00.朝のお天気・目覚ましテレビ
「おはようございます! 時刻は朝7時ちょうどになりました、目覚ましテレビの時間です!」
超級世界のごく平凡な家庭に、今日もテレビからお決まりの、綺麗なお姉さんによる元気な挨拶が響き渡った。
毎朝7時に〝異常気象鎮圧機関〟から各国に提供されている、人気番組〝目覚ましテレビ〟の時間だ。
「あ! 見てママ、目覚ましテレビのお天気ニュースが始まったよ!」
と、テレビの前で待機していた小さな子どもは、キッチンにいる料理中の母を手招きして呼びつけた。
「はいはい、もう、たっくんは本当にこの番組が大好きなのね」
「うん! 毎日やってる目覚ましジャンケンが面白いし、それにお天気おねーさんがかわいいんだもん!」
「まったく、子どものうちからしょうがない子ね。あんまり夢中になったらダメだよ?」
「はーい」
小さな子どもはテレビから離れ、食卓にお行儀よく座り直して、毎朝楽しみにしているお天気放送を見始めた。
テレビの中では、綺麗な服装で身を整えた女性が、先端に黄色いボールが付いたプラスチック製の棒を手にしながら、ラルス国内の各地域の天候について解説している。
「今日のお天気は、内陸部では全体的に快晴で、お出掛けにはピッタリのお天気となるでしょう。一方、海沿いの地域では午後から次第に雲が広がります。雨が降る可能性は極めて低いですが、ここ一週間は大気中の魔力濃度が高い状態が続いていますので、空中を飛行する際は魔力コントロールにご注意ください」
生活の隅々に魔法がいきわたる超級世界では、魔力のない世界のそれよりも、天気予報はより正確性が求められ、いつだって人々の重要な関心事だ。
「ねぇママ、空中飛行だって! 僕もおおきくなったら、空を飛べるようになるかな?」
「空中飛行は一般の魔法使いでも、取得が難しい魔法だからねー。でもたっくんなら、いっぱい勉強して練習すれば、すぐに自由に空を飛べるようになると思うよ」
「ホント!? でも、勉強は嫌だなー」
「魔法を扱うには、さんすう、りか、こくごだって大事になるから。どれもしっかり覚えていこうねー」
親子の談笑をよそに、テレビの画面内で軽快に解説を進めていたお天気お姉さんだったが、その時ふいに画面外のスタッフから一枚の紙を受け取った。
すると、番組中に独特な警戒音が鳴り響き、それと同時に、ラルスの一地域のお天気マークが、晴れのち曇りのマークから、赤い竜巻のマークに変化した。
「皆さん、ここで緊急予報が入りました。今から4時間後、ラルス海域沿岸のヨーベル地区に、異常気象〝竜の爪〟が発生します。ヨーベル地区に住む方々は、今すぐに外の物を片付けて、最寄りの緊急避難先に逃げてください」
先程まで笑顔で話していた、お天気お姉さんの表情は真剣な顔つきに変わり、事態の重大さを視聴者に伝えていた。
「ママ、〝竜の爪〟ってなに?」
「〝竜の爪〟は、もの凄く強力な竜巻のことだよ。幸い、今回は発生地域がここじゃなかったけど、もし竜の爪が近くを通ったら、たちまち住んでる家がバラバラになっちゃうんだから」
「え、そんなに凄い竜巻なんだ」
「竜巻なんてタダでさえとんでもないのに、それをわざわざ〝異常気象〟として指定して、物騒な名前を付けているくらいだからね」
「そうなんだー。でも竜の爪って名前かっこいいかも」
「実際に見てみたら、すぐに怖くなってそんな事言えなくなっちゃうよ?」
「大丈夫! もし竜の爪が家の周りにやってきても、テレビで活躍してる大人の人たちが助けに来てくれるもん!」
たっくんと呼ばれている子どもはそう言うと、興奮のあまり座っていた椅子から立ち上がり、普段テレビで見ているヒーロー達の真似をして、「ゴーゴー」と叫び始めた。
「ありゃりゃ。トランクィルスの世界放送は本当にありがたいけど、異常気象の救助活動をヒーロー活動として放送するのは、子どもに悪影響だから程々にして欲しかったわね」
「じゃあ、今はヨーベルにあの人たちが向かっているのかな?」
「もちろん、現場に急行しているはずよ。たっくんの大好きな〝異常気象士〟がね」
「おー! 今回は誰が出るのかな? できれば、かっこいい魔法が使える魔術師の人がいいなぁー」
「明日のニュースで分かるはずよ。さ、ご飯が出来たから、一緒に座っていただきますしようね」
料理を完成させた母親は、食卓におかずを運ぶと、異常気象士に目をキラキラさせている自分の子をなだめながら、日頃の平和に感謝しつつ朝食を食べ始めた。




