第27話
24年 11/20 10:00:日本国:群馬県某所
「ひどいな。こんな惨事が起きりゃ軍国主義紛いの奴が湧いて出てくるのも訳ないか」
「英国・ヴ共の諜報機関と共同で調査を開始してますが、人種と銃の開発元ぐらいしかわかってないですねぇ」
「まあ……それじゃぁ意味なよなぁ」
「いくらでも洗浄しようと思えばできますしね」
諜報員なぞ外国からいくらでも調達できる、人種など当てにならない。
銃火器なぞ、廃棄された旧式兵器をロンダリングすれば、足の付かない幽霊銃の完成である。
「何かしら尻尾の掴めそうなもんは?」
「ヴ共からの便で来たようなので……ルレラ・ダルア・ペストレラ・ブレイナ辺りから来た可能性が高いですかねぇ。
ガルト・オルターの諜報員が来るには少々荷が重い距離ですし」
何かしらの車両が有るならまだしも、現状この世界の車両は英連合帝国・ルレラ連合・ダルア帝国連盟の三国のみでしか開発されていないと思われる。
徒歩で来るには時間が足りない、となればルレラ・ダルア・ブレイナ・背伸びをしてペストレラ程度が到達可能範囲だろう。
「具共やサンコの可能性は?」
「具共はリスクがデカ過ぎます。あそこは陸上兵器技術供与のトップですよ。
他にも大量の基礎技術が流入し始めてますし、それを捨ててまでこんなことする理由が無い。
サンコはそもそもこちらへ来る手段がないですし、やるならわざわざ羽田への便に乗らずとも、適当なところに上陸して暴れる方が手っ取り早い」
「………よし、現状敵対しているのはルレラ・ダルアだ。
ブレイナは外交が失敗したにしても時期尚早、なんならトカゲの尻尾切りよろしく捨て駒のなる可能性だってある。その二国を主眼に捜査してくれ」
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24年 11/28 16:47:具共和国:セルマイユ陸軍工廠
このセルマイユ陸軍工廠では、グランシェカ初の自動車の開発が行われていた。
日本という国家の技術協力のもと、石油燃料を燃料とした車両である。
あまりにも特殊すぎる技術、そしてノウハウの無さゆえ、開発は政府主導で行うこととなった。
そして、目の前には試験車両No14が鎮座していた。
その時間は、試験開始から60分。
移動距離は0m。
「まーーーーた失敗か。もう14台目だぞ」
「何が駄目なんだろうな」
「作田さん!んなこと言ってないで少しぐらい教えてくれよぉ」
「自力開発できなきゃ意味無いだろ?ほーら反省会議の時間d」
その時、聞き慣れたエンジン始動音が聞こえた。
「……ッ!嘘だろ!掛かったぞ!エンジンが掛かった!」
「ッよーーーし!なら試験続行だ!やるぞ!」
エンジンが掛かったとしても、それがまともな信頼性をもって車両として移動できるかどうかは別である。
だが、エンジンが掛かったというのは大きな一歩である。
そして、何故エンジンが突然掛ったのかは、確実に反省会議の議題として上がるだろう。
試験車両No14が前進し始める。
「すばらしい、そこそこの速度も出てる。これならここまま負荷試験までやっていいだろう」
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24年 11/30 3:27:ヴ共和国:ヴルラ山脈
ヴルラ山脈。
ルレラ連合とヴァクマー第二共和国の国境にそびえ立つ大山脈。
そして、ルレラ・ヴァクマーに跨るエルフの氏族の一つ、ヴルラ氏族の生活圏である。
その国境を警備するのは、陸上自衛隊ヴァクマー第二共和国治安維持小隊。
UH-1が1機、高機動車3両、LAVが2両に人員50名。
「班長、サーマルに反応」
「不法入国か?」
「いや……何かしらの集団に追われてるっぽいですね」
「集団?盗賊かなんかか?」
この世界には少なからず放浪集団がいる。
海賊然り、山賊然り。
一部は旧式兵器によって武装している者も。
「おそらく、捕縛意図かと」
「国境は?越えてるか?」
「いえ……確証は持てませんが」
「………ここは国境の山岳だ。お前ら、如何したい?」
機内の3人に問いかける。
国境を越えていないということは、救出するならばルレラ連合領内に侵入するかもしれない事となる。
バレれば国際問題。
バレずとも雷が落ちてくることであろう。
「如何したいも何も、危機に陥った人を助けるのが俺ら自衛隊ですよ。入山班長」
「さんせー」
「坂木に同じく」
「決まりだな。機長!高度を下げてくれ!ファストロープで降下する!お前ら!発砲は極力避けろよ!」
ヒューイが移動を開始する。
領空侵犯、おまけにファストロープで軍事行動の開始である。
後戻りはできない。
「よし、降下、降下、降下」
あっという間に4名の自衛官がルレラ連合領内に降り立つ。
[ヒューイ、コンボイの位置は?]
