど。今から行う事は、やらんと病名がわからんから。周りがギャーギャー騒がんのんやったら、居てもええよ。騒いだら、出てってもらうがええか? こっちも仕事やし、集中せんとできへんからな」
ちょっと困った顔をする薫。
カインは、娘に何かしらするのであろうと思い、それを承諾するカイン。
薫は、カインが絶対に何か言ってくるだろうという確信があった。
ため息をつきながらアリシアに近づく。
横たわってる少女は、青く澄んだ髪色で、長さは肩まで伸び、ちょっとクセ毛で毛先が巻かれてある。
肌は、雪のように白く、顔立ちもよい。
瞳の青色は、どこか儚げに見えた。
正直、薫はあれ? 俺、ロリコンだっけ? っと勘違いしそうになるくらい美しかった。
「どうも、治療師の薫っていうんや。よろしゅうなアリシアちゃん。今から、診察するからちょっと服脱がすで? 恥ずかしいかもしれへん。でも、せんと何処が悪いかわからんからええか?」
笑顔で薫は、アリシアに言葉をかける。
アリシアは、一瞬その言葉に不安に思うのだが、薫の目を見て深く頷く。
薫の目が、仕事の目へと変わっていた。
先ほどまでのヘラヘラした感じではなく、心に重く響く。
信じろ、必ず救ってやるからと言ってるかのようであった。
薫は笑顔を作り、アリシアの頭を撫でる。
アリシアは頬を染め、じっと薫を見つめていた。
しかし、先ほどの言葉でカイン達は、つい騒いでしまう。
二人は、娘の服を脱がすの一言で取り乱す。
まだ、16歳の目に入れても痛くない娘のアリシア。
今日来た知らない男に、柔肌を見せるなどと思うと、つい言葉が出てしまう。
その瞬間薫は言う。
「ギャーギャーやかましいのう。こっちは、仕事や。それに、横からチャチャ入れるんやったら、俺は別に今すぐ帰ってもええんやぞ。治して欲しいんやったら、黙って出てってもらえるか? たかが、裸を見られるくらいで、何そんなに騒いどんねん。遊びとちゃうねん! このボケが!」
先ほどまでの軽い感じの人間が、ここまでの威圧感を放つとは、思えないというくらいの重圧に、二人は息を呑む。
背中には、冷や汗がだらだらと流れ、言葉を発することすらできなかった。
薫は、とりあえず出てってくれるか? と言い診察が終わるまで、カイン達を部屋から出した。
「すまんなぁ。アリシアちゃん、ちょっとびっくりさせてもうたかなぁ?」
「全然、私を治そうと思って、言ってくれた事ですから……。ちょっと嬉しかったです。」
アリシアは、頬を染め布団に隠れたくなるような仕草をしていた。
薫は、アリシアの寝ている布団の横に座る。
そして、アリシアを見つめて言う。
「じゃあ、さっさと病気を治したろうかな。治ったら何したいんや? あ、これはカウンセリングやから、適当に答えてくれてかまへんよ。生きたいって気持ちは、生命エネルギーを促進させるからなぁ。で? どうなん?」
「え、えっと治療師になって、病気の人を救ってあげたいです。自分自身が、こんなんですから……。もし、治ったらって思ってました。でも、どんどん身体が悪くなって……その夢もあk……」
そこで、薫が言葉で遮る。
「ええやん! 病気の苦しみを知っとるのと、知らんのとでは、患者の接し方が違うからなぁ。治ったら、俺が直々に教えたってもええで? 手取り足取りとな。最高の治療師にしたる」
アリシアは、目をパチクリさせて、そのあとゆっくり笑顔を作る。
「お優しいんですね。薫様は……。では、治ったら私を薫様の弟子にして貰えますか?」
「かまへんよ。そのかわり厳しいで? それでもええならな」
薫は、笑顔を作り頭を撫で言う。
「じゃあ、診察をするな」
薫は、アリシアの上着のボタンを外していく。
さらっと開けた先には、雪のように透き通った肌が見え、下着が現れる。
それに、ゆっくりと手をかけ、パチンと外す。
アリシアは、時折ぴくんと動き、少し震えていた。
露わになる二つの山の中心に、手を当てる薫。
アリシアの心音がよく手に響く。
薫の目は真剣で、アリシアの病の根源を探す。
「『診断』」
「『医療魔法ーーMRI』」
薫の脳内に、アリシアの心臓の情報が入ってくる。
MRIで、輪切りにしたかのような、立体的な情報も流れこむ。
そこで、ゆっくりとアリシアの胸から手を離す。
「う~ん。まぁ、やっぱそうやったかぁ」
