後回しは最悪の事態の前兆?
日が傾き始めた頃。
薫とアリシアは、のんびりと海辺にいた。
風が心地よく二人は、散歩をしていた。
「気持ちいいですよ。薫様」
「そうやなぁ。落ち着いた気候やしな」
「こんなに気持ちいいと泳ぎたくなってしまいますね」
「そういや久しく泳いどらんなぁ」
「薫様は、泳げるのですか?」
「一応、ジムとかで1kmくらいは泳いだりしとったなぁ」
「じむ? というよりも1kmも泳げるのですか?!」
アリシアはビックリした様子でそういうのであった。
なぜ、そこまで驚いているのだろうと思う。
「なんや? 嘘やと思うとるんか?」
「い、いえ。でも、人を襲う生物もいるので、そんな距離をどうやって泳いだのかなって……」
「ああ、俺が泳いどったんは、人工的に作った池って言ったほうがええんかな? やからそういった生物はおらへんよ」
「な、なるほどです。世界は広いのですね。そのような場所があるのですね」
「いや、あるかは分からへんけどな」
アリシアは、薫の最後の言葉を聞いて、頭の上にクエッションマークを出しながら首を傾げる。
薫は、そんなアリシアの顔を見ながらカラカラと笑うのであった。
「そういえば、あのピンクラビィはどうするのですか?」
「そうやなぁ。治るか分からんし、元気になるまで置いといてもええかなって思っとる」
「そ、そうなのですか。やったのです。寝る前にもひゅもひゅさせてもらいます」
薫のその言葉を聞きアリシアは、パーッと明るくなるのであった。
本人は気付いているのだろうか。
アリシアは、全身で喜びを表現していた。
ぴょんぴょんとスキップをする。
ワンピースがフワフワと揺れちょっときわどい。
若草色のワンピースから白い肌がちらちらと見え隠れする。
薫は、サッと目を逸した。
少し、顔が赤くなっていた。
アリシアは、全くそんな薫の様子に気づかず、天使のような笑顔で薫の下に帰ってくるのであった。
天然か、これが天然なのか?
「薫様、顔赤いですけど大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫や。そろそろ戻るか」
「はい。やはり、食後のお散歩は気持ちが良いですね。眠くなっちゃいますけど」
「そうやな、アリシアはこの後、お昼寝でもしとけばええんやないか?」
「だ、駄目ですよ。薫様が、作ってくれた魔導書も読まないといけませんし、魔力コントロールの練習もしなければいけません。やる事が、いっぱいなのですよ」
鼻息を荒くしてアリシアはそう言う。
今回、アリシアに渡した魔導書は、回復魔法の中級編だ。
治療で多用する『重症回復』『体力中回復』『HP中回復』などである。
アリシアの魔力が膨大になったため、これらも扱うことができるのではないかと思い、薫は魔導書を作ったのだ。
二人は、手を繋ぎゆっくりと診療所まで帰るのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ファルグリッドの街を走る一人の亞人がいた。
額に汗を掻き息が荒い。
探求者ギルドの受付をしていた男だ。
「おいおい、インリケそんなに慌ててどうしたんだ? ヘマでもしたのかよ」
「うるせえ、今それどころじゃねーんだよ!」
受付をしていた時の落ち着きは、何処へやらといった感じで言葉を返す。
余裕が無いのだ。
そのままインリケは、治療師ギルドに走って行く。
「どうやって、治療師を見つけたんだよ……」
苦虫を噛み潰したような表情でうわ言のようにブツブツというのであった。
インリケは、治療師ギルドに着きドアを開け中に入る。
「おう、インリケじゃないか。どうしたんだ?」
気前の良さそうな亞人が、インリケに話しかける。
インリケはその男の下へ行き小声で話すのであった。
「おい、ダルクに治療師を紹介したんじゃないだろうな!」
「あん? するわけねーだろ。そう言う契約で金もらってるんだから」
「そ、そうだよな。それを破るってことは、キディッシュ様に逆らうってことだからお前はしないよな」
「お、おい。まさか見つかったのかよ治療師……」
「いや、まだ確認したわけじゃないから。このことは、黙っといてくれ。俺の手で何とかするから。これは、口止め料だ」
「あんまり無理するなよ。向こうの奴らもギルド【蒼き聖獣】が手を貸してるんだから、下手なことは出来ないぞ」
「わかってるよ」
そう言うとインリケは、席を立ち出口へと向う。
顔色は、以前良くない。
