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貴族墜落作戦!10 前編

 治療区域の裏路地で男3人女2人合わせて5人が集まっていた。



「お前らいいか? 今回は、絶対に失敗の許されない任務だ」

「わかっているよ。お前こそヘマをするなよ」

「誰に向かって言っている……たく相変わらず口の悪りぃな本当。今回は、二人の治療師の拉致だ。まぁ、いつも通りにすれば何の問題もない」

「楽勝だろぅ? さっさと終わらせて酒場にでも行って一杯引っ掛けてぇものだなぁ」

「それじゃあ、お前ら気を引き締めていくぞ」

「「「「「おう!」」」」」



 そう言うと5人が路地から出て散り散りにリース治療院へと向う。

 見た目が一般市民と変わらない出で立ちでいるから、路地から出てしまえばもう見分けがつかない。

 そして、怪しくないように作戦を決行するのであった。



 アルガスの部隊が去った後に闇の中から二人組の男達が姿を現す。



「これは面白くなりそうだぜ。くっくっく」

「そうですね。まさかアルガスを消す用事が、迷宮熱の特効薬に化けるとは運が良い。実に運がいい」

「エクリクスの老害共に一泡吹かせれるぞ。汚れ仕事からこれでおさらばだ。あ〜、彼奴らの悔しがる顔が見れると思うとワクワクするぜ。取り敢えず彼奴らが上手い事すれば、そのままアルガスの所へ行くぜ。そうだなぁ、アルガスが聞き出した所でも狙って自白の薬でも飲ませるか。病気はこの薬で治るって言えば、飛び付くだろうぜ」

「貴方は、本当に怖い人ですね。あの薬は、廃人になるんですよ? まぁ、こっちからしたら知ったこっちゃないけどね。エクリクスに連れて行ってもエクリクスの評価が下がるだけですし」

「美味しい話でもねぇのになぁ。くっくっく。貴族だからって優遇されると思ってやがる。本当、俺らからしたら金を運ぶだけ間抜けな存在なのによ」

「そうですね。それじゃあ、のんびりと待ちましょうか」



 二人組は不気味に笑い夜闇に溶け込むかのように消えて行った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 夜の10時を回った頃だろうか。

