主人公になってしまったでござる
その斬新すぎるゲームデザインから一世を風靡した伝説の学園恋愛ゲーム『モブ憑依』
このゲームはプレイヤーがモブに憑依することができる霊という設定で始まり、基本、主人公やヒロイン、サブキャラクターなどには憑依できず、唯一自由に憑依できるモブを使って物語を進ていく。
このゲームの特徴としてイベントは常に3択しかない。
例えば最初の憑依イベントの時
ありきたりな通学路を空で見下ろしながら。
(今回の主人公はこいつか…
おぉあれが一番最初のヒロインか…)
主人公の少し前をヒロインが歩いている。
・チンピラ
・男子学生
・ハンカチ
と、こんな感じで憑依できるものが3択で出てくる。
ちなみにチンピラを選んだ場合は、
・ヒロインに絡む
・主人公に絡む
・奇声を上げながら2人の横を走り去る
男子学生を選んだ場合は、
・ヒロインにしつこく告白する
・友人っぽく主人公に絡む
・奇声を上げながら2人の横を走り去る
ハンカチを選んだ場合は、
・ポケットから落ちる
・家に帰る
・パンツに変身する
このように基本は恋を助けるルートと、恋を邪魔するルートで、最後の1つは良い時もあれば悪いときもある、2週目から選びたくなるルートだ。
この3つの選択肢を選び抜き、主人公とヒロインを結婚させるもよし、最高の親友にさせるもよし、全くの他人で終わらせるもよし、という最高のゲームである。
暗い部屋でコントローラーを握り、画面に向かって喋る男……
「そしてそんな神ゲーに人生を捧げたのがこの俺どぅああぁぁぁっっつつつ!!!」
が、モニターに吸い込まれる。
(うぇぇなんかきもちわりぃぃぃ、画面酔いしたって感じだぁ。あぁぁぁ。
ん?足が勝手に動いてるぞ……あれ?)
見えているものに気づく。
少し前を歩いているのは、ピンクの長い髪に、可愛い制服がよく似合う女の子らしい体、黒いタイツが光に当てられ思わず見とれてしまいそうになる……画面越しに何度も見た女の子の後ろ姿。
(あれは……あの後ろ姿は……七星キラリ様ではなかろうかと………………)
愛しの天使が目の前にいるかもしれないという状況に、少し心に力をいれた時。
「うひゃんっさんくすっトゥバランっバラケンッッッッ!!!!」
金髪のチンピラが奇声を上げながら横を走り抜ける。
(ドゥゥゥゥゥワワワワワァァァァァァッッッッ!!!)
奇声に当てられてか、男も心の中で奇声をあげる。
「なんだ?」
自分が勝手に喋る。
「ひぇぇ怖い人だぁぁ。」
少し前を歩いていた女の子もチンピラに反応する。
その時横顔が少し見える。
(可愛いいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!
でも、最悪だァァァァァ!!!!!!!!)
どうやら俺は神ゲーの主人公になってしまったらしい。
ゆるっと。
(あれ?立ち止まった……)
今まで勝手に動いていた体が止まる。
「体動かせる!
これはもしかしなくても主人公の体。てかイケボ過ぎる!!さすが主人公ボイス!!
じゃなくてッ!!!」
(俺がなぜこのゲーマなら誰しも喜ぶ状況に最悪だ何て言ったと思う?
ズバリ!あの奇声を上げながら走り去ったチンピラはキラリ様BadEndフラグへの1歩目!!
そしてワタクシキラリ様推しでござる!!!
許しがたし!!許しがたし事柄!!!
なんとしてもBadEndは回避しなくては……あんなキラリ様は二度とみたくない……。
ここで俺がやるべきことは1つ……
キラリ様とお友だちになること!!
キラリ様はこれから学校でいじめにあう。
しかーーーしそれはッ主人公と出会わなかった時のみのイベント!!!
