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01.異常気象「竜の爪」その1

 王政国家ラルス。


 魔法が蔓延る超級世界の中でも、古くから魔法研究の基礎体系を確立し、近隣他国との国家競争において盤石の地位を築いたことで、争いとは無縁の平和な巨大国家として、国別幸福度ランキングでも常に上位に君臨している国だ。


 貧困や紛争とはまるで無縁、生活インフラも魔法の発達により最先端を維持しているラルスは、超級世界において何一つ悩みの種がない、恵まれた自由な国のはずだった。

 そんな安泰国家の近々の悩み事は、年々増加し続けている空の災害、〝異常気象テラウェザ〟である。


 国土面積が広いラルスは、無差別に発生する異常気象の被害地域になる事も当然多くなり、その被害の大きさに悩まされてきた。

 そんな時に協力関係を持ちかけてきたのが、異常気象の頻度増加と共に、急激に勢力を増していた国際組織、〝異常気象鎮圧機関トランクィルス〟だった。


 魔法知識のみでは対処不可能な異常気象に対して、人的支援を行う代わりに、組織の存在を国際的に認め、受けた支援量に応じて今後の活動の金銭援助を行う——。

 得体の知れない集団の提案に、ラルスの国王は最初これを拒んだが、異常気象が魔法とも深い関連性を持つと知らされてからは、一転して条約を結び、今ではトランクィルス最大のパートナーとなっている——。


 これが、現状のラルスとトランクィルスの関係性だ。


 ◇◇◇


 異常気象の緊急予報から約3時間後、人の気配が消えたラルス・ヨーベル地区の大通りに、3人の男たちが到着した。

 最初に口を開いたのは、最も出で立ちに落ち着きがあり、切り揃えられた短髪に、紺色のスーツを着用した男。

 遠くを見定める細い目つきは一切の揺らぎを見せず、歴戦のオーラを周囲に漂わせている〝異常気象士テラウェザ・リポート〟の仕事人、ローンだ。


「現在、10時05分。〝竜の爪〟発生予定スポットに到着。スコット君、今回の任務を復唱してみてくれ」

「はい! 今回の鎮圧対象は異常気象〝竜の爪〟。竜の爪は強力な竜巻で、発生後は勢力を拡大しながら人が集まる所に向かって進行する性質があり、ヨーベル沿岸のみならず、中心市街地まで被害が及ぶ可能性が高く、非常に危険です」

「その通りだ」

「よって、発生前に〝竜の爪〟の発生ポイントへ先回りして、勢力が拡大する前に、異常気象士の能力でこれを鎮圧。市街地への被害を未然に防ぎます」

「よし、問題ないな。では予定通り、ヴォルグ君は異常気象〝竜の爪〟の迎撃準備。俺とスコット君は、避難住民の確認にあたろう」

了解ラジャー!」

「分かりました、ローンさん」


 ローンは、同行した二人の部下にそれぞれ指示を出した。


 上司の号令に力強く返事をした、舌足らずでタンクトップの大男ヴォルグは、上半身が下半身に比べて異様に発達しており、鍛え上げられた筋肉が、今にも服を引き裂こうとしている。

 他の二人よりも、背丈が頭一つ分ほど低い青年スコットは、ローンの号令に少し緊張した様子で返事をした。

 優しい顔つきに良く似合った丸メガネに、右手には床から肩までの長さがある長杖を構え、全身を緑を基調とした魔術師のローブに身を包んでいる。


 ローンとスコットはその場を離れ、ローンは左腕に装備した高機能な腕時計で連絡を取りつつ地上から、スコットは飛行魔法で上空に飛び、上から逃げ遅れた人がいないか捜索していた。


