第16話
24年 9/6 12:00:内閣府:危機管理センター
「はぁ!?ユジノサハリンスクが吹き飛んだ!?」
国森が聞いたこともない大声を挙げる。
まあ、聞こえてきた内容からすれば無理もないものであるが。
「大口径砲による砲撃だと……了解した」
そう言って受話器を置く。
正直に言えば、ここまで聞きたくない情報は珍しいだろう。
「えー失礼しました。
今入った情報ですが、南樺太に存在するユジノサハリンスク、旧豊原市が何者かの攻撃によって破壊されたとのことです。
報告によれば大口径砲…‥予測では200mm以上の榴弾砲による攻撃との事です」
200mm、と聞けば出てくるのは203mm砲、憎きヤード・ポンド法によれば8Inch砲である。
重巡洋艦と呼称できる艦艇に艦載する砲の中で最も巨大な砲である。
つまりは敵に重巡洋艦レベルの艦艇が突如現れたことになる。
もちろん、陸路で搬送されてきた可能性もあるが、樺太で銃火器を密輸しているロシア軍は許すはずがない。
事実を言ってしまえばロシア軍なぞ既に壊滅しているのだが……そんな事を知っているはずもない。
「北で何処の輩か知らないが暴れているのは頂けないな。国森くん、北部海域……昔で言うオホーツク海周辺に哨戒機の派遣はできるかね」
「ええ、可能です。八戸のP-3……余市防備隊も直ちに向かわせましょう」
そう言って電話を取る。
この頃は一旦の平穏期に入ろうとしていたが、どうやらこの世界は我々に休暇など与える気は無いらしい。
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24年 9/6 14:00:海上自衛隊:旧オホーツク海域
「くまたかより報告。所属不明艦隊捕捉、数は大型2、小型8」
「了解、接触を試みる。おもぉかーじ。最大戦速」
「おもぉかーじ」
はやぶさ型ミサイル挺の最大火力は90式艦対艦連装ミサイル発射管2基である。
海域を航行しているのははやぶさ型2番挺 わかたか、同4番艇 くまたかの余市防備隊のみである。
上には八戸から飛んできたP-3C Orionもいるが、ただの哨戒任務に武装など積んできている訳がない。
せいぜい水中発音弾ぐらいだろう。
攻撃してこないという博打である。
掛け金はミサイル挺2隻と42名の海自隊員である。
もし負ければ教科書に乗れるレベルだろう。
そもそも、接触できるような距離であればミサイルなどなんの役にも立たない訳だが。
そんな事を考えている合間にも、船体は44ktで猛進している。
距離にしておおよそ150km。
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「右舷前方より所属不明船急速接近」
「デカい島に居た奴らの新手か?」
「なんとなくですが、違うような気がします。あの船より洗練されている。それに回避機動を取っているようにも見えない」
そう言って、近づいてくる小型船を睨む。
確かに、先に戦闘した小型艦艇より整備は行き届いている。
船体や上部構造物もキレイにまとまっている。
「となれば、この先にも何かしら国家集団が存在するのか。島の奴らはロシア連邦とか名乗ってたが」
「彼らはこちらを見るなり魔法で攻撃してきましたが……こちらは好戦的ではないといいんですが」
そんな事を祈っていると、急速接近していた船舶が音……というよりは声を発する。
「こちらは日本国海上自衛隊である!貴艦らは日本国の領海に侵入しようとしている!貴艦らの所属及び航行目的を開示せよ!
