第24話 消し飛ぶ鋼鉄
24年 10/5 20:00:日本国:???
「奴さんの様子はどうだ?」
「気味の悪いくらいにペラペラ喋りますね。
名前はコンラッド、所属ダルア帝国スタートリッヒャー・ナッハヒンディスト。
ドイツ語っぽいのでおそらくスペルは……………、訳は対外諜報局と言ったところかと」
「なら略称はSNでとりあえずは通そう。で、なんでそんなペラペラ喋るかは分かるか?」
眼下には、Staatlicher Nachrichtendienstと書かれた紙が1枚。
「話じゃダルア帝国に故郷を焼かれたみたいな……7年くらい前の話らしいです。
それと、うちの諜報機関に入れてほしいと」
「はぁ……?流石に信用ならんぞ。
英国に事実確認しろ、あと英国にゃ優秀な諜報機関があるって話だったな?呼び寄せられるなら呼び寄せてくれ」
「了解です」
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24年 10/6 12:00:日本国:帝国ホテル
「検討しましたが、エルファスター連合帝国は追加で10セット。
秋月型護衛艦10隻と島風型30隻を購入いたします」
次々と商談の成果が降りてくる。
英連合帝国は10セット
具共和国は4セット
珊諸島国は5セット
ヴ第二共和国は1セット
合計20セット販売の大繁盛である。
「これは……しばらく造船業界は仕事に困らなさそうですな。
それではお支払について、支払いはかなり柔軟に受けようと考えております。
相応の魔法技術や何かしらとの物々交換等々……もちろん金銭でのお支払もよいです」
「そうか……ならグランシェカは3セット分を一括、残りは農産物の輸出価格引き下げというのはどうですかな」
農産物の価格引き下げは非常にありがたい。
いくら輸入で食料品価格が下がったといえども、やはり輸入食料の価格は多少高止まりしたままだ。
それに続いて他の国も支払い方法を交渉していく。
商談は大成功、と言ってもいいだろう
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24年 10/6 12:00:海上自衛隊:英連合帝国近海
はまぎりを旗艦として、のしろ・みくまの3隻が英連合帝国近海の海賊組織壊滅へと乗り出した。
表向きは海賊対策の水上哨戒だが、見つけ次第海賊船は消し飛ぶこととなる。
そして、特等席になるであろうはまぎりには英連合帝国沿岸警備隊及び海軍の観戦武官が搭乗している。
「それにしても……本当に大丈夫なのか?前線で戦闘する艦艇になんか乗って」
「日本はえらい自信だったぞ。振動の一つも感じやしないでしょうってな」
「それに砲が1門しか乗ってないんだぞ。たかが1門の砲で何ができるんだ」
散々な言われようだ。
そもそも砲撃なんてする予定はない。
「レーダーに感あり、明らかに輪形陣を取った船団です」
「タンカーは平時に輪形陣なんざ取らんな。のしろのシーホークを出せ、ご挨拶に行かせろ」
もちろん、SH-60"K"も完全武装にて飛行する。
現地に到着したSH-60Kからの映像が飛んでくる。
観戦武官向けのパフォーマンスである。
輪形陣の内訳は駆逐艦相当4隻・軽巡洋艦相当2隻といったところだろうか。
[シーホークよりはまぎりへ、対象は武装艦艇。国籍を表す様なものは存在しない。また、対空火器と思しき小口径機関砲の銃撃を受けている]
[シーホーク、当海域に我々以外の武装艦艇は存在しない。
英連合帝国からの要請及び海賊対処法基づき射撃を許可する]
[了解。ヘルファイアIIによる艦首への射撃を行う。
………LASER ON。射撃よーい。Fire]
重量48kgの地獄の業火は、Mach1.3という高速で旗艦と思しき軽巡洋艦に突進していく。
射撃距離は約3km。
迎撃・回避のための時間など皆無であった。
ヘルファイア搭載弾頭は軽巡洋艦の艦首に命中、即座に爆風破砕弾頭が艦首を破壊した。
[ヘルファイアII命中。軽巡洋艦1隻の無力化に成功。対空砲火の射程圏外へ一時離脱する。]