 リース治療院の扉を叩く音がする。



「す、すみません。誰かいらっしゃいますか? お願いです。助けてください」



 そういう声が聞こえてきた。

 リースは、飛び起きてアルガスの者の奇襲だと思い身構える。

 そして、ゆっくりと扉の前に近づきそこから話しかける。



「ど、どうなされたんですか?」

「娘が……迷宮熱に罹ったんです。衰弱していて、私にはどうすることも出来ません。迷宮熱の薬があると聞いてきたんです」



 扉の慎重に少し開けて、その者の姿を見る。

 その姿は、一般的な女性だった。

 腕の中に抱き抱えられ苦しむ少女がいた。

 それにリースは、目が行く。本当の病人と理解した。

 一度、扉を閉め薫を呼ぶ。

 万が一、アルガスの手先であった場合のため、気を緩めずに行動する。

 リースは、薫と一緒に扉を開け迷宮熱で苦しむ少女の具合を見る。



「どうなんでしょうか? 娘は……大丈夫なんでしょうか」

「大丈夫ですよ。今、薬と体力回復魔法を施しますので」

「……」



 薫は、リースの治療姿を見ながら辺りを警戒する。

 リースに薬をと言われ薫は、紙袋を渡す。

 そして、回復魔法を少女に掛けようとした瞬間、母親の背中から店いっぱいに煙幕のようなものが広がる。

 リースと治療しに来た母親は、何がなんだか分からずにパニック状態になる。

 そして、その瞬間に裏口のドアがドンっと開く音が聞こえる。

 数人がドタドタと此方に走ってくる足音が聞こえて来る。

 その物音にリースは、青ざめどうしていいか分からず、悲鳴をあげようとした時、薫の手がリースに伸びる。

 身体を引き寄せ、そのまま戦闘態勢にはいる。

 辺りが見えない以上どうすることも出来ない。

 黒く人の形をした影のような者が薫とリースの背後から襲いかかる。手刀で薫の意識を刈り取り、二人を拉致するつもりだったが、その一撃は薫に当たることはなかった。

 背後から隙だらけの薫の首を打ち抜いた筈が、薫の姿が残像のように消える。

 目を見開きあたりを見渡そうとした時には、既に薫に背後を取られ、黒い影の首根っこを掴み床に叩き付けられていた。

黒い影の者の意識を刈り取る。

 院内に鈍く重い音が響き黒い影の者は、床に倒れたままピクリとも動かない。

 薫のカウンタースキル『合気道』が炸裂した。



「いや~危なかった。持っててよかった護身用武術ってね」

「「!!?」」



 院内の温度が一瞬にして下がる。

 薫のでたらめな魔力強化の威圧を敵のみに向ける。

 院内にいた黒い影の者、煙の中で薫には見えていないものの、余りにも桁外れな威圧に意識を持って行かれないようにするだけで手一杯だった。



「さぁ、どないする? もう何人かいるんやろ? あー、でも動けへんやろうなぁ」



 視界の悪い中から声が返ってくる。

 少し震えているようなそんなトーンだった。



「こ、この化物め!! 聞いてないぞ。こんな奴だなんて」

「そんな化物やなんて褒め言葉やめーや」

「ぐっ!!?」



 先程の言葉に少し、怒りのこもった威圧に変わる。

 最初の威圧よりも恐怖心が増す。

 そして当てられ続けられているだけで、脂汗が額に浮かび上がってくる。

 膝が笑い歩く事すらままならない。

 今すぐこの空間から逃げ出したいと言う気持ちに心が染まっていく。

 そんな事をしていると煙が、だんだんと薄くなり消えていく。魔法の一種のようだ。この院内だけの空間に発生させていた。それを術者の意識を奪った事で消えた。

 そして、薫の威圧のせいで体の動きが止まっている2人は、スタンバっていたイルガとリリカに背後から、意識を刈り取られるのであった。



「ふーん、一応それなりの使い手みたいね〜。イルガには負けるけど」

「そうか? 雑魚にしか見えなかったぞ?」

「ちゃんと相手の技量を見極めないと痛い目にあうよ」

「わ、わかってるからそんな目で見ないでくれ……」

「今回は、薫の威圧で動きとかに制限が付いてたからそう思うだけよ」

「ま、まさかとは思うが……薫の力って危ないレベルではないよな」

「……多分だけど前大迷宮と言われた迷宮攻略者と並ぶくらいの魔力量じゃないかなって思う。今発した魔力量を出して平然としてるなんてありえない」

「……まじかぁ」

「マジよ。でも本人は、自覚が無いみたいなのが又あれよね〜」



 二人は、小声で話をしていた。

 溜め息を吐きながらイルガとリリカは、薫の潜在能力が異常な物だと思い始めていた。



 リース治療院がよく見える高い店舗の上で、監視役として外で待機して居た黒い影の者が2人いた。

 リース治療院で起きている騒ぎが、そろそろ収まったであろうと思い様子を窺う。

 だが、一向に仲間が出てくる気配がない。

 それに疑問を持ち始める。

 嫌な予感がした時には既に遅かった。

 黒い影の者の背後にはラルフ、ダリア、シュミットが、気配を完全に消し、2人の意識を刈り取った。

 ラルフは、ダリア、シュミットにこの2人を罪人の館へと連れて行くように言う。それと、カインに現在の状況を知らせる事も伝えた。

 罪人の館は、罪を犯した者を幽閉し、奴隷もしくは死罪の有無を決める場所だ。大抵は、奴隷に落ちる。連れて来た者は、賞金などが懸けられていれば金が貰える。

 ダリア、シュミットは、二つ返事でその場から一瞬で姿を消す。

 頭を掻きながらラルフは、リース治療院へと向かう。

 薫の力が、どの程度かを図りたかったのもあるが、リースの護衛役なのに薫にリースを任せてしまった事で、後で何か言われるだろうなと思いながら、薄暗い夜道を屋根を伝っていく。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 院内では、黒い影を纏った3人が地べたに転がっている。

