第37話
こんにちわ。
前書きを書くのはいつぶりですかね。
さて、無断での2週間の投稿途絶、誠に申し訳ございません。
現実世界の方で就職試験がございまして…………
今後はTwitterもしくは活動報告で可能な限り報告致します。
さて、余談ですが、投稿が途絶えてる間に何故かランキングに何回か入らせていただきました。
有り難い限りです。
正直、色々見切り発車で始めすぎて後悔しております。
件の新連載もそうですが、本作も見切り発車で始めてそろそろ収拾が付かなくなってきています…………。
一応、2章からまともにプロットを書き始めたのですが、"2章から"なので割と色々無茶が生じているというか…………。
そんな本作ですが、可能な限り楽しんでいただけるよう努力致します。
無茶が生じてるプロットは…………まあ、なんとかなるでしょう。
長々とお話してしまいましたが、本編の方どうぞ。
25年 2/3 6:00:珊諸島国:防御陣地近郊
ムオール港より揚陸された第五十普通科連隊は、3日の時間をかけて前線に到着していた。
補給ハブ到着翌日から行動を開始。
次なるエルジド帝国の防御陣地に向け前進を開始した。
サンコ諸島国の首都が存在する西の島。
西の島の形状はL字を左に倒したような形をしている。
クリラ・ムオール両都市はその先端に位置し、エルジド帝国により島の大部分を占める南部は制圧下にある。
この上下に主要な2つの街道があるわけだが、南の街道はとても車両が通行できるような整備がされていない。
よって北の街道を使用しなければならないわけで、その街道に出撃地点である補給ハブが位置している。
概ねクリラ・ムオール間の中間といった位置関係だ。
その補給ハブとクリラの市街地の中間に、エルジド帝国の防御陣地が存在する。
防御陣地の両側には山。
典型的な地形を利用した防御陣地である。
クリラへと突貫するには、この陣地を破壊し補給線を確保しなければならない。
逆に言えば、エルジドからすればここさえ守れば良いわけだ。
だからこそ、ここにはありとあらゆる防御策が講じられている。
その要塞に対抗するのは、連隊の内1個中隊。
「後方に存在する歩兵用掩体に機関銃陣地、地下に埋設された指揮所………おまけに重砲陣地まであります。
ヴァクマーの防御陣地を検査したとき、通信線らしきものがあったと言っていました、
下手したらそこら中に有線通信網が張り巡らされてますよ」
「重迫で更地したところで地下の制圧には時間がかかるか。AC-130みたいな超火力を発揮できるバケモンでもいたら楽なんだがな」
「地下の陣地もまるごと砲撃で吹き飛ばすって魂胆ですか。120迫で集中射撃すればギリギリ吹き飛ばせるでしょうけど………」
[CPよりアルファ、指揮所の飛行場に火力支援機が現着した。入用だったら言ってくれ」
[火力支援機?F-15か?]
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25年 2/4 10:00:群馬県:某所
「いかがなさいました。局長」
日本国防衛省防衛情報総局。
日本という国家の地獄のような情報機関乱立、これを解消するために作られた諜報機関である。
名目上は防衛省所属であるが、その実態は内閣総理大臣直轄。
警察庁警備局警備企画課を筆頭とした俗に言う、公安警察。
彼らを母体として、法務省公安調査庁を吸収した防諜機関、警察庁公安局。
防衛省情報本部を母体とし内閣情報調査室・外務省国際情報統括官組織を吸収した防衛省防衛情報総局。
日本の対外情報・防諜・対テロ機関はこの2つに集約された。
公安警察は主に国内の過激派・テロ工作員といった、表立って殴り掛かれる連中専門。
防衛情報総局は主に表立って"始末"できない連中や対外諜報専門である。
要は手を汚すか、派手に汚すかの違いである。
ここは防衛省防衛情報総局の本部である。
本部、とは言うが実態は現場指揮所に近い。
「お前が前に撃ち殺したやつがいたな。あいつの身元が割れたのは知ってるよな?」
「ええ、中共のスパイって話でしたよね」
「そうだ。んで、とりあえずで中華連中が使ってそうなところを調べたんだ。そしたらこれだ」
局長が乱暴に書類を放り投げる。
4,5枚程度のクリップ止めされた書類だ。
「…………一体何企んでるんです?中共は今や存在しないはずですよね」
「何を企んでるのかは知らんが、唯一わかってることはルレラが関与してるってことだ。ほれ、資料にも書いてあるだろ」
「ルレラ領内の座標との無線交信………つまりあれですか。こっちの情報は筒抜けだと」
「ああそうだ。ルレラは現状まともな国交がない、外務省がどうにか在外公館ぐらいは建てさせろとキレて、建設は始まったがな」
ルレラとの関係悪化からかなり経っているわけだが、外務省が何もしていない訳ではなかった。
特に、前回の"お客様"は車両でヴァクマーまで正規ルートで行ったあと、空港から航空機で乗り込んで来ている。
それが宣戦布告文書であったらやりたい放題できるわけだ。
"到着の時間を誤った"というこじつけによって。