[君らから見て右前方を国境方面に逃移動中]
「行くぞ」
一定間隔を保ちながら駆け足で現場へと向かう。
班は全員がレンジャー、もしくはアルペンレンジャーだ。
この程度の山道に屈する者達ではない。
[班長、見つけました。エルフの親子です」
[でかした池原。盗賊は?]
[10mぐらい後ろを追ってます。武器は一部が銃火器]
[うし、池原・坂木は盗賊共を潰せ。俺と風見で保護する。返答不要、掛かれ]
そう言うと、風見と共にエルフの親子の元へと駆け出す。
後ろでは池原と坂木が格闘しているだろう音がかすかに聞こえてきた。
どちらも第十五即応機動連隊から抽出された猛者である。
近距離ならば誤射の危険から下手には撃てない。
が、ヘマはやらかさないだろう。
「おい!大丈夫か!?」
「だっ誰!来ないで!」
「落ち着け!助けに来ただけだ!」
声を掛ければ涙声での応酬が待っていた。
どうやら靴も履かずに逃げ出してきたようで、足はボロボロ、服は泥まみれであった。
「あなた達どこの人間!」
「ヴァクマーの兵士だ!」
「あなた達のようなヴァクマー兵は見た事ありません!ルレラの手先でしょう!」
「じゃあルレラで俺らみたいな奴らを見た事あるのか!?」
「っそ……っそれは……」
「落ち着いて、付いてこい。保護できる場所に、連れてってやる」
そうゆっくりと言えば、落ち着いたようで保護を頼んできた。
風見がエルフの子供を担ぐ。
89式は俺の元へと押し付けられる。
母親の方はまだ走れそうなため、もう少々踏ん張ってもらう事になる。
「池原!坂木!戻れるか!お前らの後ろにいる!」
返答はないが、走ってくるのが見えた。
どうやら怪我は無いようだ。
[ハンター!近くの着陸地点は!?]
[東に3kmぐらい行ったとこに良さげな平地がある]
「[そこに頼む!]近くに仲間が来る!そこまで走るぞ!」
池原と坂木がまだついていないが、もとから目視圏内だ。
母親と風見が担いだ子供を連れて走り出す。
負傷者がいる以上、いつも通りの駆け足とは行かないが、それでも3kmなら直ぐだ。
直ぐに池原と坂木が合流してくる。
「班長!盗賊じゃありません!正規軍です!」
「正規軍だぁ!?」
「暗くて見えませんでしたけど!近くで見たらありゃおかしいです!盗賊にしては物が良すぎる!」
「もういい!とにかく今は逃げるぞ!」
「前方散兵3!」
その瞬間銃声が響く。
弾が耳を掠める。
前方だけじゃない。
「右もだ!左に走れ!」
左に走れば国境から遠ざかる事になる。
だが敵に突っ込む余裕はない。
「お前ら!どうしようも無くなったら撃っていい!」
[入山!着陸は無理だ!盗賊か知らんが撃たれてる!退避する!]
