第12話
24年 8/30 12:00:陸上自衛隊:ソルノク市街地
戦闘上陸大隊は、激しい抵抗をなんとか粉砕しながら前進していた。
敵部隊は強大且つ狡猾であった。
侵入時には瓦礫・家屋を駆使して周到防御を展開してきたし、本格的に市街地に侵入した時には騎兵・伏兵による奇襲が頻発していた。
更に言えば、街道に丸太だのを積み上げ封鎖してきていた。
それを吹き飛ばすために可塑性爆薬を敷設しようとするが、それを防ぐように制圧射撃が飛んでくる。
そうやって足止めを食らっている最中にも、迂回してきた敵部隊が側撃を仕掛けてくる。
CQBは地獄だとよく言うが、それを実体験によって体感する。
幸いにも、民間人は避難させているのか勝手に避難したのか知らないが、殆ど居なかった。
だが既に、衝撃と火力によって大通りを突破し、中枢を呵成に制圧するという構想は崩壊していた。
構想が崩壊した以上、反逆を警戒し防衛に回っていた第一水機連隊の1個Coもこちらへと向かっていた。
第一連隊にあっては、後方地域の完全なる制圧を目的としていた。
これで、多少は側撃だの背撃だのは減るだろう。
既に2時間は攻勢を続けている。
部隊の疲労は限界を迎えていると言っても過言ではなかった。
[CPこちらベルウェザー、市街地の迅速掌握は不可能。後退許可願う。どうぞ]
既に砲弾薬はそこが見えてきていた。
40mm擲弾に至っては、敵が潜伏している家屋を悉く薙ぎ倒したせいで、完全に底をついている。
これ以上の攻勢継続は困難である。
[ベルウェザーこちらCP、了解した。後退を許可する。現在増援が向かっている]
無線に軽く返答をし、部隊の後退を指揮し始める。
おおよそ、100m後方に防御に適した円形の広場があるため、そこまで後退する。
それを粉砕せんとするか、敵部隊が攻撃を開始する。
その攻撃は苛烈なものであった。
いつの間に用意したか、砲兵部隊による直射も行われていた。
その時、お返しと言わんばかりに後方から鉄塊が飛んでくる。
それは精密に敵砲兵に向けて飛翔し、命中・発破した。
その後も、1発2発と連続で飛翔し、悉く敵の高価値目標が爆散する。
[ベルウェザーこちらウェポン、後退支援開始]
[こちらベルウェザー!感謝する!]
無線を入れてきたのは対戦車中隊、おそらく第一普通科連隊のものであろう。
中多による撤退支援はありがたいものであった。
その効力は絶大であり、主火力を潰され怯んだのか、追撃がピタリとやんだ。
これでようやっと落ち着ける。
[各隊死傷者報告及び後送。事後、第一小隊より順に警戒休止。警戒方法は小隊長所定]
部隊の現状を聞きながら、状況を整理する。
幸いにも、今の所は死者や重傷者はいないようであった。
軽傷者も少なく、ほとんど損耗はない。
今は自衛隊が喉から手が出るほど欲しがる人員ではなく、敵へのプレゼントの方をよっぽど欲していた。
40mmや89式5.56mmは撃ち尽くしたし、.50calも切れかけである。
弾のない銃なぞ、ただの鉄パイプである。
そんな状況じゃ、不要だ不要だ喚かれている銃剣の方がよっぽど信用できる。
そんなことを考えていると、付近には突貫工事の前哨基地ができていた。
AAV7や高機で道は塞がれており、弾薬受領を済ませたのか第一小隊が警戒に入っていた。
唯一開かれている補給路の路肩では、負傷者が補給物資を積んできた3t半に詰められ、後送されていく
負傷者のどれもが足に弾が掠っただの、砲弾の破片が腕に刺さっただの、痛いは痛いが死にゃあしない負傷であった。
「中隊長、第一連隊の増援が現着しました。規模は中隊1個です」
補給の3t半と入れ替わりの陣地へと入場してきたのは増援の普通科部隊であった。
もちろん水機団の普通科部隊である。
「そうか…現状展開している火力は何がある?」
どちらにせよ本日中の制圧は不可能であるが、反逆時の対応できる火力の情報が欲しかった。
「現在、本部に第一の重迫が展開してます。あと、直ぐに軽迫が展開すると連絡が」
先程まで我々がいた場所までは、帝国の民間人が居ないことは判明している。
ならば、火力投射に対してなんの遠慮もする必要はなかった。
