第2話
1/30改稿 一部修正
2/7改稿 可読性の改善、航空無線の意訳追加
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どうもこんにちは。
初投稿の方が予想以上に多くの方々の目に止まっており、少し驚いております。
上等なものではありませんが、お楽しみいただけていれば幸いです。
24年 7/11 10:30:海上保安庁:巡視船らいざん 艦橋
船長である石賀一等保安正を乗せた巡視船らいざんは、荒れ狂う海を疾走していた。
目的はドラゴンの遺骸のサンプル採取である。
「にしてもドラゴンっすか、とんでもないもんのサンプル採取する羽目になりましたね」
舵を握りながら言っているのは明石三等保安正、主任航海士である。
「俺らは仕事をするだけだ。お偉いさんの為にな」
あまり感情を乗せずに言い放つ。彼は、出航前からまとわりつく”嫌な予感”について考えるので精一杯であった。
なんの根拠もないただの勘である。
だが、彼の勘はよく当たると定評であった。
「‥…例の嫌な予感っすか?あんま気にされるとほんとになるんで気にしないでくださいよ」
おちゃらけた様子で言ってくる。
正直その言葉で意識から消せるのであれば消したいのが本音であった。
「まあ…それが一番いいのはわかってるんだがな」
苦笑混じりに言い放つ。
彼の感覚が正しければ、そろそろ目的地にたどり着くはずであった。
「そろそろか?」
「はい……まじでドラゴンですね」
そこには翼が吹き飛んだドラゴンがいた。
出血により周囲の海は赤くなっているようである。
「さてと、サンプル回収してさっさと撤収しましょう」
その言葉に答えようとしたその時であった。
突然轟音が鳴り響き、船体が大きく揺れる。
まるで爆発でもしたかのような水柱の先に見えたのは、先程まで水面の浮かんでいたドラゴンであった。
「おいおいおいおい、まじで嫌な予感当たっちゃってるじゃないっすか!」
「そのようだな……艦内に通達!緊急戦闘配置!繰り返す、緊急戦闘配置!砲術員に通達、20mmの使用を許可する!おい明石!全速力で離れるぞ!」
こんな状況であればあとのことなど考えている暇などなかった。
その言葉の応答ののち、船がドラゴンから20mmが撃てる角度のまま全速で動く。
「船長!20mmいつでもぶっ放せます!」
「頭に向けてぶっ放せ!」
その言葉とともに20mmの鉄塊がドラゴンに向け飛翔していく。
飛ばない、動かない、でかい。この三つが揃ったものなど海上保安庁にとってはただの的である。
ドラゴンが低い音で唸り声をあげる。それと同時に海面から轟音と振動が伝わってくる。
「やったか?」
「船長、それはやってないフラグです。…まあ流石に20㎜をぶち込んだのなら死んでるでしょうが」
そんなしょうもない会話を交わしながら様子をうかがう。
最初の発見から何分がたっただろうか。実際は数十分であろうが、アドレナリンの影響か、数時間たったかのような感覚である。
どうやら完全に事切れたようであった。
「さて、今度こそサンプルを採取しに行くぞ」
「行きますかねぇ、世紀の大発見をしに…」
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24年 7/15 12:00:海上自衛隊:韓国上空 P-1哨戒機
[SkyEye,HawkEye,Deploy,Resume]
(SkyEyeへこちらHawkEye、作戦地域到達。任務開始)
[HawkEye,SkyEye,Roger,GoodLuck]
(HawkEyeへ、了解した。幸運を祈る)
「別に戦地に行くわけじゃないんですけどねぇ」
聞こえるわけがないが、無線相手にそんなことをぼやく
「まあまあ、社交辞令ってやつだよ」
そんな会話をしながら、"大陸"だったはずの海洋を飛行する。
新聞を見たときに感じた、でここが地球ではないどこかという感覚が現実味を帯びてくる。
そんなことを考えていると、この"世界"に現実として見せつけられたのだった。
「こりゃすごいっすね…ユーラシアの数倍でかいんじゃないっすか」
そこにあったのは広大な砂浜に平原、森林であった。
その広さは飛行機乗りの彼らでも、海洋でしか見たことがない広さであった。
その広さの中に、ひときわ目立つ、城砦を持つ都市も見える。
まるでファンタジーの世界を見ているようだった。
