第6話
2/7改稿 可読性の改善
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我々は平和を欲する。それを妨げるならば全てを破壊する。
24年 8/6 08:15:立法府:国会議事堂
国会の前では、今日も飽きもせずに反戦・反自衛隊デモが敢行されていた。
このクッソ暑い中でよくやるなと思いながら、負傷者が出ないように統制する。
こんなデモの参加者でも、警察力による保護の対象ではあるのだ。
現在、デモ警備を若師匠こと警視庁第七機動隊が、緊急時の即応チームとして、鬼とも称される同第四機動隊が待機していた。
七機は警杖と、通常のデモ警備同様の装備であるが、四機は銃器対策班から通常の中隊までフル装備である。
国会の正門を包囲するようにデモ隊が展開し、機動隊がそれを守るように包囲する。
DJポリスがデモ隊によって阻害された交通を整理する。
既にこんな状況が10日以上続いており、警察側ももう日常と化している。
今日はそれに対抗するように極右の街宣車も出動してきており、地獄のような有様である。
だが、多少のイレギュラーはあれど、今日もいつも通りの日常が過ぎる。
そう、その場にいる全員が思っていた。
デモ隊が大声で叫んだ直後だっただろうか。
突如、何かが群衆内に投げ込まれる。
もちろん、それをはっきり見たわけでも、見えたわけでもない。
だが、それが日常で使用されてはならないこと物であると咄嗟に理解する。
「手榴弾だ!」
そういった瞬間にはもう手遅れであった。
群衆をなぎ倒すように爆風が走り、血飛沫が広がる。
その直後、ゲバ棒にゲバヘルなど、学生運動を彷彿とさせる武装した集団が数百人規模で現れ、四方から警備の機動隊に突撃を開始する。
後方には何十台のワンボックスが止まっていた。
「第1小隊は正面を抑えろ!第2は側面だ!第3は救護に回れ!誰か四機に救援要請!」
そうしている時には既に、側面では機動隊と暴徒が乱闘を開始していた。
しかし、七機装備の警杖は乱闘を行うような装備ではなく、群衆規制などに使用するための装備であり、苦戦を強いられていた。
一部は火炎瓶で武装しており、既に3~4本が飛んできていた。
そうしていると、四機の特型警備・遊撃車が到着するのが見えると、両車から四機の完全武装した隊員が一斉に降車する。
四機の銃対は周囲の警戒を、他1個中隊が威圧しながらふた手に別れ前進する。
それを見てか、ワンボックスから降りてきた男達が火炎瓶を大量に投げ始める。
それによって四機が怯む……わけがなかった。
相手は安保闘争を戦い抜いたあの第四機動隊の後進である。その四機がたかが火炎瓶如きで怯むわけがなく、むしろその勢いを加速させる。
それを見て、相手が虎の子とも思える手榴弾を投げつけてくる。
それを見た隊員が手榴弾を拾い、明後日の方向に投げ飛ばす。
そして、ワンボックスの方向へ突進していた部隊は既に暴徒のもとへ到達しており、もはや蹂躙とも言えり制圧が行われていた。
国会前に前進していた部隊はそこから3つに別れ、七機とともに蹂躙を開始する。
まさにその様子は、安保闘争を始めとする学生運動そのものであった。
形勢は既に暴徒の優勢から、機動隊の圧倒に変化している。
たかだか数百人の素人と、100名強の訓練が日常で、装備豊富な機動隊。
1個中退ならまだしも、2個中隊であればどちらが勝つかなど明白である。
機動隊は意識的に2人で1人を制圧することを繰り返す。
既に相手方の士気は壊滅的であり、潰走を始めていた。
去るものは追わず、抵抗するものは徹底的にその意志を粉砕していく。
そうして、暴徒は完全に鎮圧し、七機全員が救護を開始する。
それと同時に、安全化を見計らった救急隊が大挙して押し寄せてくる。
この事件によって、第四機動隊の強靭・苛烈さが再認識されると同時に、触発された恐れ知らずな極左によるテロ・暴動が頻発し始めるのであった。
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24年 8/10 10:00:海上自衛隊:佐世保基地
海上自衛隊 佐世保基地には、老練なる強兵達が集結していた。
佐世保より じんつう さわぎり、舞鶴より あさぎり せとぎり せんだい、呉より うみぎり あぶくま とね である。
彼らの任務は、新大陸に存在する国家に外交官を送り届ける事であった。
