第7話
2/7改稿 可読性の改善
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外交は別の手段による前哨戦である。
24年 8/13 14:00:ヴァクマー共和国海防隊:旗艦 ティサ
「ヴァクマー共和国海防隊第一艦隊司令のベルントだ。そちらのお名前もお伺いしてよろしいかな?」
共和国の相手は、どうやら話せる相手であるようであった。
「私は日本国外務省より参りました、赤坂蓮と申します。こちらは補佐の木坂です。以後お見知りおきを」
そう応対しながら周囲を見渡す。
そして、ヴァクマー共和国の技術力はある一定の水準に到達しているだろうと仮説を立てる。
執務室へ行くまでの通路、そしてこの執務室も、ある一定の清潔さを保っている。
補給艦らしき船舶も同行しているため、長期航海を行っていると思われるが死臭もせず、船員も健康的である。
つまり、洋上にて十分な栄養を摂取できる状態を保つことが、何らかの形で可能であるということだ。
また、執務室は一見普通の部屋だが、飾りからはしっかりと品格を感じる。
それでいて実用的である。
「にしても、随分とキレイな船内ですな」
軽いジャブである。
これで技術を過度に自慢するようであれば、その程度の技術力であるということだ。
「ええ、少し前まではそこいら死体だらけでしたが、魔力による食料の保存技術が確立されましてね。
そちらも、その様子を見るとこちらと同等、いやその上を行く技術力を保有してそうですな」
向こうさんからの反撃である。
こちらからすれば、相手に対して技術を過度に開示する意味がない。
未来の同盟国になるのかもわからない相手に塩を送る必要などないのだ。
せいぜいこちらの"基礎"を理解させ、畏怖させればいいのだ。
「はい、我が国も食料の保存技術を保有しておりまして…貴国と異なるのは各艦が装備していることでしょうか」
その言葉に、ベルントが少し動揺したように見える。
しかし、その様子は殆ど表に出ておらず、本当にただの武官か怪しく思えてくる。
「ほう…各艦がですか。
それほどの"基礎"があるのであれば、軍事技術も発展しているのでしょうな。砲以外にどんな能力があるのかな?」
どうやら相手方に妄想癖はなかったようである。
「いやいや、うちの海軍は砲1門だけですよ」
「あのような飛竜が存在するのに、砲だけであるとは到底考えられない。何かしらはあるでしょう?」
完全に捉えられている。
もはや誤魔化しは効かないだろう、そうなれば次にやるべきことは、より良い負けを作ることである。
「…では、そちらの国の上級者を出す代わりに、戦闘の様子を見せるというのは如何でしょう?」
相手さんが少し思考をする。
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24年 8/13 16:00:海上自衛隊:さわぎり CIC
さわぎり率いる西部方面派遣隊は、ヴァクマー共和国海防隊とともに蒼海を進軍していた。
目的は、ヴァクマー側より提供された海獣の討伐である。
ベルントの回答は、確約はできないがその条件を飲む。というものであった。
しかし、この回答は赤坂の望むところではなかった。
というか、この条件が飲まれると思っていなかったのだ。
後に判明したことだが、ヴァクマー共和国の海防隊…というか旧ヴァクマー帝国の海防隊というものはエリート街道まっしぐらであったのだ。
旧ヴァクマー帝国の海軍組織は最上位に総司令部、その下に方面司令部があり、その下位に艦隊の及び海岸警備隊が存在する。
しかし、海防隊は海賊征伐や貿易保護などと、任務の特殊性から総司令部直轄の特殊部隊的なものとなっていたのだ。
そんなことは露知らず、赤坂は出来もしないだろう上位者との面談を条件にし、見事飲ませることに成功したのである。
さて、討伐すべき海獣はタンガーリ・キードというものらしい。
説明を聞いたがどうやら巨大な海蛇のようなものらしかった。
「ソナー反応あり。距離6000 数3」
どうやら件の海蛇が来たようであった。
既にSH-60Jは展開・待機しているが、我々が見せるべき戦闘とは少々かけ離れている為、今回は捕捉のみが任務とされている。
「了解。水測員、アスロック発射用意。数3」
指示が復唱される。
戦闘を見せるべきベルントは既に隣でその様子を眺めている。
CIC内に入れるのは少々躊躇があったが、どうせ見たところで仕組みがわかるはずがない、ということで入れることになっていた。
「これは今何をしているんだ?」
当のベルントが聞いてくる。
「現在、ソn…探知機によって捕捉した対象に対して、水中への攻撃を実施するところです」
そう言うと、ベルントが更に質問を投げかけてくる。
「水中への攻撃か…攻撃というのはこの部屋だけで行えるのか?