「うーむ、軽巡洋艦1隻に1400万か。コストパフォーマンスが悪いな」
「砲撃戦に移行しますか?」
「リスクは犯せんな。このままヘルファイアでの攻撃を続行、全艦無力化しろ」
その言葉に呼応するかのように、SH-60Kが再度アプローチをかける。
敵艦隊から見ればその姿は虚空の支配者の如く見えたことであろう。
1隻、2隻と敵艦隊を落伍させていく。
2回目の攻撃の時点で既に統制は崩壊しているようであり、艦隊防空もクソもない。
「全艦無力化。あの様子では攻撃も帰還も無理でしょう」
「後続の英沿岸警備隊が救助・拘束する。艦隊はこのまま前進、敵の本拠を叩き潰すぞ」
艦隊は30ktの快速で前進していく。
この世界の技術力では、小型艦ならまだしも大型艦では出ない速力だ。
「……あの光景が本当ならとんでもない事だぞ」
「航空戦力での攻撃……この艦艇は竜母に近い代物だったのか。それならこの砲門数も納得がいく」
「このような作戦に竜母艦相当を派遣できるということは相当な海軍戦力の量だぞ」
何かとんでもない勘違いをされている気がするが放っておこう。
作戦行動中に解説ができるほど精神的な余裕はない。
「のしろのシーホークが根拠地停泊中と思しき艦船を補足しました。こちらでも補足、SSMの射程圏内です」
「了解!ハープーンSSM、目標停泊中の敵艦船、数4。発射よーい!」
「発射よーい!」
「撃て!」
艦艇から捕鯨の神槍が飛び出す。
弾頭重量221kg、炸薬重量100kgからなる半徹甲弾頭は戦艦ですらものの数発でスクラップへと変貌させる。
「なんだ!」
「爆発したのか!?」
「あぁ、ご心配無く。ただの攻撃の一環ですので」
観戦武官相手の説明などしている暇はない。
相手が化け物兵器を持っている可能性はありうるのだ。
それこそハープーンSSMのような誘導弾、射程数百kmの砲弾。
相手からすればこちらの兵器が化け物であろうが、こちらからすれば向こうの兵器も化け物である。
全ての攻撃を吸収するシールドドームなど容易に脅威になり得る。
「トラックナンバー1002から1004までの撃破を確認。No1001は依然健在」
「のしろ・みくまに17式での対地攻撃下命。本艦続いて1001にSSM射撃、数2、発射よーい」
「発射よーい」
「撃て!」
はまぎりからはハープーンSSMが2発戦艦へ、僚艦のしろ・みくまからは17式SSMがGPS誘導による飛翔を開始する。
目標は敵根拠地である小型島、ここにある港湾設備とその指揮所である。
「海上自衛隊の方に驚きっぱなしだが、海賊が持っていい装備と設備じゃないな」
「そうだな。艦船の方もダルアの艦艇に似ている。
既存艦艇の同型艦ではないが、明らかにダルアの艦船の特徴が見える」
確かに、小型島の設備・武装は海賊のそれを優に超えていた。
ダルア帝国の艦艇の特徴など我々が知るわけもないが、どこかしらの先進国の支援を受けているのは間違いないだろう。
「まっ、調査は後続の沿岸警備隊がやるだろ」
[SSM弾着。敵大型艦艇及び地上施設群の無力化を確認]
[シーホーク、帰投せよ]
「うちのシーホークに立検乗せて救助に向かわせろ。あくまで救助活動のみだぞ、要請されてるのは海賊基地の制圧だけだ」
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24年 10/20 10:00:ヴ第二共和国:第107番鉱山
ヴァクマー第二共和国南半島部に位置する第107番鉱山は、新設された公私合同企業であるJIMIC管轄の鉱山であった。
JIMICは新大陸の鉱山の管理・運営を一挙に手がけてることとなっている。
株主は三菱マテリアル・住友金属鉱山・DOWA・三井金属鉱業を始めとした国内大手の鉱業会社であり、そこに政府の出資も入っている。
社員は転移直後の不景気によって職を失った事務員などを大量雇用し、会社を回していた。
鉱山本体は国内の鉱業会社や現地の住人が業務に当たっている。