 かなり異様な光景なのだが薫は、何も無いかのような対応で行動していた。



「はい。これで、もう大丈夫やからな」



 薫は、治療しに来た少女に魔法と薬で処置した。

 小さな少女は呼吸も安定し、母親の胸の中で安らかな寝顔で眠っていた。



「あ、有難うございます。あの……後ろの三人は一体」

「気にせんでええよ。迷宮熱の特効薬を盗みにきたアホ共やから」

「そ、それじゃあ、あの時に情報をくれた人達の……」

「ほう……どんな事言われたんや?」



 母親は、娘の症状が悪化し、困っていた所に家を訪ねて来た者の話をした。見ず知らずの男性からこの治療院の事を聞いた。この時間でも見てくれるかもしれないと告げてくれたから来たらしい。

 薫は、この行動を起こさせる為に何人か駒として一般人を使ったのかと思うのであった。最初の煙が出たのも、設置型の魔法か何かを予めこの親子に仕掛けていた可能性もあった。



「成る程なぁ。でも良かったやん。一応、この薬をもう2日間飲んでくれ。それで完治すると思うから」

「本当にありがとうございます。何度お礼を言っても言いきれないです」



 そんな事を言っていたら裏口からラルフが帰ってきた。

 ダリア、シュミットは、罪人の館へと連れて行って遅れるとの事。



「すいません薫様。護衛の任務があったのにリースさんを薫様に任せてしまって」

「別に構へんよ」



 薫は、からからと笑いながらそう言った。

 ホッと胸をなで下ろすラルフだったが、その瞬間ゾクっとするような感覚に襲われる。ふと顔を薫の方を見ると、



「次、試すようなことしたら容赦無くしばくからな」

「ははは……肝に銘じておきます」



 一瞬の出来事であったが、心臓を握り潰されそうな感覚に陥った。

 脂汗が額に浮かび苦笑いすることしかできなかった。



「それじゃあ、お大事にな。ちゃんと寝かせるんやで」

「はい」

「薫、あんた私の治療院を自分の所有物のように扱ってるじゃない」

「そんな事ないで。リースが平常心で、治療出来そうにないからやっただけや」

「で、出来るわよ」

「膝が笑い過ぎて生まれたての子鹿状態でよう言えたな」

「うぅ……」



 その言葉に母親は、笑うのであった。

 リースは顔を真っ赤にさせ、今にも殴りかかろうとしたいができないなんとも滑稽な状態だった。

 そんな中、ラルフは黒い影の者の着ている魔法装備の顔の部分を剥ぎ取る。

 すると母親が驚き口にする。



「こ、この人です。此処に来たらいいって言った人です」

「ビンゴやなぁ。それは確実か?」

「はい。間違いないです」

「それじゃあ、後日証言してくれるとありがたいんやけどええかな?」



 薫がそう言うと母親は心良く受けてくれた。

 今日は、夜も遅いのでそのまま母親と娘は帰した。

 意外と近くに家があるようだ。



「薫様、一応この者達に魔力拘束具を付けてます」

「要するに逃げられへんのんやろ?」

「そうですね。簡単に言ったらそうなります」



 薫とラルフがそんな話をしている最中にイルガ、リリカはのんびりと椅子にもたれ、茶を飲んでリラックスしていた。その内リースが、ブチ切れないか心配になる薫なのであった。

 その後は、ラルフに拷問を任せて黒の影を纏った者達から情報を聞き出す。

 始めは口を割らなかったが、薫の「死なない程度の重傷なら何度だって治せるから、適度に吐くまで続けてもいい」の言葉に3人とも青ざめあっさり白状した。その中で、嘘かどうか数回確かめる為、骨を砕かれていた。

 顔をクシャクシャにして大の大人が泣き喚いていた。

 回答は変わらず嘘でないことがわかった。

 アルガスから、言われここに薫とリースを拉致して特効薬の精製方法を盗む事もペラペラと洗いざらい吐いたのだ。自分達の身分もアルガスの精鋭部隊という事も吐いてしまっていた。