特に人員が動いている様子がないが」
現代を生きる自衛官であれば常識であろう質問に対し、少し呆れが出てくるがそれを抑え答える。
「はい、室内から機械による遠隔制御で武装を操作しています。
もうそろそろ攻撃開始ですよ」
そう言うと、水測員らから射撃準備完了の報が届く。
「よーし、アスロック撃ち方始め!」
その指示ののち、正面のモニターから甲板のアスロックが打ち出される様子が見える。
その様子にベルントはどうやら度肝を抜かれたようで、目を見開いていた。
アスロックは上昇しながらに目標の方向に向かって進行していく。
数秒もすれば目標上空に到達し、モーターの切り離しとパラシュート展開が行われる。
「これが貴国の兵器か…これはどのようなものなのだ?」
「仕組みとしては爆弾を高速で飛ばした後、海面に減速させながら落として目標に誘導するものです。
我々が先程アスロックと呼んでいたものがそれになります」
そう説明すると、ベルントがはっとしたような表情をする。
「爆弾を水中に…考えもしなかったな。そうすると、貴国が保有している探知機も相当な高性能を有しているのだろうな」
3発の雷刃が水中を進み、命中する。
「全弾命中。断末魔が聞こえたのでやったでしょう」
隣のベルントに対し、応答を伺う。
「素晴らしい戦闘であった。このまま基地に向かうことは可能か?」
その答えを回頭にて示す。
ようやっと、文明と平和的に接触できそうだ。
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24年 8/12 12:00:内閣府:危機管理センター
派遣隊が航海している頃、日本国内は大惨事となっていた。
6日のテロを境に、恐れ知らずな左翼や国内の外国工作員のテロ、更に北方では指揮から外れたロシア軍第三十九独立自動車化狙撃旅団による武器密輸が横行していた。
既に北海道の親ロシア派は密輸された武装と、輸送された三十九旅団の一部人員での反乱の予兆すらあった。
この一連の状況に対応しているのが各地域の機動隊及び陸自唯一の機甲師団、第七師団の隷下第十一普通科連隊であった。
既に都内では複数のテロを鎮圧しており、機動隊はローテーションを崩して総動員体制を敷いていた。
第十一普通科も、道警同伴のもと密輸の取締及び実行犯に対し外患援助罪を適用し、拠点襲撃及び検挙を実施していた。
自衛隊員による正当防衛射撃が発生したために、一部から批判が湧き上がった。
がしかし、外患援助罪の適用者に慈悲などないと言わんばかりの風潮により、これは粉砕されることになる。
ロシア軍からはもちろん遺憾砲が飛んできたが、今のロシアに日本を侵攻することができる戦力など存在せず、黙殺された。
しかし、テロ鎮圧すればするほど武装が強化されつつあり、解決されているとは言い難かった。
そんな中、危機管理センターではもはや見慣れた光景が広がっていた。
既に事変が発生してから1ヶ月ほどが経過し、連日対応に追われているため、閣僚官僚全員が疲労している。
しかし、それでも国の為と業務を遂行しており、この国もまだ捨てたものではないと、そう思える。
「だが…こんな状況では国内に賓客はおろか、国交設立すら危ぶまれるな。公安委員長、どうにかできるか?」
そう神木に振られたのは、国家公安委員長の新崎 修であった。
先日のテロ以前に、国内要注意団体の監視及び検挙を指揮していた人物である。
実際、八・六事案は計画では国会前だけでなく、首相官邸や官公庁者に自衛隊重要基地などの各種重要施設の襲撃が含まれていた。
それがただの国会襲撃に成り下がったのは、国家公安委員会による活躍が大きい。
既に自衛隊もテロ対策に駆り出されている為、最高指揮権は神木に移っているが、警察部隊の指揮は依然として新崎が行っている。