返答に被せる絶望の知らせであった。
後ろにも右にも左にも、ルレラ連合領内深部に入る以外の選択肢がない。
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24年 11/30 4:03:ヴ共和国:陸自ヴルラ臨時駐屯地
「第四警備班がルレラ連合領内に………か。国際問題になるぞ」
「しかも正規軍と交戦……死者は出してないそうですが、それでも死ぬほど面倒なことになりますよ、これ」
「上には報告済みだが、政治判断になるだろうな」
現場というものは常に上に振り回される運命にある。
第十五即応機動連隊も第一空挺団、そして解隊されたソルノク派遣隊も、どの部隊も大なり小なり政治判断に振り回されてきた。
今回も救助隊の選抜云々の前に政治判断が必要になる。
そして、それが部隊にとって最悪の判断になりうるというのは、誰もが想像できることだった。
「………幸い、無線は繋げられますし、我々にはルレラ連合という国家の想定を越える、ありとあらゆる能力があります。
そういった事態にはならないでしょうよ」
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24年 11/30 5:00:首相官邸:閣議室
首相官邸閣議室。
ここに内閣総理大臣、内閣官房長官、外務大臣、そして、防衛大臣。
国家安全保障の主たる人物4名が一同に会していた。
「ヴルラ駐屯地国境警備隊第四班、入山心・坂木哲人・池原功・風見優希。
計4名が盗賊と思われる集団に追跡されるエルフの親子、これを救出する為に降下した所、正規軍と遭遇しルレラ連合領内へ逃亡しました」
「正規軍の死者は?」
「お互い0名です」
「陸自隊員が国外で遭難死亡なんてことは有ってはならない。救助隊の派遣はできないのか?」
「事態が露見しないよう救出するとなれば、相当な準備と精鋭部隊の投入が必要になります。最低でも中速連、最悪Sの投入も必要かと」
特殊作戦というの膨大な準備の元行われる。
それこそ、そこに至るまでの情報収集、作戦立案、想定訓練。
ゲームでは特殊部隊員だけが取り沙汰されるが、彼らが斯様な特殊作戦を実行できるのは、そのような準備があってこそである。
「繋ぎにはなりますが、一度物資の空中投下を行っては如何でしょう。
現状は都市近くの林内に潜伏しているとの事です。
1、2日分の食料と、市街地潜伏に適した衣類、緊急用の装備さえあれば作戦まではもつでしょう」
「そうだな……由木くん。ルレラ連合の反応は?」
「特に何もありません、おそらくまだ中央に伝わってないのでしょう。
現状この世界には固定回線しか存在しません、山脈近くの辺境に通信網を整備しているとも思えません。
ただ、一つ懸念情報がございまして…」
「なんだ?」
「ヴルラ山脈周辺を生活圏としているヴルラ氏族、この氏族が自治区の行政府と思われる建物が、襲撃されている様に見えたと情報が入っております。
裏口から逃げる親子らしき人影も……」
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24年 11/30 9:23:ル連合:ヴルラ山脈周辺
「坂木ぃ!流石に撒いたよなぁ!?」
「もうとっくのとうに撒いてます……一度野営しましょう………流石にキツイっす」
「さんせぇ……」
「池原ぁ!火ぃ起こせ。坂木は周囲警戒。風見ぃ!子供と親の手当や!」
既に逃避行を始めて6時間ほどが経過している。
追跡はしつこかったがなんとか撒き、包囲されないよう足を伸ばしている。
しばらくは見つかることはないだろう。
途中から親子共々担いで移動していた事と、そもそも6時間ぶっ続けで移動していた為に、流石に疲労感は無視できない。
もともと1日仕事してからの当番での国境警備である。
つまりヘリから降りた時点で既に1日は寝ていない。
いくらレンジャーが精強といえども、不眠不休で作戦行動するのは好ましくない。
あくまでそのような手段を取れるというだけであり、休めるなら休むべきであるし、寝れるならば寝るほうが好ましい
「はぁ……ここまでは来てなんだが、君らどっから来たんや」
「私達は……行政府が襲われて逃げて来たんです」
「行政府ぅ?公務員かなんかか?」
「公務員……と言うよりは首長と言った方が近いですね」
「首長……?」
「申し遅れましてすいません。私ルレラ連合ヴルラ自治共和国の首相夫人、ソフィア・エレミエフと申します」