そのまま、キディッシュの下へと報告をしに行くのであった。
ファルグリッドで最もでかい屋敷にインリケは入って行く。
門番がインリケの姿を見ると一度止めて何をしに来たかを確認するのであった。
インリケは、例の事での報告と言うと、門番はインリケを無条件で通すのであった。
屋敷の中に入ると金銀のアンティーク品が所狭しと飾られている。
自身の財力をこれでもかと魅せつけるかのような配置であった。
「インリケさんですね。ご主人様がお待ちです奥へどうぞ」
「ああ、すいませんね」
メイドの格好をした亞人の者が案内をする。
モデル体型で出る所はでてなんとも魅力的に見える。
インリケは、息を整えてキディッシュの元へ行く。
「おお、インリケ来たか。ダルクの様子はどうだった? 早く聞かせろ」
「は、はい。あの書類を見せたら青ざめておりました。震えながらでございます」
「あはははは、いいな。俺もその場で見たかったぞ」
「あの場に居たら笑い転げてしまいそうですね」
インリケは、少し引きつりながらそう言う。
そのような様子を気にもとめず、キディッシュはダルクの苦しむ姿を思い浮かべ笑うのであった。
「俺は、期限の日は【ファルシス】に行かなくてはならない。インリケお前に任せるからちゃんと土産も持って帰るんだぞ。でないとヴォルドがうるせーからな」
「は、はい、任せて下さい」
嫌な汗を大量に掻きながらインリケは、その場をあとにするのであった。
大急ぎで、インリケは自宅に戻り、荷造りをする。
ビスタ島に行き、確認するためだ。
第一に、治療師がいるのであればそいつをどうにかしなければいけない。
最終手段は、殺してしまえばいいと思うのであった。
そう、初めから居なかったことにすればいい。
どうせ、金も集まるわけがない。
そんな事を考えながら、インリケは自宅の横につけている馬車に飛び乗り馬を走らせるのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
夕方に差し掛かった頃。
薫のいる治療院の前で、四人の大人が言い争っていた。
「カールお前が犠牲になれ。ほら、薫はお前に優しいじゃねーか」
「犠牲にって言ってる時点で後の言葉が息してねーじゃん! いやだよ。まだ死にたくない」
「カール、あんたが一人犠牲になるだけで私達は救われるの。安いもんでしょ」
「どーこが安いんだよ! ティストまでひっでー言いようじゃねーかよ!」
「いや、これは村をまとめる私の責任です。私の命でどうとでもなるのなら……」
「ダルクさんが死んだら誰がこの村を開拓するんだよ。その提案は論外だ!」
「そうよ。ダルクさんの命は安くないのよ!」
「ティストお前のお色気で、薫を骨抜きにしてしまえば……」
「無理よ! だって薫は新婚じゃない! 近づくことも出来そうにないわよ!」
「やはり、カールの命で……」
「なんだろう、俺すっげー悲しくなってきた。俺の命は安いのか? そうなのか?」
「カールさんあなたの命も安くないです。だからそんなこと言わないで下さい」
「だ、ダルクさんだけだよ。俺に優しくしてくれるのは……うぅ」
「な、なんで泣いてんだよ! ちょっと腕の2、3本持ってかれるくらいで、すめばいい方だと……あ」
「「「あ」」」
ちょっと不機嫌な薫が治療院の前で仁王立ちしていた。
ダルク達は、それに気づかずに大きな声で言い争っていたのだった。
「なんや、騒がしいと思っとったら帰っとったんか」
「か、薫何時からそこに居たんだ?」
「ついさっきやけど」
「そ、そうなのかー。おう、無事契約の更新もしてきたんで、また一月宜しくな」
「ああ、あんまり無理して怪我すんなよバッド」
「なーに、無理してでもやらなければならない事があるんだよ」
「ドヤ顔で、何言ってるんや。で? 他になんか用でもあるんか?」
「あ、あの薫さんじつh……」
「「「なんでもない、なんでもない」」」
「?」
ダルクが、探求者ギルドでのことを話そうとした瞬間、バッド達が口を押さえ制止するのであった。
もの凄く怪しい。
薫は、どうしたのかと思いながら言う。
「変なことしてどないしたんや?」
「なんでもないの。今日は、更新出来たって報告だけだから。じゃあ私達はこれで」
「明日から宜しくな~」
「そんじゃーなー」
「んぐ……んー……」
「あ、ああ。気いつけて帰れよー」
ダルクに何も言わせないまま、バッド達はダルクを抱えその場を後にするのであった。