「現状、穏健派と過激派が存在し、対立によって穏健派までもが攻撃対象になっています。
ここまで暴力行為が肥大化してしまった以上、武力による過激派の鎮圧が最も犠牲の少ない方法になるでしょう。
穏健派については捨て置いていても問題はないでしょう。
既に新規の団体は全て監視下においてありますし、内ゲバによって大した勢力ではなくなっていますので」
閣僚全員、特に深く関係するであろう防衛省の国森が天を仰ぐ。
既に一部の過激派団体は警察部隊によって対応できるレベルを超えている節があった。
最も武装している集団は、北海道の過激派団体より物資の横流しを受けていた。
それにより装備はAK-74MにRGD-5対人破片手榴弾、挙句の果てにはRPG-7など、もはや小国の軍隊規模の装備を保有していた。
「国森くん、陸自部隊によって鎮圧することは可能かね」
国森が気乗りしなさそうな様子で答える。
「既に防衛戦争の布告が出ているため、練馬の第一普通科連隊は臨戦態勢にあります。
相手は武装しているとはいえ素人ですので、容易に蹂躙と言えるレベルの戦闘を披露できるでしょう。
ただ、拠点所在地周辺には民間人も多く、被害が出れば批判は必至でしょう。
更にいえば、国内の反自団体の増長を招く可能性もあります」
その組織拠点所在地というのは品川区に存在する。
いくら何でも都心において、自衛隊が仮にも国民である過激派団体に銃を向けるという構図はよろしくない。
北海道の案件に関してはロシアが直接介入していたため、大々的に動員できたが、こちらに関してはあくまで間接的な密輸のみである。
「……既に国内情勢は混乱へと向かっている。何かこの案件以上にマスコミが食いつきそうな案件はないか」
現代民主主義国家において、政府は情報を提供しなければならない立場にある。
だが、その情報を受け取るかどうかは国民次第である。
ならば簡単である、国民に自衛隊が動いたという情報を受け取らないように小細工をすればいい。
その場にいる閣僚の殆どが、そんな神木の策を見抜いていた。
「西部方面派遣隊がそろそろ他国と接触できる頃合いかと思います。
その情報を大々的に公表すれば、なんとかかき消せるでしょう」
少し時間をおいて、そう答えたのは外務相の由木である。
「やはりそれくらいか…国森 新崎、陸自と警察共同で襲撃計画の立案を始めてくれ。Goサインはこちらで出す」
国森、新崎が答えると、2人が席を外す。
最悪の計画ではあるが、今行える最高の計画である。
日本という国でこれだけの行動が機動的に行えるのは、地球での台湾危機の経験からであろう。
3年前、中華人民共和国による台湾近海での挑発行為の過激化や、台湾侵攻の主力となるだろう東部戦区への軍の動員・集結。
これらに対し周辺諸国や米国などが反発し、説明の要求と動員の解除を求めた。
これに対する中国の回答は、日本や台湾に対する挑発であった。
この際に、海上保安庁 よなくに はてるまの2隻が暴走した中国海警による砲撃によって武力衝突が発生したこともあった。
危機事態は中国内部の反乱によって収束したが、国際的な混乱を残した。
だが、日本にとってこれは好機でもあった。
これに乗じて、前内閣である角井内閣は憲法9条の改正から始まり、内部の大幅改革や陸自の装備更新・強化などを成し遂げた。
この大規模は防衛改革により、日本は戦える国家へと変貌したのだった。
そんな中で国民の意識も改善されており、自衛隊への感情も好転していた。
逆にいえば、今反乱を起こそうとしている過激派は、その改革に反発していた残余である。
これを掃討できるというのは、大きな利益となる
この一連の事案は、日本が滅亡するか大国として繁栄を享受し続けられるかを決めることになるだろう。