「どうだね、スコット君。誰か要救助者は見つかったかな?」

「いえ、周辺の住民は、みな避難指示に従っているようです」

「それは良かった。なら、君はいまヨーベルの空を独り占めしているわけだ」

「不思議な気分です。ヨーベルは普段多くの人で賑わっているのに、異常気象一つであっという間に無人のエリアになっているんですから」

「それだけ、ラルス国民の防災意識が高い証拠だな」

「ラルスで発生した異常気象は、翌日の朝にはニュースで取り上げられますからね。朝から刺激が強い映像ばかりで、嫌でも自然と身構えるようになりますよ」

「あれはトランクィルスからの提案ではなく、ラルス国王直々の発案でね。我が国民は魔法に関して、常に最新の常識を把握していなければならない、ってね」

「それが〝異常気象〟であっても、ですか」

「ラルスは自国の魔法の精度に絶対の自信を持っている。だから、魔法で解決できない事などあってはならない、だろ?」


 ローンは、スコットがラルスの魔法学校の優秀な卒業生であることをふまえて、わざとらしく返した。


「僕は、異常気象は魔法の延長である、と学校では教わってきましたが」

「そのパターンもある。だが、異常気象はそんなに単純ではない」

「でも〝竜の爪〟は魔法と関係してますよね?」

「その通りだが、〝竜の爪〟は9割竜巻だからな。ほぼVS大自然と考えていい」

「大自然を人力で受け止める。普通はそんな考えには至りません。やはりトランクィルスの考えは常識から外れていますね」

「近年はあまりに異常気象が増えすぎた。これを黙って見ていられる程、超級世界の人類は弱くないという事だ」


 スコットは依然空を飛びながら、両手に持った長杖を強く握り直した。


 超級世界の人間は、古くは冒険者による開拓を通じて、魔法・スキルといった才能を開花させてきた。


 開拓可能な土地は粗方手を付けられ、大陸や島々が〝国〟によって境界を分かつようになった今、次に資源の争奪戦となるのは紛れもなく〝空〟になると。

 異常気象の著しい発達を受け、ラルス魔法学校の近未来予測論はこう結論付けた。


 スコットは賢い男だ。超級世界の情勢も理解している。

 だから、最終的には自らの意思で〝異常気象士テラウェザ・リポート〟の門を叩いた。


「そもそも、トランクィルスの設立目的は異常気象の発生原因の解明、だからな。ラルスが独力で解決できるなら、異常気象士なんてカッコつけた奴らは必要ない」

「………」

「それに、君も異常気象に魅せられたから、こんな酔狂な組織に入る事を決めたんだろ? 本物の異常気象は、授業とは比較にならないぞ」

「なっ!? 僕はラルスの繁栄と栄誉を守るために!」

「わーったわーった、模範解答は十分だから。あとその他に、任務前に何か聞きたい事はあるか?」


 スコットは少し考えた後、あえて一番聞きづらかった質問を口にした。


「……前々から気になっていたんですけど、ラルスとトランクィルスは仲が良くないのでしょうか?」

「表向きは持ちつ持たれつ、もはやお互い欠かせないカップルみたいなもんだな」


 ローンはそう言うと、通信機を兼ねた腕時計を少し離して続けた。


「だが、ラルスは古くから魔法に優位性を持っていて、異常気象も魔法の力で解決できればその地位は盤石だった。だが実際はそうならなかった上に、それを見ず知らずの別組織は解決できている、という状況は、内心あまり面白くないかもしれないな」

「そんな、僕はラルスの出身ですよ? 例え本当の事だとしても、そんな事を口にして大丈夫なんですか?」


 スコットはローンの予想だにしなかった本音の回答に、若干ながら質問した事を後悔していた。

 ローンはたじろぐラルスの青年を一瞥すると、


「なーに、部下の不安を取り除くためなら、可能な限り答えてあげるさ。それがトランクィルスにとって多少都合の悪いことでも、な」


 スコットは、会話を繋ぐ言葉を見つけられなかった。


「それに、俺ももうじき昇進だ。トランクィルスの幹部なんかに勤まったら、もう好きに悪口を言う事もできなくなるからな。今のうちにだ、ハッハッハッ!」


 ローンは気後れするスコットに、冗談を言いつつ気丈に答えた。


「とはいえ、表向きの協力関係だとしても、君のような優秀な魔法使いがラルスから推薦されるのだから、全くもって助かる話だ」

「おだてるのはやめてください。これでも今回の初任務、緊張しているんですから」

「心配せずとも、我々は全力で君をフォローする。異常気象を目の当たりにしても気力負けしないよう、君は魔力と集中力を高めておいてくれ」


 2人は雑談を交えつつ、時間いっぱいまで逃げ遅れた人の捜索を続けた。

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