まったくバッド達の行動が分からず、頭の上にクエッションマークを出しながら薫は、治療院へと戻るのであった。
「薫様、どうしました?」
「ああ、ダルクさんとバッド達が来とったんや」
「お帰りになってたのですね」
「なんかもの凄く怪しかったんやけど……まぁ、ええか」
「怪しい? ですか」
「まぁ、そのうち言うてくるやろ」
薫は、椅子に腰掛けパイン細菌を調べる作業に戻る。
アリシアは、頭の上にピンクラビィを二匹乗っけたまま魔導書を読むのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
宿屋の1階の食堂にバッド達はいた。
食堂は夜は酒場として開放してあるのだ。
「こんな時こそ、飲まなければやってられないぜ!」
「い、いや。こんな事してる場合ではないと思います。今からでも薫さんに報告した方がいいのではないかと」
「ダルクさん明日にしましょう。最後の晩餐くらいさせて下さい」
「さ、最後の晩餐なんて縁起でもないこと言わないでよね!」
「俺、もっと女の子とにゃんにゃんしときたかった……もうティストでいいからにゃんにゃんさせてくれぇー」
「はぁ、カール馬鹿言ってないで現実見なさいよ」
「こんなこと言ってないとやってられねーんだよ」
四人してかなりブルーになっていた。
そんな四人を遠目から見ている女の子が居た。
ニケである。
「楽しそうな話してますねー」
「「「「!?」」」」
「そ、そんなに驚かないでくださいよー」
「な、なんだ。ニケかよ……」
「あからさま嫌な顔はやめて貰えませんかねぇ」
「そうだ! ニケ。一生の頼みがある」
「お断りします」
「まだなんも言ってねーじゃん!」
「どうせ、カールのことだから如何わしい事に決まってますし」
「さすがニケ正解。私もさっき言われたしね」
「ち、ちげーし。そ、そんな頼みじゃないし」
「じゃあなんなの? 聞くだけ聞いてあげる」
「……ニケのその幼い体でにゃんにゃ(ry」
カールは最後まで言う事は叶わなかった。
俊敏な行動で、ニケはカールのこめかみに膝蹴りを放っていた。
カールは、そのまま机に突っ伏しぴくりとも動かなくなってしまった。
「聞いて損した。で? なんでこんなお葬式みたいな空気なの?」
「い、色々あるんだよ」
「知りたいよー、気になるよー!」
ゴロにゃんといった感じでバッドに引っ付き言う。
柔らかい胸がバッドの腕に埋まる。
鼻の下が伸びるバッドに、ティストは軽く咳払いをして睨む。
ニケは、おやっと思いながら、尻尾も絡めバッドにギュッと引っ付く。
更にティストは、不機嫌になる。
ニケは、ははーんと言った感じで、その場のピリピリした空気を楽しむ。
酒を片手にぐびぐびと飲みながら、ホロ酔い気分で良い感じになるニケ。
然し、ティストはそんなニケの首をひょいっと掴み、バッドから引き剥がす。
二マーっとした表情で、ティストの耳元でニケは囁くと、ティストは少し頬を染めながら、「そんなんじゃないわよ」と大きな声で反論するのであった。
バッドとダルクは、何の事か分からずきょとんとする。
カーッと赤くなるティスト。
その反応を楽しむかのようにニケは、「ごめりんこ」とティストに謝るのであった。
その一言で、ブチっと嫌な音が聞こえた気がした。
ニケは、やり過ぎたようだ。
「ニケ、あんたとも長い付き合いだけど、今日があんたの命日みたい」
「にゃにゃっ!!?」
「楽器になりたい? それとも闇市に流して一生、油ギッシュなおっさんの性奴隷として過ごすのとどっちが良い?」
「てぃ、ティスト。お目目が据わってるよ? そ、それにどっち選んでも私、バッドエンドだよぉ?」
「うん、死ね」
「嫌だよぉ〜。謝ったよ! 誠心誠意謝ったじゃん」
「何が、ごめりんこで誠心誠意謝ったって言えるのかしら? 舐めてんの? 私を怒らせてタダで済むと思ってんの!」
「だ、だずげでぇ〜。ダルクぅ。わだじ、両方ともやだぁ〜」
首根っこを摘まれたニケはジタバタと宙を掻くのであった。
「はいはい、ティストさん、そのくらいにしておいてあげてください。ニケさんも悪乗りしすぎです。今後は、気をつけてください」
頭を掻きながら、ダルクはそう言うのであった。
ティストは、渋々ニケを解放する。
「ダルクぅ、ありがと。本当に危なかったよぉ〜」
「命拾いしたわね」
ニケは、滝の様に涙をダバァ〜っと流しながらダルクの足に引っ付く。
プルプルと震えながらであった。
「自業自得ですよ。毎回、同じ事して学習能力が無いのですか?」