そのため、最低限の外交ルートを開設しようと、友好関係を築き、技術をメキメキと身に着けているペストレラ大公国。
そしてペストレラ大公国を通じてブレイナ共和国やダルア帝国など、多くの国家に在外公館を建てさせろとキレていた。
おかげで、大抵のクレームは突撃!日本の晩御飯!されずに事前に現地入りした要員に行っている。
そして、在外公館というのは日本領である以上、スパイにも重要な機能がある。
「在外公館がなけりゃ国外に要員を送ったところで安全な場所がない。今は完成を待つしかない」
セーフハウス。
日本領である以上、その中にいる人間を殺せばそれは日本に対する攻撃だ。
それは日本への宣戦を意味する。
「で、私を呼んだ理由は」
「ソフィア・エレミエフ、付けられてた以上何かしらやらかそうとしてるはずだ。
誘拐・暗殺・拉致、どれかは知らんがな」
「つまりは……守れと」
「そうだ、守れ。いつまでになるかは知らん。1ヶ月、2ヶ月。はたまた1年や3年かもしれん。
ソフィア・エレミエフという人間に、その必要が無くなるまで。守り続けろ。手段は問わん」
それは事実上、ありとあらゆる支援を約束された証拠であった。
「上は彼女を重要なカードだと見ている。今の上は反戦論者だが馬鹿じゃない。
もしルレラと何かあれば、彼女を表に立てて全面戦争に入ることだってできる」
「…………」
「いいか、もう一度言う。手段は問わん、守り続けろ」
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25年 2/4 22:30:港区:書店
六本木に存在する書店を巡る男がいた。
既に4件目である。
男が持つバックには、おおよそ一般人が一気に買うとは思えない量の書籍。
技術書に軍事評論書、兵器紹介をしている雑誌等々………
購入品目とその数からして、確実に一般人ではない。
まあ、傍から見ればただの逸般人なのだろうが、裏を知っている彼からすれば全く違う見え方をしているだろう。
追加の書籍を持ってレジまで行く男。
購入しているのは、やはり技術書やその手の図鑑であった。
レジを済ませて店を出る。
目の前のコーヒーを飲み干して店を出る。
某コーヒーチェーンのコーヒーである。
ちょうど彼が出ると同時に、店の看板の光が消える。
店を出て左に曲がる。
その次の交差点を左に。
その次は直進、すぐに合流する交差点を左に。
既に寝静まり、暗闇となった道を歩く。
周囲で、唯一光が灯る建物へと。
その時だった。
お世辞にも小さいとは言えない音が響き、男が倒れる。
音の主は、ザ・西洋人といったような、金髪碧眼の男。
元ダルア帝国対外諜報局諜報員。
現日本国防衛情報総局諜報員、コンラッド・シュナイダーであった。
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68年 2/4 1:00:珊諸島国:防御陣地後方
防御陣地には毎日大量の物資が運ばれてくる。
少し前までは、防御陣地ではなく補給ハブに荷物を輸送していたが、補給ハブが落ちた今、そんな長距離ドライブの必要性はなくなっていた。
「これが終わりゃ防御陣地で一眠りか。ったく、全くブラックな職場だよなぁ?」
「駄弁って無いで前見てください。ここまで事故なんて洒落になりません」
「へいへい」
大抵、班長が無駄口を叩いて、それを流す。
それがもはや日常となっていた。
「班長?防御陣地って深夜は基本明かり消してますよね」
「ん?そうだな。普段この時間帯は消してるはずだが」
「妙に陣地周辺が明るい気がするんですが」
言い終わると同時に、防御陣地から突然爆炎が上がる。
「……は?」
「なんだ……ありゃ」
補給ハブが落ちたとは聞いていた。
聞いていたが、あくまで落ちたのは後方の補給ハブであり、前線は未だ抵抗を続けているはずだった。
それに、補給ハブを攻撃したのは大砲を持たない少数部隊のはずだ。
こんな砲撃を叩き込んでくるなんて聞いちゃいない。
「おい後続!!最高速だ!!全力で救援に行くぞ!!」
車列が加速する。
砲撃の感覚が異様に短い。
10秒も経っていないはずなのに次の爆炎が上がっている。
一体何が起こってやがる。
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25 2/4 1:15:珊諸島国:防御陣地上空
「やっぱ上は人使いが荒いと思うんですよ!」
「あ!!??なんだって!!??」
「上は!人使いが!荒いと!思うんですよ!」
XAC-2に乗った飛行開発実験団のメンバーは、何故か最前線での近接航空支援任務に駆り出されていた。
試験飛行終了後、本土に戻ろうとした途端サンコ諸島国の仮設飛行場に行けと言われ、着いたと思えば前線からの火力支援要請だと駆り出された。
本当なら、今頃空調の聞いた部屋で報告書を書いているはずが、現実は各種火砲の爆音に満たされた地獄にいる。
正式採用するならもっと高性能なヘッドセットを寄越せと書いておこう。
[敵地上陣地消滅!!]
