貴族墜落作戦!3
貴族区域を歩く薫。
イルガ達の治療を終えて、オルビス邸に帰る途中なのだが、顔色が良くない。
まだ、【異空間手術室】を使った弊害が、抜けていないからだろう。
薫は、【異空間手術室】を使って、4日目だが未だにMPが、回復しきっていないのである。
心の中でごちりながらふと薫は、今日の治療の内容を思い出す。
迷宮熱の特攻薬を錬成した時に薫は、全く知らない薬品名が出てきた。
元いた世界とまったく違う成分で、単体で構成されていた。
これに違和感を覚えてしまう。
「(帰ってから少し調べてみるかねぇ。もっと効果のある薬ができるかもしれへんしな)」
そう思いながらオルビス邸に帰っていく。
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帰ってくると満面の笑みで迎えてくるメイドのカリン。
何か良からぬことを考えている事が、容易にわかってしまう。
薫は、若干冷や汗を掻きながら挨拶をするのである。
「か、帰ったで……」
「はい♪」
「なんや! その語尾に音符でも付きそうなええ返事は……。めっちゃ不安になるんやけど」
ため息を吐きながらカリンに言う。
うふふと言いながら薫に近寄ってくる。
それにたじろぐ薫。
「アリシア様のリハビリを、手伝ってもらおうかと思いまして」
「なんか裏あるんやろ? その不敵な笑みが物語ってんで」
「そりゃもちろんありますよ!」
「あのなぁ。少しは、隠そうや? ほんの少しでもええから! めっちゃ行きたくなくなるんやけど! なんやアホの子なんか? もうちょっと頑張ろうや」
「隠してもバレバレになっちゃうんですよ~。顔に出やすいんです私」
「ハァ……。わかったからあとで行くわ。俺、少しやる事が残っとるから。あ、それとコレ飲んどけ」
ポンとカリンの掌に【迷宮熱】の特効薬を乗せると、きょとんとした表情で薫を見つめる。
錠剤を手に取り、親指と人差し指で持ちコロコロする。
「なんのアイテムですか? むしろこれは……ゴミ?」
「一応、【迷宮熱】の特効薬や。予防にも効果あるから、飲んどき。それともう二つ渡しとくわ。カインさんとサラさんにも飲ませといてくれ。外に出てるから、菌を貰ってアリシアちゃんに今、感染したら大変なことになるからな」
「!?」
「なんやそのアホな子みたいな表情は」
「いやいや、アホな子みたいな表情とかどうでもいいですから。か、薫様こ、これがほんとに【迷宮熱】の特効薬なんですか?!」
「ゴミかもしれへんわ。とりあえずカリンの分だけ返してもらおうかぁ」
「なんで、ちょっと怒っちゃってるんですか?! さっき言ったことで、怒らないで下さいよ~。知らないのですからぁ、間違っちゃうことだってありますよぉ~。私だけ罹るの嫌ですよ~。仲間はずれ反対! 断固反対です」
涙目で、わたわた慌てふためくカリンに、薫はからからと笑いながら「冗談や」と言って、さっさとカリンに服用するように言う。
ホッとした様子で、カリンは台所へと向かって行った。
帰ってそうそう騒がしいやつだなぁと思いながら、薫は一旦客間へと向う。
帰りに違和感を覚えたモノを解消するための作業がしたかった。
一段落したらアリシアの下へ行って、それからリハビリを手伝う事にしようと思うのであった。
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自室である客間に戻り自身のステータス画面を開く。
ベッドに座り、顎に手を当てて考えこむ。
現代の薬とは、全くの別物が今回の病気の薬として出てきた。
それに病気もそうだ。【迷宮熱】は、元いた世界にはない。
似たような感染症はあるが、全く同じといったものがないのだ。
病気が何かを知ることができる【診断】と知らない物を知ることができる【解析】があったからこそ【薬剤錬成】で特効薬が作れた。
このことから薫は、アリシアの病気もそうだが、こっちの世界では、こっちの薬が存在するのではないかという仮説が出てきた。
