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短編AI小説シリーズ

【AI小説】『一週間の恋人』

春の匂いがまだ残る放課後の校舎裏で、オレは告白された。


「ねぇねぇ、センパイ。ボクのこと、どう思ってるの?」


声をかけてきたのは、ひとつ下の後輩で、ちょっと変わった女の子。名前は鏑木かぶらぎほのか。茶髪のツインテール、ちょっと低めの声、そしてなぜか一人称が「ボク」。


「……えっと、どうって?」


「どうって、そういうのあるでしょ。好きか嫌いかとか。ボク、センパイのこと好きだよ。多分、ううん、たぶんじゃなくて、絶対好き」


「ちょっ……いきなりかよ!」


正直、心臓が跳ね上がった。鏑木ほのかは、学年でもちょっと有名な存在。目立つってわけじゃないけど、印象に残る。女子にしてはやたらアクティブで、男子に交じってサッカーやってたり、でも成績は上位、先生からの信頼も厚い。ギャルっぽいけど、根はまじめ。そんな子。


で、そんな子が、なぜかオレに告白してきた。


「びっくりしてるの? そりゃそうだよねぇ。ボク、あんまり恋愛とか詳しくないけど、センパイのことずっと見てたんだよ? 靴箱で転びそうになってるときも、プリント配ってるときに指つってたときも、ぜんぶぜーんぶ見てたもん。あとさ、センパイって猫背だよね。そういうとこ、かわいいと思う」


「ちょっと待って、なんでそんなの知ってんの!?」


「見てたからだよー、ふふっ」


マジかよ、完全にストーカーみたいじゃねえか……いや、でも別に嫌な感じじゃない。むしろ妙に明るくて、ズケズケ言ってくるのに悪意がない。これが鏑木ほのかのキャラってやつなのか。


「ね、センパイ。返事は?」


「いや、それはさすがに……えっと、まだ心の準備っていうか……」


「ふーん……じゃあ、ボクに一週間だけチャンスちょうだい?」


「チャンス?」


「一週間、ボクと放課後デートして。それで、ボクのこといいなって思ったら、付き合って? ダメだったら、キッパリ諦める。どう?」


正直、断りづらい空気だった。そもそも断ったとして、オレが日常に戻れる気がしない。


「……一週間だけなら」


「やったー! 約束ね、センパイっ♪」


こうして、オレと鏑木ほのかの一週間が始まった。


最初のデートは、近所のファーストフード店だった。夕方、部活終わりに待ち合わせて、ポテトをつまみながら何気ない話をする。


「センパイ、ケチャップ派? それともマスタード?」


「え、ケチャップかな……っていうか、マスタードつけるやついるの?」


「いるいるー! ボクだよっ。ほらっ、ぴりっとするやつ。ボクはこれがないと始まらない!」


「なんか性格に合ってるな……」


「えー? どういう意味ー? ボクって刺激的?」


「いや、そういうわけじゃ」


「わけじゃな〜い? ってことはちょっとそう思ってるってことでしょ?」


「うわ、めんどくせぇ!」


「ひどっ! ボク、超純粋な乙女なのにー!」


はしゃぎながらポテトをこぼすほのか。拾い上げようとしてトレイごと動かして、ドリンクが倒れそうになる。それをとっさにオレが受け止めて、目が合った。


「……センパイ、今の、カッコよかった」


「いや、反射的に動いただけだし……」


「ううん、ボク、こういうとこ見てたんだよ、ずっと」


オレは目をそらす。こういうの、正直、照れる。


翌日は、文房具屋に付き合わされた。なぜかほのかは文房具マニアだった。


「消せるボールペンってさ、すごいよね。書いて、消して、また書いて。なんかさ、人生っぽくない?」


「……そうか?」


「うん! ボクも、いろいろ書き直したいことあるなぁ」


「……それって、恋愛?」


「うーん、違うかな。むしろ恋愛は、一発勝負って感じするもん。消したくないなー、こういうの」


会話が、自然に心の奥まで入り込んでくる。オレは、この子のどこに惹かれはじめてるのか、自分でもよくわからなくなってきた。


三日目。ショッピングモールのゲーセン。


「センパイっ、太鼓の鉄人やろ!」


「マジで? あれ苦手なんだけど……」


「だからやるんだよー! ボク、めっちゃうまいから、教えてあげる!」


予想通り、ほのかは驚異のリズム感だった。オレは必死に食らいついて、それでも追いつけない。周りの客から失笑されて、ちょっと恥ずかしい。でも、ほのかの笑顔を見ていると、不思議とどうでもよくなってくる。