[地下陣地も吹き飛ばせ!我々には不要なもんだ!!]
操縦席でも確認できる射撃用のFLIRには、地上でエリコンKDA 35mmに消し飛ばされる敵兵と、破壊し尽くされた防御陣地が映っていた。
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[最終弾弾着!]
音割れした弾着報告が無線から飛び出る。
耳が痛い、一体どんな爆声を上げているんだと文句を言いたくなる。
[うるせえ!!!]
了解の意をクレームで返す。
わざわざ逆探知の可能性を侵してまで言い返してくることはないだろう。
逆探知なんて所業できるのか知らないが。
「中隊突撃ヨーイ!前へ!前へ!」
森林からドーランを塗りたくって草をそこらじゅうから生やした隊員が飛び出す。
相手からすればもはや森が攻撃してきてると錯覚することだろう。
「作戦通りだ!1小隊は地上掃討!2小隊は塹壕掃討!3小隊は支援!以上!」
隊員が続々と瓦礫に、塹壕に飛び込んでいく。
得物は89式。
20式も全国配備が進んではいるが、海外駐屯になった第一〇一普通科連隊や機動連隊が優先であり、普通科へ満足に来るにはもう少し時間がかかる。
ありがたい事に、ヴァクマー戦を始めとする戦争のおかげかは分からないが、狂気的なまでの薬莢回収はもはや消え失せていた。
おかげで訓練で薬莢受けなど付けている隊員はほとんどいない。
特戦など、足取りを追われたくない部隊は付けている事もあるらしいが、我々普通科は塹壕で肉弾戦をする部隊である。
まあ、これは訓練ではなく、実弾演習なのだが。
「手榴弾行くぞ!3、2、1!」
「1時の方向!2人いる!」
「おい!降伏しろ!最低限の保障はされるぞ!」
「クッソ!撃ち返せ!殺れ!」
台湾危機を発端とした大改革で、隊員のほとんどにVBSやKillology理論を利用した訓練がされている。
雑に言えば"殺人訓練"である。
だが、それでも躊躇は存在する。
積極的に本気の殺しをしたい人間なんてそうそう居ない。
「1名殺害!1名無力化!」
「無力化しても警戒しろ!空挺が自爆で死んだのは知ってるだろ!確実に殺れ!」
「おい!誰か手榴弾もってこい!ここにぶち込め!」
既に1小隊の地上掃討はほとんど終わっている。
あの地獄の砲火を生き延びた運のいい奴らを殺すだけなのだから、時間がかかる訳ないが。
面倒なのは地下陣地だ。
砲撃で地下まで貫通して吹き飛ばしている場所も多いが、地下陣地の頑強さは日本とアメリカがよく知っているはずだ。
栗林忠道によって指揮された硫黄島における戦闘で、彼らは歩兵で5倍の10万、航空機1,200機、戦艦8、小型艦92隻相手に善戦した。
その地獄の戦場に5日で落とせると言った米軍将校は絶望することとなる。
"アメリカ人が戦争で相対した敵の中で最も手強い相手であった"
"第一次の西部戦線でみた防備・ドイツ国防軍の防備、その如何なる防備よりも優れていた"
と、後にアメリカに言わしめる事となる。
巧妙かつ堅固に造成された地下陣地は、それはそれは狂気的な能力を発揮する。
それは、約1ヶ月程度で造成されたこの陣地も例外ではなかった。
地下に張り巡らされた通路と小部屋は未だ機能を喪失していないものが大半。
奇襲と肉弾戦による制圧戦が繰り広げられていた。
「2小隊合流!撃つなよ撃つなよ!」
「ここに手榴弾放り込め!中に何人か居て入れん!」
「俺が投げる!退け退け退け!」
手榴弾が手から離れて1秒。
その手榴弾は、打って出ようとした敵兵に当たり、目の前に落ちてきていた。
「クソッタレ!」
直ぐに蹴り入れる。
後ろからは出てきた兵士を撃ち殺すための銃声が轟いていた。