This is the Japanese Maritime Self-Defense Force! Your vessels are attempting to invade Japanese territorial waters!Please disclose your affiliation and the purpose of your voyage!」
「日本国ですか。ロシア連邦同様聞いたことない国名ですねぇ。にしても、こっちも高圧的ですね」
「仕方ないだろ。軍隊なんだから威圧感はなけりゃ職務は執行できん」
威圧感のない軍隊など価値がない。
軍隊の存在理由は国民を守ることもあるが、そもそも自国に害を為さないよう牽制することだ。
多少の圧力は仕方あるまい。
「所属ともに確認されていなかった大型島の調査のため航行していると伝えろ。何かしら知っているかもしれん」
「I copy」
そう言うと、すぐに魔導増声管から爆声が響き渡る。
「こちらはエルファスター連合王国王立海軍である!未確認大型島の調査のため航行している!」
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24年 9/6 16:00:陸上自衛隊:ヴァクマー帝国領
仮称"オーク"を合計で4Sq分吹き飛ばした第十六普通科連隊の損害はなかった。
強いて言うならば、隊員が1人失禁して服が無駄になったことぐらいだろうか。
袋詰にして押し込んで居たが、臭いが酷いため補給部隊に押し付けて後方に送り返した。
"オーク"以外にも接敵が多々あった。
"オーク"の小型版の"ゴブリン"や"ウルフ"、"キラーラビット"等々……
"キラーラビット"に関しては苦戦した。
主にその見た目のせいで動物好きが咽び泣きながら射殺するだの、モフろうとして顔に引っかき傷が付くだの。
軽傷レベルですらない負傷者が続出した。
その後に出会った随分と人馴れした本物の兎を捕まえたお陰でメンタル・ブレイクは避けられたが。
ちなみに、仮称に関しては全て隊員が付けた名前である。
あまりにもRPGの敵過ぎるのだからそりゃそうなるだろう。
なんやかんやあったが、進出は順調である。
48kmほど進んだところで平原に出たため、全隊集合し車両にて機動している。
お陰で進出は激的に速くなり、50km/h程出せており現在地はソルノクからおおよそ448km地点である。
偵察隊ももはや撃たれるときは撃たれるとでも割り切っているのか、偵察速度がかなり向上している。
もはや偵察というよりは威力偵察の域である。
ただし、今のところ帝国兵との接敵はな………
「進路偵察隊より報告!帝国のものと思われる飛行隊を確認!数5!」
無い。とは言わせてくれないらしい。
「保有火器で迎撃するよう伝えろ」
「了解!」
前言撤回、接敵はあった。
この速度を維持するならば援軍を待たせる択は無い。
偵察が途絶えれば偵察隊が進出する間、本隊は動けなくなる。
「本隊はこのまま前進!進めるだけ進むぞ!」
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[おいおいおいおいおい!何なんだよあいつら!榴弾砲でも搭載してんのか!?]
[黙って運転しろ!死ぬぞ!]
第十六普通科連隊情報小隊……雑に言えば偵察小隊は危機に瀕していた。
元凶は上空を支配しているヴァクマー帝国のワイバーンである。
どこぞのメカジキの様なスピードで榴弾砲レベルの攻撃を叩き付けてくる。
それも再装填は早いときた。
幸い、榴弾砲や手榴弾の様に弾殻だのワイヤーだのが飛び散らないただの爆発のためなんとか生きているが。
[分隊長!後ろの輩共撃ち落とせないんすか!?]
[撃ち落としてやるからさっさとこっちに逃げて来い!]
分隊の本隊は接敵地点から後方1kmに位置していた。
向こうからも上空の連中は見えている筈である。
死に物狂いでアクセルを吹かす。
1km後方からメカジキ野郎共をぶっ飛ばすためには、上空であることも考えれば700mは後ろに引き摺り回す必要が有る。
そもそも5mm NATOで叩き落とせるのか疑問ではあるが。
[有効射程に入った!せいぜい落ちてきた奴に潰されないようにしろよ!]
