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ピンクラビィとアリシア

 夜中に診療所を叩く音がする。

 薫は、その音で目が覚め、ベッドから出る。

 急患などでの急ぎの際は、起こしてくれれば行うと言っていたからだ。

 そのまま眠い目をこすりながら、診療所の扉を開ける。

 然し、扉を開けても人っ子一人いない。

 おかしいなと思いながら周囲を見渡す。

 夜中の為、殆ど光は灯っていない。

 薫は、イタズラか何かかと思いながらベッドへと戻った。

 そのまま、直ぐに睡魔に襲われ眠りにつくのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 朝日が心地よく眼が覚める。

 ホワホワと触り心地の良い感触が、薫の頬を撫でるのである。

 その違和感に気づき、薫は横を向くとアリシアの顔は見えず、綿飴のようなピンク色の物体が見える。

 薫は、ぼーっと見つめながらその綿飴のような物体を突く。

 するとぴょこんと耳が立ち上がる。

 薫は、それが何なのかを理解した。



「ピンクラビィ……なんでお前おんねん」



 そう言いながら薫は、両耳を掴みひょいっと持ち上げる。

 ピンクラビィは、大人しく此方を見ながら、何かを訴えているようにも見える。

 そんな気がした。

 薫はアリシアの方を見ると、アリシアも小さく丸まった状態で、何かに頬ずりをしながら、幸せそうに眠っていた。



「ふ、増えとる……」

「きゅ?」



 一匹は薫が捕まえて、もう一匹はアリシアが、捕獲していた。

 可愛らしく鳴くピンクラビィ。

 無垢な顔でじっと見つめてくる。

 何時の間にこの治療院に入ったのだろうと思う。

 すると、思い当たる節があった。

 夜中に治療院を叩く音がした。

 ドアを開けたが誰もいなかった。

 その時に侵入したのかと思うのである。

 然し、アリシアの抱えるピンクラビィは、少し様子がおかしい。

 薫は、そっとアリシアの抱えるピンクラビィを救出し、『解析』を掛ける。



「成る程な。パイン細菌か……」

「きゅーきゅー!」

「えーい! 鬱陶しい」



 薫が、両耳を持っていたピンクラビィは、ジタバタとして泣きじゃくるのである。

 気が散って仕方なかった為、薫は先程からピンクラビィを失い、彷徨うアリシアの手元に軽く投げ生贄にする。

 アリシアは見事キャッチし、撫で回すのであった。

 とても幸せそうで何より。

 薫は、弱っているピンクラビィに『体力中回復エイルヒール』と試しではあるが、薬を『医療魔法ーー点滴』で投与してみる。

 効くかどうかはわからない。

 人や亜人には効くはずだが、ピンクラビィの弱った姿を見て、少しでも楽になればという感じでの行動だった。

 処置を終えてベッドの上にそっと置く。

 するとアリシアの方から殺気を感じた。

 慌てて振り返る薫。

 するとコンっと良い音がする。

 アリシアは、悶えながらクネクネとしていた。

 幸せそうだった顔は、苦痛へと変化していたのである。



「ど、どうなっとるんや? な、鍋がなんでこんな所にあんねん」



 悶えながらもアリシアは、ピンクラビィを離しておらず、何とかその感触を味わい尽くそうとしていた。

 薫は、呆れながらそれを観察していると、ピンクラビィの体が青白く光る。

 その状態のピンクラビィを『解析』すると『運吸収ラッキーバースト』状態と表示される。

 薫は、ちょっと面白そうと思いそのまま放置していると、天井からポンッと小ちゃな鍋が現れ、アリシアのこめかみ目掛けて落下するのである。




「あぅっ〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」

「きゅーきゅー!」



 クスリと笑い。

 コントでもやってるのかと思いながら、薫はピンクラビィを救出する。

 これ以上、アリシアにたんこぶが出来るのは、いけないと思ったからだ。



「知能は高いんやろうか?」

「きゅ?」



 首をかしげるピンクラビィ。

 手のひらの上に乗っけていたピンクラビィは、薫の手をつたって頭の上に陣取るのであった。

 アリシアに捕まらない為の行動なのだろうか。

 そんな事を思いながら、そろそろアリシアを起こさないと、朝の治療に間に合わなくなる。

 ピンクラビィで、時間を使ってしまったので、アリシアを起こす手段は、最終手段を執行する事にした。

 アリシアは、笑い転げて起きるのであった。

