第19話
24年 9/13 3:00:陸上自衛隊:街道
「そろそろ到着かぁ?」
「後3時間ぐらいですよ。にしても遠いっすよねぇ」
「良くもまあこんな距離移動するもんだな。俺らでもかなり堪えるぞ」
ソルノク市街地からタタバーニャ要塞都市までの街道というのは、実に1000km程の長大な道のりであった。
いくら輸送隊といえども、1000kmなどという距離は運転する機会などそうそうない。
東京・福岡間の距離に近く、大抵の人間は航空機か新幹線を移動手段として選ぶだろう。
[ガードからコンボイ、前方に不審物確認。検査のため一時停車せよ]
「[こちらコンボイ、了解した]はぁ、終わったら言ってくれ。一服して来る」
そう言って3t半を降りる。
その時だった。
前方から爆音が響き渡る。
その直後、車両を弾丸が掠めていた。
「っ!お前ら奇襲だ!寝てる奴らも叩き起こせ!高田!本部に無線入れr」
車両が爆炎に包まれる。
「おい!大丈夫か!?」
「俺は大丈夫です!ただ無線がイカれました!」
隊員を全員3t半から引きずり降ろす。
「クソったれ!あとちょっとの所で大蛇が出てきやがった!八普連の連中は何してんだ!」
奇襲作戦は大成功だ。
岩陰だか茂みに隠れてたかは知らないが誰も気付いちゃいない。
「スモーク投げろ!強引に車両で突破するぞ!」
前方に煙幕が展開される。
発煙手榴弾というものはゲームのように煙の塊を出す訳ではない。
だが、それでも視界を妨害するには十分な煙の量を放出する。
「乗車!エンジン掛かるか!?」
「掛かります!」
「出せる最高速でぶっ飛ばせ!!!」
3t半の最高速は105km/h、だが下は砂利道に横は不整地だ。
80km/h出せれば御の字といったところだろう。
エンジンがかかった瞬間だった。
敵の歩兵部隊だろうか、2発目の砲撃を撃ち込んでくる。
砲弾は車両本体ではなく、その足元で爆発し3t半を横転させる。
それが最後の記憶だった。
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24年 9/13 6:30:航空自衛隊:襲撃地点近空
航空自衛隊ソルノク臨時航空隊所属のRF-4EJは、消息を断った第四師団輸送隊のコンボイを捜索していた。
いや、"捜索していた"というよりは、発見していたと述べる方が正しいだろう。
[こりゃ‥…酷いっすね。車列襲撃並みですよ]
[車列襲撃並みというか、そのものだろうな]
ディスプレイに映っているのは、襲撃によって壊滅させられたコンボイであった。
[熱線映像装置と高解像度カメラは?]
[反応あり、おそらく隊員でしょう。本部の救援なら直ぐに来るでしょう]
[了解。RTB]
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24年 9/13 8:00:陸上自衛隊:タタバーニャ前線指揮所
「補給部隊が襲撃で壊滅したぁ!?七普連が護衛に付いてたよな!?」
「どうやら護衛の部隊ごとイカれたようです……七普連の別部隊が現着した時には運搬していた資材は全て……」
「……輸送していた資材は?」
その回答は非常に頭が痛くなるものであった。
その内容は弾薬数千発以上に砲弾、各種燃料などを満載していた。
その中で特に面倒なものが一つ。
「LAM……彼らに使えるのかは知らんが、運用されたら戦車隊が被害を出すぞ」
「他にも資材は大量に積んでいました。下手すれば現代歩兵が小隊レベルで出てきてもおかしくありません」
もしそんな事になれば損害は免れない。
「にしても……魔法攻撃だったか?相当に厄介だな」
実際、魔法攻撃というものは非常に厄介なものであった。
例えるならば、迫撃砲を前線の兵士がハンドキャリーでぶっ放してくるようなものだ。
いくら迫撃砲が装甲車に対する効果が薄いと言っても、殆ど民生品を転用したようなトラックに対して使うなら十分である。
火力に多少のばらつきはあるようだが、それでも厄介なもんは厄介なのである。
その実感はここタタバーニャに辿り着くまでに行われたちょっかいの数々で実感済みである。
「前線部隊はどうなってる?」
「既に城門付近まで撤退させてあります。
