第40話
26年 5/26 13:00:ヴ第二共和国:ダバペスト
[緊急車両通ります、緊急車両通ります]
|日本国国際《Japan Global》|緊急援助《Emergency Support 》隊、通称GEST
日本が友好国に派遣している緊急対処部隊である。
彼らはもはや狂気と言えるほどの重武装精鋭部隊である。
現場で彼らにできないのは要救助者を見殺しにすることだけであると言わしめる程に。
陸上1個班には消防隊員20名・救急隊員10名・警官5名・医師3名・看護師3名・臨床工学技士1名。
装備は通常消防車1台・科学防護消防車1台・高度工作車1台・大型支援車1台・特別仕様指揮車1台
救急車2台・特殊救急車1台・感染症対応型特殊救急車1台・高度治療車1台・III型遊撃車1台
大型装備だけでこれだけの充実具合である。
初期じゃ人数に対して過剰すぎると現場からも言われていたが、実際はありとあらゆる状況似対して現場判断で対応が可能。
むしろ適切との見方が最近じゃ主流だ。
そんな彼らの車列が、ヴァクマー第二共和国首都 ダバペストをけたたましく駆ける。
政府官公庁での爆発事案である。
既に重傷者多数、行方不明者続出によりヴァクマー側より応援要請が入った。
転移からもうすぐ2年。
ヴァクマーの首都は様変わりしていた。
共和国北西部、国境のヴルラ山脈から広がる森林地帯と隣接した都市。
アスファルト製道路に、改装されはじめた官公庁舎、街を歩く警官。
それらと森林が織りなす都市環境は、現代日本人からすれば違和感を感じる景観をしていた。
ヴァクマーという国は、今やこの世界で日本という国の優しさも、苛烈さも最も知っている国家である。
[こちらGEST、只今現着。本部より指示お願いされたい、どうぞ]
[こちら現本、非改装の官公庁舎への延焼が酷く救助活動停滞中。救助活動に当たって欲しい、あと指揮車を本部に回してくれ。あれがなきゃやってられん]
[GEST了解]
「消防と化防、工作班はこのまま救助活動開始!水槽車は消火支援に回れ!指揮班はここまま本部直行!
医療隊!本部近辺に展開して受け入れ準備!警官班は可能な限りの情報収集と交通統制!おら行くぞ!!」
部隊が走っていく。
指揮車に乗って本部へ直行する。
指揮車は特別仕様。
ドローンの運用や無線機による指揮・衛星通信等が行えるよう改造された大型バンである。
ヴァクマーには優先的に消防装備や軍事兵器が供給されているため、大抵どの部隊でも無線通信が可能になっている。
[GESTより本部へ、詳細な現場状況を把握したい。どうなってる?]
[初報は警備員より近隣の警察署に。突然財務省施設が爆発したと通報、直前に不審な車両がが地下に入ったとの事。
地下にて爆発の後延焼、地上階まで燃えているらしい]
鵜呑みにしちゃいけんが、テロの可能性があるってことか。
火の元は地下か。
そんな交信をしていれば、本部へと到着する。
「本部長は?」
「俺だ」
「消火活動の進捗は?」
「出荷源は地下、今はなんとか延焼を抑えるので精一杯だ。屋内は煙が充満、化学消防車もまだ到着していない」
思ったよりも状況は悪いらしいな。
だが、GEST仕様の消防車は一味違うぞ。
通常消防車は救助工作車の様なクレーンウィンチ機能を、高度工作車は排煙機能やウォーター・エアカッター搭載。
化学消防車はNBC災害対応、通常時は一般消防活動に従事。
大型支援車は泡原液タンクに水タンク、電源機能。
もちろん、専門車両に比べれば性能は落ちるが。
我々にできない事は、要救助者を見殺しにすることだけというのは伊達じゃない。
「うちの工作車で地下の煙を排出するが、そっちのユニットも早めに来るようにしてくれ」
「ああ、道中に規制をかけて、強引に向かわせてる。あと5分で現着だ」
「わかった。[工作班!地下の排煙はいけるか?]
[もうやってますよ!うちらの練度舐めないでください!?]