 二人は食卓に着き、パンを頬張る。



「酷いです酷いです! 擽るのは、最終手段って言ったじゃないですか! それに頭ががんがんします」

「時間なかったし、しゃーないやん」

「そ、それに、薫様。私のピンクラビィのぬいぐるみを頭に乗せてなにやってるんですか!」

「ぬいぐるみなんて乗っけてないで?」

「ふぇ?? げ、現に乗っけてるじゃないですか!」



 パンをもしゃもしゃと食べながら、薫の頭に乗るピンクラビィを指差し言うアリシア。

 確かに、アリシアが持っていたピンクラビィのぬいぐるみの中に、このサイズはあった気がするが、何故本物と気付かないのだろうと思いながらパンを齧る。

 それに、アイテムボックスは所有者が許可しないと開けられない。

 だから、ぬいぐるみを出す事は不可能なのだ。

 然し、薫の頭の上に乗っけているピンクラビィは、微動だにしない。

 完全にぬいぐるみといった感じだ。

 アリシアに撫でくり回されるのが嫌なのだろう。

 やはり知能数は高いのだろうかと思う。

 それに、ベッドの上にもう一匹丸まっているのにも気付いていない。

 頬を膨らませ、アリシアはふてくされる。

 そんな、アリシアに薫は言うのである。



「アリシア普通に考えてみ。アイテムボックスは、アリシアの許可がないと開けられへんのんやないんか?」

「……?!」

「お! やっと気付いたか」

「薫様! 私が眠ってる間に無理やり……ですね」

「なんでそっちにいくんや……俺は、ピンクラビィそこまで好きやないで」



名推理をしたかのような表情で、薫を指差し言う。

顔が赤いのはおいておこう。

完全にアホな子になっている。

起きたてだから仕方ないかと思いながら、薫は頭を掻くのであった。

もう面倒になり、薫はぬいぐるみとして通す事にした。

気付いたら言えばいいかと思うのであった。

食事を済ませ着替える。

治療院を開ける時間になったので、薫達は院を開ける。

時間通りに開くと、待ち構えていたように怪我をしたバッド達が入ってくる。

いつもと変わらない感じで、治療を進める。

誰も薫の頭に乗っているピンクラビィを突っ込まない。

皆いつもと変わらない感じだ。

その原因は、アリシアにあった。

この島にいる者は、アリシアのピンクラビィ好きを知っている。

そして、薫がぬいぐるみなどを商人から買って、アリシアに渡したりといった行動を見ているから突っ込みがないのだ。

まさか本物のピンクラビィとは、皆も思わないから仕方がない。

警戒心が強く、普段は殆どお目にかかる事など無い。

何故かやるせない気持ちになる。



「薫、俺ら今日で1ヶ月だから【ファリグリッド】に一旦戻って依頼の更新をしてくるからな」

「そうか……もう一ヶ月か早いなぁ」

「ここは過ごし易いしな。あと【ファリグリッド】では、あんまり良い探求者は居ないからな。それだけ気を付けろ。ダルクさんの頼みでこっち来たけど、あの街は腐ってるよ」

「そうか……。まぁ、お前らが居てくれれば一安心やな」

「おう! 任せとけ。それに世話になったからな、ダルクさんには。それじゃあ、夕方には戻るぜ」

「気いつけて行ってこいよ。バッド」



治療は終わり、バッド達は帰っていった。

患者の居なくなったとたんにアリシアは薫の目の前に立ち言う。



「薫様! そろそろ返して下さい」

「はぁ……アリシアよう見てみ」

「?」

「これ、本当にぬいぐるみに見えるか?」



薫の問いかけにアリシアは、首を傾げ困った顔をする。

ジッとピンクラビィを見つめる。

なんだか幸せそうな表情になる。

どんだけ好きなんだよ。

そして、その暑い目線に耐えられなくなったのか、ピンクラビィが目線に入らない角度に逃げるのだ。



「ほ、本物ですね!」



鼻息を荒くさせビシッと指差し言う。

気づくのが遅すぎる。

そんな自信満々に言われるといっそ清々しさを感じる。



「ほい、正解」

「な、なんで薫様頭の上にピンクラビィが乗っかってるんですか!!? 羨ましいです代わって下さい! ぜひ、もひゅもひゅさせて下さい」

「後半なんかおかしかったけど……まぁ、ええか。今日の夜中に入り込んだみたいや」

「なんで言ってくれなかったんですか!」

「いや、ぬいぐるみと勘違いしとったし。寝ぼけてるアリシアに言っても聞いてないやん」

「ぐぅ……」



うーっと唸りながらアリシアは言うが、寝たままの状態でかなり味わってたのだが。

そんな事は知らないといった感じで言う。

どんだけ必死なんだ。

命をかけているのか?