 途中、帰ってきたダリアとシュミットは、戦利品大漁大漁と言いながら黒い影の法衣を纏って帰ってきた。

 この黒い影の法衣は、鴉羽の法衣と言う。

 スキル付きで、隠密スキルが付いている。

 人に察知され難いといった隠密性に優れた防具だ。それを聞いた薫は、少し悪そうな顔で脳をフル回転させる。



「では、この者達は用済みなんで罪人の館へ連れて行きますね」

「構わんよ〜。情報も出たことやしな。まさかこうもペラペラと喋るとは……主人の為に死ぬくらいの覚悟を持っとるかと思っとたのに」

「薫、俺らはこれで終わりだよな?」

「うーん。そうやなぁ……」



 イルガとリリカは、仕事が終わったといった感じだったが、薫は少し考え言葉を紡ぐ。



「もうちょい付き合ってくれるとありがたいんやけど」

「構わんが……少し、面倒くさそうなのに巻き込まれてる予感がするからなぁ」

「じゃあ、こっからは依頼や」



 薫は、イルガとリリカに耳元で金額を提示した瞬間二人共は、「是非やらせてくれ」と「私達友達じゃない」とお目目がリラのマークになっていた。あまりの変わりように薫の表情は少し引きつるのであった。分かりやすいと思い頭を掻く。

 イルガとリリカは、こちらに来て早々迷宮熱で所持金が吹っ飛んでいた為、今は少しでも稼ぎたいといった感じだった。彼らにとってこれ幸いなのである。

 薫は、そのまま拷問にあっていた3人の鴉羽の法衣を全て剥ぎ取り、イルガとリリカそしてラルフに渡す。一応盗難などの罪になるか聞いてみたらこれはならないらしい。罪を犯した者のペナルティが発生しているかららしい。そして、薫はみんなに自分とリースを捕らえた形でアルガス邸に行く事を話す。



「ちょ、ちょっと待ってください。現状で、かなりの証拠が出揃いました。それに当初の計画とかなり状況が変わってます。これ以上しなくても爵位は確実に落ちます」

「まぁ、それはええんやけど……。もう一個あんねん」

「な、何があるんですか?」



 薫はアルガスの病気の事を皆に話した。

 リースがアルガスに生きて罪を償ってほしい事も。

 その話を聞いてラルフ、ダリア、シュミットは渋々了承した。

 イルガとリリカは、依頼でお金が手に入るので即答で了承した。



「すまんなぁ。もうちょっとだけ付き合うてくれると助かる」

「ごめんなさい。私の我が儘だから……」

「しかし、薫はそんなものも治せるのか?」

「まぁ、今回の迷宮熱の薬だって俺が精製した物やからなぁ」

「「はぁ?!」」



 イルガとリリカは、呆気にとられ言葉を失う。

 ラルフ達は、カインから先にその情報を貰ってたからそこまでは驚かなかったが、最初に聞いたときは、開いた口が塞がらない状態で、追撃がアリシアの病気も治したと言った時は、腰を抜かすほど驚いていた。

 今迄、治しようのない病気とされてきた迷宮熱の特効薬を作ったり、不治の病とされていたアリシアの病気すら治す。そんな薫に末恐ろしさが込み上げてくる。

 それだけでも凄いのに今度は、今噂になっているアルガスの病気すら治すと言っているから、もう呆れるしかない。皆考えることを止める勢いだった。



「それじゃあ、ささっと治して帰るとしよかぁ。何事も無く終ればええんやけど……」

「え?」



 薫の最後の言葉に疑問に思ったリースだったが、今は、アルガスの件で一杯一杯だった為その言葉を流した。

 ラルフ達は、準備の為少し時間をくれと言われたので薫は、それを了承した。

 ラルフ達が戻るまで、少し時間があると思いイルガとリリカは、もう一度薫に言うのである。

 これ以上踏み込むと薫自身が死ぬかもしれないという忠告だ。

 薫は、殺される事があることをすっかり忘れていた。元いた世界とは違う。情けなどかければ、自身の命が危なくなるのである。数日前にもイルガとリリカにその事で、こっ酷く説教を食らったのだ。薫は、平和主義とかそんなことではない。だが薫も覚悟を決めておく事が大事と言われていた。

 口が酸っぱくなるほどだ。

 もしも、自分が情けをかけて殺さなかったりして、その者が自身の大切な者を傷つけ殺されたりしたらどうするとも言われた。

 言いたいことは分かったが、なかなか割り切れないのも事実。

 元いた世界とは、比べ物にならないほど生と死が近いのだ。

 特別な力と知識を持つ薫は、知られれば高確率で生と死の確率が跳ね上がる。

 そして周りにも被害が出る。

 薫は、その時が来たら心を決めなければと思った。

 その後、みんな準備をし終わりアルガス邸に乗り込むのであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 夜の12時くらいだろうか。

