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第四話

 人というものは恋をする。

 それはある一人を自分のものにしたいという欲望から生まれるものだ。

「……」

 僕はあれから数日たった今でもずっと一人の後輩のことを考えていた。

「う~~ん……」

 唸る。今度はいつ、どうやって誘うか……。そんなことを考えていた。

「おはようございます。先輩」

「あ、おはよう」

 いつもの平坦な道を歩いていると春香さんがやってきた。

「よぉ。山根」

 邪魔なおまけまでついてきたようだ。

「はぁ~。おはよう、梅山」

「おぅ。……ところで、こないだ家の妹がそちらにお邪魔したようですが……。……どこまでしたんだ?」

「お兄ちゃん!!」「梅山っ!!」

 二人同時に叫ぶ。春香さんの顔は何故か真っ赤だった。

「な、何もしていないって! そんな……ことは……」

「ほぅ~?」

 梅山が信用できないというような目で見てくる。

「ただ――プラネタリウムを見ただけだ」

 僕は本当のことを言った。

「へいへい。お熱いですねー」

「う~め~や~ま~!」

 僕は奴を睨み付けると春香さんと一緒に先を急いだ。……ったく。

「すいません。あんな兄で……」

「いやいや。……ところで、今度いつ来るの?」

 僕は今度いつ来るかを聞くことにした。なんだか自分でもわからないが。

「え?! あ、はい……」

 彼女は驚いたようだが、すこし考える素振りをして

「じゃあ、また日曜日に……。いいですか?」

「あぁ、いいよ」

 今度の日曜日も親が旅行に行っている最中だ。偶然。

「それじゃあ、楽しみにしてますね」

「あぁ。僕も機械をぴかぴかにしておくよ」

「あはは、楽しみにしてますよ」

 そこで会話は途切れる。下駄箱に着いたからだ。

「じゃ」

「それでは」

 僕と春香さんは別れを告げて、それぞれの場所へと向かった。

 僕は下駄箱に下履きを入れる――ん?何か入ってる。

「手紙……?」

 何かいやな予感が頭を過る。

 僕は恐る恐る封筒状になっているそれを開いていく。

「っ!?」

 それにはただ一言。簡潔に文が記してあった。それは例え僕が小学生だったとしても理解できる文だ。

『スキです。私と付き合ってください』

 そう、書かれていた。

「よっ、何見てんだ?」

「うわっ?!」

 梅山が横から覗いてくる。これは見られてはいけないものトップ10には入るものだろう。僕は慌ててそれを隠す。

「なんだ、ラブレターか」

 しかし、簡単に見破られてしまった。僕は観念して事情を話し始める。

「朝中を見たら入っていたんだよ」

「差出人は?」

「……うーんと、うちのクラスの前木原さん」

「わぉ! あの美人か!? おめー、すげーな! スミに置けねえ奴だぜ!」

 しかし、なんで彼女は僕にそんなことを伝えたのだろうか。――まぁ、好きだからに違いないだろうが。

「で、お前はどうするんだ?」

「僕か……」

 僕は彼女のことはあまり知らない。だけど、僕はずっと彼女というものがほしかった。この機会に作ってしまおうか。

「お前、中途半端な気持ちはやめろよ」

「え……?」

 梅山の口調が変わる。顔つきも厳しくなっていた。

「本当に好きな奴とだけ、付き合え。中途半端な気持ちはお互いを傷つけるだけだ」

 そこ言葉は僕の心にずっしりと響いた。

「俺は――そう思う」

 そういうと梅山は先に履き替えて行ってしまった。僕は一人下駄箱に取り残される。

「…………」

 ごめん、前木原さん。僕は君とはつきあえない。だって――


「そうか。断ったんだな」

「あぁ」

 お昼の時間、僕と梅山は机をくっつけて弁当を食べていた。

「まぁ、お前とあいつに接点はなかったしな」

「ん。そうだけど、なんでなんだろうね」

「何がだ?」

「なんで、あまり接点がない人を好きになるんだろう」

 うーん。そう唸っている梅山を見つつ、卵焼きを口に運ぶ。ふわっ、とろっが特徴の母親の卵焼きだ。

「きっと、一つ何かで接点が生まれて、そこで、惚れたんだろう。そうなると、どうしてもそいつのことを考えてしまうんだろうなぁ」

「接点……ねぇ」

 僕と彼女の接点は……同じ図書委員会ということだろうか。そういえば、前に一度だけ本を運ぶのを手伝った覚えがある。それだけで……惚れてしまうのだろうか。

「あのな。そういうことは希にあるんだ。何か心が不安定なとき、人は安らぎや愛を求めるんだよ。それでその状態の時に何か"接点"が生まれるとそこから派生しちまうんだよ」

「ほぉ。今日の梅山は難しいことをいうな」

 いつもあほなことしか言わないのに。

「まぁな。心理学を勉強していた頃があってな。それでだ」

「ふーん」

 まぁ、何にせよ人は一つの"接点"から恋だの愛だの友情だのが生まれていくんだな。

「そういうことになるか」

 僕は最後の一口のご飯を口に入れると弁当箱の蓋を閉じた。

「ごちそうさまでした」

 僕はそういって席を立った。梅山も食べ終え、机を元に戻す。

 弁当箱を鞄にしまい、そっとクラスの端にいる前木原さんを見た。

 彼女は一人で寂しそうに弁当を食べていた。

 僕はついさっき、彼女を振ってしまった。

 どこかで生まれた"接点"。結局彼女と僕は結ばれなかったけど――

 ――その"接点"があった、という事実は消えないだろう。


こんにちは。まなつかどぇす。


今回は脇役である梅山をかっこよく書いてみたつもりです。

脇役が大好きです。


"接点"この言葉がキーワードなんですかねぇ。

もう少し続きますので最後までお付き合い願います。

また、感想をいただけたらうれしいです。

それでは。


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