「取り敢えず、こいつらをどうにかせんとあかんねん」

「……こいつら?」

「ん? 誰も一匹なんて言ってないで」

「ふ、複数居るのですね」



何かのスイッチが入ったかのように、むくりと背筋を伸ばすアリシア。

今にも、居住スペースに猛ダッシュをかけそうな勢いだ。

面倒なので、軽く釘をさす。



「病気やから、触ったりとかしたらあかんで」

「うぅー、薫様ばかりずるいです。私も触りたいです。一回も触ってないんですよ」

「寝てる時かなり撫で回しとったやん」

「……」



ぽーっとした表情で薫を見る。

軽く説明してあげるとアリシアは、四つん這いになり凄まじい勢いで後悔する。

床をポカポカと叩きながらほろほろと泣くのである。

何故こんなに警戒されているのかを理解したのだ。



「私は、アホの子です。欲望を満たすだけの為に、嫌がるピンクラビィちゃんにそんな事をしてしまったなんて……」

「どんだけ落ち込んでんねん」



あまりにも可哀想なくらいの落ち込み方に、薫は頭に乗ったピンクラビィをひょいっと掴みアリシアの頭に乗っける。

ピンクラビィは、フルフルと震えながら警戒心マックスになる。

薫は、ピンクラビィの頭を軽く撫でてやると落ち着きを取り戻す。

アリシアは、頭の上のホワホワした感触に表情が崩れる。

四つん這いのままのピクリとも動かないのであった。

ピンクラビィが落ち着くまで、そのままの状態でいる。



「か、薫様もう動いてもいいですか?」

「ええんやないか。警戒はしとるみたいやから、手で触ろうとせんかぎり大丈夫やろ」



ゆっくりアリシアは立ち上がる。

それに合わせピンクラビィは、アリシアの頭の上で位置を調整しながらもぞもぞと動く。

天にも登りそうな表情でアリシアは椅子にちょこんと座る。

手乗りするくらいの大きさなだけにかなり軽い。

まぁ、重くても今のアリシアなら、苦でもなんでもなさそうと思うのである。

そんな事を思っていると、治療院のドアを叩く音がする。



「薫さん、いらっしゃいますか?」



聞き覚えのある声に薫は返事をし、ドアを開ける。

ドアを開けるとそこには、栗色の髪の毛をポニーテールにし、白のワンピースを着た女性が立っていた。

可愛らしく、スタイルも良く、モデル体型と言えばいいだろうか。



「あー、ダルクさんの奥さんか。どないしたんや?」

「ルナさんですか? こんな時間にどうしました」



薫とアリシアはそう言う。

不安な表情で、何か言いたげな雰囲気を醸し出していた。



「取り敢えず、薫様、中に入ってもらいましょうよ」

「そうやな。ルナさんどうぞ」

「ありがとうございます」



ルナは頭を下げる。

三人は、治療院に入り椅子に座る。

アリシアは、飲み物を入れる為席を離れた。



「どないしたんや? こんな朝早ようから」

「ダルクの事でちょっと……」

「なんや? 又なんかやらかしたんか?」

「その……かなり追い詰められてる感じで……私は、貴族なんてどうでも良いんです。三人で、のんびり暮らせれればそれで」

「なんかなぁ。多分やけど、貴族から落ちたら何されるか分からんで」

「……」

「こういう面倒なことする奴は、大体粘着するからなぁ。それやと奥さんと子供が危なくなる。それ分かってるから、ダルクさんは頑張っとるんやと思うで」



薫の言葉にルナは、黙ってしまった。

薫は、頬杖を突き考える。

リースの時もそうだが、面倒な奴が多いと思うのである。