今はイベントの強制力的なのが多分無く、俺の意思で体を動かせる!!)
「いざ主人公をするでござるよ!!」
ゴツンッ
キラリのもとへ駆け寄ろうと走った矢先、何かにぶつかり倒れる。
「透明なかべぇぇぇぇえええーーーーーー!!!!!!!
おーーーーまぃーーーーごーーーーっしゅうぅぅぅぅ。」
(なんて事だイベントの強制力!!
これはきっとイベントの強制力!!
決まってしまったんだ、キラリ様と主人公が出会わない事がもう決まってしまったんだ……
いやまだ方法はある。)
「そこのお嬢さーーーん!!!お友だちになりませんかーーー!!!!」
キラリに聞こえるよう大きな声で喋りかけるが全く反応がない。
「イベントキョウセイリョーーーーークッッ!!!!
霊のバかやろーーーーーー!!!!!」
1通り暴れイベントの強制力を前に無力を悟り、学校へとトボトボ歩く。
(ワタクシ眼福でござるよ。
彼女の後ろ姿だけで幸の極み。
この先、あんなキラリ様をみるくらいならもういっそ今ここで、死んでも構わないでござる。)
(諦めるのか?
目の前に君の大好きな人がいるのに。
どれだけ彼女との幸せを夢見てきたんだ。
その幸せが目の前にあるのに。)
どこからともなく声が聞こえる。
とても聞き覚えのある声だ。
(その声は俺か。
へっこれはゲームの中の世界だぜ。
イベントが途中で変わっちゃ駄目だろ。
彼女がいじめられるのはチンピラが通った時点で確定したんだ。
どうあがいても彼女はいじめられる。)
(でも彼女は今からものすごいいじめにあうぞ。)
(わかってるよッ!!!
でもどうしようもないだろ!!!
(彼女はこの先、言葉にするのも嫌になるほどのいじめにあう。
それを助けるには当分先にある1つの選択肢しかない。
でもそれはいじめから救うルートへの道で、彼女のいじめられていた事実は変わらない。
しかもそれを霊が選ぶとも限らない。)
近づくことはできないしッ!!
声だって届かないッ!!!
どうしようもないんだよッ!!!)
(ふん仕方の無い俺だ。
1つ方法がある。
お前の視点の右上に数字が書いてないか?)
(書いてある……)
右上に5という数字が見える。
(それはお前自身が好きに起こせるイベント数だ。)
(それは……どういう)
(もうすぐ学校に着いてしまうぞ。
はじめての通学路イベントは霊の選んだ奇声チンピラだけで良いのか?)
(イベントの重複……書き換え……そんなことができるのか?
いやそんなことより今はやるしかない!!)
(ふん、その力は大事に使えよ。
じゃあな俺。)
(この場所で起こせる一番好きで一番ハッピーなイベント……あれしかない!!!
ハンカチよパンツに変われ!!!!)
5→4 ガコンッ!!
数字が変わるが目に見える限りじゃなにも起こらない。
(これでいいはず……)
そのまま流れに身を任せるように学校へ向かう。
向かう途中に他のヒロイン達をちらほら見かける。
(みんな可愛いなぁ。
あぁ心置きなく楽しみたいから!!
早く放課後なってくれぇぇ!!!)
キーンコーンカーンコーン。
今日最後の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り、帰りのホームルームへと移る。
「今日も1日お疲れさまでした!」
とても綺麗でおっとりとした先生が教壇で話す。
(光島先生綺麗だなぁ。
生であのイベント見れたら最高だろうなぁ~)
なんてことを考えていたらホームルームが終わっていた。
「さようなら~!」
帰りの挨拶が済み、皆が帰るなり喋るなりしようとするなかで先生が喋る。
「唐崎く~んあなたはちょっと職員室まで一緒について来てもらっても良いですか~。」
体がビシッとなり言うことを聞かなくなる。
(イベント強制力キターーーー!!
