社会不適合女の実態
「また、怒らった……」
やけに大きく無駄に中身が詰まった鞄を左肩に、パンパンのスーパーの袋を右手に抱えながら葉菜はふらついた足取りで自宅アパートの怪談を登った。履いているローファの踵部分が外れ、金属の芯が剥き出しになっているせいで、金属がコンクリート製の階段にぶつかる音が少し響いているが、騒音というほどのものではないので、気にしないことにしている。
二階の自宅に着くと荷物を全て地面に投げ出してかがみこみ、鞄をあさって鍵を探す。隣人に見られたら恥ずかしいと思いながらも、定位置にものをしまえない葉菜にとっては毎日に近くやっている恒例行事といって良い。
やっと探し出した鍵で扉を開くと、すぐに右手にある使いっぱなしの台所が目に入る。葉菜はため息混じりにスーパーの袋を投げ出すと、部屋の奥に足をすすめた。
床に投げ出してある洗濯物をまたぐと、重い鞄を床に投げ出して、スーツの背広とスラックスを脱ぎ、ラックに雑に立て掛けた。インナーはそのままに、その辺に転がっているパジャマのスボンを履いて、ユニットバス付きの風呂場に向かう。
スペースがなくて、シンクに転がしてあるシャンプー等を風呂場の床にどかして化粧を落とす。
「あー…さっぱりした」
ろくに顔も拭かないまま、風呂場を出てすぐの足元に転がっているスーパーの袋をあさった。取り出したは半額シールが貼られた刺身と、プライベートブランドのビール。小さい日本酒の瓶。
空の瓶やら缶やら調味料が転がっているベッド脇の机にそれらを置くと、ごちゃごちゃした冷蔵庫から昨夜の残りの菜の花お浸しが入ったタッパーを取り出した。醤油の小皿とチューブのわさび、からしだけ準備すると、刺身のトレーの包装を破いて再び食卓に戻す。お浸しもタッパーのまま、蓋だけ開いた。
お味噌汁くらい作ろうかと一瞬頭によぎるが、今日は別段寒くないのでめんどう臭さが勝った。
そのままてれびをつけ、クッションの上にあぐらをかく。
右手にはビール缶。左手には酒とつまみがメインでかかれた漫画。
喉を鳴らしてビールを飲むと、親父臭く大きく息を吐いた。
「あー…この為に生きてるなあ」
半額の刺身も美味しい。辛子醤油をつけた菜の花のほろ苦さも美味しい。
ビールが無くなると日本酒に切り替えた。安い日本酒だが、米の味がして悪くない…というかほぼ毎度買っているため、慣れ親しんだ味だ。
食べ物が美味しくて酒が美味しければ、取り敢えずまあ生きて行けると毎日のことながら思う。例え自分がどんなにか駄目女だろうとも。