カインのような人間もいるが、欲望のままに行動する奴まで貴族になれるのは、考えないといけないのではないかと思うのだ。

帝国が力を失っているからと聞いたが、ここまで酷いやつらを野放しにしていること自体、あり得ないのではないかと思う。

何か裏で動いてる奴でもいるのかと思いながら、薫は思考を走らせる。



「どうしたらいいのか私わからなくて……娘もやっと出来たんです」

「そうか……亜人とじゃ出来にくいって聞いたなそう言えば」

「か、薫様、そんな事を言っては駄目ですよ! デリカシーが無いですよ!」



アリシアが飲み物を運んで来た。

少し顔が赤い。



「良いのよ。本当ですし」

「にしても、ルナさん若いよな」

「うふふ、21歳ですよ。まだまだ現役の冒険者ですからね。あなたたちには負けないわよ」



少し笑顔が戻る。

そして、ルナはアリシアを見て少し意地悪な顔で言うのだ。



「アリシアさんも、子供ができたら毎日が幸せになるわよ。まだ作らないの?」

「あっあぅ……」

「真っ赤になって可愛いわね。アリシアさんは」



たまに、こうしてアリシアはルナに揶揄われるのだ。

新婚と聞いてやはり恋愛の話などをしてたりもする。

ルナの家に行き遊んだりなどしていた。

ダルクが留守の間、ルナの様子が心配とのことで、薫がアリシアに頼んだのだ。

ストレスで、体を壊す人も多い。

ダルクもそうだが、かなり疲れきっている。



「まぁ、この際嫌がらせしとるやつを締めれば解決しそうなんやけど」

「相手が悪いわ。目を付けられたのが、【ファグリデッド】のキディッシュと【ファルシス】のヴォルドこの二人よ。ウルフ族の中でも元々上位種の二人ですから……」

「ウルフ族って温厚な方が多いと聞きましたが?」

「そうね。温厚な方が多いのですが……。あの二人は別ですね。元々、帝国に仕えていた貴族でキャンベルウルフ族と言います。その中で、かなりの荒くれ者と言われています」

「元から貴族か……面倒いな。いや待てよ……」



薫は、思考を走らせる。

ちょっと悪そうな顔で笑うのである。

アリシアとルナは、嫌な予感がする。

今までに、薫がこのような顔した後には必ず事件が起きていた。

小規模ではあるが、このビスタ島にとっては方向に進む事件であった。



「薫様駄目ですよ。目立つ行為は、め! です」

「今まで見つからんように、穏便に済ましとるやん」

「そ、そうですけど……」



この島に入ってきた不埒な輩の退治をしていた。

顔見知りしかいない中で、知らない者が入ると目立ってしまうのだ。

それを薫は、いち早く察知し、ひっ捕らえて軽い拷問をするのであった。

薫は、気を失わせて捕らえた者を砂浜に埋め、海が満ちる時刻にその者を起こして、早く喋らないと死ぬぞと脅して吐かせていた。

薫は、顔を見られる事なくそのような事をやっていた。

なので、薫が居るという情報は、外には流れなかった。

殆どが、賊という事もあり関係の無いものであった。



「アリシア大丈夫やて。向こうから仕掛けん限り俺も動かへんし」

「な、ならいいんです。薫様は、無茶ばかりしますから心配なだけです」

「本当仲良いわね。ちゃんとお互いが言いたい事を話せるのが羨ましいわ」

「ルナさんもちゃんと話せば、ダルクさんもわかってくれると思うで」

「はぁ……。私は言ってるんですが。旦那がねぇ……」

「大丈夫ですよ。ダルクさんこの前、ルナさんの事良き理解者って言ってましたし。ね! 薫様」



アリシアは、ルナにそう言って励まそうとする。

