第43話
26年 8/1 13:00:ヴ第二共和国:FEBA後方
[A地区邦人後方避難完了]
[B地区完了]
[Cも完了]
邦人の後方移送は非常にスームズに進んだ。
まあ、もともと相当など田舎。
資源採掘の為の駐在員くらいしか居ない地域だったのだから、大した時間がかかる訳がない。
運用した部隊は中隊1個。
残り2個中隊は前線。
いや、前線よりすこーしだけ後方か。
足はヴァクマー予備保管の高機動車である。
「よぉ〜し、仕事は終わったぞ。ここからはピクニックだ」
「銃撃される可能性のあるピクニックですか。最高ですね」
「そう言うな。よし、中隊乗車!行くぞ!」
普通科1個中隊が高機に分乗を開始する。
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26年 8/1 14:00:ヴ第二共和国:FEBA
第十六普通科連隊は、ヴァクマー陸軍と蜂起軍の戦闘における最前線に侵入した。
名目上は、蜂起軍支配地域内に"いるかも"しれない邦人の捜索救助である。
小隊毎に各方面へと車列を進めている。
周辺はファンタジー世界の草原そのものだ。
ちょこちょこ、明らかに元の世界では存在しない動物が居る。
頭に角の生えたうさぎに、明らかにゴツい鹿のようなもの。
改めて、ここが異世界だということを実感する。
ここ最近はゴブリンだのオークだのを、治安維持の一環で狩り過ぎて感覚が麻痺してきている。
「随分と平和ですね。やっぱ都市に篭ってそうですね」
「だな。ヴァクマーの連中も、敵を1人見つけたらワラワラ出てくるっつってたしな」
「まるでゴキブリみたいな言いようですね」
4両の車列である。
高機動車1両に大体1個分隊、計4個分隊分である。
車列が減速する。
こういう時は大体不審物か何か見つけた時だ。
撃たれたなら殺人ブレーキが発動している。
[1号車、前方集落。武装勢力確認]
[数は?]
[相当数。小型車両も見えます、自動車化歩兵といったところでしょうか]
面倒だな。
こっちから撃つのはNG。
あくまで邦人捜索が目的だ。
「………あの角うさぎ、撃てるか?」
「え、あれですか?」
「こういうのシナリオだ。野営のために食料調達をしようとしたら、たまたま蜂起軍に見つかってたまたま交戦に突入した…………どうだ?俺にしては頭が回っただろ?」
「あーそういう…………わざわざ撃ち合う為に気づいてもらうっていうのもちょっと変ですが………」
「どっちにしろ音でバレて撃たれるんだ、万全を期して撃ち合ったほうがいいだろ?」
「確かに……そう……です………ね」
小隊本部班のマークスマンが敵を狙う。
89式に、ニコン社製の試作固定4倍照準器とチークパットをマウントしたDMR改造型である。
銃声が響く。
少し遠くで、角うさぎが息絶えていた。
[1号車、今の銃声で動き有り………………敵部隊発砲確認。敵性集団と認定、交戦許可を]
[交戦を許可。繰り返す、交戦を許可]
前方から分隊散開の声が聞こえてくる。
[1-1は正面制圧、1-2側面機動の後射撃。3・4は援護躍進]
敵部隊は集落内部を中心に展開している。
集落はこの世界にもともとあるような木造の民家が何件か。
特に防御陣地化はされていない。
1分隊の20式とMINIMIが火を吹く。
敵はおそらく半自動小銃。
1分隊の射撃密度とは大違いである。
2分隊が高機動車で敵側面に機動する。
それを見た敵が射撃しようとするが、高機からのMINIMIの掃射で頭を引っ込める。
「弾は節約!弾幕は張り続けろ、顔を上げさせるな!」
3・4の両分隊が前進していく。
軽機関銃を主火力に、小銃がその間隙を補助することで敵前線を突破・浸透する。
第一次世界大戦期に軽機関銃が登場し、形成された歩兵戦闘の基礎だ。
その基礎を忠実に守り、軽機が火力を発揮しつつ援護躍進していく。
[3,4両分隊、敵陣に張り付きました!いつでも行けます!]
[了解した。命は惜しんでも官品は惜しむなよ。どうせ本格開戦になりゃ後方も文句なんざ言わなくなる]
[了!]
[1,2分隊射撃中止。繰り返す射撃中止]
その無線の数秒後、手榴弾の爆発音と土煙が発生していた。
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69年 8/8 7:00:ヴ第二共和国:???
