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日本転移危機  作者: らいち
第一章 権謀術策の混沌列島
31/43

第31話

24年 12/31 0:00:エルジド帝国:珊諸島国近海


エルジド帝国海軍は竜母による第二次空襲を実行せんと発艦を開始していた。

帝国海軍の竜母は第一、第二艦隊で8隻。

目標は艦隊南東に存在する珊諸島国首都ムオールである。


だが、彼らは致命的なミスを犯していた。


進出した方向は北方であった。

もともと、その海域には南向きの海流が存在していた。

だが、日本の転移による地殻変動が発生、東向きの海流へと変化していた。

南へ向かっていると勘違いした彼らは、そのまま艦隊左舷側へと発艦、その方向は北東であることを知らずに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


24年 12/31 3:00:日本国:東京


12/31という、本来ならば年越しムードであろう東京都心部では、年越しムードとは程遠い混乱に包まれていた。

原因は中部方面航空警戒管制団が補足した不明機群である。


対象は東京へと一直線に向かってきていた。

百里より空自のF-2がスクランブル、進路変更を警告したが回答は火の玉であった。

直ちに空自は戦闘態勢へ移行、百里よりF-2が6機、小松よりF-15DJ及びF-35合計8機が離陸した。

だが、完全武装で全ミサイルを撃ち込んだとしても全機叩き落とすことはできない。


ドッグファイトに移行するにしても、毎秒100発を発射するJM61では弾持ちが悪すぎる。

そのため、都心部では避難勧告が出され、陸上自衛隊が千葉・東京沿岸・神奈川・静岡に、海上自衛隊は南方へと緊急展開を開始していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