ふふんっ実はこの主人公、学校ではすごく有名なヤンチャボーイなのです!!)
「光島先生さようなら~」
そういって唐崎は手を振って逃げる。
「フンッ!」
光島先生は唐崎に逃げられたにも関わらずやけにドヤ顔をしている。
「ん?」
さすがにちょっと不思議に思ったがまぁいいかということで、走って教室を出ようとすると。
ガラガラガラガラ
バチンッ
「ドゥワッァ!!」
扉を開けた瞬間大きな、なにかでぶっ飛ばされて、教室中を乱反射し先生の大きな胸の中へと飛び込む。
「捕まえましたよ。」
「んなバカなぁ。」
(キターーーーーーー!!!!!!
神イベ!!神イベ!!光島先生はあいしてうーーーーー!!!
胸が柔らか過ぎますぞーーーー!!)
「一緒に職員室行きましょうね、先生この手離しませんから!!」
(フウゥゥゥゥゥーーーーー!!!!
手も柔いんですかーーーーーー!!!!!!!)
ゆるっと。
(あれ?動ける……今はイベント中じゃ……まさか!!!ゲームで描かれていないところは俺が動ける場所!!!)
「唐崎くんあんまりヤンチャしちゃダメですよ。」
先生が優しく喋りかけてくる。
(エエエエエエエエエェェェェ!!!!!!
喋るんですか……!!ドドドどうしよう……いや俺ならいける俺はどれだけこのゲームをやってきたんだ!!唐崎を降ろせ自分は唐崎なんだ!!
俺は唐崎。)
「別に先生には関係無いだろ。」
そういって目をそらす。
「関係ありますよ!
先生は唐崎君の先生なんですから。」
そう言って繋いだ手を強調する。
(ウウウウウウウウゥゥゥゥ……シヌ……裏ではこんなことが行われていたなんて……シヌ……。
しかし俺は唐崎俺は唐崎俺は唐崎俺は唐崎俺は唐崎俺は唐崎俺は唐崎俺は唐崎俺は唐崎俺は唐崎俺は唐崎俺は唐崎。)
「結婚しましょう!」
(ぬぁぁぁぁにぃををををををわををををわをををををわ!!!!!!!!!!!!)
「ごめんなさい聞き取れませんでした、もう一度言ってもらっても良いですか?」
(あれ?結構大きめの声で失言したと思ったが、なんか大丈夫だったみたいだ。ふぅ危ない。俺は唐崎だ。)
「結婚しましょう!」
(何でだァァァァァァァァァァ!!!!!!!
理性ってなんだ俺ってなんだ。
いやだって先生も推しなんだもん仕方ないでござるよ。
あまりの尊さに結婚を申し込むのはオタクの条件反射でござる。)
「ごめんなさい聞き取れませんでした、もう一度言ってもらっても良いですか?」
(イベントキョウセイリョーーーーーク!!!!!!
そうかこれはイベント強制力だ!
先生との恋愛フラグはまだ立っていない!
つまりここで口説くのはNGなんだ!!
ふぅ危なかった。)
「入りますよ挨拶してくださいね。」
ビシッとくる。
イベントが始まったようだ。
ガラガラガラガラ
「教頭先生~唐崎君連れてきましたよ~」
「失礼しま~す。」
とても不服そうに挨拶する。
「か~ら~さ~き~~~!!!!」
結構遠くから禿げたメガネが早歩きで近づいてくる。
「お前また他校の生徒と揉めたろ~~。苦情が入ってるぞ~!!」
(ウワッ生教頭だ!!良いなぁ~。)
「あれは仕方なかったんだよ。」
「喧嘩に仕方ないもくそもあるか馬鹿者!!