「ね、センパイ。ボクとこうやって笑ってるとき、楽しくない?」


「……楽しい」


「でしょっ。ボク、うるさいし変わってるけど、センパイにとって“かわいい”になる努力するよ。だから、あと4日、ちゃんと見ててね」


次の日。雨だった。


屋上に呼び出されて、二人で空を見ていた。


「ボク、雨好きなんだ。濡れるのは嫌だけど、空が泣いてるみたいで、ちょっとやさしくなる気がする」


「……わかる気がする」


「センパイ、意外と詩人っぽいんだね」


「言われたことないけどな」


「じゃあ今日、ボクが初めて言った人になろうっと」


一緒にいた時間は、一日一日とオレの中で存在を大きくしていく。最初は戸惑いだった感情が、今では確実に「好き」に近づいてる気がした。


◇────◇


五日目、学校の図書室。


「センパイって、本とか読む人?」


「んー、あんまり……マンガくらいかな」


「そうだと思った〜。でもね、ボク、読書好きなんだ。ラノベも、恋愛小説も、ぜんぶ読むよ。特に、“片思い”系が好き」


「なんで?」


「ボクってさ、ああ見えて、好きになったらとことん突っ走っちゃうタイプじゃん? だからね、片思いのまま終わる子の気持ち、すっごく大事に思えるんだよね。恋って、相手の気持ちがなかったら成立しないじゃん。だから、叶わない恋ほど、切なくて、きれいなんだよ」


「……ほのかって、そういうとこ、すげえちゃんとしてるよな」


「ふふっ、センパイがボクの名前、自然に呼んでくれたの初めてかも」


「え、マジで?」


「うん。いつも“鏑木”って呼んでたもん。でも“ほのか”って言われると……うれしいね」


本棚の隙間から光が差し込んで、彼女の横顔を照らしていた。見慣れたツインテールが揺れて、少しだけ笑った目元が、普段よりもやわらかく見えた。


六日目、昼休み。教室の隅で弁当を広げてると、背後から背中をつつかれた。


「センパイ、お昼一緒してもいい?」


「別にいいけど……いいの? 女子から何か言われない?」


「ボク、女子力低いから大丈夫〜。それに今は彼女候補だもん」


「お、おい」


「ふふっ。あ、今日の唐揚げ、作ってきたんだよ。センパイ、食べて?」


そう言って箸で一つ取って、口元に差し出してくる。オレは思わず後ずさった。


「え、あーん……とか、恥ずいって!」


「え〜、じゃあ食べさせてよ、センパイが」


「どっちでも恥ずかしいわ!」


そう言いながらも、オレはつまんで彼女の口に差し出す。ほのかは、ぱくっと口を開けて食べた。


「んー! センパイの指の味がする〜」


「変なこと言うな!」


「ふふふっ、からかうの楽しい♪」


その瞬間、クラスの何人かがこっちを見ていた。オレと目が合うと、にやけながらひそひそ話している。やばい。完全に付き合ってると思われてる。まあ、ほぼ付き合ってるようなもんかもしれないけど。


「センパイ、気にしないでいいよ。ボクはセンパイといたいだけだから」


「……ほのかって、時々、すげぇカッコいいよな」


「でしょー!? ボク、男の子にモテるんだよ?」


「いや、そういうことじゃなくて……」


七日目、最終日。


放課後の夕焼けが、校庭を真っ赤に染めていた。オレは、彼女と並んでベンチに座っていた。誰もいないグラウンド。遠くから聞こえる吹奏楽部の音。スローモーションみたいに、時間がゆっくり流れてる。


「センパイ、ねえ……どう? この一週間」


「……楽しかった」


「だけ?」


「だけじゃねぇよ。……お前が、好きだって思ってる。今は」


「……ほんとに?」


「うん。たぶん、最初は戸惑ってた。でも、もう……違う」


ほのかは、一瞬だけまばたきをして、ほんの少しだけ、目元を赤くした。


「ボクさ、センパイのそういうとこ、ほんと好き。へたくそで、素直じゃなくて、でも一生懸命で。最初からね、ボク、ぜったいこの一週間で好きにさせるって思ってたんだよ。自信、なかったけど……でも、伝わった?」


