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作家と軍人  作者: 藤戸 嘉太郎
シミエル家御令嬢毒殺未遂事件
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シミエル家御令嬢毒殺未遂事件 4

 白塗りされた建物が三つ。駅から一番近い病院なだけあって建物も他と比べるとかなり大きい。これに並ぶのは冒険者ギルドだろう。調べてきたユイが言うには、他にも病院や診療所はあるらしいが、交通の便や近くに魔術学校があることから利用者はかなり多いらしい。何でも魔術事故が起きたときよくお世話になるそうだ。


「魔術事故、てそんなに起こるんですか?」

「基本魔術は入学前に使える人が多いけど、攻撃型魔術や回復、呪い関係など専門性高いものは学校入って初めて習うらしいので。後は普通に体調不良とか、風邪ひいたときとかですかね。全寮制なので近くに病院があるのは嬉しいでしょう」

「それはお義父様の言葉ですか?」

「はい。養父のおかげですね。あの方の優しさがなければ七日足らずで自殺してました」


 動かしていた足を止める。振り向いて彼女を見るレナートにユイは笑顔で首を傾げる。

 自分の発言のどこにおかしいところがあるのか、と言った表情だ。当たり障りのない返事しかできず、レナートは病院の扉を開けた。大きな病院なだけあって待合室が広く、それでいて清潔感があった。

 ユイは受付に向かって入院患者の面会を願う。あらかじめ連絡していたのだろう。看護婦は置かれていた紙をペラペラめくって確認している。

 確認が取れたのか、身分証を見せただけであっさりと通された。

 軍靴が木造の床をコツコツと鳴らす。対象に、ユイからは靴音が聞こえない。自分よりも高いヒールを履いているのに。歩き方にコツでもあるのだろうか。

 目の前の彼女の動きが止まる。止まった場所を見れば『203 バルバラ=T・シミエル』と表記された部屋。どうやら目的の部屋に着いたようだ。

 扉の向こうの気配は一人分。恐らくバルバラご本人と見ていいだろう。ユイに待つよう手で制してノックする。


「……どうぞ」


 扉の向こうから、声が聞こえた。女性らしい、鈴を転がしたような声だった。

 失礼します、と断りを入れて扉を開ける。ふわりと部屋の空気が柔らかくレナートを撫ぜる。

 日の光を取り入れるためだろう、大きめの窓が壁の中央にあって開かれている。そこから春の風が入り込んで背中まである髪を揺らしている。

 銀髪と見間違えそうな淡い水色の髪を手で押さえながら少女は檸檬色の瞳をゆっくり溶かすように柔らかく微笑む。その微笑みすらも教養の高さを感じるほど上品で、麗しいと思う。

 それは後ろにいた彼女も思ったのか、「深窓の令嬢じゃん……」と呟く。


「ユイ先生がこちらにいらっしゃることは友人から聞いています。今、お飲み物をご用意しますね」

「お構いなく。自分はただの護衛です」

「ありがとうございますー! いや~こんな美人さんにお茶淹れてもらえるなんて今月の運使った気がしますね!」

「お世辞だとしてもその言葉は嬉しいです。珈琲と紅茶、どちらが良いですか?」

「私は珈琲で! ……あ、と。自己紹介を忘れていました。申し訳ない。

 私はユイ。今話題の売れっ子推理小説家です。よろしくお願いします。ほら、レナートさんもご挨拶してください」

「……レナート=R・ワレンチンと申します。本日はユイ先生の護衛として参りました。よろしくお願い致します」

「レナートさんですね。私はバルバラ=T・シミエルと申します。どうぞよろしくお願い致します。レナートさんは珈琲と紅茶、どちらがお好きですか?」

「いえ、私は」

「珈琲でお願いします」


 レナートの言葉を上書きするかのように言ったユイに突っ込む間もなく珈琲は用意されていく。

 しかもお湯を注ぐだけでいいものではなく少々手順が必要なものがこの病室には用意されている。珈琲だけでなく、紅茶でも別種の淹れ方をそれぞれ用意しているのだろう。儚さそうな見た目に反してこだわりが強そうな性格にレナートは心の中で天を仰ぐ。いや、こだわりがないとビール製造の五指に入る酒造会社経営を務められないだろう。