西方の蜂起地帯の一角。
蜂起軍の指揮所がある場所の地下に、正式な軍服を纏った、明らかに民兵ではない複数名の男が居た
「軍の様子はどうだ?」
「想定通りの支配領域です。やはり、これ以上は補給の観点から厳しいようです」
「上はなんと?」
「調整すれば明日にでも可能であると」
目の前の鉄の箱を突く。
「やつらがこんな高性能な装備を開発しているのは癪に触るが………装備に罪はないしな。
部隊を越境させろ、例の車両部隊だ。明後日の0時までに前線に展開、ヴァクマー在外公館への宣戦布告と同時に戦闘を開始する」
「了解致しました」
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26年 8/8 10:00:ヴ第二共和国:蜂起地帯後方
ヴァクマー・ダルアの国境線の上空を、飛行する無人の翼が1機。
MQ-9の日本製コピー。
RQ-1無人偵察機である。
性能はほとんど本家と変わらない。
その全てが日本製であることぐらいが違いだろうか。
その監視の目に、ある隊列が目に入る。
ジープをそのまま縦に伸ばしたような車両と、ジープに重火器を載せたような車両の隊列。
明らかに国境を侵犯している、その隊列は着々とその歩みを進めている。
このまま進めば、蜂起軍の指揮所へとその身を置くこととなるだろう。
「班長。これ見てください」
「あ?なんだ」
「明らかな国境侵犯ですよね?」
そう言ってモニターを見せる。
いつもの顰めっ面が更に悪化した。
「だな、第十六連長に報告してくる。そのまま監視を続けておけ」
「了解しました」
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26年 8/8 12:00:ヴ第二共和国:蜂起地帯上空
2機のF-2が上空を舞う。
任務は、"国境侵犯中の国籍不明の軍事部隊への警告飛行"である。
いくら蜂起地帯といえど、この地の領有権はヴァクマー側にある。
それに対し軍事支援だけに留まらず直接的な大規模派兵は事実上の宣戦に近い。
[Blue 1, SkyEye. TALLY. some vehicles, NO VISUAL AA. GRID KP24]
(Blue1よりSkyEye、目標視認。車両複数、対空火器確認できず。座標は………)
[SkyEye, Roger. EXECUTE Task. No Wepon]
(SkyEye,了解。任務実行許可、武器使用なし)
F-2 2機が急降下する。
30,000ftからの1,000ftへの急降下である。
[Blue 1, IN HOT, HDG Two-Seven-Zero, Low Two Hundred, Speed Four-Five-Zero. Follow Three sec]
(侵入開始、方位270°、高度200ft、速度450kt、3秒感覚で追随せよ)
[Blue 2, copy, IN Trail]
(了解、追随する)
1,000ftから更に高度を下げ、200ftまで降下する。
ジェットエンジンの轟音と翼が風を切る音が響く。
所属不明の隊列を、450ktという豪速でロールしながら通過する。
通過したそばから、蜘蛛の子を散らすように隊列が崩れる。
車両もアクセルを踏み込んだのか玉突き事故を起こしてすらいる。
[ハハッ!あいつらビビりまくってるぞ!]
[もう一回アプローチだ。いくぞ]
[Wilco!]
そのまま旋回し、もう一度アプローチする。
今度はロールに加え、フレアを大量に焚く。
そんな中、二つの軌跡が空へと舞い上がる。
[ッ!!!Incoming!!Break!Break!]
咄嗟にA/Bを全開にして急上昇する。
その軌跡は少しずつ、だが確実にその軌道を変えていた。
速度は400km/h程だろうか?
上昇しても、速度はほとんど変わっていなかった。
更にフレアを焚く。
そうすると、すぐにフレアへとその軌道を変える。
そのまま爆発する。
右を見ると、僚機の左翼端が吹き飛んでいた。
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26年 8/9 23:00:ヴ第二共和国:領海境界線付近
日本の転移後、エルファスターの海軍力もあり海上保安庁は第一から第二、そして第六、第八から第九管区。
これらに警備力を割く必要性が低下していた。
そこで新設されたのが、サンコ諸島国周辺を警備する第十二管区、そしてヴァクマー周辺海域。
現実世界において日本から見ておおよそ中国あたりからタイの程度に存在する海峡、この範囲の海域を警備する第十三管区である。
そんな海域を、海上保安庁 PL-53 きそ は 航行していた。
装備はボフォース 40mmや20mmバルカン、各種監視装置や巡視艇支援設備を装備している。
搭載機はMH スーパーピューマ 225である。
周囲には複数の巡視艇が各々監視任務を行っており、その支援および指揮が きそ の任務である。
[こちら117 ゆきぐも。きそ応答願う]
[こちらきそ、どうぞ]
[本艇視認圏内において不審船を確認。おそらく軍艦と見られる、詳細位置を送信した。指示をこう〜どうぞ]
ゆきぐもから詳細な座標が飛んでくる。
不審船の概算位置はタイ程度の位置に存在する海峡を東。
つまりこちら側に進行している。
海峡はヴァクマーと、エルジドなどが存在する南方大陸の国家であるイカリア共和国との国境であること。
さらに言うと交通の要所であるために、その付近の海域は例外的に公海とされている。
[ゆきぐもへ。その位置はまだ公海だ、我々に停止する権利も無いし、俺達の監視をどける権利も向こうにはない。
監視しつつ追従しろ、もしEEZに入るようなら警告]
[ゆきぐも了k…………っ!?!?緊急回避取舵いっぱい!不明船射撃!繰り返す不明船射撃!]
[ゆきぐもへ、詳細願いたい。可能か?]
[不明船より大口径砲射撃!至近弾多数!確実に当てに来てる!…………っ!?第二波!?面舵回避!当たんじゃねえぞ!当たれば確実にお陀仏だ!]
無線の向こうから怒号が聞こえる。
詳細はわからないが、確実に不味いことだけはわかる。
[きそより全PC、PSへ。ゆきぐもが現在の不明艦船と交戦中。送信座標より速やかに退避されたし。
ゆきぐも救援は本船が向かう。回覧願う、どうぞ]
海域を航行していた巡視船から返答のむせんが続々と入る。
大口径砲と言っていた。
きそでも一発で沈むだろうが、ほかのPCやPSよりはまだマシなはずだ。
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26年 8/8 13:00:ヴ第二共和国:後方基地
「…………整備ぃ…………出来そうか?」
「整備、ですか」
話しかけた整備士の顔が怖かった。
正直言って、いますぐ逃げ出したい。
「あのですね、翼端が消し飛んでいるのは整備とは言わないんですよ!!!
いくら最近は企業の景気が良くて修理部品がポンポン出てくるとはいえ、整備してる人間は増えてないんですよ!!!
そもそもこのレベルはもはや本土送りの領域ですが!?」
「うっ、悪かったって。でも仕方なくないか?低空飛行で威嚇しろって言うのg」
「60mまで降下する必要あったんですか!?」
敵より味方の方がこえぇよ………




