第36話
25年 1/27 3:00:珊諸島国:補給ハブ
第一空挺団によるお手本の様な夜襲は、補給ハブとなっていた都市の完全なる制圧によって終結した。
敵と違い明瞭な視界、高い精度で行われる連絡・統制。
継続的かつ正確な火力投射下での城門の破壊。
これを効果的に対処できる能力など、敵には存在しなかった。
「全捕虜の収容完了しました。監視に隊員を何人かローテーションで立たせます」
「後続が来たら引き渡せ。3t半に詰め込めば全員入るだろ」
「了解しました」
白旗がこの世界でも共通認識であるのは、実にやりやすい。
降伏した兵士を誤射する心配がないのは、降伏勧告等による作戦行動への制限が減る。
「第二小隊は?」
「既に南門にて臨戦態勢です。ダース単位で部隊を投入されなければ、突破されないと断言できます」
「わかった。このまま後続の到着まで待機だ。前線の部隊は……第二挺団がすり潰して来るだろうが、監視は立てておけよ?」
「わかってますよ中隊長」
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25年 1/29 10:00:珊諸島国:ムオール港
空挺団が夜襲を敢行してから2日。
人道支援部隊が駐留しているムオール港に、連合軍第二挺団が到着した。
派遣部隊は中部方面隊第十四旅団第五十普通科連隊及びその支援部隊と、細々とした小隊である。
大陸で激戦を繰り広げた第十五即応機動連隊の同郷である。
部隊の任務はサンコ諸島国の開放。
サンコ諸島国の解放である。
この西の島の地形は山岳と森林が広がっている。
そのため、即応機動連隊や機甲師団の投入は控えられた。
エルジド軍は戦車を運用しているが、あれは戦車というよりも大砲を積んだ軽装甲車である。
それも都市部や街道沿いなど、比較的平地が広がっている戦域だけである。
「……この光景が信じられっか?」
「ちょっと………信じられないかもですね」
「だよなぁ。とんでもねえ」
彼らの目の前に広がったのは、サンコの大地を解放せんと来援した彼らの大型船を歓迎する群衆であった。
人道支援部隊の隊員がどうにか統制しようとしているようだが、人が多すぎてどうにもなっていない。
輸送に使用されている船舶は、民間のコンテナ船である。
現状、いくら海運需要があるにしても中東から継続的に貿易をしているわけでもない。
せいぜい鹿児島−台湾間程度の距離しかない。
そんなこんなで、遊んでいたコンテナ船やタンカーを陸自が運用している訳である。
傍から見ればコンテナ船に人が群がっているようにしか見えない。
「これ………ちゃんと上陸できるよな?」
「高機やら3t半が人を轢くようなことにならないといいですけどねぇ」
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25年 1/28 11:00:日本国:国会議事堂
1月開始の常会では、新年度の予算案の審議が紛糾していた。
いつも紛糾しているような気がするが、気のせいである。
そんな紛糾の元凶である予算案は、とんでもない物になっていた。
もともと、現与党やその他野党も別に自衛隊否定派ではない。
あくまで今戦争状態に突入するのは如何なものなのか、という話だったわけである。
だが、そんな彼らでも今回の予算案は容易に承認できるものではなかった。
原因は、海上自衛隊による「八八護衛艦隊計画」、陸上自衛隊「将来陸上戦構想」、そして航空自衛隊「広域航空計画」。
これらを含んだ、「新防衛力整備計画」によって請求された予算である。
その額30兆。
対GDP比5%、旧防衛力整備計画の総請求金額の3/4である。
概ね4年間で請求する金額を請求している訳である。
そんな予算案が何故か閣議で通ってしまったのである。
確かに、現状の日本国内は好況も好況、第二次高度経済成長期などと言われるレベルである。
税収は大幅に上がっているし、軍需産業を元にしたさらなる経済刺激策にもなる。
無理矢理出しているわけではない。
だがあまりに請求しすぎたのだ。
まるで神木内閣が予算を通したかのように、軽く高額請求が通っているのだ。
おまけに、旧内閣の不信任の理由も反戦である、反発はそりゃそうだ。といったところだろう。
さて、そんな防衛力整備計画の内容を見ていこう
まず、海上自衛隊の明らかに踏襲している計画である。
八八の内容であるが、機動部隊8・護衛隊8の新造計画である。