 フラスコに入っている珈琲を注ぐバルバラの様子はいたって健康的だ。


「体はもう大丈夫なんですけど、学校に通わせるのを親が許していなくて……」

「まあ娘が死にかけていたんですから、ご両親の気持ちは分かりますよ」

「お父様は心配性ですから」


 できた珈琲を三人分の珈琲碗に注ぐ。

 それをベッドテーブルに置いて二人分の椅子を用意し、寝台に腰を掛ける。


「バルバラさん、これお見舞いの品です! 親御さんから私のファンだって聞いたんで。はい、最新作。まだ発売されていないから内緒にしてくださいね?」

「ひぇ」


 バルバラが本を持ったまま固まる。

 動かないバルバラを見て首を傾げるユイ。固まって当たり前だ。何でファンに贈ったんだ。


「一ファンに未発表の小説、しかもサイン付きを渡されたら驚くでしょう、普通」


 蝶番が動く音と一緒に青年と呼ぶにはいささか若い男の声が聞こえる。

 気配は随分前から分かっていたが、敵意がないので放って置いていた。

 顔を後ろに向けば案の定、少年と青年の間に位置するような男が黒い箱を手にして立っていた。潔癖症なのか、黒い手袋をしている。

 紺色の髪を下の方で輪っか状の団子にして結んでいる。切り揃えた長めの前髪を右に流してこちらを見ている翡翠色の瞳が鋭く輝く。

 その目に込められているのは、敵意。

 手に持っている箱のことといい、不明な要素が多く、レナートの手が剣に触れる。

 静かな緊張感に包まれた空気を破ったのは、ユイの朗らかな声だった。


「こんにちは! 彼女さんへのお見舞いですか?」


 声をかけてきた彼女に対してじと、とした目付きで見る青年。


「……違います。僕はここの病院長の息子で彼女のクラスメイトです。——バルバラさん、体の調子はどう?」


 病院長の息子がバルバラに話しかけるが、彼女の顔は本から動かない。

 彼女の意識を取り戻すためだろう、息子はバルバラの耳を容赦なく引っ張る。


「い、つぅ……! ちょっ……とアスク、レ、ピオス! 急に耳を引っ張らないで!」


 痛みで潤んだ黄色い目をつり上げて睨み上げる。痛みがひどかったのか、彼の名前を呼ぶ声はどこかたどたどしかった。

 対して息子は悪びれた様子を見せず、本を取り上げて代わりに持っていた箱を置く。


「君に会いたい人がここに来ているのに意識を飛ばしたままだから戻してやったんじゃないか。感謝して欲しいくらいだね」

「そ、それは感謝しています。でも痛かったんです!」

「はいはい悪かったよ。これで機嫌直してくれない? 見舞い品、というには君の容体はあのときと比べて安定しているけどね?」


 クラスメイトのやり取りに口を挟めず、レナートはどう切り出すべきか迷っていた。

 自分達は彼のことを知らない。いや、知っていると言えば知っているのだが、会うのは初めてなのだ。挨拶をしたいと思うのは当然のはずだ。

 ユイも同じ考えなのかあの、と控えめに呼びかける。

 息子はこちらの意図を察したようで、ご挨拶が遅くなりました、と謝罪してこちらに体を向けて一礼する。


「僕はアスクレピオス=V・スピタルと言います。さっき言った通り、ここの病院長の次男で、彼女のクラスメイトです」


 アスクレピオス、と隣でユイが彼の名前を小さく復唱したのをレナートは聞き逃さなかった。

 アスクレピオス=V・スピタル。倒れたバルバラに応急処置をした生徒の名前だ。ユイは彼にも話を聞こうと考えているみたいなので、丁度いいだろう。

 ユイも名乗り、レナートのことも紹介する。その間に眠くなってしまったのか、バルバラは寝てしまった。


「あら、寝ちゃった。起こすの可哀想だし、このままにしましょうか」

「よろしいのですか」

「聞き取りは警察や記者の方が何度か行っていますので。その記録を見れば大体分かります」


 ぐぅ、とユイの腹が鳴る。時間を見ればもうす十時になる。確かに腹が鳴ってもおかしくない。

 腹が鳴ったことに対してユイは特に恥ずかしがらず、何か食べたいですねと言いながらアスクレピオスの方を見る。

 アスクレピオスは渋面を作る。本当に嫌そうだ。


「……何が食べたいんですか?」


 だが、押し切ることはできなかったようで、注文を聞いてきた。


「サンドイッチでお願いします!」

「たまごを選んでも大丈夫ですか?」


 ユイは目を見開いてアスクレピオスを見る。会話をただ聞いていたレナートも、思わずアスクレピオスの方へ体を向けた。

