第3章 第3話
翌日、たまたまシェリルが修復屋を通りかかったところ、倒れている屍を二体見つけた。
「……しゅ、修復屋?」
シェリルは恐る恐る店の中を覗いた。やはり二人、倒れている。
「やぁ、ちびシェリル」
聞き馴染んだ、嫌なヤツの声がした。
「ハサウェー……」
「いやいや、爽やかな朝だね」
いつになくウェイドの機嫌が良かった。シェリルは倒れているうちの黒髪の方をつついた。
「おい、修復屋!大丈夫か?」
「うっ……シェリルか」
明らかに元気がない。シェリルはキッとウェイドの方を見た。しかしウェイドは素知らぬ顔だ。
「ホラ、ブラントも」
シェリルはオリヴィアの体をゆさゆさと揺らす。オリヴィアもうぅ、と唸った。
「……資料……っは、もう、無理っ!!」
うなされている。シェリルが回りを見渡すと、大量の資料が綺麗にファイリングされて並んでいた。
「これか」
はぁ、と溜め息をつく。
「シェリル、その二人を叩き起こせ。いるだけじゃ、集まった意味がないからな」
腕を組みながら、ウェイドは偉そうに言う。シェリルは不満に思いながらも、渋々二人を起こした。
鈴宮とオリヴィアはシェリルに作って貰ったコーヒーを飲んで、何とか復活した。
「じゃあ、俺から」
鈴宮が小さく手を挙げた。
「アダム・デンプシーは店の怪しい客をマークしてる。というのも、最近、アダムの店の商品が盗まれたものだと主張する奴がいるらしくてな。タダで返して欲しいと言っているそうだ」
ズズ、とコーヒーをすすった。
「タダで?許せないな、それは」
ウェイドはついでに鈴宮を睨んだ。情報をタダで貰ってる張本人だ。
「多分、そう言ってるのはローリー・クラコフスキーだと思う」
「だな」
オリヴィアもうんうん、と頷く。
「盗まれた……つまりソレを探してるわけだ」
「そうなるな」
「……あと、誰かから逃げてるんだよ」
オリヴィアが急に口を開いた。
「逃げてる?誰から?」
「まだ分からない。ただ、重要なことが分かったんだよ」
「なんだ?」
「ローリーには弟はいない。ラッセル・クラコフスキーなんて存在しないんだ」
「「!?」」
「実際に町の登録書を見てきたよ。いるのは妹のエミィ・クラコフスキーだけだった」
「ちょ……ま、待て。ってことは、俺は報酬なし?」
「はぁ?」
ウェイドが鈴宮の馬鹿げた質問に呆れた顔をした。
「だってさ、ラッセルはローリーを良くない意味で探してるってことだろ?!」
「ローリーが怯えてたって言ってたし……うん、十分有り得るね」
「だったら、俺の報酬も払わない悪い奴かもしれ」
「本題に戻ろう」
鈴宮の悲しい心配はウェイドによってバッサリと無視された。
「ローリーが探してた情報はアダムの友好関係だと分かった」
「ってことは、ラッセルとも関係してるかもしれないね」
ウェイドは煙草を取り出して、火をつけた。
「可能性は高い」
オリヴィアは手帳にメモをする。
「ワケありだねぇ」
ボソリと呟く。
「全く、面倒なことを」
ウェイドはふぅ、と煙草をふかした。
「次に必要なのはラッセルの身元だね」
オリヴィアはチラッとウェイドを見る。つられるように鈴宮も見た。
「……何だよ」
「いやぁ、こういう仕事はウェイドが一番向いてるかなぁ、って」
うんうん、と隣で鈴宮が頷く。途端にウェイドの顔が曇った。
「お前ら、面倒な事を俺に押し付ける気じゃないだろうな」
「まさか!」
鈴宮とオリヴィアはニコリとする。と、次の瞬間二人は一気に駆け出し、姿を消していた。
「……アイツら、覚えとけよ」
反応に遅れたウェイドは青筋を立てながら、呟いた。