「何かわかったんですか?」
アリシアは、開けた衣服を直しながら薫に聞く。
「ああ、アリシアちゃんの病気は、心臓の病気や。それも結構重度やな。病名は【拡張型心筋症】や」
「か、かくちょうがた、しんきんしょう?」
「外にいる二人も、呼んでからの方が説明省けるから呼ぶで?」
「はい」
そう言うと薫は、カインとメイドを部屋に呼ぶ。
二人は、慌てて入ってくる。
「で……アリシアの病気は、治るんですか?」
「お嬢様は、大丈夫なのでしょうか?」
「二人共、落ち着き~や。今から、説明するさかい」
そう言いながら薫は、アリシアのベッドに座り説明を始めた。
「今回、診断した結果わかったのんは、心臓の病気や。それも、かなり進行してかなり危ない。病名も言っとくで、【拡張型心筋症】っていう病気や。もっと早かったら、薬でどうにか出来るんやけど、ちょっと難しい状況まで来とる。あと、言うとくけど拡張型っていうのは、心臓の全体が、丸く膨れ上がって壁が薄くなる事によってなるんや。病気になって、たぶん自覚症状としては、体の怠さや運動時の息切れもあるなぁ。それと、横になると息苦しかったりとかタンや咳も増える多分当てはまるんやないやろうか?」
「はい、全て当てはまります」
「うん、よろしい。でや、治すんやったら、もう心臓の取っ替えしかあらへんけど大丈夫か?」
「「「っ??!」」」
三人は、目が点になる。
この人は、何を言ってるんだと言わんばかりの目線になる。
それもそのはず、この異世界に心臓移植はない。
異端と思われるかもしれないと、薫は思っていたが、そういう発想は、この異世界ではまだないのだ。
これから先、薫が同じことをしていて、何かしらの問題にはなるかな? と思ってもいる。
だが、現時点その発想がないのだから、やりたい放題できるのだ。
現代医療では、他人の心臓、血液型や適応するかどうかを調べる。
数項目をクリアしないと、移植は出来ない。
もしも合わない心臓を入れると、アリシアの身体が拒否反応を起こして死に至る。
だが、この世界では、魔法がある。
それも、薫が持ってる医学錬成。
これがアレば、心臓を錬成できる。
まさにドナーいらず、本人の血液と細胞で、作り上げれば拒否反応を起こすことはまずない。
あとは、薫の腕次第というわけだ。
日本では、考えられない高スピードで話が進む。
ドナーを探すのに何年と年月がかかり間に合わずに、亡くなる人も多いが、この異世界は違う。
薫がいるだけで、勝手に本人の最適な臓器を作り出すことができるからだ。
「で?どないすんねん。治してあとは、神のみぞ知る人生を送るか。このままにして、残りの短い人生を苦しみながら生きるか。さぁ、選び」
薫は、不敵に笑ってみせる。
その表情を見てカインは、考えこみアリシアを見つめる。
アリシアも、不安な表情をしていたが、薫の言葉に、自分で決めろという選択肢を与えられていると気づく、
周りから、ああしろ、こうしろ、と言われて決めていいことではない。
自身でちゃんと考え、そして見定めて、悔いの残らない選択をしろ、という事を薫は言いたかった。
薫の目をアリシアは見つめる。そして、
「心臓を取り替えてください。私は、薫様を信じます」
「うん、花丸やな。よう、自分で決めたな悔いはないな?」
「はい、自身で切り開いてみせます」
「まぁ、失敗はないから安心してええで? これでも、多少は腕に自信あるさかい」
薫はそう言いながら、目が一段と強くなる。
「そしたら、今から速攻で移植手術を行う。アリシアちゃんの部屋借りんで?」
「な?! ここでやるのか? 道具も何もないではないか! 信用できんそんなもの。それに、どうやって取り替える。替える心臓もないのに……どうやって……。それに、娘に万が一のことがあったら……。私は、お前を……」
「まぁ、焦りなさんなって。ちゃんと、準備出来とるから、安心してええ言うたやん」
そう言いながら、からからと笑う薫。
「しかし……」
カインは、自分の知らない魔法でアリシアが、死んでしまったらと思うと、不安に押し潰されそうになる。
でも、もしそれで治るのならと思うと、藁をもつかむ思いになるのだ。
カインの心は、どうしていいかわからず、めちゃくちゃになっていた。
薫は、そんなカインを見て言う。
