02.異常気象「竜の爪」その2
ローンとスコットは、周辺地域に人が残っていないことを確認し終わると、地上で別作業をしていたヴォルグの元に集まった。
「ローンさん、迎撃ポイントの整備も完了しましたぜ。ここ以外にも数か所、ひらけた場所の地盤を固めて、〝竜の爪〟の予想進行ルートは抑えられるようにしとりやす」
そう言うヴォルグの真横には、彼らが立っている大通りの中央にぽっかりと、底が浅めのクレーターの
ような大穴が掘られ、穴の縁には堀った地面で盛土が施されていた。
「ありがとう、ヴォルグ君。あとは〝竜の爪〟が発生するのを待つだけだ」
「しっかし、こーんな綺麗な街並みのど真ん中を掘り返すのは、いくらか勿体ないような気がしやすね」
「〝竜の爪〟が通った後は、どのみち道路も建物もボロボロだ。だからこれぐらいは全く気にする事はない」
「そうなんですがね。でも予備の穴を何個も掘ってると、景観を壊してすまねぇー、って気になるんですわ」
「ハハ、見た目と違って、ヴォルグ君は繊細だな」
「気にするのは外観だけですぜ」
ヴォルグの意外な一面に、ローンは思わず表情筋が少し緩んだ。
「心配せずとも、我々の任務は〝竜の爪〟の鎮圧のみ。いわゆる後片付けは、あくまでラルスの担当だ」
「ラルスは異常気象の被害状況さえも、研究対象にしていますからね」
「あっしの出身国は、異常気象への対応は救助第一になっとりやすから、そこもお国柄が出やすね」
「トランクィルスは条約を結んだ全ての国家に友好的だが、危険が伴う以上ある程度の対価を要求するからな。どうしても手が回らないケースも発生する」
「それだけ異常気象が、各国家の最重要戦略になってきてる証拠ですね」
「中には、トランクィルスに敵対する国家も現れる始末だ」
ローンは、超級世界の問題が異常気象のみにとどまらない事実に頭を抱えた。
今は現場の異常気象に集中すべき時だが、すっかりトランクィルスの裏方業務が板についてしまった。
「しかし、〝竜の爪〟が複数人による対応が一般的とはいえ、まさかローンさんが直接現場に出張るとは思いやせんでしたよ」
「今回はラルスの期待の星、スコット君の異常気象士としての初陣だからな。、万が一にも失敗させる訳にはいかないのだよ」
「すいません、自分が未熟なばかりに」
「気にするな。期待の新人を故郷で犬死にさせましたなんて、例えラルスが関係してなくても、トランクィルスの評判が揺らぎかねない」
「本物の異常気象と対面しても、チビらないでくだせぇよ、青年」
「努力します」
「ハハツ。トランクィルスに帰還したら、後でヴォルグ君の初陣レポートについて調べてみると良い」
「そんな、冗談キツイですぜ、ローンさん」
先輩面したヴォルグが小突かれた頃、ラルス・ヨーベルの上空にはドス黒い雲が渦を巻いて青空と混じりあい、地上ではビュッと冷たい風が、3人を取り囲むように四方八方から吹き付け始めた。
「!! 異常気象の予兆! そろそろ来るぞ」
3人が身構えていると、突然彼らの前方に、円形の空気の歪みが発生し、風が周囲を取り囲み、その場の環境全てに警告を発した。
「では事前の計画通り、スコット君の風魔法で異常気象〝竜の爪〟を相殺し、鎮圧する。ヴォルグ君はスキルでチーム全体の防御を。俺は状況に応じて、2人をサポートする」
「「了解!」「はい!」」
ローンの号令に呼応するかのように、強風は地をさらいながら1点に集中し、瞬く間に上昇気流を形成。高く砂埃を巻き上げなら、一本、いや一柱の竜巻となって、ローン一行の前へ立ちふさがった。
「現れたなぁ〝竜の爪ぇ〟! おめーを全部受け止めきってやるからよぉ!」
ヴォルグは目の前の異常気象に、昂ぶりを抑えきれず叫んだ。
スコットは長杖の先を〝竜の爪〟に向け、臨戦態勢をとった。
ローンはその細い目で異常気象を見定めると、鎮圧作戦を開始した。
「まずは〝爪〟を確認する」
〝竜の爪〟は、発生と同時にフラフラと、周囲の建物を巻き込み始めた。
落ちているゴミを吸い込み、街路樹の枝を折り、屋根の瓦礫を吹き飛ばした。
やがて竜巻の周囲に、不自然に大きな瓦礫の塊が3つ、竜巻を守る衛星のように飛び回り始めた。
瓦礫の塊は道路をえぐり建物をえぐり、破壊された固形物は瓦礫の塊に吸収され、3つの塊は周囲とぶつかるたびに破壊・吸収、そして巨大化していった。
「あれが竜の〝爪〟ですか」
「そうだ。不用意に近づけば、見境なく瓦礫として取り込まれるぞ」
今回の異常気象が〝竜の爪〟と呼ばれる理由。