「こりゃとんでもねえな、ものほんのファンタジーだな。いや、現実ならファンタジーじゃないのか?」
「どちらにしろ俺らがこの世界を"見る"初めての男たちですよ」
そんな軽口を叩いていると、機体後方の要員が新たな歴史の始まりを記録する。
そんな平和な時を享受していると、こちらに向かって飛行してくるものをレーダーが補足したようであった。
「この世界に200km/hを記録できる鳥がいるなら違いますが、こりゃこちらを敵として認識してますねぇ。振り切りますか?」
「いや、速度はこっちが圧倒してる。奴さんの笑顔を記録してからでもいいだろう」
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67年 7/15:???:??? 上空
「魔探が未確認対象を探知したっていうが…、800km/hの物体なんて存在しねえだろ。どうせただの故障だろ」
そんなことを考えながら飛行する。旧型のワイバーンでは200km/h程度しか出ないのろまである。先進国である帝国ですらこれなのだ、800km/hなんて速度が出せるはずがないのだ。
「おい!見えたぞ!白いワイバーンだ!」
僚機がそんなことを言い出す。上空を見てみると。確かに白いワイバーンがいた。しかも信じられないことに800km/h出ていると言われてもおかしくない速度であった。どれだけ飛行しても突き放されるだけである。
「くそっ!もっと速度を出しやがれ、くそが!」
そんなことを言っても速度が上昇することはないと分かっている。
しかし、目の前のワイバーンを追跡することが仕事であり、彼らの誇りでもあった。
しかし、そんな誇りは彼らの前ではまさしく埃同然であった。
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「奴さんの笑顔は収められたか?」
眼下を飛行している敵航空機をカメラで補足しながら言い放つ。
200km/hという低速ではこちらが墜落しかねないため、巡航速度での飛行及び撮影である。
チャンスはそれほど長くはなかった。
「はい、バッチリです。これならアルバムに乗せられますね」
「よーし、ならわざわざ長居してやる必要はない。おうちに帰るぞ」
そんなことを言いながら、眼下の敵をあざ笑うかの如く旋回すると、平和な空に文明の結晶の音を響かせながら帰路に就くのであった。
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24年 7/20 15:00:内閣府:首相官邸 閣僚応接室
円卓に座った全ての閣僚が、静かに緊張した面持ちをしていた。
その静寂を破ったのは首相の神木であった。
「さて、防衛大臣。報告を頼めるか」
「はい。まず海上自衛隊の鹿屋航空基地に駐屯している第一航空群よりP-1を発進させ、韓国以北を飛行させました。
結果、"そもそも朝鮮半島が存在せず、ユーラシア大陸だった位置も我々が知るものではない"という結論に至りました。
朝鮮半島に関してはすでにインターネットや各種メディアでも報道されており、周知の事実です。
が、ユーラシアに関しては新たなる情報といえるでしょう。
また、新ユーラシア、便宜上以降新大陸と呼称しますが、おおよそ中世から近世程度の技術レベルの文明が存在していることが確認できています。
しかし、我々が知っている技術体系とは大きく異なっている可能性があります」
その言葉に多くの閣僚が安堵の様子を浮かべる。文科大臣である鹿賀を除いて。
「その異なる技術体系とはどのようなものかな」
閣僚も見慣れた、というより見飽きた、輝いた眼で鹿賀が問う
「P-1が偵察飛行の際確認した、未確認文明の航空機に関して、飛行生物に加速装置と思われる装置を装備したものであったと、報告と実物の写真が上がってきております」
そんなことを言いながら国森がプロジェクターに写真を映し出す。
鹿賀を除いた閣僚たちは簡単に見るだけであったが、当の鹿賀は嘗め回すかの如くその写真を観察していた。
「この時点で我々とは大きく技術体系が違うことが予想されます。
あっては欲しくありませんが、武力衝突の際は、このことを念頭に置いておかなければならないかもしれません」
「分かった、報告をありがとう。それじゃ、次は鹿賀君かね」
それを聞いて、鹿賀はプロジェクターから目を離す。