24年 12/20 12:30:海上自衛隊:南方海域


海上自衛隊第一護衛隊群第一護衛隊を筆頭とし、第六護衛隊・旧在日米海軍は、列島を守らんとすべく南方に展開していた。

いずも・こんごう・まやを中心とした海自部隊は輪形陣にて前方を。


その後方にはニミッツ級原子力空母 ジョージ・ワシントンが、アーレイ・バーク級に囲まれ優雅に航行していた。


「ジョージ・ワシントンよりF/A-18が離陸しました」

「直掩は?」

「0機です。撃ち漏らす気は無いようです」


ジョージ・ワシントンから離陸したF/A-18は20機。

対空掃討戦に参戦する。


「米艦隊、SM-2射撃開始」

「よし、本艦隊も撃つぞ。空自に手柄を渡すなよ!撃ち方始めぇ!」


在日米海軍8隻、海上自衛隊護衛艦7隻による一斉射撃である。

まさに壮観といったところだろうか。

SM-2艦対空ミサイルによる対空迎撃、その迎撃能力は世界トップクラスであろう。

そして、この世界においては世界最高の力を。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


67年 12/31 12:30:エルジド帝国:艦隊南方


「隊長!やっぱり何かおかしくありませんか!もうとっくに首都に着いてておかしくないはずです!」

「ッチ!何処かで方向を間違えたか?反転するぞ!このまま迷子で失踪は洒落にならn」


その言葉と同時に、前方に存在したはずの部隊が全て塵と化した。

40騎は居たはずの部隊が一瞬で、おまけに寸分違わず同時にだ。


「ッ!散開!散開しろ!一体何が起こった!」

「分かりません!ただ突然爆発したようにしか!」

「そんなことある訳ないだろ!神にでも手ぇ出さない限りな!」

「部隊前方!突っ込んできます!」


目の前の青空に見えたのは、20機程度の巨大な竜に見えた。

だが普通じゃない。

明らかに近づいてくるのが早すぎる。

ものの数十秒でこちらに突進してきそうな勢い。

遅すぎた。

最初に出てきた思考がそれだった。


「部隊戦闘用意!来るぞ!!!」


構えようとしたとき、敵突然爆発する。

いや違う、爆発したんじゃない。


「敵騎爆h」

「爆発じゃない!避けろ!」


既に遅かった。

追加で20騎は落とされた。

確実に何かを撃ち込んで来ていた。


「敵の背後に回避しろ!あの速度じゃ直ぐには曲がれない筈だ!」


敵機が猛スピードで突っ込んでくる。

咄嗟に高度を上げる。

頭のスレスレを敵が通り過ぎていく。

後ろを見た頃には、敵騎は遥か遠くに居た。


「なんて速さしてやがる!とにかく旋回だ!敵の正面に捉えられるな!」


残っているのは第一艦隊の手練れか他の部隊の精鋭だけだ。

だが手練れと精鋭部隊なら渡り合えるはず。

突っ込んでくるのと同時に後ろに回り込んでやれば攻撃できないはず。

まさか後ろに攻撃できる筈がない。

できるなら本物のバケモノ。


その瞬間、捉えていた敵騎が爆発する。

正面には誰もいない筈だった。

次の瞬間には、何かが急旋回して突っ込んできていた。

咄嗟に急降下する。

後ろで爆発が起こる。

大量の破片と爆風が乗騎をズタボロにしていた。

だがまだ戦える。


幸い自身に殆ど負傷はなかった。

部隊も撃墜されている気配はない。

だが、確実にジリ貧だ。

かと言って逃げたところで追いつかれる。

そもそも、逃げると言えるほど距離を開けられるかさえ怪しい。


「徹底抗戦だ!死ぬ気で戦え!冥土の土産にバケモノ1騎ぐらい持っていってやれ!」


そこら中で雄叫びが聞こえる。

殺る気はある。

せいぜい撃墜されない方法もある。

死ぬまで抗ってやる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


24年 12/31 12:45:海上自衛隊:南方海域


「敵機全機撃墜確認」

「随分と時間がかかったな。ミサイル節約の為にドックファイトしてやると言ってこのざまか」

「米艦隊曰く、旋回機動で回避され続けたようです。最終的に中距離からミサイルを撃って落としたと」


陸自や海自・在日米軍など今一番上層部の頭を悩ませているのが弾薬問題であった。

備蓄はあるし、国内での生産体制も整って来てはいる。

だがこの調子で使い続ければ、火薬庫が満杯になるのが何時になるのか分かったものじゃない。


おまけに、この世界で元の世界基準の弾薬備蓄などものの数時間で空になる。

だからこそ、量産しやすい機関砲弾などを積極運用している訳だが。

そんなことお構いなしに敵は攻めてくるし、攻撃は避けてくる。

結局、自衛隊というのは満足に実弾を撃てないらしい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


25年 1/6 7:00:珊諸島国:ムオール


正月、本来ならば閉会であるはずだった国会は紛糾した。

もっと穏和な対策はなかったのかだの、攻撃されて黙っているのかだの。

さらに言えば、退避勧告を無視して珊諸島国に残った報道関係者からの連日の報道により、世論は参戦せずとも人道支援をの様相を呈していた。


結局、日本という国は内閣を一つ潰し、攻撃されかけてようやっと人道支援に踏み切ることとなった。

いくら日本が戦える国家になったとしても、結局は平和ボケが抜けきっていない証拠ある。

その一方で、日本という国が狂犬的な国家になっていないことの証明でもあった。


派遣部隊はおおすみ型 くにさき、陸上自衛隊海上輸送群所属ようこう型輸送艦 ようこう。

同所属にほんばれ級輸送艦 にほんばれ、護衛にいずもを除く第一護衛隊の艦艇。

そして、国外航路に就役していた客船や貨物船である。

部隊は大量の食料・医療物資を積載しムオールへ入港した。

