第39話
25年 2/8 10:00:群馬県:某所
「大使は逃したか、まあいい。ろくでなしがこの国から失せてくれただけで万々歳ってとこだな。資料の情報は?」
「裏にルレラ連合がいるというのは判明しました。まあ、例の座標情報から判明済みでしたが」
そう言って資料を渡してくる。
「既に相当数の資料が流出しているようです。
この調子なら、独自体系のMBTクラスが早々に出張ってきてもおかしくないでしょう」
「面倒なことになったな……エルファスターだのに頼んで、なるべく妨害工作を行うよう伝えてくれ。
今の内に敵対国に情報員を送れるほどの余裕はない」
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25年 2/9 10:00:珊諸島国:珊・愛瑠海峡
エレクセンドリア港湾都市。
エルジド人であれば、誰もがその存在を知る大都市。
判明している限り、グランシェカ共和国・ヴァクマー第二共和国・イカリア共和国・聖アルベリア王国・エルジド帝国。
そして島国のエルファスター連合帝国・日本・サンコ諸島国。
合計9カ国が隣接する内海、ハドソン湾を右に90°回したような海。
それがサンゴ海だ。
その内、海域東部にはエルファスター・日本・サンコの3カ国が連なるように群島を形成しているようになっている。
そんなサンゴ海でも有数の港湾都市がこのエレクセンドリアである。
サンコ諸島国のクリラに対抗して開発が始まったこの都市は、焦土化したクリラとは対象的に未だその輝きを放っていた。
[SkyEye, Striker 1-1, On top Target Area, INS fix shows…]
(SkyEye、こちらStriker 1-1、作戦空域上空に到達。慣性航法装置上座標は……)
[Striker 1-1, SkyEye, Target is estimated at Visual mark : wybern on Military Runway.]
(Striker 1-1, SkyEyeこちら, 目標は軍用滑走路上のワイバーン)
[Striker 1-1, Tally, Offset ±0.1NM from INS predicted]
(目標確認、慣性航法により誤差±0.1NM)
[Two, Tally]
(1-2視認)
[Three, Tally,]
(1-3視認性)
[SkyEye, Requesting Attack, Mk.82 × 2, Salvo Mode, CCRP from angels 22, TOT in 60sec]
(SkyEye、攻撃許可求む。Mk.82 500lb爆弾2発、一斉投下。22,000フィートよりCCRP方式、TOTまで60秒)
[Cleared Hot]
(攻撃許可)
[1-1 In Hot………Pickle, Pickel]
(攻撃開始。投下、投下)
[1-2 Pickel, Pickel]
[1-3 Pickel, Pickel]
(投下、投下)
Mk.82 500lb爆弾が各機2発ずつの計6発が落下していく。
[3, 2, 1]
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「内陸部にて爆発を確認。作戦開始の合図です」
「了解。第一護衛隊および第五護衛隊突入開始。最大船速」
「最大せんそーく!」
第一護衛隊群はエレクセンドリア港湾都市に対して、爆撃
着弾時には突入まで10分以内の範囲を航行していた。
敵海軍部隊が出払っているのは確認済み。
せいぜいいるのは沿岸警備用の警備艇程度。
その程度なら威嚇射撃用の20mmで無力化できる。
「艦隊射程圏内。弾種HE連発、射撃よーい」
「127mm、射撃よーい!」
「撃て!」
合計5門の速射砲が火を吹く。
それに続き、グランシェカ・サンコ両海軍の新型護衛艦が射撃を開始。
合計21門の127mmの砲弾がエレクセンドリア港湾都市へと降り注ぐ。
総炸薬量100kgといったところか。
目標は沿岸の港湾施設、そして慌てて準備を始めている防衛設備だ。
「初弾弾着、効果良好。そのままで射撃継続」
[こちらいずも、飛行場無力化]
[こちら突入隊了解]
この作戦の命は衝撃だ。
とにかく短時間で大損害を負わせる必要がある。
「艦隊反転!射程外に行くまで撃ち続けろ!シーホーク発艦用意!」
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「守備隊はどうなってる!さっさとあいつらを沈めろ!」
「固定砲がすべて損壊!どれも使い物になりません!」
「海軍の警備艇はどうした!」
「推定口径120mm以上の砲を積んだ船に突っ込めと!?冗談きついですよ!!」
港湾守備隊は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
命令を待たずに真っ先に固定砲に向かった優秀な兵士から速射砲の精密射撃で死亡。
速射砲も沈黙。
残ったのは指揮系統と着任してから日が浅く、小火器しか扱えないような新兵ばかり。
「沿岸から撤退しろ!港湾施設を捨てて市街地に立て篭るんだ!後詰めの上陸部隊を叩くんだ!」
「直ぐに各部隊に伝令を走らせます!」
遠くからバタバタと虫の羽音のような音が響く。
双眼鏡を覗いてみれば、諸島国との戦いで敵味方問わず医療活動をしていたという飛竜に似ていた。
上に巨大な円盤があり、その下にガラスのようなものの窓を持った小さな箱があり、後ろには尻尾が付いている。
報告書通りだ。
となれば、どうせ撃ったところでまともなダメージを与えられない。
「部隊長!飛竜が飛んできていると通報が!」
「放っておけ!たかが飛竜じゃ大したことにはならん!」
「しかし………」
「下手に刺激してこっちが食われてどうすんだ!どうせ目的は施設破壊だ!」
飛竜がどんどん近づいてくる。
守備隊の殆どが銃を向けている。
どっかのバカが発砲しないかヒヤヒヤする。
減速なく市街地へと突っ込んでくる。
「敵飛竜!何か投下し始めました!…………あれは………ビラ……?」
「伝令!1枚取ってこい」
伝令を回収に走らせる。
このタイミングでビラを撒く……?
