第9話
2/21 一部修正
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24年 8/30 4:00:陸上自衛隊:ヴァクマー共和国沿岸
ヴァクマー共和国からの食料の輸送が開始され、国内の食料状況は好転していた。
つまり、その対価である軍事力の派遣を履行しなければいけなかった。
白羽の矢が立ったのは、第一四旅団第一五即応機動連隊であった。
派遣戦力は、第一五即応機動連隊本部管理中隊と同第一機動戦闘車中隊である。
また、第2陣として同第一普通科中隊及び同火力支援中隊も到着予定である。
派遣先は内戦の最前線であり、前線指揮所にて合流する予定である。
沖合に見えるのは、いずも型護衛艦 いずも、おおすみ型輸送艦 くにさき、ましゅう型輸送艦 ましゅうである。
周辺には第五護衛隊の面々も見える。
既に揚陸が開始されており、あと1時間もすれば全部隊揚陸が完了する。
日本国陸上自衛隊の進軍の始まりである。
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24年 8/30 1:00:陸上自衛隊:ヴァクマー帝国沿岸
まだ暗闇が支配する海岸には、数隻の小さな船舶が見えた。
既に現場に保有者と思われる人物は居らず、周囲も無人である。
「誰だよ、こんなとこに小型船舶放置した奴。…にしても見たことねえ形の船だな、船体も木材じゃ」
その独り言を言い切る前に、警備兵と思われる人間は息絶え、現場には所有者を失った騎馬だけが残る。
頭部に対する5.56×45mmNATO弾の射撃による死亡である。
その射撃音はサプレッサーにより低減され、攻撃目標である2km先のソルノク市街地にまで届くことはなかった。
既にその場所は、陸上自衛隊陸上総隊隷下の水陸機動団の拠点と化していた。
[目標排除及び周囲の安全確保完了。揚陸準備よし]
その無線の10分後程だろうか、10km地点にて待機ししていたいずも型護衛艦 かが、おおすみ型輸送艦 おおすみ しもきたより揚陸隊が到着する。
エアクッション挺1号型4隻及びCH-47 Chinook3機による強襲である。
第1陣は高機動車6両、施設科装備及び要員そして兵員240名である。
この人員及び装備により、同日06:00までに上陸地点付近での指揮能力の設立及び迎撃体制を確立する。
揚陸も同時刻までに全て完了する計画である。
暗闇の中、準備は進む。
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揚陸開始から2時間が経過した。
第一五即応機動連隊改め、ヴァクマー共和国派遣隊はヴァクマー共和国の前線指揮所に到着していた。
ヴァクマー共和国の兵士は、下等国家の有象無象が来るとでも思っていたのか、真っ青な顔をして向かい入れてくれた。
周りでは鉄地竜を操るバケモノだのなんだの、酷い言われようであるが、意見も通らず特攻に使われるよりマシである。
そんな地獄を突き進み、ようやっと前線指揮所の司令部に辿り着く。
「日本国より派遣されてきました。陸上自衛隊と申します。ここの司令官殿はいらっしゃいますか」
司令部全体が凍り付く。
どうやら、散々言ったにも関わらず、この敬語で司令官出頭を要求してきたことに恐怖しているらしい。
「……私が司令官だ」
恐る恐るといったところか、一人の男が声を上げる。
「お堅い挨拶はなしとしましょう。前線の情報が知りたい」
そう言うと、司令官が直ぐに前線の状況を話し始める。
だが、その情報は殆ど価値の無い情報であった。
前線の歩兵の装備だの、都市の場所だの。
そんな情報は如何だっていい。
最悪装備など現代の軍事組織と同じと考えればいいし、都市の場所なんてものはドローンですぐに分かる。
どうやらここの前線での攻撃計画なんてものは存在しないようであった。
そもそも、指揮所と言う割には補給要員だの指揮要員などがあまりのも少ないのだ。
