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日本転移危機  作者: らいち
プロローグ 転移
5/36

第5話

1/30改稿 航空無線の意訳追加 一部修正

2/7改稿 可読性の改善


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


A Shot Across The Bow


24年 7/30 10:00:立法府:国会議事堂


「自衛隊はー!戦争をー!やめろー!」


無数の人々が、そのフレーズを復唱する。

国内では2年前の9条改正後から、極左によるデモが活発化していた。

幸いにも、日本国の警察力は偉大かな、現状は平和的抗議活動に留まっていた。


「この状況で反戦デモか、楽観的なのかただの平和ボケなのか…」


首相の神木がぼやく。

ただ、反戦デモを除いたとしても、現状日本国が戦争状態に突入するには些か厳しいものがあった。

大きなもので言えば各種物資であった。

国内の石油備蓄は半年分、しかし、戦争状態突入するとなれば話は別である。

あくまで半年というのは、供給が途絶したとしても通常の経済活動による需要を満たすことができる、という意味である。

もし、有事に突入するとなれば、石油備蓄の供給可能期間は大幅に減少する。

である以上、日本という国家のタイムリミットは刻々と迫っていた。

現状、ヴァクマー帝国以外の国家に対し、外交的接触の手配を行っているが、だからといって石油備蓄や各種物資が入手できるとは限らない。

更に言えば、それらを入手出来たとて、本土への輸送や相手国がもし保有していなければ、港湾の整備など、やらなければならないことは多くある。

それらを考えれば、残された猶予はおおよそ1ヶ月といったところであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


24年 7/30 12:00:海上自衛隊:ヴァクマー帝国近海 P-1


白き鉄鷲は、ヴァクマー帝国の港湾を静かに、しかし鋭く監視していた。

その任はヴァクマー帝国の艦隊の出港を通報し、その陣容を判明させることであった。


「機長、コーヒー要りますか?」


気遣いをかけてきたのはIFT(機上電子整備員)であった。


「あぁ、お願いできるか」


既に前日の防衛出動の発令から1日が経ち、P-1を駆り始めて6時間が経過していた。

そろそろ限界が近づいてきていた。

そこにコーヒーという興奮剤は、もはや聖水の如きありがたみであった。


「にしても、奴さんたちの式典は随分と長いもんだなぁ」


既に、ヴァクマー帝国の艦隊は出港の準備を整えているように見える。

しかし、既に1時間以上、出港祝いか願掛けかはわからないが、式典を行っていた。

そんな思慮を巡らせていると、とうとうカメラ越しに見える眼下の彼らが出港し始めているようであった。


「おい、奴さんたち出港したぞ。本部に通報してくれ。このまま追跡監視するぞ、旋回開始しろ」


鉄鷲が身を翻し、静かなる追跡を開始するのであった。


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24年 7/31 14:00:海上自衛隊:尖閣諸島沖 いせ


第2護衛隊及び第5護衛隊、総勢8隻の護衛館は、決戦の地となるであろう尖閣諸島沖を航行していた。

既に艦隊は臨戦状態であり、いつどこから対艦ミサイルが飛んできたとしても撃ち落とせる状態であった。

また、水測員からは馴染みあるスクリュー音が聞こえてきていた。


「P-1より通報、敵艦隊は現在本艦隊より100kmの位置を航行中」

「了解、そろそろだな。バレット隊発艦開始せよ」


DDH-182 いせは、台湾危機の際にF-35Bの運用が可能になるよう大改装が施されており、軽空母としての運用が可能になっていた。

そんないせの甲板上には、25mmガンポットを両翼に搭載したF-35Bが3機、即応体制にて更に3機が待機していた。

なぜ、対艦ミサイルではないのか。その理由は敵艦隊が保有しているシールドドーム発生艦、防護艦隊の存在であった。

捕虜への尋問によって、激しい攻撃を加えることによって能力を無力化することが可能であると判明している。

つまりは2,640発の鉄の雨によって破壊するつもりなわけだ。

更に言えば、旧式艦艇(時代遅れの産物)に対艦ミサイルなどという高級品を使うほどの価値はない。

発艦用意を整えたF-35Bが次々に発艦していく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


いせをから飛び立った影鷲は、デルタ編隊を組んで超音速で飛行する。

スーパークルーズ(超音速巡航)によって3分で敵艦隊近空に到達していた。


[Bullet 1-1,Mother,Deploy,Execute,CountDown 90,Ducking]

(Bullet 1-1よりいせへ、作戦海域に現着。

攻撃開始まで90秒、アプローチ開始。)


[Mother,Bullet 1-1,Loger,GoodLuck]

(いせよりBulletへ、了解した。幸運を祈る。)


短い無線交信が交わされる。

既に彼我距離は20kmを切っている。


[1-1,1-2 to 1-3,Gate,Dart Enemy Shield Bearer,No Response]

(1-1より各機へ、目標 敵防護艦。返答不要。)


艦隊との距離は高速で縮まっていく。

2kmを切った辺りだろうか、敵艦が一切の統制が取れていない対空砲火を浴びせてくる。

それと同時に、3匹の影鷲は1機2門のGAU-12 イコライザーにより、僅か0.4秒の遅延の後に秒間60発の光線を走らせる。

それらの殆どは、想像通り消滅するが、3秒ほどで有効打を叩き出し始める。

弾種はM792 焼夷榴弾であり、大した装甲のない防護艦は爆炎に包まれ、瞬く間に船体が火達磨になる。

3機の編隊が上昇を始める頃には、搭載していたであろう弾薬に引火したのか、轟音を轟かせながら爆発を起こしていた。


[1-1,1-2 to 1-3,Target Splashed,Complete,RTB]

(1-1より各機、ターゲット破壊。

行動完了、帰投する。)


