第23話
67年 10/3 12:00:日本国:羽田国際空港
日本の本土までは2時間程度で着いた。
日本側の空港を出てまず思ったことは、イカれているという感想だった。
空港内もそうだが、あまりにも発展している。
それに魔法らしきものが見当たらない。
どうやら本当に魔法無しで発展している国らしい。
行き先はヨコスカ。
英連合帝国の諜報員が入手した各国の首相が集まる場所らしい。
「すまない、この辺の土地には詳しいか?」
「ん、もしかして新世界の人!?まさか話せると思わなかった!この辺には詳しいよ!」
「そうか、行きたい場所があってな。ヨコスカと言うらしいんだが」
「横須賀!?ちょうど私も行くところだったんだ!なんか旧軍の駆逐艦が見れるらしくて……」
何やら興奮しているようだが、行くところだったならちょうどいい。
「なら、連れて行ってもらってもいいか?」
「いいよ!ここからなら1時間くらいかな!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
24年 10/5 10:00:英連合帝国:ランファスター
英連合帝国はレンドロ協定加盟国の中でもインフラ等の整備優先順位が高い国であった。
協定内でも強国というのもあるが、もともと魔法工業が盛んであり、魔法工業と重化学工業による相乗効果を狙ったものである。
特に、大手企業や研究機関は魔法工業や魔法に強い関心を示しており、個別で調査員を派遣している。
当の俺もその調査員の一人である。
「うーーーーーん。やっぱり原理がわからん」
三菱重工は国から大量に振られた新式防衛兵器開発の糸口を掴むために派遣されてきた。
開発するのは、新型戦車に航空機や装甲車と、とてつもない数である。
特に戦車・装甲車は勝手が違っていた
日本の戦車・装甲車は、国内での運用を想定し、できるだけ小型・軽量を求められていた。
欧州のような平原が無く、市街地と山岳の地獄と化した日本列島を縦横無尽に駆け回るためである。
しかし、防衛装備庁は16式ファミリーでは今後頻発する可能性のある大陸での戦闘に対応できないと考えた。
大陸は判明している範囲だけでも砂漠に湿原、果にはファンタジーな地形すら確認できている。
そのような土地では、16式ファミリーや10式では少々荷が重い。
そのため、16式ファミリーや10式は国内外の都市や基地などに配備し、大陸における戦闘行動のために戦車を開発する判断となった。
その新型プロジェクト。
「原理が分かんねーのに対策なんて出来っこねえよ……」
「なんというか、話を聞いてもよく分かんないですよねぇ。ふわっとしているって言うか、なんというか」
ふわっとしている。
エルファスター連合帝国の軍事技術者に聞いた話だ。
魔法工業のマナや魔力回路等々について話を聞いたが、その根幹である魔力操作的な物、その説明がふわっとしているのだ。
「こう……体の中の力をぎゅーーんってしてボっ!って感じの説明でしたよね」
「擬音語しかないんだよな……何もわからん」
「んーーー…………………、やっぱ分かんないっすわ。
というか、こういうのってやっぱ個人の魔力量とか、そういうのが関係しますよね」
「そうだよなぁ、もともと魔法のない世界から来た俺らじゃやっぱり厳しいのかねぇ」
しかし、それで帰れるほど日本に余裕はない。
と、防衛装備庁の人間の切羽の詰まり方からわかる。
「英連合帝国からの魔法工業品の輸出か民生品の転用も視野に入れないとですねぇ」
「そうだなぁ……ん?」
「どしたんです?」
その視線の先には、浄化の石という名札が付いていた。
値段は概ね日本円で300円程度か。
「店長さん、この浄化の石っちゅうのは何だ?」
「なんだぁ?その服、日本の国の人か。こいつはいろんなもんを浄化できるんだよ。空気とか水とかな
「…………これ、出元はどこなんだ?」
「出元ぉ?大体はグランシェカとかスコッチランドの方の魚系の魔物からいくらでも手に入るぞ」
「これ、5個くれ」
「あいよ、毎度」
浄化の石を5個、店主から受け取る。
代金は、日本海外県と化したソルノクとは違い現地の金銭だ。
エルファスターであればスハーリング・ペンド、1ペンド200円ほどだ。
エルファスターであれば、11,000ペンドあれば普通の生活ができるらしい。
「浄化の石っすか。空気や水を浄化できるっつってましたけど」
「ホントなら大事だぞ」
「そうです?だって浄化できるだけで……」
