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第2章 第1話

第2章の始まりです☆少し長いので修復屋は大変です(笑)感想・評価、お願いします!


 街中の一際ボロい建物の持ち主、修復屋のこと、鈴宮綾は自転車を直していた。

「寒いッスねー。もう真冬かぁ」

鈴宮はイギリス人が大好きな天候の話を始めた。サドルの壊れた黄色い自転車をわざわざ店の中に入れている。

「そうねー、この頃めっきり寒くなっちゃって……うちの子は体が弱いから心配だわ」

「気を付けて下さい。さすがに俺も風邪は治せませんからねー!」

自転車を直しに来た奥さまが笑う。

「そうね、修復屋さんも病気は治せないわね。気が進まなくても、病院へ行かなきゃ」

うんうん、と鈴宮はうなづく。ここらの医者は良い噂があまりない。先代はとても信用の置けるお爺さんだったが、息子は気が置ける。

「俺も診察して貰っただけで、すごく高い診療費を請求されましたもん」

「あら、修復屋さんも風邪をひくのね」

ふふふ、と奥さまが意外そうに笑った。鈴宮は一本取られたという風に、額を叩いた。

「そういえば、あそこのお医者さまの娘さんが家出をしたって噂になっているみたいよ」

「家出を? どうしてですかねぇ。何でも好きなことができそうなのに」

「そうよねぇ」

奥さまは鈴宮が出した紅茶をすする。

「よしっ! できましたよ、バルモンさん!」

「わぁ、早いのね! ありがとう。遠くの自転車屋さんまで行くのは大変だったの」

バルモンと呼ばれた奥さまは、軽く手を胸の前で合わせた。鈴宮はニコッと笑って、

「時間は金なり! ですよ」

と言った。バルモンはそうね、と料金を払って、店を出ていった。



今日も朝から一仕事終えて、優雅にランチをしている時だった。今日のランチはグリーンピースやニンジンのたっぷり混ざったオムレツとパンの上にチーズの固まりがドロッとのっかかったトーストだ。

「いっただきまーす!」

日本人らしく、手を合わせて軽く会釈してから食事にありついた。

━バンッ

「何だッ!?」

強く開けられた扉の方を見ると、そこには息を切らした女性がいた。大学生くらいだろうか?毛先がクルっと丸まっていて可愛い。しかし何故か大きな鞄を持っていた。

「あの……依頼ですか?」

鈴宮は小さな声で聞いてみる。女性はうんうん、と声を出さずに頭を大きく振った。鈴宮はとりあえず依頼主をソファに座らせた。横目でちょっと食べかけのオムレツとトーストを見て、ガックリした。

