第1章 訪れる夏休み
夏休みということで、今日次を少しお休みして中編小説(?)を発表します。
今日次も連載中なので5話以内に収めるつもりではあります。
楽しんでいただければ幸いです。
線香花火か、懐かしいな…。
僕は夜の堤防を歩きながら思った。
今日は僕の町で年に一回ある夏祭りの日だ。
普段は寂しい感じのする町だが、今日だけは違う。
家々の明かりはもちろん、こういった堤防までがにぎやかになる。
僕はこれでこの祭りを迎えるのは、25回目になる。
そう、このお祭りで、その年以降そのことを毎年思い出さずにはいられない年があった。
僕が、高校に入ったばかりの年にあったお祭り。
16回目のお祭りだ――。
「蒼!明日の祭り一緒に行こうぜ!」
「おぉ、俺も行く!」
「おっし、じゃあ3人で行くか」
僕の名前は“葉夏 蒼”
県内でもトップクラスの(自分で言うのもなんだが)進学校『星楽学園』に入学できた。
中学からの成績もよくて、ずっと狙っていた高校だったので合格が分かったときは、ものすごく嬉しかった。
どうせ真面目なやつばかりだろ…。と思っていたクラスメートも、とてもノリがよくて面白い二人に出会えて高校生活を楽しませる要因の一つになっている。
最初に話しかけてきた奴が、“風堂 秀太”
いかにも凄そうな感じのする名前で本人曰く「星楽なんて、誰でも受かるだろ?俺でも勉強なんてほとんでしてないぜ?」らしい…。
ちなみに僕は中学1年の時から猛勉強していたのに、あまりにあっさり言われてしまい、ちょっぴり恥ずかしくなって、ここにはそんな奴ばかりなのか…?と、焦ったものだ。
俺も行く…と言ったのは“笠原 篤希”彼はなかなか努力家だっららしくそこそこ苦労して入学したそうだ。
ただ、彼も裏があり、先生に勉強で喧嘩を売られ(本人談)それで逆上して、勉強して受かったいう。なんとも素敵な話だ。
こんなノリのいい二人だから学校も楽しい。勉強が辛くても苦にならない。
「おー、そこはもう夏休みモードかぁ!宿題忘れんなよ!秀太!」
「何言ってんだよ!俺は宿題なんかしなくても余裕なのー!」
そう言って、秀太は先生の突込みをうまくかわし、みんなを笑わせた。
もちろん、クラスのみんなともお互い仲がいい。
受験の競争相手という感覚はなく、お互いに励ましあうような存在だ。
やはり、友達というのはこうでなくては…と、常々に思ってしまう。
何故なら、僕がいた中学校は3年の後期に入るとお互いに口も聞かなくなり、分からない所を聞こうとしても「うっせえな!先生に聞けばいいだろ!」と逆ギレされた。
もち、高校に進学しない奴はいた。そいつは最初は騒いでいたがクラスの雰囲気に気圧され、結局は静かになってしまう…という凄い状況だったわけだ。
「よーし、それじゃあ今日はここまでだ。夏休み中もだらけちゃいかんぞ!宿題はもちろんのこと、課外にも積極的に参加するように!」
キーン、コーン、カーン、コーン…。
先生がちょうど言い終えたときチャイムが鳴った。
「よし、日直号令!」
「きりーつ。れい!」
日直の秀太のやる気のない声は、さきほどの先生の声とのギャップもあり、いっそうやる気なく聞こえた。
クラスのみんなは、一緒に下校する子同士が誘い合って教室を出て行った。
「なぁ…夏休み中にほしいよな?」
静かな並木道を僕たち3人が歩いているとき、秀太が口を開いた。
「何が?」
「決まってんじゃん!なぁ篤希?」
ここで、なにか分からない僕はむっとした。
「俺はもういるけどね」
そっけなく、篤希が答えた。
「え?うっそ、マジで!?」
「じょーだん!いるわけないっしょ!」
「は、はめたな〜!」
2人が勝手に盛り上がってるのが悔しくて、僕は大きな声で言った。
「もう!いったい、なんの話してるの!?」
「お?蒼はまだ気づかないのか?冗談だろ?彼女だよ。か・の・じょ!」
感づいていながらも僕が一番避けてほしい話題だった。
彼女、恋愛、交際…。そのどれからも僕は無縁だった。
いや、自分から避けていたというほうが正しいだろう。
先ほども話したとおり、僕の学校はみんなが受験に必死だった。だから、僕も自然とそれらから離れていった。だが、みんながみんな“付き合ってなかった”というと嘘になる。と、いうか嘘だ。
付き合っているグループは僕が知っているだけで、結構あった。
そう考えるとやっぱり自分から避けていたと考えるほうが正しいだろう。
なんでだろう。やっぱり、僕には刺激が強すぎたのだ。
男女で付き合うって…、考えただけでも背中がむずむずしてくる。
ここは進学校だったので、そんな話題は一切ないと思った。
だが、その考えは甘かったのだ。人類永遠のテーマといってもよい恋愛を高校でしないのはおかしいと…やはりそういうことなのか。
ただ、この二人のことを僕は大好きだったので、できるだけ話しを合わせることにした。
「あぁ、彼女ね…、僕もほしいなぁ!」
「お、蒼もそう思うか?誰がいいんだよ?クラスの中で」
…!予想外の展開になった。ここで好きな人を言わされる羽目になるとは…。
まぁ、でも好きな人をいうのは悪くない。自分の趣味が合うかどうか、確認できるし、万が一、両思いだって時は…。
いやいや、考えすぎだ…。
そう、別に僕は恋愛が嫌いなわけではない。彼女が要らないわけではない。
ただ、刺激が強いというだけであって可能であれば高校生活中に経験するのも悪くはない。
と、段々僕の思考回路が変わってくる。
恐らくは…この二人の影響だろう。
この二人が僕をこれだけ変えているのかと思うと、少し嬉しい気持ちと少し不安な気持ちになった。
「ん…とね、“水月優菜”さん…」
「おぉ…なかなかいい目してるじゃん!俺もあいつはクラスの中でいいほうだと思うぜ!」
「うん、俺もいいほうと思う」
二人が賛成してくれたので、僕は嬉しくなった。
「そうだよね!?可愛いし、優しいし!」
「まぁ、頑張れよ!篤希は誰だよ?」
話が篤希にふられた。篤希は見た目がとても格好いい。制服をラフに着こなし髪型もきれいになびかせている。顔立ちも整っていてきれいだ。
「んー、俺?俺は同じクラスにはいないなぁ…、秀太は?」
秀太もなんだかんだ言って、女子に人気がありそうなタイプだ。トークも面白いし、顔も悪くない。美形ではないが女性を惹きつけそうな顔だ。
そう、考えると、自分が一番情けないような感じだ。
「俺もかな。っていうか、同じ学校じゃなくて前駅で会った子が忘れられないんだよな」
「なんだよ、それー、名前も分かんないんじゃ駄目だろー?」
「いや、夏休み中に会ってメルアド聞き出す!」
「夏休み中にはって…その子も学校休みじゃん」
篤希のするどい追い込み方に秀太は、あ…と口を開いてしまった。
そして、僕も篤希も大声で笑った。
笑うなよ!と言いながらも秀太も笑っていた。
こんな何気ない日常が楽しかった。ただ、みんなで話して笑いあって…。
友達がこんなにいいものなんて、今まで気づかなかった自分はどうかしてた。
でも、これが当たり前なのだ。一緒にいて楽しいからと友達なんだろう。
彼らは…僕にとって生涯初めての友達だ――。
そして、もう一つ…。
明日から、高校生活初めての夏休みだ――!