司令部と言うにはあまりにも能力が無さ過ぎる。
そんなことを考えている間も目の前ではペラペラとどうでもいいことを垂れ流している。
「もういいです。こちらで情報は収集致します」
事前計画では、10:00に攻勢を開始するというものであった。
10時までは残り4時間と30分程である。
一言吐き捨て、司令部を出る。
[RcnptこちらCP、友軍からの情報では敵情不明につき、これの解明を願いたい。どうぞ]
戦闘とは情報戦である。
情報がなければ戦闘における勝利は存在しないとまで言える。
だからこそアメリカは偵察衛星の数を10倍にしようとしているし、偵察部隊を2000人も保有しているのだ。
[CPこちらRcnPt、了解した。指揮所より予定北部40km地点まで偵察を実行。終わり]
指揮所に歩いていく数分の間に、偵察に出たであろうオートのエンジン音が微かにした。
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24年 8/30 6:30:陸上自衛隊:ヴァクマー帝国領内
新大陸の広大な平野を、2匹の鉄馬が駆け巡る。
そんな爽快なツーリングを止めるように、一発の銃声が鳴り響く。
右前方100mといったところか。
膝でオートを操作し、両手で射撃する。
5.56mmと45mmによって繰り出される約1700Jは、こちらを射撃してきた兵士の人体を容易に貫通した。
敵兵は防弾衣など装備しておらず、華美な服装に身を包んでおり、迷彩効果もクソもない。
感傷や悲哀に浸ることもなく、任務が続行される。
そう思った数秒後、明らかな非自然物と、別に如何にもな城壁が遠目に見える。
オートを減速させながら横倒しにし、丘の裏から観察する。
[小隊長こちらレコン1、ヴァクマー帝国防御陣地発見、所在北部約38km地点、装備規模不明。また、陣地前哨と接敵した。どうぞ]
情報の伝達は早いほうがいい。
[こちら小隊長、そのまま監視任務に移行されたい。送れ」
[レコン1、了解。また、強襲偵察の為LAVの派遣要求。どうぞ]
[小隊長、了解。終わり]
無線機を置きながらオートを起こすと、2匹の鉄馬は近くの森林へと消えていった。
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オートからの無線報告があった30分後、同じ場所にはLAV3両と隊員15名が進出してきていた。
任務はオート班による観測支援下での威力偵察である。
2両のLAVが威力偵察を行い、残り1両は後退時の殿となる。
[小隊長こちらレコン2、威力偵察開始、繰り返す威力偵察開始。どうぞ]
[小隊長、了解。事後は30km地点まで後退し警戒任務、警戒方法所定]
[レコン2、了解。終わり]
そんな簡単な無線の後、LAV2両が前進を開始する。
それに合わせて6名の隊員が前進し、約500m地点から射撃を開始する。
LAVからは据え付けられたMINIMI 5.56mm軽機関銃が毎分1,450発の鉛玉による制圧射撃が。
そして隊員は正確な射撃による射撃が繰り出される。
相手は、レコン1の銃声から臨戦態勢だったのか、こちらが前進を始めるや直ぐに体制を整えていた。
だが、彼らが持つレバーアクション式ライフルの射程は300m程だと既に装備庁の調査で判明している。
弾丸が飛んできてはいるが、LAVの装甲など貫徹できるはずもない。
3分ほど交戦していると、今度は仰々しい直射砲が出てくる。
おそらく榴弾砲であろう、それを見た偵察班は後退を開始した。
前進していた2両に隊員が乗り込むと、LAVは急加速し前線から後退する。
そして、後方では残り1両のLAVと4名の隊員が反撃を警戒していた。
追撃無しと見ると、彼らもLAVにて後退を開始した。
[小隊長こちらレコン1、威力偵察成功。榴弾砲2、歩兵概算2個Co程度確認。固定兵器無し。送れ]
どうやらレコン1が情報報告をしているらしい。