「アリシアちゃんは、俺を信用してくれとるんやが。カインさんは、俺を信用できんのんか? それやと、失敗した時、何言われるかわからんし。やりとうないのう……。こっちも、背負うもんあるんや。人の命やぞ? 簡単に無碍にできるもんちゃうんや。あんたが信用できんと思って、俺に接するんやったら、それは俺にとってプレッシャーになるんや。もちろん失敗するつもりは、あらへんが。まぁ、絶対はないからなぁ。で? どうなんや、娘の命、俺にあずける事はできるんか? できんのんか? どっちや!」
カインに薫は、真剣な眼差しで問う。
「っ!!?」
どの道アリシアは、残りの人生このままでは、長くはない。
だったら、この薫の言う治せるという言葉を信じてみようと思うのだ。
「わかった。薫様を信じよう。娘を頼む」
「うん、ええ答えや。花丸や」
そのまま、部屋の中心に立ち手を前に出す。そして、自分の今欲しい手術室を脳内で望む。
「固有スキル……『異空間手術室』」
空間が歪みねじ切れる。
そこに、一つの入り口ができる。
その現象に、三人共パクパクとさせ薫を見る。
悠然と立つ。
薫は、「おお! ちゃんと手術室になってるやん」と思う。
内心ビックリしていた。
「じゃあ、行こかアリシアちゃん」
「は……はい、お願いします」
「あ~二時間くらいで帰ってくるんで。そん時は、よろしゅうな」
そう言って、薫とアリシアは、異空間の入り口に入っていった。
二人、異空間に入って行く姿をカインとメイドは、見守ることしか出来なかった。
「今は、信じて待つことしかできんのか…」
「旦那様…少し休まれたほうがいいかと。奥様には私が、今から連絡を入れに行きますので」
メイドは、そう言ってその場を立ち上がる。
「うむ、頼んだぞ。」
カインは、椅子に座り両手を合わせ握りこむ。そして異空間をじっと見つめているのであった。
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異空間手術室の中は、薫が望んだ通りの手術室になっていた。
無影灯で照らされた手術台。それの周りには、数々の道具が揃えられていた。
無い物を探すほうが、困難といった感じだった。
アリシアに、近づき頭を撫で「大丈夫や」と言いアリシアを抱え手術台の上へと運ぶ。
チョコンと乗っけられた。アリシアは、少し緊張気味だった。
「コレに着替えてもらってええか? 手術衣って言うんやけど。下着以外は、脱いでコレを着て、ここで待っとってくれ。あと、この帽子もつけてな」
「はい」
「こっちも準備するからな」
薫は、手術室の脇にある小さな部屋に入り、手術用の服に着替える。
小部屋で、手を洗い消毒する。
ブラシで、更に綺麗に洗う。
そして手術用の手袋をつけ、手術台へと向う。
そこには、手術衣と帽子を装着して手術台の上に仰向けになっていた。
目をつむり必死にこわばる身体を制御しようとしていた。
それを見て薫は、明るい声で言う。
「アリシアちゃん、もう少ししたら麻酔をかける。眠気が来ると思うから。そのまま寝てみ、起きたら全部終わっとるからな」
薫は、優しい声でアリシアに言う。
アリシアは、麻酔に関して知らないだろうが、一応教える。
アリシアは、頷いたのを確認してから、薫は準備を進める。
「『医療魔法――心電図・ベクトル1』」
「『医療魔法――血圧計・ベクトル1』」
薫の手の平に小さな青白いシールが出てる。
アリシアの身体にその青白い光のシールを貼っていく。
ステータス画面にアリシアの血圧と心電図の波長が目視できる。
ピっ……ピっ……っと、規則正しく脈打つ。
「『医療魔法――酸素マスク・ベクトル1』」
アリシアの口元に薄く青い膜が張られる。
薫は、全てを確認し完全に集中する。
「『医療魔法――全身麻酔・ベクトル1』」
アリシア体が薄っすらと光る。
アリシアの様子が少し変わってくる。
目が、とろんとした感じになり、視界がぼんやりとしだす。
薫は、それを見てもう少しだけベクトルを上げる。
すると完全にアリシアは、意識を手放し、眠りについた。
薫は、アリシアの口に指を当て医療魔法をかける。
「『医療魔法――人工呼吸器・ベクトル1』」
医療魔法により、アリシアの口が開き、気道を確保される。
そして、呼吸を開始させる。
薫は、麻酔を調整しながら、輸血用の血液も用意してセットする。