「十分、伝わってるよ」


「じゃあ、センパイ……付き合って?」


「……はい、よろしくお願いします」


「はい、いただきました〜〜〜っ!」


叫んで立ち上がって、両手を天に向けてガッツポーズするほのか。それを見て、オレは思わず笑った。こいつは、ほんと、予想外だらけだ。


でも、そんな“予想外”に振り回されるのも、悪くない。


そのまま、彼女はオレの肩にぽすっと頭を預けた。


「これからも、ずっと一緒にいてね?」


「……うん。たぶん、お前のテンションについていけるように頑張るよ」


「ふふっ、大丈夫。ボクのほうがずっとセンパイに夢中だから」


こうして、オレとボクっ娘ほのかの関係は、「仮の一週間」から「本物の恋」になった。


◇────◇


付き合い始めたと言っても、最初のうちは、あまり何も変わらなかった。朝の「おはよう」も、昼休みのからかいも、放課後のどたばたも、全部いつも通り。なのに、その「いつも」が、前よりあたたかくて、どこかやさしかった。


「センパイ、今日はどこ行く〜? ボク、プリクラとか撮ってみたいな〜」


「プリクラって……今どきのやつってすげえ盛れるらしいな」


「盛れたらセンパイと並べるかも!」


「いや、どういう意味それ」


「ボク、顔ちっちゃいから並ぶとセンパイがオカメになるってウワサ〜」


「誰がオカメだ!」


そうやって、くだらないやり取りをしながら、いつのまにか駅ビルのゲームセンターの前まで来ていた。人通りの多い通路、制服カップルがちらほら。周囲の目が少し気になって、オレは思わず立ち止まった。


「……やっぱ、やめとく?」


「ううん、ボク、行くよ? センパイとならどこでも行くし。ボク、もうセンパイに“恥ずかしい”って感情、捨てたから!」


「いや、それはそれでちょっと……」


中に入って、何枚かプリを撮る。彼女はすっかり慣れていて、いろんなポーズを決めていた。オレはぎこちなく隣に立って、照れた笑いしかできなかった。


「ふふ、センパイ、表情かたっ! 笑って!」


「無理言うなって……」


「じゃあ、ボクの顔見て笑って。かわいいでしょ?」


「そういう自分で言うなよ!」


撮り終えたあと、印刷された写真を見て、ほのかは満足そうに頷いた。


「うん、これ部屋に飾ろっと。センパイとの初デート記念!」


「初って……もう何回も遊んでるじゃん」


「違うの。これは、“彼女として”の初デートなの。記念日なんだよ、今日」


「……あー、なるほど」


「センパイ、ちゃんと覚えててね。忘れたらボク泣くから」


「覚えとくよ、忘れねえよ」


駅の改札前まで来たとき、ほのかはふと立ち止まった。


「ねぇ、センパイ。今日、ちょっとだけ、勇気出してもいい?」


「……何の?」


「んっ……」


ほのかが背伸びをして、オレの頬に軽く唇を当てた。ほんの一瞬だった。すぐに顔を離して、照れくさそうに下を向く。


「……これって、彼女の特権でしょ?」


「……反則だろ、それ」


「センパイも、していいよ?」


「……じゃあ、」


オレも勇気を出して、彼女の額に軽くキスを返す。


「……おそろいだな」


「……ふふっ、ボク、すごく幸せ」


そして迎えた、付き合ってから一ヶ月記念。


「センパイ、プレゼントあるよ」


「え、マジで?」


「ほらっ、じゃーん!」


ほのかが取り出したのは、手作りのしおりだった。ラミネートされていて、真ん中には手書きの文字が書かれている。


「ボクと出会ってくれてありがとう。これからも、一緒にページをめくっていこうね」


「……こういうの、ズルいって」


「ボク、本気で好きだもん」


オレはそれを受け取って、財布にそっとしまった。


「ありがとう、大事にする」


「センパイも、なんかくれる?」


「えっと……その、手紙……書いたんだけど」


「えっ!? マジ!? センパイの手書きってレアすぎる〜!」


「からかわないで……恥ずかしいから」


手紙は短かった。だけど、思いを込めて書いた。照れくさいけど、素直な気持ちを伝えた。


ほのかは読み終えると、ぐっと唇を噛んで目を潤ませた。


「センパイ、好き。ほんとに大好き。ボク、絶対ずっとそばにいるから。約束するから」


「オレも。ずっとそばにいてくれ。頼む」


春が過ぎ、夏が来て、秋になっても、ふたりは並んで歩いた。笑いながら、時にぶつかりながら、それでも変わらず、前を向いていた。


制服の裾が揺れるたび、あのときの放課後が、今もオレの心の中で続いている。


──「ボクのこと、どう思ってるの?」


そう問いかけてきたあの日から、オレの人生のページは、ずっとほのかと一緒にめくられている。


そしてこれからも。

ー完ー

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