 豪邸の中で、今か今かと待ち通しい表情を浮かべる。

 時計を見ながら自身の精鋭部隊の帰りを待つ。



「アルガス様そろそろ休まれた方が……」

「バルドこんな良い気分の時に水を差すな」

「も、申し訳ございません」

「お前は、よく支えてくれている事は分かっている。だが今日という日は、新たな俺の門出だ。この街と言わず、この大陸の全てに影響を与えることができるんだぞ? 特効薬の精製方法さえ分かれば、歴史に名を残す偉大な治療師。アルガスという名がこの世界に刻まれる。そんな時に休んでなどいられるか」

「分かりました。では、この薬だけでも飲んでおいて下さい」

「わかった」



 そう言うとアルガスは、薬を口に放り込み飲み込む。

 薬を飲んだ事にホッとするバルド。

 しかし、ただの時間稼ぎにしかならない薬ということも分かっているのであった。

 少しして、屋敷の裏口から音がする。

 その音を聞いてアルガスは、不敵な笑みを浮かべる。



「帰って来たか……」

「こちらに連れてまいりますので暫しお待ち下さい」



 そう言うとバルドは、アルガスに一礼し、その場から離れる。

 そして屋敷の裏手に行き薫とリースを捕らえてきたのを確認する。

 二人の拉致に成功し、肩の荷が下りたような表情になる。



「よくやったぞお前達。そのままアルガス様の下へ運べ」



 鴉羽の法衣を着た者たちは、一礼し裏口から屋敷に入っていく。

 バルドは、何の疑いもなくその者達をアルガスの下へと連れて行く。

 それもそのはず、この屋敷に入るためのには、特殊な魔法の言葉などを唱えなければ、裏口まで入って来れないからだ。

 それを知る者は、精鋭部隊の隊長しか知らない。

 それと、精鋭部隊の顔をバルドは知らないからだ。

 裏で数々の工作や汚れ仕事を請け負っていた者達の顔は、アルガス以外知らないのであった。

 バルドは、そのままアルガスの居る部屋に入る。

 アルガスは満面の笑みから一瞬で青ざめる。

 笑みは消え、奥歯を食いしばり、怒りに満ちた表情になる。



「バルドぁおお! そいつらは、俺の部隊ではない殺せえええ!!!」

「!!?」



 アルガスの言ってる意味が、一瞬理解出来ず体の反応が遅れた。

 その隙を逃さない速さでラルフ、ダリア、シュミットが一斉にバルドを取り押さえ床に押さえ付けた。



「ご苦労様。執事の爺さん」

「くそが……彼奴らは如何した!」



 バルドは、もがきながらそう口にする。

  一応、アルガスに支えている中での精鋭部隊だ。簡単に負けるような奴らではない。

 だが、現に目の前にいる奴らは、精鋭部隊にだけに渡された鴉羽の法衣を着ている。そのせいもあり奇襲に気付くのが遅れたのだ。



「あの五人なら全員捕らえて罪人の館に送っといたよ」

「!!?」

「あと、彼奴ら全部情報吐いたぜ。今回の悪巧みもな。もう伯爵の地位は、無くなるだろうよ」

「……」



 ラルフからそう言い聞かせられ開いた口が塞がらなかった。

 目の前で起こってる現実が、夢であって欲しいと心の中で思う。



「もう……お終いじゃ……アルガス様すみません」

「俺はそんな奴らは知らんぞ! そんな証拠にもならん事を並べられても……」

「一応は、おっさんの下で働いとった奴らやろ? トカゲの尻尾切りとか……。奴らも切られると思ったから簡単に口を割ったんやろう」

「俺は関係ない言いがかりだ。それにそいつらが俺の部下である証拠もない!」



 アルガスは完全に焦っていた。

 用心して、精鋭部隊を送り込んだにもかかわらず失敗に終わり、尚且つ今目の前にいる者達は、全てを知っている。

 アルガスは考える。

 今この場を切り抜ける為の最善の一手を。

 今まで、このような失敗が無かったわけではないが、そんな時は精鋭部隊で全て解決できた。今は、その精鋭部隊が居ない。自分一人で、この人数をどうにかしようという事はまず不可能。八方塞がりのこの状況。時間が経つにつれて、どんどん自身が苦しくなる。