現状、事実上の軽空母としてひゅうが型、いずも型が存在する。
そんな4隻のうち、ひゅうが型を近海防衛に運用、いずも型を新規に造船される空母と共に機動艦隊として運用する計画である。
建造内訳は、いずも型新造2隻、通常動力型航空母艦4隻、ひゅうが型相当の軽空母2隻である。
また、機動部隊に必要とされるイージス艦
これは、まや型相当の物を国産イージスにて建造する。
その数8隻。
また、計画されていた12,000t級イージス艦の計画も継続される。
建造数は4隻。
別途こんごう型・あたご型の大改修も行う予定になっている。
通常の護衛艦も24隻建造、これにより、
護衛艦4隻、イージス艦2隻、軽空母1隻の機動部隊が4つ
護衛艦4隻、イージス艦3隻、軽空母1隻、空母1隻の機動部隊が4つ。
FFMへの置き換えも視野に入れられた護衛隊が4つ。
準旧式護衛艦の護衛隊が4つ。
「僕の考えた最強海上自衛隊」の完成という訳である。
総じてイカれた計画である。
次いで将来陸上戦構想。
陸自には73式や96式APC、89式FV。
82式CCV、87RCVなどの旧式化の否めない車両をすべて16式機動戦闘車を始めとした共通戦術装輪車のファミリーとする。
既に自走迫撃砲型・装輪戦闘車型・偵察戦闘車型は配備されている。
ここに指揮通信車型及びご破算になったパトリアAMVの穴を埋める装甲兵員輸送車型、自走対空型が追加される。
また、その調達数は膨大であり、最終的には自動車化歩兵の側面が強い普通科部隊すべてを機械化歩兵へと改編する気である。
また、装輪車両では行動が困難な地域での戦闘活動も今後予想されるため、別途新型共通装軌車両の開発や機甲師団の新設。
航空部隊の増強、攻撃ヘリの開発など。
海自よりかはマシだがイカれた計画である。
それらに比べ、空自は実に単純だ。
規模拡大。
以上。
確かに、新型機の開発などは言及されていた。
だがそれはご破算になった新型機共同開発の穴埋めなど、以前から計画されていたものだけだ。
空母だの全機械化だの言ってる連中よりはマシである。
一点気になるとすれば、大型攻撃機計画と小型攻撃機計画だが………まあ、よっぽどのことは起こらないだろう。
それで、予算案はどうなったか?
旧与党の自由党と現与党の民衆党の票数のゴリ押しにより、通過した。
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25年 1/24 11:00:航空自衛隊:岐阜基地
彼ら飛行開発実験団は、相当にイカれた機体を操縦していた。
XAC-2。
空自が9月頃に発注した、国産輸送機C-2を改造した大型攻撃機である。
雑に言えば国産AC-130である。
既存のC-130の改造計画もあったが、輸送機の運用柔軟性を確保するため却下された。
C-1は搭載能力が低いため、白羽の矢が立ったのがC-2であった。
その武装ははっきり言って頭がおかしかった。
105mmライフル砲1門。
エリコンKDA 35mm機関砲 2門。
AGM-114 ヘルファイアミサイル 4発。
04式空対空誘導弾 2発。
本家AC-130もびっくりな重火力である。
一体川崎重工は何を考えてバカみたいな搭載をしたのだろうか。
おそらくこの航空機が飛ぶ地域の地上はミンチ肉で埋め尽くされることであろう。
おまけに最新鋭FLIRや偵察機器、360発を超えるカウンターメジャー、火器管制レーダーに各種レーダーと。
一体、お前は何と戦う気なんだ。と言わざる負えない。
乗員は操縦手・副操縦手・機銃手・砲手・装填手・無線手・機上整備員の7名。
機内にはトイレと仮眠室も完備である。
本当に何と戦う気なのだろうか。
「演習空域到着しました。………まじでぶっ放して良いんですか、これ。撃った瞬間ひっくり返ってそのまま墜落とか無いですよね?」
「川崎の連中曰く1発如きでC-2がひっくり返るかとの事だ」
「………まあ、信じるしかないですけど……[機銃手へ、演習空域到着。兵装試験を開始せよ]
[了解。105mmから始めるぞ]
105mmライフル砲の轟音が微かに脳内に響く。
半自動装填採用の105mmライフル砲は、ものの数秒で装填、射撃のサイクルが繰り返される。
この世界における、空中要塞の産声であった。
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68年 1/29 10:00:???:???
