04.レインの休暇
晴々とした空の下。
大陸の中心を巨大な一枚岩が占領する、オーストレディオ大陸に位置する渚の観光都市シボレーにて。
多くの観光客で賑わう海辺のロケーションを眺めながら、頭に白いシルクハットを被った男が1人、小粋なカフェのテラス席で優雅にティータイムを嗜んでいた。
「やはり〝快晴〟は素晴らしいね。普段は荒れた空模様ばかり見てるから、こうした雲一つない青空は、まさに平和の象徴って感じがして気分が良い!」
テラス席の木製テーブルにランチを並べ、何の目的もなく、ただゆったりと日光浴を愉しむ。
そんな紳士の時間に浸っている青年レインは、ここ連日続いていた異常気象の対応にようやく目途がつき、希少な休暇をのんびりと過ごすべく、ここ観光都市シボレーの短期旅行を満喫していた。
「すいませーん店員さん。そのマカロンというお菓子、私にもいただけるかな?」
レインがカフェの店員に声を掛けると、すぐにお店の看板娘が注文を伺いに寄ってきた。
「ご注文ありがとうございます! 数は何個お持ちいたしますか?」
「そうだな~。縁起が良いし、7つほど頂戴しようかな」
「マカロンを7つですか? 随分とたくさん食べられるんですね! 味はいかが致しますか?」
「味はお任せするよ。お嬢さんのおすすめセレクトで頼む」
「分かりました! 当店自慢のフレーバーを選んでお持ちしますね。これだけお菓子を追加なされるのでしたら、ドリンクのおかわりもご一緒にいかがですか?」
「あぁ、この最初に頼んだコーヒーも、追加でもう1杯頼むよ」
「ありがとうございます! ただいまお待ちしますね~!」
注文を受けた看板娘は店内に戻り、数分後、色とりどりのマカロンと、透き通るように澄んだコーヒーをトレイに載せてレインの元へ運んできた。
「お待たせしました! こちらが私のおすすめマカロン達と、特選イラルバコーヒーです」
「いい香りが漂ってくるね。どうもありがとう」
「えーとですね、このマカロンの味はそれぞれ……」
「おっと、ちょっとストップ」
「? どうされました?」
「せっかく、これだけ色彩豊かに並んでるんだ。マカロンは味を予想しながら食べる事にするよ。帰り際に店内のショーケースで答え合わせするから、今は内緒で大丈夫」
「面白い食べ方ですね。もし何味かよく分からなかったら、会計の際にレシートと照らし合わせて確認してみて下さい!」
「そうさせてもらうよ。あと、ここのコーヒーはトロピカルな風味があって絶品だね」
「ですよね! このオーストレディオ大陸で採れた豆で作ったコーヒーは、フルーティーな味わいでとっても飲みやすいんです!」
「シボレーって、昔からコーヒー豆で有名だっけ?」
「いえ、話題になったのは最近、ここ数年になってからですね」
「オーストレディオは元々コーヒー豆をほとんど栽培していない土地だから、今までは輸入品をアレンジして提供していたハズだけど、最近は実際に栽培を始めるようになったんだっけ」
「はい。シボレーに、自国オーストレディオ産のコーヒーが入るようになったのは最近の事です」
「新規栽培なんて中々のコストが必要だろうに、それをわざわざ新しく、コーヒー農園を開拓するようにしたのは、やはり昨今の世界情勢の影響が大きい訳だ」
レインと会話を続けていた看板娘は周囲を見渡し、まだしばらく新たな注文は入らなさそうな状況だったので、こう続けた。
「〝異常気象〟の事ですね」
レインは看板娘の口から、自分が引き出したかった語句を引き出すと、その言葉を待ってましたとばかりに返答した。
「そう。コーヒー豆の栽培には、コーヒーの木を成長させる雨期と、コーヒーの実を収穫する乾期、その両方が必要だ。そして一番重要なのは、雨が降る時期と降らない時期、つまり雨期と乾期が、それぞれハッキリと分かれている事」
「イラルバは、雨期も乾期も比較的安定してますよ。シボレーも極端な天気になることはほとんどなくて、過ごしやすいです」
「そうだね。今のところ、シボレーは異常気象を避けて過ごすにはピッタリの地域だ。元々コーヒー豆の原産地だった他の地域は、天候変動で雨期と乾期のバランスが乱れているばかりか、異常気象によって気候そのものが変化して、コーヒー豆の栽培が不可能になった場所もある」
「おかげでコーヒー豆の値段が上がって、一時期は大変でしたよー。今はイラルバ産のコーヒーが出回るようになって、お客さんも戻ってきましたけどね」
「異常気象を笑い話に出来るんだから、シボレーはまだまだ安泰だよ」
「異常気象ってそんなに凄いんですね。ここに住んでると、外で騒がれているような天気を見る機会がないから、まるでおとぎ話に聞こえちゃうなぁ」
「願わくば、一生おとぎ話だと思えるようにお祈りしておくよ」
「ふふ、ありがとうございます。お兄さんも引き続き、ごゆっくりシボレー観光を楽しんでくださいね」
「どーも、ありがとう」
看板娘はレインとの会話を切り上げると、少し離れた後方のテラス席に、2人の会話が終わるのを待っていたらしい別の客を見つけ、新たな注文を伺いに、慌ててその場を離れて行った。
再び静かになったレインの席には、看板娘が選んでくれた七色のマカロンが横一列に綺麗に並び、レインの休暇を彩っていた。
「いやー、本当に平和。飯は美味いし、店員さんは可愛いし、何より天気が良い。もう俺、トランクィルスなんか辞めて、一生ここに住もうかなー」
レインは柄にもない冗談を呟くと、選んでもらったマカロンを数個ほおばり、コーヒーを飲み干した。
食べ終わる頃には満腹感と陽の光が眠気を誘い、彼は頭にかぶっていたシルクハットを顔に乗せ、そのままウトウトとうたた寝をしてしまっていた。