「よし、緊急時に直ぐ火力支援を要請できるように調整しとけ。あとは夜襲のときには照明弾も上げれるようにな」
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24年 8/31 0:00:陸上自衛隊:ソルノク市街地
ちょうど日が回った時、ヴァクマー帝国のソルノク守備隊は行動を開始した。
数は数百。
夜襲によって敵部隊が展開している広場を制圧するつもりであった。
だが、その動きはJGVS-V8によって捉えられ、緑光と共に陸自隊員の眼に届けられていた。
[パトロールよりアルファ1へ通報。寝起きドッキリの御一行様だ]
その無線により陣地に詰めていた隊員の全員が叩き起こされ、戦闘の準備が整えられる。
誠に残念だが、御一行様はその動きに気付くことは無かった。
[アルファ1よりアルファ9、逆ドッキリの時間だ。盛大に歓迎してやれ]
その通報から3分程が経っただろうか。
JGVS-V8の視界に軽迫の爆閃が届く。
暗視装置を上げていなかったパトロールが盛大に眼をやられたのと同時に、夜襲を仕掛けてきていた敵兵も共に吹き飛んでいた。
それに続いて、直ぐに軽迫から照明弾が打ち上げられ、続いて小火器による一斉射撃が始まる。
迎撃、もはや虐殺と言っても過言ではない行為をされると思ってもいなかったのか、攻撃の開始と同時にほとんど敗走状態である。
しかし、それを逃がせるほど現状の戦力に余裕など無かった。
「こりゃひでぇっすね…殺戮っすよこれ」
「割り切れ。これが仕事だ」
そんなことを言うが、全く持って同感であった。
地球であれば、国内から大批判が湧き上がっていたことだろう。
最も、既にそんなことを喚く連中は居なくなっているわけだが。
「どうしますか。まだ撃ちます?」
「射程外に行くまで撃て。うちに慈悲を与えられる程の余裕はない」
射撃が続く。
既に潰走していた兵士はほとんど居らず、1人に3,4発の銃弾がほとんど同時に命中するような状態であった。
そもそも、最初の逆ドッキリによって殆どの敵兵は文字通り粉砕されていた。
生きているのは着弾地点の外縁にいた兵士や砲撃のあとに全力で走り出した兵士、砲撃の跡地にいた兵士ぐらいであった。
最終的に、最終弾が弾着したあとに残っていたのは、幸福にも五体満足な死体と肉塊だけであった。
それを見て、一体この戦争で何人がああなるのか想像し、吐き気が込み上げてくる。
何人かの隊員が陣地の外に走っていくのが見えた。
止める気など起きなかったし、止める意味も無かった。
陣地の中が汚れるのはごめんである。
水筒の水を流し込む。
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夜襲を迎撃し、6時間ほどが経過した。
熟睡を妨害され、地獄を見た隊員の殆どが覇気のない顔をしている。
こんな状態で制圧ができるのか怪しいところであるが、これ以上の遅延は作戦に大きく影響する。
更に言えば、これ以上制圧が遅れれば他の都市からの援軍が来かねない。
[ベルウェザーよりCP、重迫地域射撃要請。諸元は以下送信の通り]
歩兵での制圧が厳しいならば、砲火力で全てを破壊すればいい。
戦場で対面する全ての敵を破壊する。
だからこそ、戦場の女神と言われるのである。
既に、敵兵士の献身的努力によって、市街地に存在する民間人はいないと断定した。
根拠は今まで突破してきた前線の状況だ。
もちろん、その判断が合っているとは限らない。
だが、士官として最も守るべきものは自国民だ。
その中には、当たり前に指揮している隊員も含まれる。
敵国の非戦闘員を助けるために自国の国民を死なせるなど本末転倒である。
[CP、了解。5分後に支援射撃開始。当該地域より退避。繰り返す、当該地域より退避]
重迫の近迫距離は100mである。
逆ドッキリの弾着地点より前方の地域に砲撃支援が着弾するならば安全だ。
そして、支援射撃によってこれから進出する地域は荒廃するだろう。
だが、むしろこれから建て替えるだろう都市の建設物を先んじて解体していると考えれば、むしろ好都合である。
[キャリバーよりベルウェザー、支援射撃第一弾、弾着まで、3、2、だんちゃーく、今!]