それを確かめるために今回は、【解析】を使用して、異世界の病気の薬を新たに見つけていかなければならない。
そうしないと薫がいなければ、病気に対して、何も抵抗できないということになってしまう。
薫の身体は、一つしか無いのだ病気のたびに引っ張りだこになるのも困るからだ。
「ほんじゃ、早速調べますかねぇ」
ステータス画面に表示した【迷宮熱】の欄に表示されている抗生物質の【リファンミナド】を開く。
【リファンミナド】
・成分 【オレガノダイン】
・副採用 眠気等
「(この【オレガノダイン】は、何から出来とんのやろうか? 化学式とかは、もうわかっとるから錬成出来たけど)」
【解析】の知らないものを知る事のできるスキルで、この薬の元を深く探っていく。
情報量が多くなっていく。そしてそれを口頭で、誰かに教えるのは、さすがに骨が折れそうなので、紙とペンを出して書いていく。
【オレガノダイン】
・生息地 オレンの実に生息する細菌。
・抽出方法 オレンの実の猛毒を解毒して、中の果肉を取り出す。その皮を乾燥させ磨り潰す。それに【精製水(微小)】を少し入れ団子状にしてコロコロ丸めてまた乾燥させて完成。ね? 簡単でしょ?
「(オレンの実……あー、あれか。この異世界に来た時に空腹で、食べそうになったみかんのようなやつやな。てか、あれが特効薬の元なんやなぁ。あとは、この【精製水(微小)】やなこれは、何処で手に入るんやろうか?)」
そう思いながら【精製水(微小)】に【解析】を掛ける。
【精製水(微小)】
・精製水の最低ランクの物。主にゴブリンなど雑魚モンスターが落とす。売ってもほとんど価値がない。大半は、その場でポイっとするのが主流。
「(おい! 説明で雑魚とかひどないか。いかんその前のもツッコんだらあかん。なんか負けた気がしてくるわ。でも価値ないとか……分かりやすいけど、なんかやりきれんわ)」
いちいち角が見える。【解析】の説明文に悪意を感じる。そこまで書かなくてもいいようなことも書いてある。分かりやすいからまた困るのだ。
そんなことを考えながら【迷宮熱】の特効薬の作り方を紙に書き終わらせる。
次に【細菌性肺炎】コレも調べていく。
リリカには現代の薬を処方したが、それがこちらの異世界に存在しないのであれば、また別の薬があると思い【解析】を掛ける。
【細菌性肺炎】
・病原体 主なモノは、クレイブ菌、シエイラ菌など
・発症原因 細菌が、身体に入り込んでも通常は、発症しない。
身体が弱っている時に発症する。
・症状 発熱、咳、膿性の痰がみられ、それに加えて胸痛がある。
身体所見では、呼吸数や脈拍の増加、呼吸困難、チアノーゼ、意識障害などがある。
・治療方法 【クレブライト】、【シエラライト】の摂取、体力回復に努める。
コレを見た薫は、ゾッとした。
肺炎は、元の世界でも死亡原因が高いからだ。
それも、早めの治療とその原因の菌にあった薬を摂取しなければならないからだ。
急いで薫は、処方した薬も調べる。
調べてみると、処方した薬でもちゃんと効果があるようだ。
ほんの少し安堵する。
ここが、異世界で元いた世界とは、全くといっていいほど病原体も違う。
感覚が元の世界のままで、これから元の世界の薬で、処方し続けるといつか異世界の病気の壁にぶち当たってしまうことがわかった。
今回の肺炎もそうだが元いた世界では、一般の細菌による感染症なのか、マイコプラズマやクラミジア、ウイルスなどの一般細菌以外の肺炎に分かれる。
それによって、系統にあった薬を処方する。
元の世界の先入観のみでの処方は、これから出来ないなと思うのであった。
「(早めにわかってよかったわ。調子に乗って、元いた世界と同じと思っとったらあかんゆうことやな。これから俺も勉強せなアカンってことか。なんか久しぶりに新鮮な感覚やな。明日にでも確実に効果のある薬を処方せんとなぁ)」
そんな事を思いながら薫は、ふと思うのである。