ちょっと必死なアリシアを見て、クスリと笑いながらルナは、「ありがとう」と言うのであった。

その後は、他愛のない話をした。



「ごめんなさいね。時間取らせちゃって」

「これも仕事の内やからかまへんよ」



ルナは、薫の言ってる事がわからなかったが、軽く会釈をして帰っていった。

アリシアも不思議そうに薫を見る。

何となく聞きたい事が分かった薫は、先に口を開く。



「仕事の内って言ったのが引っかかるんやろ?」

「……はい」



申し訳なさそうに言うアリシア。

薫は、精神科の治療も兼ねてルナに対応していた。



「アリシアにはまだむずかしいかも知れんけど……」

「だ、大丈夫です」



薫は、ルナの話を聞くということが仕事であると言った。

今現在、ルナやダルクなど中々、仕事の話などできない。

ましてや、行き詰まりそうな事などを住民に話すことなど出来ない。

これらを、ずっと心に溜め込み過ぎると、いつか爆発するのだ。

適度なガス抜きが必要と言っていい。

その一種で、話を聞くと言うのも立派な治療になるのだ。

過度にストレスを受けると、鬱などになり取り返しの付かない所まで行くこともある。

これらをアリシアに、噛み砕きながら説明する。



「今は、まだわからないことも多いですが。スキルに閉じ込めたので、見返してみようと思います」



やる気に満ちた顔でそういうアリシア。

薫は、アリシアの頭をクシャクシャと撫でた。

その時、ピンクラビィが居ないことに気づく。



「ピンクラビィ何処行ったんや?」

「ベッドで二匹とも丸まってますよ」



二人は、居住スペースに戻り、アリシアはピンクラビィを見ながら笑うのであった。

幸せそうで何よりと思いながら。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




お昼頃、ダルクとバッド達は【ファリグリッド】に到着した。

四人は、初めに探求者ギルドへと向かう。

ギルドには、人で混み合っていた。

バッド達の契約更新のための書類を出すためだ。

カウンターに着くと、やる気のなさそうな亞人の受付が対応した。

書類に目を通し、名前の欄を見ると「ちょっと待っててくれ」と良い裏に入る。

バッドは、嫌な予感がしダルクに耳打ちする。

現在、ビスタ島には冒険者ギルドなどはない。

そのため最寄りの街の冒険者ギルドなどで、手続きをしなければならない。



「ダルクさんちょっと厄介なことになりそうだ」

「ええ、私もそんな気がします」

「大丈夫だって、俺にちょっかい出すアホはそうそう居ないからな」

「そうだよ。なんたってギルド【蒼き聖獣】に所属してるんだしね」

「そうそう手は出してこねーよ。だが、用心したほうがいいかもな」

「バッドさん、カールさん、ティストさんほんとに有難うございます。でも危なくなったら逃げてもらってもいいです。あなた方に何かあっては、あの人に合わす顔がありませんから」

「な~に言ってんだよ。俺ら悪友だろ? なんか会ったらそん時考えりゃいいさ」



そんなことを話していると受付の者が裏から戻ってきた。

何かの書類と一緒にである。



「ダルク様ですね。大変お待たせしました。こちらが更新許可書です」

「ありがとう。ではこれで……」

「あー、それとこちらもです。探求者の派遣や依頼書の作成、商人の派遣書に何度も治療師を要請する書類のせいで、こちらも多大な遅れが生じております。迷惑極まりないですね」

