最終章 蒼き花こそ咲き乱るれ
最終話です。
今までご愛読有難うございました。
すっかり夜も更けた。
そして、お祭りはすごい盛り上がりを見せている。
僕も、例年通り楽しんでいた。
だが、ただ一つ、違うことがあった。
僕の隣に憧れの人がいることが――。
「わぁ、わたがし買おうよ!」
「ガキかよー、わたがしなんてさ」
篤希の皮肉に、なによと鈴美は怒っていた。
周りは笑い、いい雰囲気だ。
「水月さん、たこ焼きおいしいよ!」
僕は、たこ焼きをほおばりつつ水月さんに声をかけた。
「嫌…」
「え…?」
突然の一言に僕は動揺した。
「優菜って呼んでっていたのに」
「あ、あぁ、ゴメン…、優菜」
今度はしっかりと優菜と呼んだ。
優菜はは、へへっと子供のように笑った。その笑顔がいとおしい。
僕は優菜さんとの距離が確実に近づいてることを感じた。
どっかーん!
和やかな空気を、無遠慮な爆音が破った。
「花火だ…」
僕は無意識に呟いた。
「あぁ、やべっ!花火が始まる時間過ぎてるっ!早く堤防に行こうぜ!」
秀太は一気に言い切った。
ここでもいいじゃないかという反対を押し切って、秀太は堤防へ行きたいというので僕たちもぞろぞろと、堤防へ急いだ。
「やっぱり、ここで見るのは違うなぁ〜」
秀太は、花火を見ながら感嘆の声を漏らした。
みんなも、うんうんと頷いている。
夏の夜空を彩る、虹色のヴェール…、感動しないわけがない。
そんな時、優菜がとことこと歩いてやってきた。
そして、耳元でそっと呟いた。
「ちょっと来て」と。
僕は誘われるままに堤防の端まで歩いた。
「ねぇ、どうしたの?」
こらえ切れず、僕は聞いた。
「線香花火買ってきたの。二人でやらないかな?」
二人でやらないかな?
ふたりでやらないかな?
…!
みんながいる中、僕と二人で?
僕はしばらく唖然としていた。
「駄目…かな?」
優菜が、恥ずかしそうに聞いてきたので、僕は慌てて了承の返事をした。
ぱちぱち…。
もう大きな花火も終わり線香花火の輝きだけが、僕らを包んでいる。
静寂な暗闇が永遠をあらわし、この小さな輝きが、切り開かれる未来をあらわしているよう。
僕は決意した。
「ねぇ、優菜?」
優菜は、なぁに?という顔で僕の顔を覗き込んでいる。
「この線香花火と大きな打ち上げ花火…。同じ花火だけど光り方も規模も全然違う。それは、僕たち人間の人生も一緒のようなものだと思う。でも大きな花火が線香花火より美しいという人もいれば、その逆もいる。僕は線香花火みたいに生きたいと思うんだ。派手なことはしなくていいから、こうやって優菜と過ごせる時間を少しでも増やせればいいから…、だから…これからも僕と一緒にいてくれる?」
優菜はにこりと微笑んだ。
「線香花火買ってきたよー」
僕は、思い出から現実の世界に引き戻された。
「さ、一緒にやろう?」
もう、彼女に会って10年になる。このお祭りは、10年前からずっと変わらない。でも、僕たちは前に進んでいる。これからもずっと彼女のこの笑顔とやっていくだろう。
闇に輝く線香花火のように――。
「おう!」