「あーえー、ドラゴンの検体を基礎生物学研究所の方に回し、分析した結果、記録のあるDNA情報のすべてと一致しませんでした。似ているものはありましたがね」
その言葉に閣僚は静かであったが、驚きを隠しきれていなかった。
「……この情報を元に結論を出さねばならないな。鹿賀くん、仮説、いや結論を話してくれるかね」
その言葉を聞くと、鹿賀は席を立ち話し始める。
「先ほどの基礎生物学研究所からの報告や、その他の研究機関からの報告、民間や有識者からの提言を元に各種機関と議論を重ねた結果。日本列島ごと地球ではない惑星に転移してしまった。
という仮説が全てにおいて辻褄があい、現実的である。という結論に至りました」
閣僚から驚きの声が上がる。
しかし、多くの閣僚が鹿賀という科学オタクが、根拠なくものを語らないということを理解していた。
つまり信じるしかないのであった。
そんな応接室に一人の人間が飛び込んでくる。
その男が言った言葉は全ての閣僚を多忙に叩き落す物語の始まりを告げた。
「尖閣諸島沖にてヴァクマー帝国を名乗る艦船群と接触しました!」
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24年 7/20 14:30:海上保安庁:巡視船いぜな 艦橋
巡視船いぜなは近海を航行していた漁船からの救難信号を受信し、急行していた。
そのいぜなのクルーが見たのは、大艦巨砲主義を彷彿とさせる艦隊と、今にも沈没しそうな漁船であった。
「艦橋より、高速救難艇降ろせ。甲板員へ、国籍不明船舶に対し警告出せ」
そんな指示が艦橋から飛び、すぐに救難艇が発進する。それと同時に警告も開始されたようであった。
「こちらは日本国海上保安庁である。貴艦らは日本国の領海範囲を侵犯している。直ちに海域より退去せよ。
This is the Japan Coast Guard. Your vessels are in violation of the territorial「こちらは栄えあるヴァクマー帝国海軍である!貴様らの艦船は帝国の領海を侵犯している!直ちに退去せよ!繰り返す、退去せよ!」
不審船に対し警告を実施していると、警告を遮るように高圧的な警告が聞こえてくる。
当たり前だが、海保側からすればヴァクマー帝国なんていう国家なぞ聞いたこともない。
そもそも退去しろと言われても、こちらは救助中ある以上動けるはずもない。
気にせず救助活動を行っている時、突然爆音が鳴り響いたかと思えば、観測員が敵艦発砲を伝えてくる。
その言葉を聞いたかと思えば。
救助中の高速艇の周辺に砲弾と思われるものが落下する。
そんなことになれば船内は大騒ぎである。
もちろん、海保も武力事態を想定した訓練は行っている。
しかし、それはあくまで小銃や携行ロケット弾程度を想定したものであり、艦砲を搭載した艦艇の大艦隊との戦闘など、海自の対応範囲である。
訓練しているわけがない。
「艦橋より船員へ!緊急戦闘配置!繰り返す、緊急戦闘配置!砲術員へ!全武装の使用を許可する!」
そんな指示が飛んでから一分程度がたっただろうか、いぜな最大の火力であるブッシュマスターII 30mm単装機関砲が火を噴き始める。
しかし、その火力は虚しいことに効果がない…というよりも、その字のごとく虚空へと消えていっているようであった。
しかし、そんなことお構いなしに相手は砲撃を放ってくる。
「船長!30㎜効果ありません!」
そんな悲痛な声が砲術員から聞こえてくる。その瞬間であった、突然船体が大きく揺れる。
甲板員から船体後部に被弾という報告が上がってくる。報告によれば機関部の損傷はないとのことだった。
「船長!救難に出していた高速艇の収容完了しました!」
「今出せる最大出力を出せ!全力で離脱するぞ!」
その命令と同時に回頭がはじまる。
その直後、2回目の船体の揺れが生じる。どうやら今度は船体中央部に被弾したそうだった。
幸い、喫水線よりも上なのが幸いであった。
船が出ればこちらが有利である。
低速の艦隊行動をしている船団と、単騎かつ高速が発揮可能な船舶である。
どちらが速度で有利かなど自明である。
この衝突が、日本が引きずり込まれる地獄の戦争の前哨戦であることは、まだ誰も知らなかった。
どうやら、平和的な接触はできなかったみたいですね。
どうなるんでしょうか。