2からは榴弾砲1であったが、どうやら2門だったらしい。
後退のタイミングは丁度よかったようだ。
いくらLAVが耐えられても、射撃中の隊員が耐えられない。
[こちら小隊長、了解。レコン1にあっては事後も監視を継続せよ。終わり]
レコン2は、既に高速で戦線より離脱していた。
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24年 8/30 7:30:陸上自衛隊:共和国前線指揮所
彼は悩んでいた。
その悩みの種は15分程前に偵察小隊から飛び込んできた報告である。
"敵騎兵隊、前線指揮所に向けて進軍開始 4個Co規模。速度凡そ毎分300m、会敵予想時刻 09:50"
どうやら威力偵察によって敵を怒らせてしまったらしい。
そのため、部隊は周到防御によってこれを粉砕、追撃により40km地点まで進出しようとした。
のだが、あまりにもヴァクマー共和国の兵士が使いものになりそうにないのである。
敵部隊が使用しているのは、地球であれば1800年代頃のレバーアクション式ライフルである。
その射程はおおよそ300m。
いくら相手の射程が短いといっても、逆にいえば300mはあるのだ。
4個中隊となれば、おおよそ1000人規模である。
本格的な攻勢となれば、いくら何でも戦闘車中隊1個では、一六式などの重火力があるとしても、損害は免れない。
だからこそ、大隊規模で詰めているヴァクマー共和国軍を使いたい。
のだが、大隊規模の騎兵が来てると言うやいなやもう終わりだの死ぬんだだの端から負ける気である。
つまり、彼らはこれから1時間と30分程で彼らを使える兵士にしなければならないのだ。
だが、ひとつ幸運もあった。
偵察小隊にレンジャー隊員がいることである。
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彼の脳みそは、今現在起こっていることを理解できずにいた。
というより、理解を拒絶しているという方が正しいだろうか。
ただ、少なくとも今目の前にいる600人弱の兵士の戦意を鼓舞し、騎兵隊を前にして1歩も退かない覚悟を持たせる必要があるのは確かだった。
「……ヴァクマー共和国軍諸君!我が防御陣地は現在危機に瀕している!
我々目掛け敵騎兵隊は高速で接近している!
敵前逃亡・自決!大いに結構!
しかし!その自らの行動のあとに残された国は!信念は!戦友はどうなる!
ヴァクマー帝国の騎兵隊などの恐れる?
諸君らの度胸はその程度か!諸君ら度胸によって戦友が救われる!
敵軍が多勢だ?心配するな!我々日本国陸上自衛隊が付いている!
私が諸君らを率いる。陸上自衛隊の中でも精鋭のレンジャーである私がだ!
ヴァクマー共和国軍よ!武器を持て!
これは勝利の為の1歩である!」
彼の思考は既に停止していた。
完全なる勢いであった。
だが、彼の耳に入ったのはレンジャーと言い放つ目の前の男たちの雄叫びであった。
第一機動戦闘車中隊と、第一一六レンジャー戦闘団の戦いが始まる。
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24年 8/30 6:00:陸上自衛隊:対ヴァクマー帝国派遣隊指揮所
揚陸した水陸機動団と第一四施設隊は、5時間で立派な前線指揮所と迎撃態勢を整えていた。
兵員は第一水陸機動連隊及び戦闘上陸大隊である。
既に、本部管理中隊偵察小隊より抽出された数名によるソルノク市街地への偵察が開始されていた。
ヘリとLCACの爆音によって、ソルノク守備隊は既に臨戦態勢に入っており、ワイバーンも何騎か上空哨戒に入っている。
ソルノク市街地周辺は平地であるため、携帯偽装網着用の元、第四匍匐によって監視が実施されていた。
幸いにも植生が地球と一切違う、なんてことはなかったため、既存の偽装網が使えるのは好都合だった。
監視は、攻撃開始時刻10:00まで続くだろう。