相変わらず日本のやることは意味がわからない。
「………はぁ……はぁ………ビラ………取って来ました………」
そう言って伝令がビラを差し出してくる。
それをひったくる様に受け取る。
我々日本国・サンコ諸島国は共に
これ以上の交戦を望まない。
こちらはエルジド帝国の首都を
いつでも焼け野原へと変貌させることができる。
貴国の輝かしい未来の為にも、
直ちに降伏を宣言されたし。
3日以内に
明確な大規模軍事行動の実行もしくは降伏宣言が無い。
いずれの場合においても
貴国に継戦の意思ありと判断する。
我々の次なる攻撃目標は
シー・サイド港湾都市でとなるであろう。
エルジド帝国の優美なる港湾都市が
瓦礫の山とならない事を我々は祈る。
降伏の詳細は裏面の指示に従え。
そんな文章の下には、一体いつどこから、作ったかすらわからない水面上から見たシー・サイド。
そしてエルジド帝国帝都であるケイロを上から見た図があった。
ハッタリなんかじゃない。
こいつらは本気だ。
やろうと思えば本当に焼け野原にできる。
それでも情けを掛けた。
何故だ?
補給能力?
いや違う。
彼らにはサンコがある。
補給が途絶えることなんてそうそうありえない。
……まあ、そんなことは高級幹部が考えるだろ。
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25年 2/30 11:00:日本国:帝国ホテル
エルジド帝国は降伏した。
撒いたビラの裏面に白旗を揚げた船団を寄越せと書いていたのに、12日朝になっても白旗すらなく上層部はヒヤヒヤしていたらしい。
結局、期限の10時ギリギリに白旗を揚げた船団が出航した。
ビラには12日までにクリラに船団を派遣しろと書いてあるのだが、まあ日本という国からの温情である。
講和会議は帝国ホテルにて開催された。
サンコ諸島国は焼け野原に近いし、反エルジド感情が強すぎて下手したらテロが起きるという上層部の判断である。
講和会議といっても、無条件ではないために荒れに荒れた。
特にサンコとエルジド間で。
サンコ諸島国側は一部都市もしくは領土の割譲を要求。
対してエルジドは都市の租借も認めない構えだった。
日本からすれば陸自の防衛範囲が広がるために迷惑この上ない。
どうせ再戦することとなれば、結局サンコは陸自の力に頼るしかないのだ。
結局は日本からの圧力に負けたサンコが折れる形となった。
最終的な講和条約は、10年間の不可侵とエルジド帝国が破綻せずギリギリ支払える程度の賠償金・軍縮。
ルレラ製の兵器の全譲渡も入っているが、まあ正直言ってどうでもいい。
貰えるもんは貰うくらいの感覚である。
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68年 3/2 16:00:???:???
「失礼します。本日までの報告書をお持ちいたしました」
「そうか。じゃ、いつもどおり頼む」
「了解致しました。
まず、日本が運用している新兵器について。
まず、ヘリコプターについてです。こちらは汎用性があるようですが、概ね運搬・偵察・支援に使われる兵器です。
外見は参考資料を、報告によれば飛竜と同様の性質を持ち、空中静止や速度の細かい調節などが可能なようです。
運搬能力は非常に高く、連中によれば彼らの軍隊は車両・ヘリ、そしてこちらは資料からしか補足できていませんが、輸送機。
この3つの存在が兵站の要となっているようです。
次に、海軍艦艇についてに詳細を。
彼らの海軍艦艇は、我々の常識からかけ離れていると言っていいでしょう。
まず運用思想から違います。
我々の艦艇が中・近距離での砲撃戦を重視しているのに対し、彼らは戦闘機やヘリコプターといった存在を運用した超長距離戦術が主体です。
逆に言えば、それができるほど戦闘機やヘリコプターの攻撃能力が高いということでしょう。
彼らの資料には艦船を一撃で沈めることができると書かれていますが………彼らの艦船は装甲が殆どが無いようです。
そのため、一撃というのは彼ら基準の一撃だと思われ、我が国の艦船ならば数発は耐えるでしょう。
ただ、どちらにせよ脅威であることには変わりありません。
また、彼らの艦船の主武装は誘導弾という無人の飛竜のようなものを飛ばし、攻撃するもののようです」
「ふむ、対策は始まっているのか?」
「はい、技術委員会が同じような思想の兵器の開発を開始しているとのことです。
詳しく言うと、車両に使っている魔導機を改造、また彼らの資料に乗っていた爆発性物質を作成するとのことです」
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25年 3/2 23:00:東京都内:料亭
40ほどの壮年と、50ほどの初老の男がその部屋にはいた。
彼らを阻むものは、机の上に乗る星を冠した料理達だけである。
先付、椀物と続いてきた懐石料理は、既に向付が配膳されている。
切子の大皿、寒鮃や桜鯛、平鰤・鱵そして肝醤油付きの鮍が美しく盛られていた。
どれも今の時期が旬のいい魚だ。
「とりあえず………難局は乗り切りましたかな」
「そうだな。二連戦までは想定内だったが………まあそれでも風向きはよろしくないか」
「まあ、国会はあなたの時ほど荒れちゃいませんが………国民感情はよろしくないでしょうよ」
そう言って鮃を一切れ口に運ぶ。
「ま、今の情勢じゃ何をするにしても対立はするだろうな。なんせ全ての事例に前例がないようなものだ」
そろそろやっと本番に行けそうです。
ここまで来てようやっと。