「えーっと、どういう御依頼ですか?」

鈴宮は紙を取り出して言った。

「私を此処に匿って欲しいの!」

「……はぁ?」

「私、私、セリーヌ・ボワロー。この辺りの医者の娘よ!」

鈴宮は医者と聞いた途端にゲッという顔になった。噂をすると……というやつだ。

「心中ご察しするわ。パパは最悪だものね」

「いえっ、そういう訳じゃ……」

鈴宮は慌てて否定した。セリーヌは少し疲れた様に笑った。

「ううん、気にしないで。私もパパのやり方が気に入らないで家を出たんだから」

「……じゃあ、家出したけど行く宛てがない?」

「そう。友達の家だとすぐにバレちゃうわ。ボーイフレンドは一人暮らしなんだけど……断られちゃった」

「真面目な彼ですね。いい青年だ!」

「ふふっ、何それ……オジサンくさいわ。でもそう、とっても誠実なよい人よ」

「……でも、それで俺のトコにいるのもちょっと……」

「そう? 私は気にしないけど」

「少しは気にしてください!」

セリーヌはクスクスと笑う。鈴宮はグッタリとソファにもたれかかった。

「そうね、アナタ、よく見るとカッコいいものね」

「よく見ると……」

セリーヌは鈴宮をジロジロと見た。鈴宮は目を背ける。

「一般的にね。でも私の彼の方がずっとずっと素敵よ?」

「それだけ惚れてれば大丈夫ですかね」

鈴宮はフッと顔を緩めた。セリーヌは鞄から潰れかけのサンドウィッチを取り出した。

「ホラ、ランチの途中だったんでしょ? 私もまだ食べてないから。食べて来ちゃってよ!」

鈴宮はなかなか気が利くセリーヌに感心し、オレンジジュースを差入した。冷めてしまったオムレツとトーストは、それでも美味しかった。

「でもやっぱり泊められませんよ。それに俺は修復屋だから管轄外ですよ」

「あら、管轄なんてあるの?けちんぼね!」

「いや、それじゃ何でも屋になっちゃうから……」

「いっそ、何でも屋にすればいいんじゃない?」

セリーヌが明るく提案する。鈴宮は軽く首を横に振った。

「出来ないこともありますから……」

「そうね、確かにそうだわ。よく分かる。あぁ!思い出しただけで腹立つわ!」

多分、父親のことを言っているのだろう。彼女が死んでも出来ないことを、父親が軽々とやってしまうことに腹が立つのだろう。



それから二人は再び話し合うことにした。鈴宮が切り出す。

「えっと、俺は修復屋だから、何かを直す仕事をしてるんですね」

「そうね、知ってるわ」

「だから直すことなら出来ます」

セリーヌは少し考えた。

「でも壊れた家具とかはないわ」

「うーん……人間関係でもいいんですよ?」

鈴宮は少し強調して言う。再びセリーヌは考え始めた。

「やっぱり問題ないわ。

彼とはラブラブだし、友達とも仲良しよ」

今度はチロッとセリーヌの顔を見た。セリーヌは目を反らす。

「……お父さんは?」

「ダメッ!パパはダメッ! あんな家に帰る気なんて全くないのよ!」

鈴宮はちょっと文句を言いたげな顔をした。何よ、とセリーヌが顔をしかめる。

「だったら、これからどうするんですか?住む所もないのに」

「これから探すのよ! 大丈夫! きっと見付かるわ!」

何かを言いたげな顔を鈴宮は再びした。セリーヌはそれにすかさず気付いた。

「医者の娘だから苦労知らずなんて考えないでよ!? 家出だって、家のお金は取って来てないんだから!」

「大変ですよ、働くのは。初めてなんでしょ?」

「そうよ。でもカールを手伝ったことはあるわ!彼が熱を出したときにカフェテリアで働いたんだから!」

「カール?」

鈴宮はきょとんとした。するとセリーヌの表情が途端に一変した。

「私のボーイフレンド! カール・ソディっていうの。一人暮らしだから、アルバイトをしてるのよ」

鈴宮はセリーヌが幸せそうな顔をするのを楽しそうに見た。セリーヌはそれに気が付き、ちょっと顔を赤らめた。

「私は大丈夫。だからパパとのことは気にしないで」

必死に頼むセリーヌを見て、鈴宮は内心気になりつつも断わることができなかった。

「分かりました。じゃあ他には?」

パッとセリーヌの顔が明るくなった。そしてまた少し考えた。そして何か思い出したようだ。

「そう! 心配なのは妹のルーシーよ。まだ家にいるの」

「……家にいるなら安全なんじゃないですか?」

と、鈴宮はツッコんでみた。

「違うのよ。家には誰もいないの。昼はお手伝いさんがいるんだけど、夕食を作ってから帰っちゃうのよ」

すっかり妹を心配する姉の顔だ。

「でも妹さんと、さ迷う訳にもいかないでしょ?」

「そうなのよね……ルーシー、泣いてないかしら?」


「おいくつですか?」

セリーヌが不安顔で鈴宮を見た。

「まだ15歳よ」

結構大きいじゃないかと、鈴宮はガックリした。余計な気を使ってしまった。

「そうよ! 明日、パパの病院に行って!ルーシーの様子を見てきてくれない?」

セリーヌの唐突な提案は鈴宮はビックリした。

「えぇ!? 俺が? 元気ですけどっ!」

「大丈夫。頭が痛いとでも言えばいいわ。私の家は病院の二階なの。明日は休みだし、ルーシーは家にいるはずよ!」

病院はもともと好きではなかった。しかし依頼だということで、渋々引き受けることになった。セリーヌは嬉しそうな顔をした。するとスクッと立ち上がって言った。

「じゃあ、荷物を奥に運わね! 部屋はどこ?」

その時だった。店の扉が開けられ、一人の男がズカズカと入って来た。一目散に鈴宮の方へ向かってきた。

「セリーヌをたぶらかしたのはお前か!」

男は鈴宮の胸ぐらを掴んで、鈴宮の左頬を拳で殴った。鈴宮はその衝動でソファに倒れこんだ。

「カール!!!!」

鈴宮はただ呆然と殴られた左頬を押さえていた。






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