「浄化がどの程度かは知らんが、通常の大気と同じ状態できるなら、装甲車や戦車のNBC対策に大掛かりな設備が要らなくなる。
それに自動車界隈がギャーギャー泣き喚いてる環境対策にもなるぞ」
もちろん、今の日本に核兵器も生物兵器も化学兵器もない。
そしてこの世界にも我々が知るようなNBC兵器はまだ存在しないだろう。
だがここは異世界である。
いつどのような兵器による攻撃や災害が起きるかわからない。
「とりあえず、これ宿舎に持ち帰って実験だ」
「っりょ、了解です!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
24年 10/5 10:00:英連合帝国:レンドロ
英連合帝国帝都レンドロはこの短期間で目覚ましい発展を遂げていた。
既に港周辺の道路はアスファルト化され、その港も日本企業と現地の協力による大改装の真っ最中である。
もともとはただの港兼軍港であったが、改装によって商港・工業港・旅客港・軍港・そして造船機能を持ったとんでも港湾に生まれ変わる予定である。
「おーし!この大鯨丸が異世界の大都市にご到着じゃぁ!」
「船長……テンション高すぎっすよ」
「そんなこたぁどぉでもいい!さっさとコンテナ下ろすぞ!」
「あんたら、新海丸の連中か?」
話しかけてきたのは通関業者の管理者である。
「新海丸ぅ?うちらは大鯨丸やで」
「違うのかよ……」
「なんかあったんか?」
「いやな?新海丸っちゅう船が4時間前には来る筈なんだが、音沙汰ねえんだよ」
1時間や2時間ならまだしも、4時間も音沙汰無く遅延というのは流石にお怒り通り越して心配するレベルである。
なんなら海保が騒ぎ出しそうなものだ。
「海保連中はどうした。んな遅れてるなら海保が捜索に出るだろ」
「海保はあいにくまだ未派遣だよ。海自は来てるがね。
海自に言いに行こうにも俺は仕事で手が離せなくてさ」
「なら、うちの船員をパシらせて自衛官に来てもらうか。おい!お前!海自のとこまでひとっ走り行ってこい!」
「あんがとさん。無事ならいいがな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
24年 10/5 13:00:海上自衛隊:のしろ
「大型貨物船が行方不明ねぇ」
「新世界ですし道でも間違えたんじゃないですか?」
「それなら連絡の一本くらいは寄越すやろ」
海上自衛隊護衛艦 のしろは港湾関係者からの通報の元、行方不明の大型船の捜索を行っていた。
話しによれば最後の定期連絡はおおよそ昨日、そこからの足取りは途絶えている。
捜索半径は20ktでの移動で仮定すれば200kmにも及ぶ。
もちろん、そこから予想進路を絞り込んで捜索していくが。
既に捜索開始から2時間が経過している。
「そろそろ見つけないと不味いな」
「前方に不審物発見!おそらくコンテナです!」
「直ぐにSHで確認しろ」
行方不明の船舶はコンテナ船である。
もし沈んだとしたらば、コンテナに生存者が乗っている可能性もある。
[こちらシーホーク、生存者確認]
[了解した。直ぐに救助活動に移れ]
[了解]
救助活動は滞りなく進んだ。
SH-60Jの情報を元にのしろ艦載艇のUSVが接近し救助した。
だが問題はそこじゃない。
座礁・エンジン故障などならまだしも、コンテナの上の避難しているなどただ事ではない。
「あー、事情聴取なんだが、何があった?」
「俺らもわからないんだが、戦艦的な奴に砲撃されたんだ。
そのまま船体に穴が空いて沈んじまったよ。
ボートでコンテナをぶっ壊そうとしてたが、できないと見ると逃げちまったな。海賊的なやつなんじゃねえか?」
「………はぁ、面倒事になりそうだな」
「まぁ元気出せよ、どうなるかは俺ら船乗りは知らんが、どっかしらでお礼に奢ってやるよ。
船が沈んじまって本土には次の船まで帰れねえしな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
67年 10/5 20:00:英連合帝国:沿岸警備隊
「大変申し訳ない!!!」
沿岸警備隊のレーガンは、海自の人間が引くレベルのジャパニーズ土下座を繰り出していた。
「日本の商船が撃沈されるなど我が沿岸警備隊の大失態であります!!この場で職を辞す覚悟も御座います!!どうかお許し下さい!!」
「ちょ、ちょっとレーガンさん?落ち着いてもらっていいです?」
落ち着くも何もあるか!