話が早くて助かる。
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仕事が終わって戻ってきた。
死者0名。
重傷者4名。
軽傷者多数。
「………にしても、最近あの辺の出動要請が多いですよね?官公庁街」
「共通事項は………不審車両の侵入」
「ありゃ?警察班の皆さんじゃぁないですか」
「調べて見たんですけど、大体の現場で地下への入り口に車両が駐車されてました」
物騒な話で盛り上がる。
「何話してんだぁ?」
「あ、隊長。聞いてくださいよ、最近官公庁街での事案が多いって話でですねぇ、そr」
「その話なら、うちに情報が降りてきたぞ」
「へ!?なんか知ってるんですか!?」
「それがなぁ………」
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26年 5/26 15:00:日本国:首相官邸
「テロ………か」
「ええ、テロです」
日本の内閣は未だ、比較的穏健派の民衆党による連合内閣が政権を取っている。
だからといって、自衛隊拡充が停止しているとは言わないが。
「防衛情報総局の見解は?」
「ルレラかダルアの開戦工作の一端でしょう。ただ、直接的な工作ではないため、恐らく対ル・ダ感情を悪くして………ってとこでしょうか」
「猶予は?」
「総局によれば、猶予は………おおよそ1年」
1年………か。
平時からすれば、1年は長いだろうが。
我々からすればあまりに短すぎる。
そう……あまりにも。
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26年 5/27 10:00:JMU:呉造船所
1905年 5/27。
日露戦争における日本海海戦が発生した日。
そして、ここJMU呉造船所第四修理ドック。
かつて、この世界最強と言われた戦艦 大和が建造されたドックである。
そんな日、そして場所で、海上自衛隊における大きな転換点を迎えることとなる。
「これより、新型護衛艦2隻の進水・就役式を執り行います」
周囲には造船所を埋め尽くさんとするメディア関係者や自衛官、一般観衆。
フラッシュで目がイカれそうなほどだ。
目の前には巨艦が2隻。
呉を始めとした各地の音楽隊が国歌の演奏を始める。
東京・呉・舞鶴の3個音楽隊である。
おまけに、陸自・空自の音楽隊も参戦している。
圧巻としか言わざる負えないだろう。
「防衛大臣より、新造大型護衛艦2隻の命名及び演説を行います!」
「………我が国は、1922年に大日本帝国海軍が、初の航空母艦を建造してから、世界をリードする海軍大国として、その力を維持してきました。
その力は我が国に………いや、我々に"護る力"として受け継がれました。
今やかつての友邦は居らず、そして新たなる友が西方からの魔の手に怯える日々が続いております。
………その魔の手を祓う大海原の守護神として!
鳳が翅を休める故郷として!
大海原に泰平と勇気を掲げんとして!
我が友邦を………我が日本国を!この国を守らんとする防人と共にその"責務"を全うせんとする新たなる同朋に……"ひえい"と"ほうしょう"の名を授ける!」
そこらじゅうから万歳三唱が響き始める。
轟音が鳴り響く。
M2A1 105mm榴弾砲による礼砲7発である。
ほうしょう型航空護衛艦一番艦 ほうしょう
もがみ型等で蓄積された省人化のノウハウをフル活用し、アメリカの様な圧倒的な航空母艦を手に入れるという、海自の強欲の化身である。
全長270m
甲板はアングルドデッキ
基準排水量48,000t
統合電気推進方式
電磁式カタパルト対応(将来搭載)
搭載機数36機
旧世界基準で見ても遜色ない、本格的な空母である。
それでいて狂気とまで言える省人化により運用人員は650名程度。
まあこれは、「空母にダメコンとか要らんやろ」とか「整備とか、AIと多能工で十分じゃね」的な舐め腐ったロジックなのだが。
まあ、金は増えても人は増えない自衛隊の悲しい定めであろう。
ちなみに、この省人化で浮いた人件費は待遇改善に回される。
やりがいを大金と一緒に押し付けるわけだ。
次にひえい型巡洋護衛艦一番艦 ひえい
こちらに関しては、もともと計画されていた12,000t級イージス艦とさほど変わらない。
VLSが128セル、SSM4連装発射筒2基に近接防空火器。