前方に見えるLAVと徒の普通科隊員が89式を射撃する。
20式小銃などという最新小銃、通常部隊に回ってきている訳がない。
上空から化物地味た……いや、我々からすれば化物であるのだが。
そんな悲鳴が聞こえてくる。
「クッソ!タフな野郎だな!上の騎手を狙え!そうすりゃ無力化できるだろ!」
ワイバーンというものは想像以上に強靭なものであった。
小銃弾数発では落ちないようである。
そこまでメカジキ野郎に合わせなくても良いのだが。
「まずっ!分隊退避!攻撃が来るぞ!LAVは前に出ろ!」
LAVが全速力で徒の隊員の盾になる。
それと魔法攻撃が飛翔してくるのはほぼ同時であった。
LAVの側面に魔法攻撃が着弾する。
その魔法攻撃によりLAVは灼熱に包まれ、外装塗装が溶ける。
幸いにも、LAVはその高温を耐久力によって耐えきることができていた。
だが、搭乗していた隊員は違った。
直前まで射撃を継続していた射手が魔法攻撃の爆風をもろに食らう。
その射手のハッチから爆風は車内に侵入し運転手を襲う。
「射手負傷!」
運転手から負傷報告の怒声が飛んでくる。
その時には既に全ての敵飛行戦力を撃滅していた。
「大丈夫か!?」
「俺は大丈夫です!鈴木の野郎がもろに食らいました!」
[レコン0こちらレコン2!敵飛行戦力により1名重症!現在地域を離脱し本隊へ後送する許可願う!どうぞ!]
[こちらレコン0、小隊よりLAVを派遣する。合流後分隊は行動に復帰されたい。どうぞ]
[レコン2、了解!終わり!「あんのクソ鳥共が!」
悪態をつきながら無線機を戻す。
「LAVで鈴木のやつを後送しろ!運転手と応急以外の分隊はその場で待機!偵察班はオートで偵察再開!以上!」
そんな指示の中、応急処置をしている隊員は黙々と仕事をしている。
LAVのエンジンは幸い生きているようだ。
オートでワイバーンを引き連れてきた隊員は既にエンジンを吹かしている。
「……すまん、取り乱した」
「気にしないでください。鈴木が火傷程度で死ぬわけ無いですよ」
「……そうだな。しぶといの代名詞レベルのあいつが死ぬわけねえな」
「ほら、分隊長。あいつこういうファンタジー世界好きなんすから。エルフとか獣人の一人でも見つけて自慢してやりましょうよ」
「だな。腐るほど土産話を持ち帰ってやるか」
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24年 9/9 10:00:内閣府:危機管理センター
「先日接触したエルファスター連合王国に関する続報です。
艦隊との接触の後、想定以上に両国間の距離が近かったため、9/8に北海道より先の共和国との協議を行った赤坂外交官が王国の方へ出向きました。
結果としては、"近隣にも関わらず今までこちらは存在を関知しておらず、如何様な国家か不明である以上すぐさま国交を、とはできない。
そのため、両国間の使節団による相互交流を持ちたいと考えるが、如何であるか?"との内容でした。
こちらとしては何のデメリットもないため、その場で合意したとの事です」
実に平和的な外交である。
どこぞの大陸国家とは大違いである。
「使節団による交流とのことだが、調整は進んでいるのか?」
「はい。現状と致しましては北海道余稚内までを海自によって移送した後、航空機で東京へ向かう事になっております。
それ以降に関しましては調整中ですが、東海道新幹線にて大阪・京都に向かった後、航空機にて北海道に戻るルートの予定です。
詳細につきましては検討中となります」
日本列島フルコースとまでは行かないが、列島半分を横断する大旅行である。
これだけやれば、情報が足りない。なんてコトにはならないだろう。
「それでですね……やはり、王国側としては軍事力に関して大きな目的一つとなっていると思われるのです。
となりますと、どこまで自衛隊を開示するかという話になってくるのですが……」
国力={(人口+領土)(基本指標)+経済力+軍事力)
}×(戦略目的+国家意思)
この式はCIAのお偉いさんが考えだし、国力の指標となる数値を出す。
明確ではないにしろ、相手は補給が切れてたとはいえロシア軍を撃退した相手である。
秘密主義を押し出しすぎて舐められても困る。
過度に畏怖されるのも、対等なコミュニケーションが取れなくなるため困るのだが。
「そうだな。あんまり過度だと困るんだが……国森。何か考えはあるか」
「いっそ総火演でもやりますか。観客も入れて」
「…………は?」