着弾を告げる合図と同時に、もと居た場所が黒煙に包まれる。
重迫の威力はHE(榴弾)で炸薬量約4.5kg(TNT換算)に達する。
その火力は絶大であり、貧弱な設計のソルノク市街に建つ各種建築物が次々に倒壊していく。
別に頼んではいないのだが、支援射撃終了が早いほうが良いとでも思ったのか、次々に着弾の黒煙が上がっていく。
おそらく、重迫の出し得る最大の速射で射撃しているのだろう。
整備員の悲鳴が想像できる。
そんなことを考えていれば、もう間もなく最終弾弾着時刻であった。
[地域射撃最終弾まで3、2,だんちゃーく、今!……最終弾弾着、火力支援終了。終わり]
そんな威勢のいい声が無線から響く。
今度は我々が暴れる番である。
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[ブラボー2、前進開始。前進開始。返答不要、終わり]
思ったとおり、砲撃跡地は完全なる荒野と化していた。
そこら中に瓦礫が散乱しており、足の踏み場……と言うより履帯の踏み場がない状況である。
辛うじて市街地・住宅地の体は保っているレベルである。
AAV7に関しては後方の即席陣地にて待機である。
そんな状況に投入した日には全車両、地獄のスタック行きである。
普通科戦力で対応するしかない。
瓦礫の山を散開しながら前進していく。
敵戦力がゲリラ戦を主体とする以上、長期間瓦礫の山を前進するのは控え、一気に制圧すべきであった。
幸い、迫の砲撃によって敵兵の殆どは瓦礫の下敷きであり、残った兵士も戦意喪失か混乱状態である。
[ブラボー2-3よりブラボー2-0、2時方向に敵戦力の集結地点発見。どうぞ]
そう言われた2時方向を見ると、おおよそ2、300人の兵士が集結していた。
どうやら市街地が一瞬で崩壊して大混乱しているらしい。
どちらかといえばソルノク守備隊の指揮所、といった所だろうか。
将官らしき人間も見える。
あの場に砲撃を1発打ち込んでやればソルノク守備隊の統制は崩壊するだろう。
そんな予想をしながら、後方に砲撃支援を要請する。
前進していた部隊を退避させる。
その数十秒後には、観測していた地点は蜂の巣…どころかすり潰されていた。
おそらくあれでは負傷者どころか死体も残っていないだろう。
周囲には砲撃によって原型のなくなった内臓や血液が散乱していた。
すぐに目を背け、官公庁舎であろう中心部の城塞へと急ぐ。
おそらく、現状こちらを阻止できるように展開している守備隊はもはや存在しないだろう。
庁舎の内部に部隊が配置されてはいるだろうが、むしろ何処から敵が来るのか分かる以上、市街地より制圧は容易だ。
極論言ってしまえば、全ての部屋を手前から虱潰しに確保していけばいい。
閃光発音筒に攻撃手榴弾、破片手榴弾もある。