ただ、向こうもソルノクと違って魔法攻撃を市街地でも多用してきているので負傷者はだいぶ出ています。いずれも軽傷ですが」
「そのままの位置で防衛するように伝えろ。あとは対戦車火器に関しても注意するように」
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67年 9/13 9:00:ヴァクマー帝国:タタバーニャ守備隊指揮所
「敵部隊は?」
「昨日の前線から大幅に後退し、城門付近まで下がっています。
おそらく後方の補給路を襲撃したのが影響したかと。
ソルノクから飛んできた伝令のワイバーンと事前の奇襲部隊の情報がいい仕事をしましたね」
ここタタバーニャ要塞都市の防衛部隊は、ソルノク市街地やエゲル市街地のものとは大きく違っていた。
というより、ソルノク市街地もエゲル市街地も戦闘準備ができておらず、まともな部隊が存在していなかった。
だが、ソルノク市街地郊外から飛んだワイバーンがタタバーニャ要塞都市まで攻撃されたという情報を持ち込んだ。
お陰で、帝都でしっかりと編成された部隊がここタタバーニャに進駐してきていた。
その編成は非戦時には北部のエルフとの居住区境界線警備を行い、戦時には他軍管区の予備部隊とされる北部軍管区。
これの歩兵部隊を中心に、南部軍管区の首都要塞線駐留部隊など、その編成は相当に気合の入ったものであった。
実際、いくらただの市街地といえども大規模な都市であるソルノクをこれだけ短期間で攻略されたというのは由々しき事態であった。
そして、その攻撃者として上層部が叩き出した結論は、約2ヶ月前に南部軍管区海軍が攻撃したという"日本国"とやらであった。
今日まで発生していた異常な武力攻撃もそれが原因であろうと。
こんな結論を出すのに2ヶ月も掛かったというのが驚きだが、第三艦隊のバカどものせいだろう。
2隻も防護艦を失ったのを隠す為に1隻分を隠蔽していたというのだから。
「それにしても……一体何がどうなってやがる。あの鋼鉄の化物に巨大な砲撃……」
「ですね……ただ、今補給路から鹵獲してきた兵器をここでも頭のキレる奴らに検査させてます。なにかしらの成果があると良いのですが」
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タタバーニャ守備隊指揮所、その一角で6名ほどが議論を繰り広げていた。
「折り畳まれたグリップの下にトリガーがあるんだ!魔導銃の類だろ!」
「しかし魔力反応はない!まさか魔力無しで撃てるとでも言うのか!?」
「何本もあるんだ。とりあえず射場で1発撃ってみれば良いんじゃないか?」
そんな議論の目の前には、組み上がった状態の110mm個人携行対戦車弾 LAMが鎮座していた。
もちろんこれは彼らが試行錯誤の末組み上げたものである。
その火力は対戦車榴弾としての使用においてRHA換算700mmの威力を誇る。
「しかし!鹵獲兵器であり貴重です!そうやすやすと撃って壊しでもすれば……」
「それでも本数は多かっただろう?1本壊したぐらいじゃ影響はないさ」
その言葉に折れたのか、反論していた男がLAMを持ち上げ射場へと足を進める。
会議場となっていたのは屋外射場の隣の試験武器庫である。
外に出れば、500mはある射場が見える。
300m程の有効射程しか持たない火器しか保有していない彼らには無用の長物であるが。
男がLAMを構える。
その後方には1人の男。
そしてその左斜め後ろから真横にかけて4人の男が見物している形になる。
「……では、撃ちます」
その言葉と同時にLAMのトリガーが引かれる。
LAMは設計通りに弾頭部分を発射しロケットモーターに点火し高速で狙いの場所へと飛翔していく。
そして後方にカウンターマスを打ち出した。
ここまで読めばおわかりであろう。
LAMが後方射出した160m/sのプラスチック製カウンターマスは、後方10m以内に存在した男に直撃した。
「っな!おい!大丈夫か!?」
「ぐ……なんだこれは……」
幸いにも、後方10m外に限りなく近い位置であった為に一命を取り留めたが。
「すごい……すごいぞこれは!魔力反応もない銃がこれほどの爆発を起こせるのか!これならあの鋼鉄の化物も……」
