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作家と軍人  作者: 藤戸 嘉太郎
歌姫落花死事件
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歌姫落花死事件 6

「本当に連絡くれるとは思いませんでした」


 ユイが事件を解決した翌日、約束通りロバートを通してメリッサに会う約束を取り付けた。


「知らないのか? 私は契約を守る主義なんだ。きみは、ちゃんとあの推理を言わなかったみたいだし」


 北のシェスナシチェ駅構内にある椅子に座って珈琲を飲みながらユイは言う。確かに似たようなことをロバートにも言っていた。

 ——ん? 約束じゃなくて、契約? 意味ちょっと違くないか?


「……その様子だと、私の推理は大外れだったみたいですね」

「ああ。腹を抱えて笑っちゃうくらいの外れっぷりだったよ」


 笑いあう二人のやり取りが全く理解できない。何でそんなに笑っていられるんだ。

 ——……いや、待てよ。メリッサは従軍看護師で、死体を多く見ていた。だからあの違和感をこっそり私達に教えてくれた。

 おまけにホムンクルスの義肢をつけている。真相に気付く可能性がユイを除いて最も高いのは確実。

 ならば、自身の身を守るためにユイを殺そうとしたウルバノヴィチならメリッサを殺す可能性が高い。おまけにホムンクルスの調達するための金銭面的有利が画商であるリーリヤにはある。

 事故死に見せるよう殺して隠蔽することなど、あの二人にとって朝飯前だろう。

 メリッサの暗殺を防ぐために、敢えて彼女の推理を外れていると言って言いふらすことを止めさせた。

 ——先生とメリッサの推理が一致していると確信しなければできないことだ。それに、今回の事件は証拠と呼べるものは全くないのに、証言だけで犯人を言い当てた。今回の事件の解決は読心の心得でもあるのかと疑いたくなるほどの速さだ。ユイ先生、貴女。

 今回の事件、どこまで見抜いて行動したんだ。


「その確認のために連絡を取ろうとしたのかな?」

「いえ、それはついでっていうか、眼中にありませんでした」


 え、と素で驚いたような声がユイの開いた口から出てきた。

 メリッサは持っていた珈琲を側に置いて立ち上がった。足を動かして自分の前に立つ。

 翠色の瞳がレナートをとらえたままピタリと動かない。ちょっと怖い。


「私、黒髪褐色の人がドタイプなんです」

「どたいぷ」


 ちょっと何を言っているのか分からない。


「めちゃくちゃ好きなんです」

「めちゃくちゃ」


 メリッサは鞄から手帳を取り出すと何かを書いてレナートに見せる。睫毛が触れるほど。


「これ、私の連絡先です。通話番号と文通番号を携帯に登録してください。今すぐに」

「近い近いちかい」


 手帳をどけ、携帯を取り出してメリッサの連絡先を登録する。登録しろという圧が凄いから。

 登録したら、自分の通話番号を記したものを文字通信でメリッサに送った。送れと圧が凄いから。

 交換しあえたことがそんなに嬉しいのか、メリッサは携帯を顔に近付ける。


「私の用事はこれだけです。近いうちにデートしましょうね、レナートさん」


 血色のいい笑顔を見てしまったら、いやでも察してしまう。


「きみ、彼女に惚れられたみたいだな」


 追い打ちをかけるな。

 隣にいるユイに言いたい気持ちを呑み込んで、持っていた携帯をポケットにしまった。

 女性を好ましく思わないレナートにとって、最悪が起こってしまった。

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