 突然のことに驚いたのか、アスクレピオスはたじろいだ。


「な、何ですか……体質過剰反応物を持っていないか確認するのは常識でしょう?」

「体質過剰反応……ああ、アレルギーのことか。きみらは長ったらしい名前が好きだよなあ。アレルギーで統一しようぜ。アレルギー」


 こいつらは何を言っているんだ。

 体質過剰反応。それは免疫の異常で無害な物を有害と判断して蕁麻疹など、過剰反応を起こしてしまうものを言う。病気ではなく、体質なのだから治療ができない。だが、先人達の努力によって過剰反応を一時的に抑える魔法薬を開発したことで、食前に飲むことで反応を抑えることができるようになったのだ。

 体質過剰反応持ちなら、その魔法薬を飲んで過ごせばいい。

 それが当たり前の考えだった。だから確認することが珍しく、大袈裟に反応してしまった。やはり医療関係を親に持つとこういった気遣いができるのだろうか。


「そう言ったものがないなら、こちらで勝手に用意します。——文句言わないでくださいよ」


 半目になって病室を出る彼はこちらがかなり嫌いらしい。閉めた扉は思いのほか優しかったが、バルバラに障らないようにするためなのは明白だった。部屋にいるのが自分達だけだったら荒々しく閉めていただろう。

 アスクレピオスがいないことを確認したら、ユイは近くにあったゴミ箱を漁る。


「……何を、しているんです?」

「何って……彼女の生活の癖を探っているんですよ。ゴミってそういった面では結構探りやすいんですよね。……ちり紙の類が多いな。もったいねぇなオイ。これなんか排水溝の髪を取るのに使えるだろ絶対」


 ばっちいものを触ったみたいに、ユイはゴミ箱から手を放した。次に興味を持ったのは寝台脇にある棚で、引き出しを開けて中身を探る。

 中にはノートと筆記用具、水色の携帯。ユイは躊躇うことなく携帯を手にすると閉じられた画面を開く。何してんだこいつ。


「ナニ、シテルンデス?」

「携帯見てます」


 ユイは『暗証番号を入力してください』と書かれた画面に動じることなくボタンを操作してロックを解除する。


「エェエエ————!?」

「うるさ。起きちゃうでしょ」


 顔をレナートから離すように動かしながら慣れたように携帯を操作する。携帯はどれも操作は同じだからそれは当然なのだが。

 ——どんな思考したら他人の携帯をいじろうと思うんだ! というか、なんで番号を知っているんだ!?

 自身の生まれ故郷のストリャルドでもそういった奴はいなかった。そんなことをするならバレないようにスリをする人が多いということもあるが。

 やめさせようと伸ばした右手をあっさりつかまれる。


「ちょ、離し……いででで強い強いつよいはなしテェ!?」

「うるさいデカい高い。起きちゃうでしょ」


 裏返ったレナートの声にユイは驚いたみたいだが、現役軍人の手を片手で封じ、本気でビビらせるほど握るなど、ありえないことだと考えて欲しい。

 ——骨が折れるかと思った。

 それだけでも怖かったが、何より恐ろしいのは、彼女は当然のように行ったことだ。恐らくこの力の強さに対して無自覚で、無意識に制御している。

 軍曹とは真逆だ。

 驚きの連続の中にいるレナートをよそに、ユイは携帯を操作する。


「——当たっちゃったか」


 ポツ、とこぼした言葉はどこか悲しげで、ユイの手を引き剥がそうとした左手の動きを止める。

 何が当たったのか。ろくでもなさそうなのは彼女の雰囲気で分かるが。

 ユイはバルバラの携帯を見せる。本人の了承がないまま携帯を見るのは躊躇うが、それはユイが許さないし、何より彼が帰ってきてしまうかもしれない。

 失礼、と言い置いて画面を開く。

 携帯の役割は遠距離の相手とのやり取りを可能にすることだ。方法は音声と文字の二通り。

 開いていた画面には、レナートの想像を絶するものがあった。


「これは……」

「胸糞悪いでしょう」


 文字通信の受信欄。そこにあったのは、バルバラの通信記録。

 内容は酷いものだった。酷いものしかなかった。

 教師に抱き着く写真にバレたらどうなるかの脅迫文。そこからいじめが始まり、精神的に追い込む通信が毎日送られていたようだ。暴言だけのものもあればバルバラのせいで誰々が怪我をした、など責め立てるもの。内容は様々だが、彼女を苦しませるものに変わりはない。