「医療魔法が、現代にあったらマジ楽やろうな。調整かなり楽やで。まぁ、ぶっつけ本番や。やりながら、感覚で覚えていけばええ……失敗はあらへん。さぁ、始めようか……いつも通りや。気合入れて行こうか!」
そう言いながらメスを持ち心臓移植手術を始める。
アリシアの胸部に、メスを入れる。
ツーっと血が垂れ、鮮血で染まっていく。
胸骨正中切開をし、そのあと心膜切開、サクサクと迷いのない動きで薫は、まばたきひとつせず。そのまま送脱血部位を露出させる。
それに、テーピングをし、体外循環に移行させる。
瞬く間にやってのける。
「『医療魔法――ヘパリン・ベクトル1』」
体外循環の時に、血が固まらないようにする薬を投与する。
凝固機能を魔法で測定し、十分な延長を確認し、人工心肺の送血管を挿入する、
そして、人工心肺の脱血管を挿入させる。
そのまま体外循環を開始させる。
「思ったより、早く終わりそうやな。てか、一人で何人分の仕事してんねんやろ。まぁ、医療魔法もわかってきたしええか」
今まで自分が、現代でしてきた手術が、あまりにも大手間をとっていたことがよくわかってしまう。
医療魔法は、すごいのうと思いながら正確に、そしてスピーディーに進めていく。
気管とその上部の皮膚を切開し、その部分からカニューレを挿入する。
続けて左心ベントを挿入させ、心臓の減圧と空気除去を行う。
大動脈遮断をして、心筋保護液を注入させる。
すると、先ほどまで脈打っていた心臓が止まる。
「心静止確認、低体温開始」
薫の魔法で、機械が動き始める。
「さてと、これからが正念場やなぁ」
薫は、そう言いながらアリシアの心臓を作る為に、血と細胞を採取する。
「『医学錬成・心臓』」
パァーッと左手の上が輝く。そのまま、拳ほどの心臓を精製する。
もちろん、アリシアの血と細胞を使っての錬成である。
「うわぁーお! マジで出来たし。これは、反則やで……。現代医学の革命やな……。この医学錬成は、ってあかんあかんさっさとせな」
そのまま、心臓を手順よく摘出し、新たな心臓を付け縫い合わせていく。
綺麗に、そして正確に、縫い付けられた心臓を見て、一回動かして漏れの確認もしないといけないかなと、思いながらも一つ試したいスキルがあった。
「『解析』」
すると、心臓がちゃんと動くこと、血液の漏れもなく起動することがわかった。
「なやこれ、マジチートやな。ワロけてくるわ。医療ミスなんて、これ使やぁ絶対起こらへんで」
そんな事を思いながら、体外循環離脱へと進めていく。
先ほどと、逆に進めていく。
心拍動再閉を確認して、医療魔法の『エコー』で、心内の気泡除去を確認してから心機能確認する。
医療魔法で『プロタミン・ベクトル1』を使い『ヘパリン・ベクトル1』を中和していく。
体外循環離脱させ、送脱血管、ベント、カニューレを外す。
そのまま、心膜縫合、胸骨閉鎖、閉創で手術は終わった。
「ふぅ……やばいマジ疲れやわ~。あ、そうやった。切開した傷は綺麗に消しといたろう。女の子やし気にしそうやからな」
薫は、そう言って回復魔法を掛ける。
「『完全治癒』」
大神官のみが、使うことが出来るという回復魔法を簡単に使う。
「すごいなコレ。縫い口が、無くなってもうたわ。あとは、コレもういらんやろ。閉創したさいに使った糸やけど……もうくっついとるやろうし」
薫は、そう言いながら取り外す。
眠りについているアリシアに薫は言う。
「よう頑張ったな。アリシアちゃん、これから楽しい人生送るんやで。俺は、これから金を貰って、うはうはするからな」
優しく頭を撫で、血の付いた胸部の肌を、消毒した布で綺麗に拭き取っていく。
麻酔と人工呼吸器の医療魔法を解除し、衣服を着せる。
少し時間が経つと、アリシアは意識を取り戻すが、まだ朦朧としている。
もう少し寝とき、と言うとまたアリシアは眠りにつく。
薫は、アリシアを抱きかかえ、異空間手術室を後にする。
手術時間は、わずか1時間足らずで終わった。
現在の医療では、どんなに頑張っても、3時間はかかる。
薫は、世界最新記録更新するのであった。
読んでくださった方感想までもほんとにありがとうございます。
前の作品行き詰まってるんでちょっと息抜きにこちらを書いてます。
次回は薫がお金をふんだくります。ではでは