「は、はぁ……」

「よって、ファリグリッドに多大な損害が出ておりますので、その賠償金ということでキディッシュ様から徴収しろと言われております」

「!!!?」

「おい! そんなこと今まで聞いたことねぇぞ!! どう考えても関係のないところがあるぞ。俺らは、お前らのところとは関係ないはずだ!」

「そうよ! あんた舐めてんの! 賠償請求って聞いたことないわよ」

「あー、なんだろうなぁ。俺切れそうだわ」



いきなりの賠償金を払えと言われダルクは、気が動転していた。

今までそんな事例はない。

出来なくはないがそんなことをすれば住んでる者は反乱などを起こす。

普通はしないが、キディッシュはそれをしてきたのだ。

まだ、軌道に乗れていないし、街としての機能が動いていない。

そのため、ダルクはファリグリッドの街を利用しなければならない。

ダルクは、奴らが完全にこちらを潰しにきたかと思うのである。



「そ、それでいくらですか……」

「お、おい! ダルク何考えてるんだ」

「百万リラです」

「マジでふざけすぎだろ! 今、ビスタ島を開拓途中のやつに百万リラの請求とか払えるわけねーだろ!」



受付の者は、眉一つ動かさずにたんたんとそういうのであった。



「支払えない場合は、なにかそれ相応の対価でもいいと言われております。例えば……あなたの奥さんとかねぇ」

「……!!!」

「おい……。まさかとは思うがそれが目的じゃねーだろうな」

「なんのことですか? 私は、この文章に書かれている通りのことを言っているまでですよ」

「お前、頭おかしいんじゃないの! 普通じゃないわよこんなの」

「私に言われましても困りますね。私は、タダの探求者ギルドの受付に過ぎません。なんの力もないのですから」



いやらしい目つきで四人を見る。

まるで楽しんでいるかのような感じに見えた。



「帰るぞダルク!」

「では、書類だけ渡しておきます。一週間後に徴収に参りますのできっちり集めておいて下さいね」

「同じ亞人同士でもえらい違いだね」

「同じ亞人? そんな下等種族と一緒にしないで下さい。あなたの目は節穴ですか? ダークエルフさん」

「ぐっっ!!!」



ティストは、目を血走らせ今にも受付の男をぶん殴りそうな勢いだった。

しかし、それをバッドが止めた。

ギルド内での戦闘はご法度なのだ。



「あー、そうだいいこと教えといてやるよ! もう治療師は見つかったから、このファリグリッドにはもう用はねーって事だけ言っといてやるよ。あとは、書類をこの街じゃない所に出せばガイドとギルドの設置が可能だ。残念だったなクソ亞人が!」

「ば、馬鹿な! 治療師がみつかっただと!」

「あー、焦ってやんの! 見つかるわけ無いと思ってたんだろ? そうだよなぁ、なんせお前らが圧力かけて止めてるんだからなぁ」

「そうよね。あんたはタダの受付だもんね。この失態もあなたには関係ないんじゃないかしら? だから、そんなに焦ることないと思うわよ。まぁ、そこら辺の管理を任されていたのなら命ないかもね」

「あ、ありえない……そんな馬鹿な……」

「じゃあ、一週間後に支払い済ませてやるよ。その時には、もうこの街とは関係なくなってるけどな、がははははは」



バッド達四人は、探求者ギルドをあとにした。

そして、馬車に乗ってファリグリッドを出る。

10分ほど過ぎた途端にバッド達は、脂汗を掻きながら焦るのであった。



「やべーよ。マジでこれは大問題だ!」

「どうすんだよバッド! もしかしてだけど治療師って薫のことだよな! お前命の灯火消えるぞ」

「い、勢いでついやっちまった! 後悔しかしていない! ティスト、お前の色仕掛けで薫をどうにかしろ!」

「言い出しっぺは、バッドでしょ! でも、ナイス言い返しでスッキリしちゃったけど、その後の私達には絶望しかないのよ。どうすんのよ!」

「と、とりあえず落ち着きましょう。ね? 皆さん一度深呼吸しましょう」

「「「「スゥーーー、ハァーーーー」」」」



四人は、息ピッタリに深呼吸をする。

少し落ち着いたところで馬車を走らせながら、作戦会議に入るのだった。



「この状況を薫に報告して生きていられる自信がない。わりとマジで……胃が痛い」

「い、意外とあっさり受けてくれるかもよ? ……ごめん想像できなかった。言った瞬間カールが木に突き刺さるイメージしか浮かばない」

「なんで俺が犠牲になってるの? おかしいよね? ティスト俺のこと嫌いの? ねぇ、嫌いなの?」

「初めに頼んだ時も渋ってましたし、完全に訳有りのように見えます。ですからこの件は、受けてもらえないと思います」

「「「俺ら死んだわ。絶望しかない」」」



四人は溜息を吐く。

ビスタ島に帰るのがこんなに憂鬱な気分になるとは思いもしなかった。

命の灯火が消えなければいいなと思いながら四人はビスタ島に帰るのであった。


知らぬ間に140万pvですね。

恐ろしいです。

読んでくださった方、感想を書いてくださった方、Twitterの方にもコメント有難うございます。

次回も投稿してから、一週間以内に投稿できるように頑張りますので、宜しければ見ていただければ幸いです。



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