じんつう さわぎり あさぎり せんだいが西方へ、せとぎり うみぎり あぶくま とねが北東へ進出する予定であった。
また、とわだ型補給艦 とわだ はまな やおおすみ型輸送艦 おおすみ しもきた 派遣の為駆け付けており、現在農水省から手配された食料の積み込みを行っていた。
その量は膨大であり、よくもまあこの状況でこれだけの量を用意できたものだといったところであった。
既に国内では購入制限などといった緩い食料規制が行われていた。
これにより国内は完全に二分されており、過激な一部の左翼がこれに反発し、前述のようにデモなどを行っている。
だが、そんなことは関係ないといわんばかりに政府は一連の事象への対策を矢継ぎ早に叩き出しており、過激さも相まって勢力は徐々に弱まっていた。
この使節団の派遣もその一環であり、政府のキャンペーンも相まって一部の食料は企業からの寄付であった。
既に、各種研究者や外交官などは集合しており、甲板のそこいらで談笑を行っていた。
研究者の性か、聞こえてくる内容の殆どは現地についたら何を調査するか、という話であった。
「赤坂さん、うちの分の資材積み込みが終わったそうです。すぐに出港するそうです」
「ん、ああわかった」
そんなことを話している合間に、船体が前進し始めるのを感じる。
「にしても、まさかこの時代の外交官になって未知の国と交渉するなんて思いませんでしたよ。人生って面白いもんですねぇ」
補佐の木坂普がそんなことを言い始める。
まるで、全てをやり尽くした老人かのような言動に、思わず反応してしまう。
「まあそれは同意だが…お前いったい幾つだよ」
そんなことを言うと、木坂が笑い出す。
「……まぁ、これから戦争に行くんですから、こんくらいいいでしょうよ」
軍人の戦場は大地であるが、外交官の戦場は会議室であり迎賓館だ。
外交とはひとつのミスで、国家を地獄へと叩き落とす事ができる力を持つ。
今であれば、もし相手国の機嫌を損ねれば、12000万の国民が飢え死にする可能性だってありえるのだ。
この戦争には何がなんでも勝たなければならないのだ。
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24年 8/13 11:00:海上自衛隊:さわぎり 洋上
仮称北西部方面派遣隊は、艦数6隻・乗員800名を擁して洋上を進行していた。
その任務は外交・研究要員の護送はもちろんのこと、他にも遠方の海岸地形の把握、他国の偵察も含まれていた。
もし、要員に危険が迫れば、ありとあらゆる手段を持って対抗することになる。
艦隊は厳戒態勢であり、水測員や電測員はコンパネの前に張り付いて警戒を行っているため、蟻1匹通さない姿勢である。
既に出港から72時間が経っている。
移動距離はおおよそ2,500kmであり、直線距離にして宗谷岬から沖縄まで行ける距離である。
ここまで特段大きな事案の発生はなく、平和な航海が続いていた。
「レーダーに感あり、距離200 数10、詳細不明」
その言葉により、艦内に緊張が走る。
「ワイバーンを発艦させて詳細を確認しろ。不明艦隊の対空砲火を警戒し、なるべく遠距離での観測を行え。送られてきたデータを捕虜に見せて確認を取らせる」
「了解。発艦用意」
捕虜というのは尖閣沖で捕縛した捕虜である。
今回、詳細不明な都市や艦隊の識別の為、艦内に同行させられている。
逃亡の危険があると一部から反発はあったが、捕虜が傍目から見て、あまりにも捕虜生活を楽しんでいることから反発も無くなった。
SH-60Jが発艦し、不明艦隊の方角へ進行していく。
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67年 8/13 11:40:???:洋上
船内に大きな足音が響き渡る。
その音を聞き流していると、突然の眼前のドアが勢い良く開く。
「船長!飛竜が近空を飛行中です!」
「おおよその距離と速度は分かるか」
その突然の報に、多少の困惑を覚える。
「距離は5km程、速度は現在停止中です」
報告の後半に違和感を覚える。
「停止中?空中でか?」
普通、ワイバーンなど飛竜は空中で停止するようなことはない、できないはずである。
推進装置のデメリットである。
ということは飛竜ではない、飛竜に類似したものということになる。
「まあいい、危害を加えてきてないなら放っておけ」
その判断は彼らの命を救うことになったことを、彼らはまだ知らない。