「上に立つ者はとして最低な奴やな。責任の取り方も知らんのんか? 向いてないんやないか? その地位」

「だ、黙れ!!!」



 薫の声のトーン少し下がり、軽くあざ笑うかのようにアルガスに言葉を浴びせる。

 今すぐに薫の息の根を止め、減らず口を叩けないようにしてやろうかと言った感じだ。

 その変わりように薫は、軽く深呼吸してから言う。



「そもそもの間違いは、特効薬を盗もうとした事や。他人の実績を簡単に奪ってもおっさん自身になんも身に付いとらん。要するにハリボテなんよ。薄っぺらいプライドで今迄積み上げてきたんやったら、一瞬で崩れるのは目に見えとるやん」

「俺のどこが薄っぺらいだぁあああ! 俺は伯爵だぞ!」

「そんなもんただの飾りや。伯爵やからなんや? それで皆が付いて来るんか? 俺から見たら只の治療師や」

「只の……治療師だと……」

「そんな、飛び抜けた治療魔法も特効薬を作る知識もない。そこら辺で、毎日頑張ってる治療師と大差ないねん。上で胡座かいて何もせんかったら、どんどん腕も落ちていく。雇われてる奴らの成長も乏しいやろうな」

「くぅ……」

「別に努力しろとか言わないが、そんな奴について行きたくないやん。泥舟やし、得るものが無い魅力すら無い。あぁ、唯一あるのは金くらいかな」

「……」



 薫の言葉に返すことが出来ないでいるアルガス。

 バルドは、押し黙って顔を伏せたままピクリとも動かなかった。



「あー、言いたいこと言ったらほんの少しすっきりしたわぁ。まだ言い足りんが……」

「薫あんたってほんと容赦ないわね」

「リースも言いたいことあるんやったらガツンと言ったれ」



 薫は、笑顔で言う。

 リースは薫の側まで来て、呆れながら溜め息を吐く。



「アルガス……あんたの事は許さない。ちゃんと自分のした事の罪を償って貰うから覚悟しといてよね」

「……はははは。罪を償えだと? どうせ俺はもう長くない。そんなものどう償えと言うんだ! この病が治るのなら考えてやってもいいがな! どうせ無理なのも分かっている」

「本当に上からの物言いやなぁ。まぁ、それなら俺が治したるから、なんも心配せんで償ってくれ」

「「はぁ?」」



 アルガスとバルドは、なんとも間抜けな声を上げる。

 薫の後ろにいる全員が、溜め息を吐く。

 ドッと疲れたと言わんばかりの表情なのだ。



「いや〜、もうそっちを追い詰める情報は持っとるから別に此処に来なくても良かってん。かなり予定が狂っとるけどな」

「じゃあ、今迄のは……」

「どんな言い訳するのか気になってなぁ。返答は最悪やったけどな。正直、治してもまた同じ事やりそうで不安だらけや」

「くっ……ほ、本当に病気は治るのか?」

「ああ、今のところは問題ないで。治す代わりにちゃんとお前ら全員で償って貰うけどな。リースに感謝しとけよ。あいつが生きてきて償わせたい言うたからや」

「……小娘が!?」

「このまま死なれたら後味悪いじゃない」

「そういう事や。治す代価は、爵位の返納と今までの悪事の精算ってところやな」

「アルガス様! 信用してはなりません!! こ奴らの言うことを飲めば全てを失います」

「別に信用しようがしまいが関係ない。治したいか治したくないかや。それにな、無くなったらまた一から頑張ればええやん。それすら無理と思うんやったら、どうしようもない奴やけど」

「……」

「若造が……黙って聞いていれば」



 アルガスの迷いが見て取れた。

 バルドに至っては、薫は信用に値しないと言った感じであった。



「頼む……罪は償う……なおs」



 アルガスがそう言おうとした瞬間ラルフ、ダリア、シュミットが悲鳴を上げた。



「勝手に治されても困るぜ。くっくっく」



 何処からともなくそのような声が聞こえた。


貴族墜落作戦!10後編に続きます。

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