それは、竜巻が本来上空に巻き上げるはずの飛散物が、地上付近で飛び回り続け、それらが周囲の障害物と激突しながら質量を拡大。
巻き込まれた物は激突した飛散物に取り込まれ、竜巻の周囲を飛び回る飛散物は、通常の竜巻とは比較にならないほど巨大化。
それらがまるで竜の爪の如く地を抉り、地面を叩きつける様子から、竜巻本体の突風よりも、集約された飛散物の破壊力を危険視され、竜巻の中でも特別に異常気象〝竜の爪〟として定められた、という背景がある。
飛散物は基本的に3、4つほど形成される為、正式名称は〝竜の爪〟と呼ばれており、竜巻発生から長時間が経過した場合の飛散物は、人の体程度は容易く貫き、過去には対応中の〝異常気象士〟が犠牲になった事例もある。
「今回は3つか。ヴォルグ君、頼んだぞ」
「任せてくだせぇ! スキル発動、【防塹壕】!!」
ヴォルグは極太の両腕を地につけ、彼の得意とする土属性の防御スキルを発動した。
すると、彼らが立つクレーターの端に盛られた土が上部へ盛り上がり、半球状の建物となって3人の周囲を覆い、身を守る土の防御壁が完成した。
〝竜の爪〟を直視するために前面部こそ空けているが、前面以外の300度は上下左右まさに鉄壁。強風に煽られていた異常気象士たちの足元は、安定を取り戻した。
〝竜の爪〟は壊しがいのある土の建物を見つけると、周囲を飛び回る巨大な飛来物の一つを、防塹壕めがけて勢いよく突撃させた。
ドガッシャーーーァアァァァァンン!!
という轟音と共に、飛来物は防塹壕と激しく衝突し、内側で守られている3人にも伝わる程の衝撃が襲った。
「まだまだぁ!」
ヴォルグの防塹壕は形状を保ち続けている。一方衝突した飛来物は、激突の衝撃で跡形もなく砕け散り、二度とその形を取り戻す事は無かった。
「うし、まずは一発!」
ここまでは順調な滑り出し。だが安心している暇はなかった。続けてもう一発、2つ目の飛来物が防塹壕に襲い掛かかった。
ヴォルグは衝撃と同時に、スキルの強度を高め、防塹壕が破られないよう全身に力を込めた。
ドォォォォズゥゥゥゥーーーーンン!!
2発目の飛来物を受け止めたと同時、鈍い音が防塹壕の内側に響き渡った。
「うおぉぉおおう!!!?!?」
防塹壕は飛来物を受け止めきったが、飛来物の当たり所が悪かったか、スキルで防塹壕を保ち続けているヴォルグは思わず片膝をついた。
残る飛来物はあと一つ。
先に砕けた2つの飛来物をいくらか吸収した最後のそれは、赤黒く鈍く輝き、なお高速で無造作に飛び回り、近づくもの全てを一刻も早く叩き潰さんと、〝竜の爪〟の突撃号令を待ちわびていた。
依然吹きすさぶ強風の音は、まるでここまで耐えたヴォルグを嘲笑うかの如く、指笛を鳴らしているかのようだった。
「最後の1発はとびきりデカイな。ヴォルグ君、行けそうか?」
「あれでラストっすか。これが異常気象〝竜の爪〟、中々タフっすね」
ヴォルグは強がってみせたが、目の前で荒ぶる赤黒の鉄塊を受け止められる自信は正直半々だった。
一人ならまだしも、今回の作戦を遂行させるには、内部の3人、特にスコットをノーダメージで守り切る必要がある。
「手を貸そう、ヴォルグ君」
ローンは防塹壕を維持するヴォルグの背中に手を添えると、彼が持つ魔法を行使し、魔力を流し込んだ。
すると、防塹壕の下部から新たな土砂が盛り上がり、飛来物の衝撃でダメージを負っていた箇所を補強するように防塹壕の厚みを増やした。
そしてローンの助力もあって再形成された防塹壕は、外側からはまるで亀の甲羅のような形状になり、外部の衝撃を吸収する最適な状態に変化した。
「すいやせん、ローンさん!」
「集中しろ、来るぞ!!」
〝竜の爪〟は遂に切り札を切った。
最後の〝爪〟を地に空にギャリギャリと引き回し、トップスピードに加速したそれを竜巻自身の力で遥か上空に巻き上げ、最後に真上から邪魔者を全てかち割ろうと、それはハンマー、いや隕石と見紛う威力で防塹壕へと叩き下ろされた。
ッッッツァバァァギャァァァアアンン!!!!!!!
凄まじい音だった。激突した瞬間、衝撃で火花が散った。
ヴォルグの体、背で支えているローンの手にも、ビリビリとダメージが入った。
だが、砕けたのは最後の〝爪〟の方だった。
「シャァァオラァァァアアア!!!」
「よし、〝爪〟の撃墜を確認。第二フェーズに移行する!」
〝竜の爪〟の最大の脅威は取り除かれた。
あとは竜巻本体をスコットの風魔法で相殺し、〝異常気象〟を消し飛ばすだけだ。