「うぅ……だ、だって、楽しくなっちゃうと止められないんだもん」
「はぁ……少しずつですが治していきましょうね。でないと本当に危ないですから」
先程までの葬式の様な空気は、どこへやらと言った感じになっていた。
「ダルクさん今回の件は、明日に回そう」
「そ、そうですね。今、そのような話ができる状態では無いですから」
カールは、未だ起きない。
ティストは、上の空といった感じであった。
それにニケが居ては、この話はできない。
今日の所は解散とした。
バッドは、帰り際にダルクに釘を刺す。
勝手に一人で、薫の所に報告しにいかない。
これだけを約束させ別れた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
辺りは真っ暗で、波の音だけが聞こえる。
インリケは、ビスタ島を目の前にして途方に暮れていた。
「クソ、何で陸の道がないんだよ! おかしいだろ」
イライラが増すインリケ。
ついつい口が悪くなる。
「いや待てよ……泳いで渡れば、誰にも気付かれずに島で行動できるじゃないですか!」
先程のイライラは、何処へやらといった感じでニヤリと笑うのであった。
馬車を森に隠し、インリケは服などをアイテムボックスに収納し、海へ飛び込み泳ぎだす。
「待ってろよ! ダルク達め! 今日、啖呵を切った事を後悔させてやる」
インリケは、犬掻きで泳ぎ渡るのであった。
大体、本土からビスタ島まで1km有るか無いかだ。
亜人であるインリケの体力はかなり高い。
それにこの海域は、穏やかで海流で流される事は無い。
時間を掛ければ、渡り切ることは容易いのである。
インリケは、ニタニタとしながら泳ぐのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夜の10時頃だろうか。
治療院の居住スペースで、薫は紅茶を飲みながらパイン細菌の纏めに入っていた。
筆を走らせながら、細かい箇所に補足も書いていく。
そんな薫の様子を、アリシアとピンクラビィ2匹で、ベッドの上からジッと見つめるのであった。
カリカリとリズム良く筆が走る。
それを目で追うのであった。
アリシアは、興味津々といった感じだった。
少ししたら、アリシアの頭の上にいた2匹は、ベッドにぴょんっと着地し、大きな伸びを1回して枕の上に陣取り、スースーと寝息をたてるのであった。
アリシアは、その一部始終を余すことなく脳内に保管するのであった。
うっとりとして、撫でくりまわしたい気持ちを抑えながらである。
折角、警戒心を解いてくれたので、極力自分からは触らないようにしていた。
一日中、眺めていても飽きないと思いながら、薫の方をまた見る。
アリシアは、薫を観察して見る。
動きのある手に目がいってしまう。
薫の手は大きいが、指は細く長かった。
綺麗な手と思いながら、アリシアはジッと見つめる。
あの手で頭を撫でられると、体がポカポカしてしまう。
魔法の手なのだろうかと思いながら、アリシアは撫でられたいなと思い、物欲しそうな顔になる。
その瞬間、なんとはしたない事を考えているのだろうと思い、煩悩と葛藤する。
ポカポカと頭を叩きながらであった。
ふと窓の方を見た瞬間、カーテンの隙間から何か光る目と目が合う。
「え?」
アリシアは、青ざめる。
その光る目は、スッとゆっくりと消えていった。
薫は、集中していて全く気付いていない。
アリシアは、怖くなりベッドから降り、薫の下へと駆け寄る。
「か、薫様。い、今、窓の所に誰か居ました」
「え?」
アリシアの声で、薫は作業を中断する。
アリシアは、涙目になりながら薫に言うのだ。
かなり動揺している。
声も震えていた。
薫は、警戒態勢に入る。
威圧のみをこの診療所を中心にし放つ。
アリシアは、椅子に座る薫に抱き着き服をぎゅっと持つ。
薫は、何処の誰だと思いながら苛立つのであった。
「た、多分ですが。亜人族の方だと思います。目が緑色に光ってたので……」
「この島で、そんな悪さする奴なんて……すまんアリシア。心当たり多過ぎて誰か分からんわ」
薫のその言葉にアリシアも考える。
すると、アリシアにも心当たりのある人物が、数人浮かぶのであった。
「あ……そう言えばそうですね。に、ニケさんとか辺りがしそうです……」
「あいつなら、やりかねへんからなぁ〜。ちっちゃくてすばしっこいし」
「薫様、ガツンと一回厳しくすべきですよ」