アリシアの病気も、もしかしたら薬で何とかなったのではないかと思う。
自分自身が、早まった行為をしてしまったのではないかと、少しずつ不安になっていく。
「(コレばっかりは、ちゃんと調べんとな)」
少し緊張した様子で作業を開始する。
【拡張型心筋症】をステータス画面に開きそれを【解析】する。
【拡張型心筋症】
・心筋細胞の性質が変わって、特に心室の壁が薄く伸び、心臓内部の空間が大きくなる病気。その結果、左心室の壁が伸びて血液をうまく送り出せないなり、うっ血性心不全など起こす。左心室の血液を送り出す力は、心臓の壁が薄く伸びるほど弱くなるので、心筋の伸びの程度で重要度が決まってくる。
・原因 不明
・症状 初期症状は、疲れやすくなったり、運動時などに動悸息切れを感じたりといった症状が現れ、酷くなると夜間発作性呼吸困難も出てくる。夜間発作性呼吸困難は、夜間眠りについて数時間立った頃に突然起こる強い呼吸困難のことである。コレに罹ると長くは、生きられない。突然死などの発生もある。
・治療方法 早期のみあり。【フェニックティアーズ】を飲ませることで心室の伸びを戻すことができる。だが確実に治るかは、五分五分の運任せである。重度の場合は、死を待つのみで、助かりませんよ。
「(薬も万能じゃないんやな。初期の発見とか異世界じゃまずわからんやろ。そういった施設もないからなぁ。てことは、手術ができれば助かるってことやな。そもそも【解析】で調べて手術の事が、全く出てこないってことは、ないってことやろうな。薬も手術と同じような効果がある物もないんか。だとすると俺しか治せんいう事やな。難儀やな……誰かに教えるんにしても手術室もないし、これは、おいおい考えるかな。今回の【解析】で分かったことは、これだけかな。よかったわぁ手術して、他にも方法ありましたとか洒落にならんからな。軽く医療ミス以上やし。でもこれは、完全に俺のミスやな。次は、こんなミスせんようにしないとなぁ。今回だけは、結果オーライって思わんとこの先やれそうにないしな。ええ勉強になったわ。マジで、取り返しの付かない事になっとったらって。あー、もう考えるのはもうよそうか……)」
ため息を吐きながら薫は、ベッドに突っ伏す。
そして最後に、今アリシアに処方している薬も異世界の物がないか【解析】する。
【エルキシリア(緑)】
・成分 【緑龍霊水】
・作用 身体の内部の害悪な菌を排除する。免疫向上効果大、細胞機能の抑制、細胞組織再生、一定の体力回復(中)
・副作用 なし
「(なんやろうな……龍とか、かなりレアな物にしか、見えへんのんやけど。それも副作用なしとか、相当ええ物やろ! うーん、ええわ。コレも作っとくか)」
そう思いながらアリシアの薬を新たに【エルキシリア(緑)】に変更する。
これを一週間分作る。
そして、もう一つリリカの肺炎の薬も作る。
リリカの分は、明日届けるように別に紙袋に詰めて、アイテムボックスにしまう。
やっと一段落したところで薫は、ベッドの上に散らばっている紙を集める。
特効薬の化学式と精製方法が書いてある紙だ。
これも、アイテムボックスに全て収めていく。
「あ、やばいな……アリシアちゃんの所行くの少し遅くなってもうたなぁ。まぁ、ええか」
ベッドから降りて薫は、アリシアの下へと向かった。
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アリシアの部屋に着き、ノックをしてから中に入る。
するとベッドの端に、体育座りをしたピンクの垂れ耳うさちゃんが、しょんぼりと耳をへにょらせて、枕を抱きかかえていた。
何やらしょげているようだ。
それに気付いた薫は、アリシアに近づいて行き声をかける。
「すまん。少し遅くなってしもうたわ」
頭を掻きながらアリシアに謝る薫。
その言葉に横目で、チラチラと見ながら頬を膨らませたアリシアがいた。
朝のパジャマ姿とは、少し違った服装だった。