第107番鉱山を始めとするヴ第二共和国内に存在する鉱山は情勢不安定地域として警察の警備が直々に派遣されている。
「にしてもよぉ、日本の運営する鉱山はえげつねえな。上からまるごと消し飛ばしちまうとはよ」
「聞いたときは無謀だと笑っちまったけど、こんなもん見せられたら納得するしかねえよなぁ。
しかも対して汚れねえときた。全く最高だぜ」
「寮も風呂にベットにトイレ付きの個室?給料もいいと来た。これじゃ金が貯まる一方だぜ」
ガッハッハと豪快な笑い声が聞こえる。
この世界でも肉体労働従事者というのは豪快な人間が多いらしい。
そんな坂道を下っていく。
この鉱山は階段式の露天掘りで鉄鉱採掘が行われている。
まだ本格的な採掘活動が始まって1週間程しか経っていないが、現代重機のパワーと8時間3交代制のマンパワーは偉大であり、そこそこな大きさになっていた。
もちろんだが、環境対策には尽力している。
基本的には発破ではなく掘削主体での採掘を行っているし、排水や粉塵対策も整えている。
約60年前と同じ轍を踏む訳には行かないのだ。
「おはようございます。色々と聞きに来ましたよ」
「ん?あぁお前さんか。順調だぜ、この調子なら今週中には安定した採掘量が見込めそうってとこだな」
「それは助かります、こっちでも早くしろと突っつかれてるものでして。作業員の方は大丈夫ですか?」
「作業員なら優秀なやつしか居ねえよ。新大陸の奴らも教育したらまるでスポンジの如くって感じだしな」
「明日にはここと港をつなぐまともな道路が開通する予定なので、そしたら忙しくなるんで覚悟しておいてください」
そう言い残して作業長のもとを立ち去る。
まともな道路というのはアスファルト製の道路の事だ。
今のところあるのは資材運搬で自然に形成された獣道しかない。
「明日は開通式に出席してから…………あぁ、これ次の休暇いつになるんだぁ?」
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24年 10/20 10:00:外務省:在ヴ日本大使館
日本への外交窓口は複数ある。
具共和国や英連合帝国、珊諸島国の大使館や海上保安庁の巡視船などである。
その中でも多忙を極めるのが、ここ在ヴ日本大使館であった。
大陸の中でも多くの陣営と地理的に接触していたヴァクマー帝国改め第二共和国は、変わらず多くの国家との交流を持っていた。
だからこそ、日本の大使館への取次を求める国家が雪崩のように押し寄せていた。
「ガルト三頭連合にブレイナ共和国・ペストレラ大公国………南からはパルア国にイカリア共和国。
多過ぎやしないか、こんな多いと本国が捌ききれるかどうかわからんぞ」
「どこも他の陣営との繋がりが薄い国家だそうです。
地理的にどこの陣営も取り込みたがらず……うちはレンドロ協定加盟国ですが、それでもまだまだ関係は薄い……」
「そのうちに個別に安全保障だの何だの取り付ける気だな」
「でしょうね」
そんなことを地図を見ながら話し合う。
前者の3つの国家はルレラ・ダルア両国の緩衝国家となっている。
「ここにうちが飛び込んだら戦争にならんか?」
「レンドロ協定がおおっぴらに支援するとかならなりそうですが、うちが単独で交流を持つ分には大したことにはならないかと」
「うーむ、それでもリスクがでかい割にリターンが少ないな」
ルレラ連合とダルア帝国は独自の陣営を確立しているが、下手に飛び込めば両方が敵に回る可能性なぞ十分にありえる。
緩衝国家とそれ相応の覚悟とリターンがいる。
「ここを取り込めれば将来的に両国と戦争状態に突入したとき、分断状態にできます。
それに、ミサイルさえあればいつでも首都を消し炭にできるようになる。外交のカードとしてはデカイのでは?」
「旧世界の常識がこの世界で通用するかが問題なんだよな……下手すりゃ激情して殴り掛かってくるかもしれん」
「いくら何でもそれはないでしょう、うちの国自体が未知数過ぎる。
相手も知らずにその程度で殴り掛かるのは相当な愚行ですよ」
「……確かにそうだな。本国に情報を送れパルア国とイカリアもだ」