果たして意味のあるのか分からない赤十字を掲げて。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


68年 1/6 8:34:珊諸島国:前線


サンコ諸島国軍は、フォート・ベンジャミンに端を発した激しい抵抗を継続していた。

それは、クリラが戦力保全のため放棄されたあとも、一切の衰えが無かった。

その源泉は日本からの人道支援のような物を始めとした大量の新技術たちであった。


サンコ諸島国が平時に輸入していた乗用車は徴発され、負傷者後送や部隊補給、魔改造の後に前線に投入されていた。

他にも手持ち花火は火薬が取り出され即席の爆弾へと生まれ変わり、前線の兵士は塹壕の中でトレンチコートを羽織っていた。

その様子はさながら一次大戦である。


「今日も今日とて攻勢か!エッジどもには考える脳が無いらしいな!」

「小隊長!考える脳がないなら波状攻撃が来てますよ!なんたって増援に来た部隊がそのまま突っ込んできますから!」


既に全員が頭がイカれていた。

というよりも、こんなイカれた戦場でまともでいるほうが難しい。

全員戦闘に支障がない程度には常時酔っ払っているも同然だし、中には日本から来た薬を大量に飲んでイカれてるやつもいる。

果たしてそれが大丈夫なのかは知らないが、どっちにしろ薬で死ぬか銃弾で死ぬかの違いしかなかった。


「戦闘用意!誰か銃座付け!」

「来たぞ!1個中隊はいる!」

「火炎瓶投げろ!とにかく勢いを殺せ!あとは銃座が片付ける!」


四方八方から火炎瓶が飛んでいく。

連日続いている防衛戦のせいで、部隊の殆どが強靭な肩を獲得していた。

もし野球という文化が彼らに存在すれば、いい選手になったことだろう。

どちらかといえばサッカーの文化なのだ。

火炎瓶で勢いを失った肉の壁に、魔改造乗用車に設置された機関銃が火を吹く。

こちらはエルファスター製の魔導銃だ。


「クソが!ジャム!一度M2をぶっ放したらエルファスターの機関銃なんざスクラップ同然だな!」

「黙って撃ち直せ!死にてえなら殺してやろうか!?」

「言われなくてもやってるよ小隊長殿!あんまり言うと背中に気をつける羽目になるぜ!?」

「魔導兵の砲撃来るぞ!さっさと殺せ!」


銃座の奏でる爆音が再開される。

最初のうちはうるさくて堪らなかったが、今となっては心地いい音まである。

この塹壕にいる奴らの大半がそうだ。

そうじゃないやつは既に死んだか、別の方向にイカれて後方送りになっている。


「敵部隊掃討!第二波確認できず!」

「損害報告!怪我したやつ居るか!?」


数秒の沈黙が塹壕を支配する。


「今まで通りなら時間がたったらもう一回来るぞ!それまでに寝直したいやつは寝ろ!腹減ってるやつは食え!備えろ!」


部隊が各々の居場所へと戻っていく。

個人用の塹壕だの、魔改造乗用車の中だの。

一番人気は乗用車だ。

大抵取り合いになって、あぶれたやつは大体定位置に行く。

この地獄では、乗用車の座り心地すら天国になり得るのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


25年 1/6 14:00:珊諸島国:ムオール


戦闘で悲壮感に満ちていたはずの首都ムオールは、日本という国家の人道支援によって、多少の希望が満ちていた。

護衛という任務を果たした第一護衛隊は帰投。

残ったのは魔改造が施された客船・貨物船の病院船と陸自輸送艦、沿岸のくにさきのみである。


既に彼らが入港したムオールの港ではトリアージが開始されていた。

重傷者はヘリでくにさきへ移送。

それ以外は改造病院船へと担架で担ぎこまれている。

その横では、持ち込んだ物資による炊き出しが行われていた。


ここムオールに持ち込まれた野外炊具1号はおよそ約100台、そこに小部隊用に小型化された野外炊具2号も複数。

もはや野外炊具よりも人の方が足りていないまである数であり、30分で味噌汁換算150,000人まで対応可能である。


だが、このムオールに来ている避難民の数には足りないし、陸自が今供給している味噌汁では確実に150,000人分に達さない。


「皆さん並んでください!時間は掛かりますが全ての方に提供できるだけの準備があります!

怪我などしないように一定の距離を保って!譲り合いながら並んでください!

どうしても怪我している方や体調の悪い方が優先になります!ご理解ください!」

「こちらどうぞ〜。ゴミはあちらの自衛官に従って処理してくださいね」


持ち込まれた食品は実に多種多様であった。

とにかく間に合わせる為に国内外で大量に食料を買い漁さった結果である。

おかげで並ぶところによって内容が変わるどころか、前の人とすら違うこともある。


調理している方も、とにかく雑に配って現場の調理員のセンスで調理しろのスタンスで回している。

あるところではスタンダードな馬鈴薯と豆腐、わかめの味噌汁が。

その別の場所ではカニが入りの贅沢な蟹汁が。


他にも、もはや何のあらかすら分からなくなるほどの種類が突っ込まれたあら汁。

馬鈴薯に油揚げ、牛蒡・大根・人参に玉ねぎ・豚肉と、もはや汁より具の方が多いと錯覚できる豚汁等々。

豚汁に至っては調理員の出身でバリエーションが出来るくらいには地域色が強くなっている。


「これうまいぞ。食うか?」

「こっちもおいしいよ、はい」

「お椀はこっちで回収しますね。ゴミはこの袋に入れてください」

「あったけぇなぁ……いくら首都が安全でも、あったけぇ飯が食えるとは思わんかったのになぁ」


バリエーション豊かなお互いの椀を交換し合う者、ゆっくりと噛み締めながら食事をするもの。

自衛隊が持ち込んだ小さな幸せが、サンコ諸島国の国民に生きる勇気を、小さな力を分け与えていた。

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