3機は身を翻し、まるで敵艦隊を嘲笑するかの如き低空飛行を行い離脱する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


攻撃開始の60秒前


「見張り員より報告!飛翔体が高速で近づいてきます!距離約20km!」


その報告に対し、彼は楽観視していた。

高速なんていっても大したことないと、高を括っていたのだ。

そして、彼にはその考えを改める機会もなかった。


「対空戦闘の準備をしておけ。射程に入り次第射撃を開始しろ」

伝令が更に喚く。

「もはや数十秒もすれば射程に入ります!迎撃なんて不可能です!」

「うるさい黙れ!さっさと指示に従え!そもそも、そんな高速で飛行してこれる訳が無いだろう!」


そんな押し問答をしていると、突然船外から2種類の轟音が聞こえてくる。

1つは聞き慣れた対空砲火の音

そして、もう1つの音を理解しようとした刹那、彼の四肢は散り散りに始め飛び、彼の意識は無へと帰した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「バレット隊より報告。敵艦隊の防護艦の無力化成功。主砲弾及びミサイル攻撃が有効になりました」

「了解した。速力そのまま、敵艦隊に肉薄して主砲で叩くぞ。再度艦隊に徹底、全ては沈めるな。撤退を開始した時点で攻撃は停止せよ」


艦内はどんちゃん騒ぎであった。

そこいらで大声が行き交っている。

そんなことはお構いなしに、艦隊は前進し敵艦隊との距離を縮めていく。


「P-1より通報。敵艦隊反転、帰港していきます」

その報は、艦内の音を全て吸収した。

「………もう撤退するか、よほど防護艦が大事だったらしい。本艦隊も反転せよ、これ以上の追撃は無用だ」


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24年 7/31 15:00:内閣府:危機管理センター


「第2及び第5護衛隊から報告です。敵艦隊は防護艦撃破後、反転帰投したとのことです」


その報告は、政府として実に喜ばしいことであった。

なぜ、撤退開始後の追撃が許可されていなかったか。

それは、敗走した敵艦隊に報告をさせ、彼我の実力差を明確にし帝国に、「勝てない」と思わせる為であった。

もし思惑通りに行けば、それ以上の損害や陸戦無しでこの戦争を集結させることができる。


「よろしい。このまま数日待機し、帝国からのアクションを待つぞ。……その間にもやることが山積みだな。使節団派遣の手配はどうなっている」


使節団の派遣。

これには日本の延命だけでなく、ヴァクマー帝国がもし継戦の道を選んだ時、和平工作や外交ルートとして他国を利用することを見据えてのものであった。

そのため、外務省は急ピッチで人員の選定や護衛部隊の編成調整、捕虜経由の数少ない外交情勢から外交戦略の立案を行っている。


「はい、現状可能な限りのリソースを動員して準備をしていますが、最短でも派遣開始できるのは8/10頃になると思われます」

「わかった。暇している省庁はできるだけこの案件にリソースを注ぐよう伝えてほしい」


その指示に、センターに詰めている閣僚が頷く。

メンバーは国森や外務大臣の由木、鹿賀に経産の伊丹、農水の豊海である。


「農水省の方から食料を多少融通できるかもしれません、手配しておきます」


豊海がそんなことを言いながら電話をかけ始める。

神木内閣は閣僚が皆優秀である事が特徴とも言われる程であり、その仕事の速さはまさに神の領域である。


「会談後の各種業務を円滑にする為、こちらから供出できる限り、各方面の研究者・科学者を派遣しましょう。こちらとしても情報が1つでも多くほしい」


私情が混ざっているようにも思えるが、鹿賀も優秀な人間である。


「防衛省も護衛以外に現状手の空いている施設科を同行できるよう準備させましょう。居れば何かと便利なはずです」

「〜〜〜〜あー、ちょっと待ってくれ。防衛省、文科省の方の食料も手配いたします。すまん、追加で〜〜〜」


他の大臣も各々電話を掛け始めていた。

そんな中、神木が席を外し、電話をかけ始める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


67年 7/31 15:00:ヴァクマー帝国:??????


「にしても、海岸警備隊ならまだしも、一応は正規軍の第三艦隊が敵艦隊の姿も見れずに大敗か……。先日の高速飛翔体の件といい、どうも妙だな」


ヴァクマー帝国海軍総司令のアルバンは思慮を巡らせていた。

30分ほど前か、南方管区から耳を疑う情報が入ってきていた。

それは、仮にも正規軍である南方海軍管区の第3主力艦隊が、敵の艦隊の姿も見れずにドナウ級防護艦 サヴァが撃沈されたというのだ。

他の艦艇は兵装への損害のみで、既に撤退しているようだが、建造に莫大な労力と魔力が必要な防護艦が撃沈されるなど、それだけで大敗北となる。

しかし、彼の頭にはとある一文がこびり付いていた。


「高速飛翔する鉄竜か……形状は15日の報告とは違うようだが、海戦に出てきた以上、航空戦力を運用する艦艇が相手にいるのは確定か?」


ガイスは陸軍と違い、貴族に金持ちばかりの海軍の中で数少ない、実力で上へと這い上がってきた有能であった。

彼の功績は大きい。

実際、帝国海軍が海上における航空戦力の運用で他の列強よりも、僅かであるがリードしている。

その理由は、彼が改良されたワイバーンの実用性にいち早く気付き、海軍への導入を主張、計画・主導した事が大きい。

そんな優秀さからこそ出てくる視点でありその、予測は後に大いに役立つこととなる。


「陸軍の方に警戒態勢の引き上げを進言しておくか。あとは……海軍は臨戦体制くらいは出して良いだろう」


日本が対応を進める中、ヴァクマー帝国もまた対策を進めていくのであった。

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