 受信・送信欄を見るに恐らくクラスメイト、名前からして全員女子だろう。各々がバルバラに言葉の刃を突き刺している。

 ——一人だけ、送っていない人がいる。

 アリツィナだ。

 ここまで分かりやすいものがあるだろうか。


「主犯はアリツィナですか」

「恐らく指示を出しているのは彼女です。この写真……場面を狙って取った感じがしますね。倒れそうになったところを教師に支えてもらったって感じですね」

「真実はそうだったとしても、周りは納得しないでしょう」


 人間は、面白い方に拍手を送る。


「真実を知っているけれど、いじめる口実としたのでしょう。でも手を汚したくないから自分からは一切していないし、発言もしていない。

 きったねー女ですよ。こいつと比べたら大抵のもんは可愛いですよ」

「これは……事件と何か関係があると見てよろしいのですか?」

「あるんじゃないんですか~」


 随分適当な返事だ。詳しく聞きたいが、足音が廊下から聞こえる。ここら辺で調査をやめた方がいいだろう。

 バルバラの携帯をしまい、元の位置に戻す。レナートは敢えてユイの側に近付き、話しかける。

 レナートの行動の意図が読めないのか、ユイがこちらを見上げる。


「先生」

「戻りました。……すみません、話し中でした?」


 狙ったタイミングでアスクレピオスが戻ってきた。

 ただ待つよりは、話している姿を見せた方が自然に受け止められるだろうと思っての行動だったが、上手くいったようだ。


「いえ。ユイ先生の今後の予定を確認したかっただけなので、お気になさらず」

「気にするやつじゃん続けていいよ。……頼まれたものです。お二人で分けてくださいね」


 渡された紙袋は少し重かった。中身を見れば四つのサンドイッチに二つの飲み物。

 ユイだけでなくこちらを思うその姿勢にアスクレピオスの株が上がる。


「予定としてはこの後学校に行ってクラスメイトの皆さんの特異魔術を聞くことくらいですかね。きみも何か持っているんですか?」


 ユイが小首を傾げてアスクレピオスに聞く。

 聞かれた彼の眉が上へピクリと動く。

 特異魔術は本人の才能や親からの遺伝、もしくは過去の出来事から発生する自分だけの魔術。他の者は決して使えないことから『唯一の魔法』とも呼ばれている。

 だが、その魔法にも弱点はある。特異魔術を聞くということは、その弱点も教えてくださいと言っていることに等しいのだ。

 『視界に映ったもの全ての動きを止める』という特異魔術を持ってしまったが故に、戦闘以外で目を開けることを許されなかった人を知っている。人の人生を左右される可能性を持っているそれを思うと、持たない者が羨ましく見える。

 自分の思考は、特異魔術を持っていない人が知ったら怒るだろうことは分かっている。

 ——隣の芝生は青いと、ユイ先生の小説で出てきた慣用句だけど、全くその通りだ。

 ユイに問われた少年は言い淀むが、扉に嵌められたガラスを殴る。かなりの勢いで殴ったのか、ガラスは割れ、赤い液体が鼓動に合わせて体外に飛び出る。

 いきなりの自傷に固まる二人をよそに、アスクレピオスは黒い手袋を外して白い手を傷口に当てる。


「彼のものの傷を、心を、過去を消せ(癒せ)——『我は汝の救いなり(アスクレピオス)』」


 詠唱を唱えた途端、傷口が光り出す。温かい光だった。

 光がおさまったとき、そこにあったのは傷一つないガラスとアスクレピオスの手だった。


「これが僕の特異魔術です。過程を消すことで結果を消す……ガラスを殴ってつけられたという『過程』を消すことで、傷という『結果』をなくしたんです。ややこしいし、あまり使いたくないですね」