元いた世界で言うと、パーカーのフード部分がうさちゃんになっていた。
可愛らしくしっぽまで付いている。
その姿に薫は言う。
「ピンクのうさちゃんは、ご機嫌斜めやな」
「ご機嫌斜めじゃないですよぉ~。薫様は、お仕事してるの知ってますから、う、うさちゃんは、辛抱強く待ちぼうけしてただけですよぉ~。チラチラ」
「あははは、ほんまにすまんやった。これは、ちゃんと埋め合わせするから、許してもらえんやろうか?」
「う、埋め合わせですか?!」
「そうや、埋め合わせや。なんでもええで」
「な、なんでも!? ごくり、そ、そんなこと言ってご機嫌取りとかず、ずるいですよ薫様。何してもらおう……」
「言葉の端になんか聞こえたけどまぁええわ」
薫の言葉で、少し機嫌が良くなるアリシア。
それを見て、からからと笑う。
薫は、朝と違う格好が少し気になっていたので聞く。
「ところで、そのうさちゃんフードはなんや?」
「こ、これですか? これは、カリンが作ってくれました。私の好きなピンクラビィという動物です」
満面の笑みで、答えるアリシアになるほどと思う薫であった。
アリシアの寝間着は、いつも必ずうさぎのマークが付いていた。
ワンポイントだったり、パジャマの色がピンクで、そのピンクラビィの色に合わせて、作られていたのだろうと思うのであった。
「うん、よくに合っとるで。かわええやん」
「そ、そうですかねぇ。えへへ」
「まぁ、適当に俺にして欲しいこと考えとき。決まったら教えてくれ」
「わ、わかりました。うーんどうしよう」
かなり悩んでいる雰囲気だったので、出来る範囲でということを二度言い念を押した。
その後は、今日何をしていたかなど他愛もない話をして時間を潰した。
アリシアは、屈託のない笑顔で今日は、教えてもらったリハビリをここまでやったとかを話してくれた。
時間も夜六時頃になって、晩御飯の準備ができたとカリンが言ってきた。
そこで、二人は、一旦話を切りダイニングへと向う準備をする。
「そうや。アリシアちゃん今日から、この薬を飲んでくれるか。副作用もないし前の薬よりも万能やから」
「はい。わかりました。これを飲んで、早く良くなっちゃいますよ」
「右から左に治るもんちゃうから、焦らずゆっくり治すようにしいや。前も言ったけどまた、ぶり返したり変な病気に罹ったりするからなええか?」
「わ、わかりました。けど……もしそうなった時は、また薫様が助けてくれますよね?」
「どないしょうかなぁ。言うこと聞かんかったんやから自業自得で、放置するかもしれへんでぇ」
「え゛!?」
ちょっと意地悪そうな顔で、薫が言うとアリシアの顔が青ざめていく。
涙目になりながら「見捨てないで下さい」と言いながら、薫の腰にしがみつきプルプル震えるのであった。
少し、揶揄い過ぎたかなと思い、しがみついてるアリシアの頭をポンポンと軽く叩き「冗談や」と言いながら優しく笑う。
その表情を見て安堵するアリシア。
「じょ、冗談でもやめて下さい薫様。心臓に悪いですよぉ」
「いやぁ~。そこまでダメージ食らうとは、思わんかったしなぁ」
「むぅ~」
「ほら。むくれてないで、ダイニングへ行くで? ご飯が冷めたら美味しゅうないで」
「……はい」
アリシアが返事を返す前に、優しく頭を撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らす。
そのせいで、少し返事が遅れるのであった。
二人は、そのままダイニングへと向う。
薫は、今日の報告をカインにして、明日からどのように動くかを決めなければならない。
それと今日のアリシアの行動は、全部あのアホメイドのカリンの仕業だろうと思い溜息を吐くのであった。
完全に一本取られた形で、やられたと思い頭を掻く。
心の中で、色々考えながら歩くのであった。
一週間以内に何とか上げれました。
次回は、どうでしょう……まだわかりません。
同人誌の方もしなければならないので、遅れるかもです。