「ど、どうしたんや? そんな怖い顔して、別にそこまでせんでもええんやないか?」
「薫様は優しすぎるのです!」
「そうか? まぁ、明日にでも締めとくか……」
「それがいいです。人様の家を盗み見るなんてやっちゃ駄目なことですよ」
「でもニケじゃなかったらどないするんや」
「うぅ……。その時は全力で謝ります」
「ならええか。あいつの日頃の行いも積もってのあれやしな」
薫は、そう言いながら、威圧を解除していく。
アリシアの頭を撫でるといつもの笑顔に戻っていく。
「やっぱり笑顔のほうがええな」
「そ、そんな事言うのは卑怯です! 不意打ちは駄目なんですよ」
「そう思ったからそう言っただけやで。ほれほれ」
「ん……」
喉を鳴らしながら嬉しそうに撫でられる。
「さて、さっさと寝るか。明日も早いしな。それにアリシアは、魔法を試してみんとな」
「う……。も、もう少しだけ撫でてて貰えませんか? その、駄目ですかね」
「寝るまでならええよ」
薫の言葉にアリシアは、ぴょんっとベッドに入りスタンバイする。
「が、頑張って起きときます!」
「いや、そこは寝てくれんと俺寝れへんやん」
「薫様の手は、魔法の手です。凄く気持ちいいのです」
「ほう、ほれ。わしゃわしゃ」
「そ、それはちょっと違います。凄く雑に撫でてます。寝れないです」
ちょっと力を入れ撫でるとアリシアはジト目で睨んでくる。
薫も、からからと笑いながらベッドへと入るのであった。
「って、こいつら俺の枕を占領しとるな……」
「可愛らしいのです」
薫は、二匹とも耳を掴みちょいっと持ち上げる。
その行動にアリシアは驚き、薫の手からピンクラビィを回収する。
「薫様……雑すぎますよぉ! 可哀想ですよ」
「あー、す、すまん。なんかいい顔で寝てるもんだから、つい邪魔しとうなってもうた」
アリシアは、ピンクラビィ二匹を優しく胸に抱えまるまった。
色々注意したいことがあったが、まぁいいかと思い薫も寝っ転がる。
薫は、ブランケットを体に掛け、目を瞑り寝そうになると、アリシアが薫の耳元で、囁くのである。
「撫でてくれないのですか……。薫様は嘘つきなのですか……」
悲しそうな声で囁かれ寝ように寝れない薫。
「じょ、冗談やって別に忘れとったわけやないで」
「嘘です。一瞬で眠りにつく勢いでした」
「じゃあ、もう少しこっちよってくれ」
「はい」
もごもごと動き薫の側によるアリシア。
ピンクラビィを起こさないようにゆっくりと近づいてくる。
そして、薫から撫でられながら、アリシアは眠りにつくのであった。
幸せそうなアリシアの表情を見て、薫も眠りにつく。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ビスタ島の迷宮近くの草むらで、脂汗を掻くインリケが居た。
肩で息をしていた。
「何だあの化物は……。おかしいだろあんな魔力を保有してる治療師なんて聞いたこないぞ」
そう言いながら地面に這いつくばり、頭を抱えるのであった。
治療院の中を覗いていたのは、インリケであった。
アリシアと目が合い、やばいと思った矢先の威圧にやられ、死にたくなるほどの恐怖を感じた。
薫がそのように調整して放っていた。
二度と覗きはするなとの警告だったのだが、インリケはこの島の住人ではない。
薫の威圧を受けるのは初めてであった。
それ故に、想像を絶する感覚が襲い今に至る。
足腰に力が入らず。
意識こそ保っているが、殆ど戦意喪失していた。
「くっそ……。あのちっこい女だけなら何とかなりそうなのに……。もう放棄して逃げるか。いや、それも難しいか。何かこの失敗の穴埋めができる物がなければ……」
インリケは、そう思いながらなんとか思考を走らせるが全くいい案が浮かばない。
アリシアを人質にして脅しても一瞬で、自身が殺されるだろうと確信できる。
お手上げ状態になってしまった。
今は、ただ脳が周ってないだけだと思い込まなければやっていけない。
朝になってから考えようと思い、人目につかない高い木の上に何とか上り、そこで仮眠をとるのであった。
朝になればこの最悪な状況を打破できる案が浮かぶことを信じて。
読んでいただいた方、感想書いてくださった方、Twitterの方にもコメント有難うございます。
のんびりと書いていきますので宜しければ見てやって下さい。
進みが悪いですね。
もっとスピーディーに進めれるようにしたいのですがなかなか難しいです。
では、次回も一週間以内に上げたいと思います。