「委員長。陸軍統括部から日本の軍事力及び戦闘部隊の実力。投入した新兵器の報告が上がってきています」
「読め」
「はい。まず日本の軍事力及び戦闘部隊の実力について。
26及び27日に派遣部隊の一部とエルジド帝国陸軍が後方にて交戦しました。
詳細に関して、前線の突破は確認されておらず、何らかの手段によって後方へ浸透、補給ハブとなっていた都市への襲撃を実施したと見られます。
直前まで日本部隊の展開は確認されておらず、短時間で多数の兵力を展開できる手段があると思われます。
参考程度に、直前に空から何かが降ってきていたとの情報もあります。
実力に関してですが、非常に練度が高いと認めざる終えません。
明らかな装備差を考慮せずとも、射撃の精度や連携の精度、体力等、職業軍人の能力として最高峰と言っても過言ではないでしょう。
ただ、緊急時の対応が硬直的であるという報告も上がってきています。特に飛竜による攻撃時には、大抵の兵士が避難活動を優先し、迎撃は最低限でした。
どのような状況においてでもです。
一部ではパニックを起こす兵士も居たようです。概ね、例の情報が正しいという結論で良いかと」
「そうか。で、新兵器の投入結果はどうだ」
「はい、概ね良好です。
正面に対する火力は他の全ての兵器を凌駕しています。
機動力も同様であり、通常の車両を運用した補給網も非常に良好な成果を出しています。
ただ、日本は同様の兵器を持っていることから、一つの脅威として対応策を確立されているようで、大型の魔導銃や火炎をばら撒く兵器を運用して抵抗している敵軍が大半です。
初動から同様の対抗策であることや、対処が非常に合理的かつ正確であることから、日本からの支援があると思われます」
手元には、エルジド・サンコ両国間での戦争の経過、日本の軍事的分析、新兵器の成果及び改善点などが記された書類があった。
総ページ数300ページである。
1日で書いたわけではないが、これだけのページ数を書くのは骨が折れた。
まあ、情報が即日伝わってくるのは非常にありがたい。
「そういえば、例のあいつから渡されたやつはどうだ?あ〜なんだ、ハツデンキとムセンキだったか?」
「はい、実に素晴らしいです。あれが全体配備できれば良いのですが……せいぜい我々のコミュニケーション手段は魔導線によるものか飛竜等を使った口頭しかありませんから」
「我々の技術力で開発できないのか?」
「技術委員が彼から基礎原理を聞いたそうですが……そもそも我々からすれば、デンキだのハンドウタイだのを知りません。
まあ、どうやって動いているかは辛うじて理解できたようなので、どうにか再現してみると」
「そうか、技術委員には悪いが、センシャもムセンキも運用できれば強力なのは確実だ。開発・改修を急ぐように伝えてくれ」
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25年 1/29 10:00:港区:???
「大使、ルレラに派遣中の要員からさらなる支援要請が来ています」
「リストは?」
「こちらです」
手渡された書類を見る。
上から、軍事書籍や技術書、歴史書など入手難度の低いものから、無線機や銃火器など明らかに足がつくものまである。
だが、それをするだけの価値はある。
列島の転移に巻き込まれてこの世界へと来て、最初にやった事は情報収集だ。
直ぐに日本国内の同胞に大型漁船を借りた。
漁船にバイクと大量の資機材・食料を詰め込んで大陸を探すべく出港させた。
日本政府の動きは早かったが、それでも少数の調査隊が大陸で活動を開始するほうが早かった。
バイクで内陸まで行き、ルレラ連合という国家と水面下で条約を結んだ。
もし、ルレラ連合を始めとした国家達の支援に成功すれば、ヴルラ自治共和国とやらとその周辺領土の行政権を入手できる。
そういう契約だ。
うちの職員たちや、日本からの持ち出す予定の技術書等をフルで使えば、現代的な国家を作るなど造作もない。
それだけの技術力と能力がある人間が、ここにはわんさかいる。
日本はスパイ天国だ。
うちの国のスパイは大量にいるし、現状のそのスパイたちは、本土との連絡が取れない以上私の指揮下だ。
ロシアの二の舞にはならない。