当の射手本人は爆発に大興奮である。
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24年 9/14 10:00:日本国:特別応接室
総火演ののち、大阪まで移動し観光を楽しんだ使節団一行は、条約等の合意を成すために再び官邸へと出向いていた。
今回は各閣僚も出席しての会談である。
「さて、日本観光はお楽しみ頂けましたかな」
「ええ、サポートもあり実に楽しいものとなりました。お礼申し上げます」
「それは良かった。それでは……本題に入ってもよろしいかな」
本題とは、もちろん条約の合意不合意を決めることである。
そんな話へ遷移を防いだのは、全権であるブレット・ピーターであった。
「その前に、お聞きしたいことが」
「なんですかな?」
ブレットが、一拍おいて話し始める。
「本日まで、日本の歴史や機関、文化に軍まで。様々なものを見せていただきました。
しかし、そのどれもが我々の知るものでは無った。
近しいものが存在しても構造が一切違う。そもそも魔法の類が使用されていない。
更に言えば、我が国を持ち上げる訳ではありませんが、いくら何でもこんな近隣に貴国のような国家が存在すれば気付くはずです。
我々が聞きたいのはただ一つです。あなた方、何者ですか?」
その言葉に、神木は豪快な笑いで答えた。
ブレット達、そして閣僚も顔が引き攣るか怪訝な表情をしている。
「いやはや、隠すつもりも無かったのですが、ここまで単刀直入に来るとは。
そうですね、何者であるかと言われれば皆様と同じ、人間ですな。
ただ、我々には決定的な違いがあります」
「……決定的な違いというのは?」
「我々がこの世界の住人ではなかった。
突拍子もない話に聞こえるかもしれませんが、我々は異世界から来た人間、というのが最も分かりやすい者ですかな」
使節団の人間の大半が驚愕か不信の表情をしていた。
当たり前だ。
そもそも、いくら惑星が違うだの知らない国家が出来ているだの証拠があるとはいえ、すぐに適応している日本人がおかしいのだ。
そんな中、唯一真面目な表情をしていたブレットが答えた。
「突拍子もないと仰りましたが、存外そうでもないかもしれません」
彼はそのまま言葉を続ける。
「とある事情で、外交に行った国家の文化を調べる機会がありました。
そこで根付いている神話に国家が転移し、その技術供与によって発展した。という話があったのです。
事実かはわかりませんが、それを考えれば突拍子もないということはないんじゃないでしょうか」
神話上の転移事象、思わぬ収穫である。
是非ともその国家と接触したいものだ。
「そうでしたか、是非とも我が国としてはその国と交流を持ちたいものですな……話を戻しましょうか。
先般より述べているとおり、我が国は貴国との国交を樹立したいと考えております。
それに加えて、貿易協定なども締結したいと」
「連合帝国としては、どのような国家か判明した以上、友好的ならば是非とも国交を樹立したいと考えております。ただ、一つ条件が。
貴国が現在共同戦線を構築しているヴァクマー共和国。
こちらの国家、我が国が内情は民主主義を目指すものなどではなく、現皇帝による民主化政策に反発した貴族達の利権集団であると情報が入ってきています。
連合帝国の総意として、ヴァクマー帝国に関しては現皇帝による民主化を支援する形での民主化・勢力圏取り込みを行おうと画策しております。
それには共和国は邪魔な存在です。単刀直入に言いましょう。
ヴァクマー共和国との国交を断絶してください。
もちろん、それに伴う食料などの供給は連合帝国勢力圏の国家で援助致します。それが条件です」
要約すれば、工作に邪魔な共和国との国交を断絶しろという話だ。
藪から棒の話だが、日本からすれば大した影響はない。
むしろ外務省の一部は共和国に対して反感を抱いている。
「……いいでしょう。
なんなら今すぐにでも断絶いたしましょう。我が国としても彼の国の外交態度は思うところがあります」
「そうでしたか、それは好都合です。
それでは条約は合意ということで……細かいところは各担当にわけて詰めていきましょうか」