日本の商船が撃沈されて関係悪化などなればこの国の終わりである。
あんな化け物のような国仲間ならまだしも敵に回すなど想像するだけでも胃の内容物が逆流する。
「別に怒っちゃいませんから。この手の海賊被害をゼロにするのは難しいですし、沿岸警備隊の武装で戦艦を撃沈しろというのは無茶ですし。
我々が来た理由はその戦艦を持った海賊集団の情報が欲しいんです」
「…………海賊集団の情報………ですか?」
「ええ、安全保障的な観点でも近海に進出する可能性のある武装組織の情報は入手しておきたいですし」
どうやら許されたようだ。
転移国家などと謳っているが、その実情は神の国の類なのでは無いだろうか。
「えっ、えーーと、戦艦を保有した海賊ですよね。
おそらくですが、最近できたシーゲイトという海賊では無いかと。
船を生贄に海の神を降臨させるとかいう、宗教じみた海賊集団何ですが、ダルア帝国の援助を受けているという話があります。
事実なら戦艦を保有していたとしてもおかしくないかと」
「シーゲイト、ですか。そちらでの対処の方は?」
「どうにか対策しようとしてはいるんですが、沿岸警備隊の戦力ではどうも。
そもそも根拠地の場所すら未だにわかっていません。
海軍に応援要請をしようにも、分居地が複数あるようで大戦力を動かすことになると渋られまして」
「………本土からの商船の航路に海賊がいるというのは正直問題です。
こちらとしては早急に対処したい。
海自のレンドロ分派隊には、緊急の場合につき当該事案の最高責任者、今回はレーガンさんの要請さえあれば出動が可能です。行動範囲は限られますが」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
67年 10/5 14:00:日本国:横須賀
海上自衛隊の壁岸を一望できる高台。
そこでGew88によく似た、スコープをマウントした狙撃銃を構えようとしている男が一人。
普段であれば人がいる公園であるが、海上自衛隊の旧軍艦艇公開によってそこは閑散としていた。
距離は約200m、狙撃と言うには少々短い距離である。
その視線には、日本やエルファスターの人間など複数の人物がいた。
「いくら何でも警備がザルすぎやしないか?警備が1人しかいなっちゅうのわ」
そんな言葉はすべて虚空へと消える。
「あそこにいるのがダルアのクソ野郎どもだったら良いんだがな」
故郷はダルアのクソ野郎共に消し炭にされた。
あいつらは故郷に暴虐と略奪の限りを尽くして火を付けた。
魔物狩りに出ていた5人だけが生き残り、彼らが戻る頃には全て灰燼に帰していた。
「あの女は死んだ嫁に似ていたな………」
クソ野郎共に復讐するためだけに、当時3年前に辞めた諜報員に応募した。
諜報員というのは下手に兵士になるよりも武器の扱いがザルだった。
最悪銃を持って1、2ヶ月行方を眩ましても大したことにはならない。
クソ野郎共にバレない程度に任務を熟しつつ、復讐の時を待ち続けている。
「……だからよ、日本の偉いさんに恨みはないが……死んでもらうぞ」
既にレティクル中心には日本の偉いさんが収まっている。
呼吸を止める。
そして、引き金を引く。
その時だった。
突然、構えていた銃が吹き飛ぶ。
「ッチ!クソったれ!」
直ぐに狙撃された方向にカバーを取る。
「これが警備がザルな理由かよ!」
場所はバレている。
逃げようとしたその時、駆け上がってくる黒服の人間が3人。
万事休すか。
「手ぇ上げn……何で銃が吹っ飛んでんだ?」
「うちの狙撃手が撃ったんじゃないの?」
「発砲報告は入ってない」
何を言ってるのかは知らんが、もうどうにもならない。
おそらく持っているのは拳銃。
おそらくダルアの連中が作ってると噂の新式拳銃と同じ様なものだ。
この国に入った時からつくづく思うが、イカれた国だ。
「まぁいいわ。お前、銃刀法違反と特定秘密保護法の違反容疑で拘束する」
「さっさとしてくれ。もう俺に勝ち目はねえからな」




