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03.異常気象「竜の爪」その3

「はい! よろしくお願いします!」

「ヴォルグ君は防御態勢を解除、引き続け地盤の安定を保て」

「うす! あとは任せたぜ、青年!」


 ヴォルグはボロボロになった防塹壕を解除し、強風でチームが吹き飛ばされないよう、対地操作と呼ばれる基本スキルで地盤を支えた。


「スコット君、〝竜の爪〟の回転方向は問題ないね?」

「大丈夫です。防塹壕のおかげで、暴風の中でも風の魔力を練る事ができました」

「OKだ。合図と同時に、力比べといこうじゃないか」


 スコットは、いよいよ自分の〝異常気象士テラウェザ・リポート〟としての初仕事に全身を震わせた。


 〝竜の爪〟は自身の武器が全て剥がされ、市街地への侵攻を躊躇しているようだった。

 しかし、自身はあくまで〝竜巻〟。

 直接巻き込み、吹き飛ばせば何の問題もない。

 そう決心した〝竜の爪〟は意を決し、轟々と風を鳴らしながら、その白い一柱をくねらせローン達へ突撃した。


「今だ! スコット君!」


 ローンの号令と同時に、スコットは練り込んだ魔力を体外に解き放った。


「風魔法、【反抗する暴風(アゲインスト)】!!」


 杖先で十分に練られた魔力は、吹き荒れる暴風の中でも風の性質を失う事なく、主の命令通りに〝竜の爪〟と逆回転の暴風となり、瞬く間に渦を巻いた。

 スコットが放った風魔法はやがて緑柱の竜巻となって、迫りくる〝竜の爪〟と激しく激突した。


 ビュガガガガガガガガガガンンン!!!


 と、衝突の瞬間、凄まじい音が響き渡り、衝撃で視界が一瞬フラッシュしたかのように白く瞬いた。


「くっっ、うぉぉぉぉおおおお!!」


 竜巻と竜巻の衝突。防塹壕の内部に居てもなお全身を襲う暴風の跳ね返りに、スコットは顔を歪めた。

 一歩間違えれば暴発しかねない膨大な魔力のコントロールと、長杖から伝わる強大な魔力の反発に、温厚な青年からは信じられない叫び声が零れる。


 魔法VS自然、純粋な力と力のぶつかり合い。負けた方が無惨に吹き飛ばされる。そういうシンプルで命懸けの勝負だった。


 ヴォルグは抵抗するスコットの足場を支え、ローンは次の状況変化の瞬間を見極めていた。

 前哨戦で全ての爪を失った〝竜の爪〟だったが、その破壊衝動は〝反抗する暴風〟を飲み込もうと、必死に己が身を削っている。

 異常気象の最後の抵抗に、善戦を見せたスコットの風魔法だったが、次第にジリジリと押し戻されていった。


「……惜しいな。だが、よく持った方だ」


 ローンはここが潮時と、奮闘するスコットの背に手を添えると、先ほどヴォルグに助力した方法と同様に、自身の魔力をスコットに流し込んだ。


「【形状変化シェイプシフト】!」


 するとスコットの〝アゲインスト〟に、ローンの魔力によって強烈な下降気流、つまりダウンフォースが加わった。


 ローンが得意とする魔法は〝補助魔法〟。

 シェイプシフトは単体では効力を発揮しないが、汎用性と効率に優れたその魔法はあらゆる場面に対応できる。

 ローンは異常気象士きっての支援役バッファーだった。

 スコットの風魔法の威力は申し分なかったが、強いて言うならもう一つ、回転力に加えて下に押さえつける力が不足していたのだ。


 左右の回転方向だけでなく、上下の気流方向まで完璧に合わされた〝竜の爪〟に、もはや勝機は残されていなかった。


 ゴォォォォウバビューーーーンンンン!!


 竜巻と竜巻がぶつかり合い、周囲のものは尽く吹き飛ばされていた。異常気象士たちもヴォルグの地盤安定がなければ、立ち続けることは到底できなかっただろう。

 〝竜の爪〟は必死に抵抗した。

 だがついに、その白い竜巻は〝反抗する暴風〟に飲み込まれ、轟々と激しくうねりながら、完全に一本の柱となった。

 そしてスコットの長杖の震えが止まり、手応えを感じたスコットは、風魔法の発動を解除した。

 すると元は二柱だった竜巻は、嘘のように完全に消え去った。


 異常気象〝竜の爪〟はスコットに敗れ、その生涯を終えたのだ。


「や……や、やりました!!!」

「やりやしたね、青年! 〝竜の爪〟の欠片も残ってねぇです!」

「12時10分、異常気象〝竜の爪〟の鎮圧を確認。ヨーベル地区の被害は相当数出たものの、中心市街地への侵攻は完全に阻止。任務完了、これより帰還する」


 ローンの任務報告を聞いて肩の力が抜けたスコットとヴォルグは、一層喜んだ。


「これで、僕も異常気象士の一員ですね!」

「あぁ、見事な風魔法でしたゃ! ローンさんも、ありがとうごぜぇやした」

「2人とも、よくやった。無事に任務が完了して何よりだ」


 ローンは次世代の異常気象士たちを褒め称えた。各々が任された役割をきちんと遂行し、異常気象に打ち勝ったのだ。

 そしてローンは、トランクィルスの次期幹部として、合わせてこんな無理難題も注文した。


「君たち2人も、いずれは異常気象に対して一人で対処出来るよう、更なる鍛練を期待している」

「えぇ、こんな大自然の驚異と一人で戦うんですか?」

「そうだな。ま、俺は適性の都合もあってそんな事不可能だが」

「トランクィルスの上位の異常気象士は、誰もが単体で異常気象と対峙できる超人ばかりなんですゎ」

「これじゃ一体どっちが災害なのか、分からなくなりますね……」

「スコット君は純粋な魔法使いタイプだから、目指すなら将来は〝虹色の魔術師〟を目標にすると良い」

「……〝虹色の魔術師〟!? 名だたる異常気象士の中でも、数多の空を晴らしてきた、伝説級の魔法使いですか!? いくらなんでもハードルが高過ぎますよ」

「ハハッ、そうかもな。あれは空だけでなく頭のネジも飛んでいるから、参考にしちゃいけないタイプかもしれん」

「〝虹色の魔術師レイン〟。あらゆる魔法を使いこなす、トランクィルスのエースでやんすね」


 スコットは〝異常気象士テラウェザ・リポート〟としての初任務遂行に胸をなでおろしながら、同時にトランクィルスの化け物の存在に恐れおののいた。


 こうしてローン一行は、無事に異常気象〝竜の爪〟の鎮圧を完了させた。


 ラルスの空には青空が戻り、また明日から、平穏な日常が続いていく。

 異常気象士の活動は、〝異常気象テラウェザ〟を完全に撲滅するその日まで、終わる事は無いのだ。

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