「え、めっちゃ汎用性と応用力高そうなのに? 敵だったら絶対に残したくないレベルの強さだぞ」


 ユイの言う通り、アスクレピオスの特異魔術はかなり恐ろしいものだ。死者蘇生とかできてしまう。

 ——ただ、理に反する行いは代償がつきもの。もしやれば魔力の消費だけではない何かを犠牲に差し出すことになる。


「どーせ死者を蘇らせるとか考えているんでしょう。無理ですよ。死という終わりを迎えたものにはかけても無駄です。それに、発症が不明な病気とかはかけられません。あくまでも過程がはっきりしたものでないと、発動できません」


 はっきり言い切ったアスクレピオスにユイは口をとがらせる。何か言いたそうだったが、胸の内に秘めることにしたようだ。


「アスクレピオスさん。この後のご予定をお聞きしても?」

「……この後は普通に家に帰る予定ですよ。今日は貴方がここに来ることは聞いていたので、私にも話を聞くのかな、と思ってここに来ただけです」

「へぇ。わざわざ学校をサボるほど、この用件が大事だと思ったんだぁ」


 ニヤリと口の端をつり上げて笑うユイ。痛いところを突かれたのか、アスクレピオスはユイから顔をそむけた。

 確かに、今日は赤の赤の五十一。九日間——一週間の休みは週の初めと終わりと真ん中の五日目である。今は初めから数えて六日目。そう考えれば休みは昨日で、今日は登校日のはずである。レナートは学校に行ったことがないので詳しくないが、休みの日以外は登校日だということは知っている。


「——ま、サボる奴は地元にもいるのであまり言う気は起きませんけど……今日の午後三時、ジンシェン・トゥーディー魔術学校薬草学実験準備室に来てくださいね。そこで寝ているバルバラさんも一緒に」


 言われた内容に目を瞬かせるアスクレピオス。ユイはお願いしますよ、と念押しして、病室を出た。レナートも彼に目礼して一緒に出る。

 迷いのない足取りで病院を出るユイ。これから学校に行くつもりなのだろうか。確認したくて馬車に乗りながら聞いたら肯定が返ってきた。


「さっき言った場所に生徒達集める予定ですよ。集まるよう生徒達に言って準備すればいいかなー」

「その口ぶりですと……」

「犯人はもう分かっている」


 断言した。

 流石推理ジャンルを開拓した人だ。知識とその応用と構成力が高い。

 何かの雑誌でユイが書いた小説があそこまでの人気を得たのは、膨大な知識量とそれを繋げ、話として完成させる能力が高いということが書かれていたことを思い出す。

 だから、シミエル家も依頼を出したのだろう。


「……依頼はいつ頃受けたのですか?」

「三日前かな? ご両親が警察に見切りをつけたのがそのくらいだから。大体のあらすじならすぐに浮かんだけど、確証が欲しかったから思ったより時間がかかっちゃった。まあうちの犬どもがのろいせいだけど」


 あの調書はユイの配下がまとめたものらしい。事件当時のことや事情聴取内容、生徒の特異魔術、バルバラのカルテ、バルバラの病院食の献立までこと細やかに乗っていた。

 ——あれを二日という短期間で調べて遅いなんて……この人結構我儘なのでは?


「アスクレピオスさんの特異魔術は調書で確認していましたよね? どうしてもう一度聞くという手間を?」

「確認したかったんですよ。他人から聞いた話と本人の口から語られるのは結構違いますからね。でもあれは本当に便利ですよね。欲しいなぁ……」

「貴女魔力ないでしょう?」


 何を言っているんだという気持ちを込めて突っ込めば、舌を出して誤魔化した。どういうつもりで言ったんだ


「学校に行って生徒達にあの子に言ったことを報告します。そのときに特異魔術について聞こうと思います。アリツィナも特異魔術を持っていますので、いじめの件を知っているとバレないようにしてくださいね」

「承知いたしました」


 馬車の動きが止まる。どうやら目的地に着いたようだ。

 数十分前に見た魔術学校。空を突き刺しそうな尖った塔が見える。確かあの義父を使った度胸試しがあると聞いたことがある。その度胸試しはできるが、やろうと思わないほどくだらないものだった。

 開かれている正門を通り抜け、教室に向かった。

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