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「報告、所属不明艦隊の映像が送信されてきました。艦種は小型9、中型1」
艦隊はおおよそ180km地点に位置していた。
もし、艦隊がヴァクマー帝国以外のものであった場合、直ちに艦隊最高速である27ktにて艦隊に接近するつもりである。
「おーい、誰か捕虜を連れてこい。確認させるぞ」
指示を飛ばすと同時に、ほぼ武装もしていない隊員が捕虜を連れてくる。
捕虜は艦隊を見た瞬間、意図を理解したかのように話し始める。
「こいつはヴァクマー共和国の艦隊っすね。ヴァクマー帝国から離反して、今は内戦中っす。
あっちの方が情勢が平和って話っすけど、ニッポンの方が1億倍もマシっすよ」
捕虜がちょけながら話す。
たかだか3週間程しか日本で生活していないはずだが、完全に馴染んでいる様子である。
「赤坂外交官、接触いたしますか?」
乗艦している赤坂悟に問う。
話では優秀な外交官であると聞いた人物だ。
「そうですね…内戦中であるならば、多少は交渉もうまく行くかもしれません。接触できますか?」
その質問に頷き、最大戦速の支持を出す。
あぶくま型の最高速27ktに合わせて、艦隊が増速していく。
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おおよそ2時間が経過しただろうか。
SH-60Jは既に帰艦して再補給の後、上空にて哨戒飛行を行っている。
幸いにも、相手方がこちらの方向へ進行していたため、さほど接触に時間はかからなかった。
既にお互い視認圏内であり、相手方はこちらへと臨検のためか接近してきているようであった。
「こちらはヴァクマー共和国海防隊である!貴艦隊らの所属と目的を答えよ!」
兵士が模範的な臨検時の言動を繰り返してくる。
それに対しこちらも応答する。
「こちらは日本国海上自衛隊である!貴国との外交交渉を行いたく回航してきた!貴艦隊の司令官と話したい!」
そんなことを言うと、兵士が困惑した様子で少し思考する。
「少し待て!上官に進言する!」
そう言うと兵士は艦内へと入っていった。
ヴァクマー共和国の艦隊は、ヴァクマー帝国と同様に1900年代初期から1800年代後半の黎明期の駆逐艦のような艦艇であった。
彼我距離は2km程度である。
もし、交渉が拒絶され砲撃が開始した場合、装甲のない護衛艦では重要区画への被害は免れない。
「各艦へ通達。いつでも砲撃開始できるようにしておけ。砲門はまだ向けるなよ」
その指示が飛んだ途端に、艦内から抜けていた緊張が戻る。
そう指示を飛ばしていると、先程の兵士が甲板へと戻ってくる。
「上位の者と、その護衛で計5名だ!10分以内に選出して伝えろ!」
どうやら計4門の62口径76mm単装砲が火を吹くという事態は避けられたようであった。
護衛を向こうから付けるよう言っているならば、少なくとも船内で撃ち殺される可能性も低そうである。
「護衛は緊急時のために同伴していた特警に頼むとしよう。赤坂外交官、準備を。」
5分程で人員の準備が完了する。
赤坂に木坂の2人、そしてSBUの護衛が3名である。
威圧感を出さないためか、装備はSIG SAUER P226R 自動拳銃のみである。
しかし、服装が濃紺の警備服にバラクラバ、ヘルメットにタクティカルベストと、威圧感マシマシの装具であった。
後部甲板から甲板の兵士に準備ができたと伝えると、すぐに小型の飛竜が飛んでくる。
「このワイバーンで1人ずつ移送する。最初は護衛からだ」
その言葉にSBUの1人が反応する。
その声はもはや呆れに近いものであった。
「なら、今上がってるヘリで移送しましょう。そっちのほうが早い」
そう言うと、待ってましたと言わんばかりに、直ぐにヘリが降下し甲板に着陸する。
ワイバーンに乗っていた兵士が、驚愕とともに問うてくる。
「こいつは…そちらの飛竜か?」
「ええまあ、それに近しいものと考えていただければけっこうです」
全員が搭乗すると、上昇しワイバーンとともに共和国の艦隊に接近していく。
共和国艦隊の旗艦と思われる艦には、海自が運用するような中型のヘリを離発着させるほどのスペースはない。
そのため、最も広い艦尾のワイバーン甲板にホバリングで横付けすることとなる。
海自の操縦士の腕の見せ所である。
そんな移送作業が終わり、船内へと進んでいく。
国家の命運を決める、冷たい戦争が始まる。