本艦は帯同するであろういずも型、そしてほうしょう型両艦の最終防衛ラインであるため、近接防空火器は少々充実している。
具体的に言えばファランクス2基と空自のAAM-5を改造した連装近SAMが2基である。
他の艦よりは充実している。
それらよりも狂気なのは、12,000t級と約50,000tクラスの船を、完全体ではないとはいえ1年で作り上げていることなのだが。
いくら今の日本の経済規模からすればただ同然の資源、諸外国から来た失業者や実習労働者を使ったとしても、だ。
両艦の完成をもって、海自は一つ目の空母打撃群を編成することとなった。
第一航空護衛隊。
後に、世界最強の空母機動部隊として世界に"天海の支配者”の名を世界に轟かせる部隊である。
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26年 5/27 10:00:ヴ第ニ共和国:タタバーニャ演習場
「砲教第一中隊射撃ヨーイ!」
「射撃ヨーイ!」
「撃て!」
FH70 155mm榴弾砲が唸りを上げる。
射撃しているのは、最前線であることもあり、サンコもエルファスターをも超える軍事的経済的支援を受けているヴァクマーの砲兵隊である。
ヴァクマー第二共和国は、今や国内大型都市は鉄道・高速・航空の交通インフラ三銃士によって有機的に結合され、経済活動が活発化している。
軍隊に至っては、恐らく現代の中小国レベルならば装備で張り合えるレベルだ。
「おいお前ら!撤収が遅い!死にたいのか!うちの部隊相手ならとっくのとうに吹き飛んでるぞ!」
「イエッサー!!」
「2回目だ!さっさと準備しろ!」
だが、練度は未だ発展半ば。
恐らくこの世界の国ならば対抗できるが、特科教導隊分遣隊を筆頭としたタタバーニャ教導団の求めるレベルはそうじゃない。
最低でも蹂躙。
日本の装備で、自衛隊部隊に教練を取らせるなら、最低でも敵部隊の蹂躙が最低レベルだ。
この世界の敵相手にそんなことも出来ないならば、恐らく日本の技術を吸収して近代化を進めているであろうルレラには勝てない。
タタバーニャ演習場では、他にも機甲教導隊・普通科教導隊、教育支援施設隊の分遣隊によるスパルタ教育が行われている。
機甲教導隊では、退役保管されていた74式戦車を復活させた74式改とでも言うべき車両による機甲師団の編成・教練が。
普通科教導隊では、増産された73式装甲兵員輸送車による機械化歩兵師団の編成が行われている。
他にも、陸自の補給処を圧迫していた旧式兵器も大量に供与されている。
ついでに言うと、なんなら増産体制が確立されている。
パーツ生産なんかもあるが、そもそも国内防衛産業が頭のおかしい程活発化している。
74式戦車の105mmライフル砲用砲弾は火薬庫を圧迫してもはや要らねえよとなるレベルで生産。
他にも小銃弾に迫撃砲弾、機械部品等々。
これらは土地が有り余っているヴァクマー領内の土地を借り受け、三菱や小松といった主要装備を生産している企業が大規模工場を建設した結果である。
最近の軍需産業は儲からないというが、この世界では大嘘なようだ。
本土の補給処で対応できないために、陸自が新大陸に大型倉庫を作って新大陸から輸送している状況だ。
なんなら、旧式兵器の部品に関しては生産しすぎて新規生産と変わらない状況である。
その余剰品のほとんどは、ヴァクマーが買い上げている。
ヴァクマーもヴァクマーで、日本からの資源収益でかなり潤っている。
おかげで、さっさと使わないと使用期限が切れて勿体ねえと、陸自も第二共和国軍も実弾射撃がアホほど増えている。
ちなみに、陸自は薬莢に神経質なわけだが、これも多少は緩和されている。
ただし、リサイクルできるので出来るだけ無くすなと厳命されている。
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26年 5/26 0:00:ヴ第二共和国:西部地域
「搬入は順調か?」
「はい。ダルアより小銃数万挺を始めとした小火器が大半ですが」
「どうせ大砲だの何だのはヴァクマーの倉庫から鹵獲すればいい」
西部地域というのは非常に複雑な地域であった。
ダルア系とヴァクマー系の人種が混在し、常々小規模な紛争が絶えない。
そんな地域を変えようと設立されたのが、WVLFである。