次やったら反省文7枚だ!!」
「はぁ!!何でだよ今までは1枚刻みだったろ!次は6枚じゃねぇのかよ!!」
「7枚だ!なんと言おうが7枚だ!!わかったか!!」
「…へ~い、わかったよ……」
「光島先生ありがとうございます。」
「いえいえ私は唐崎君の先生ですから!!」
「頼もしいです。
用件はそれだけだ!もう行っていいぞ!!」
「あ~い失礼しました~。」
またまただるそうに挨拶したところでゆるっとくる。
(動ける!)
「そう色々あったが今の目的は1つ!!
パンツイベントだ!!」
ピシーン
そう言いながら高らかに指を立てる。
「早速向かうでござるよ!!
ホープベアのいる場所へ!!」
一階男子トイレ付近でピシッ!!
(キターーーーーーー!!!!!!
イベント強制力!!!)
「トイレでもしていくか。」
ジャーーーーー。
「流石に7枚はしんどいなぁ~」
手を洗ってトイレを出る。
(ワクワク!!)
「あなた!!」
「ん?」
声の方を見ると、今朝見かけたような気がする女の子が立っていた。
(生キラリ様可愛すぎでござるよぉぉぉぉぉ!!!!!!
はぁはぁはぁはぁ。
苦しいでござる。
ワタクシ苦しいでござる。)
「ハンカチ持っていないんですか!!」
(アーーーーーーーキターーーーーーー!!!!!!
ハンカチイベントだーーーーーー!!!!!!
ぼぇぇぇぇうぅ……)
「そんなもん持ち歩くわけねぇだろ。」
「ふ~ん!!全く仕方ありませんね~私のハンカチを貸して上げます!!」
そう言ってポケットからなにかを取り出す。
「はい!どうぞ!!」
とてもとてもなドヤ顔で、渡したものを見ていない。
「お前これ。」
「ふふ~ん!!感謝して下さいね!!」
「いやこれハンカチじゃ無くて……」
「何を言っているの!!それはハンカチょ……」
唐崎の手に持っていたものはハンカチではなく、大きな熊の柄がついた可愛らしい白色のパンツであった。
「あれぇ……あぁ……わたし……まちがぇ……」
さっきまでの自信満々の声からは想像もできないくらいに弱々しい声で顔を真っ赤にしている。
「そ、それはお父さんの趣味だからーーーーーー!!!!!」
そう言って逃げるように走り去る。
「おい!これ!!ど、どうすんだよ!!!」
そう言ってわかりやすいように上へ掲げる。
「あげます!!煮るなり焼くなり好きにしてください!!!でも掲げないでくださいぃッ!!!!!!!」
「えぇ……どうすんだよまじで……」
(ドゥワァァァァオッッッッ!!!!
ドゥエエエェェぇぇぇッッッッ!!!
ウオーーーーーーーーー!!!!
戦乱の世は終わりでござるーーーーー!!!!!
ホープベアでござるよーーーー!!!!!!)
ゆるっと。
「ふむふむふむふむ、とりあえずここから先のシーンは、唐崎がベッドの上で仰向けになってパンツを広げるシーン。
つまりそこまで自由時間!!
このパンツ……このパンツ……。」
手に持ったパンツを見て思う。
(ワタクシは紳士でござる!!
しかし人生は一度きり、ヤりたいことはヤるべきであると。
いやしかししかし、あのシーンでパンツは汚れていなかったつまり汚すことはNG行為。
なら見ながら……
ワタクシは紳士でござるよ。
ウオーーーーーーーーー!!!!
プレイヤーだった俺は何度あそこで致したかわからない!!!!
しかし!!!
ワタクシは紳士でござる!!
でも欲望には忠実に生きるべきではと……
ワタクシは紳士でござる!!!!!!!)
ピシッ
ベッドの上で仰向けになってパンツを広げながら言う。
「流石に返すか。持ってても困るだけだしなぁ。
アイツ1年かなぁ?
まぁ目立つやつだし探せばいるだろ。
今日はもう寝よう。」
そう言って立ち上がりパンツを机の上に置いて、部屋の電気を消しベッドに寝転がる。
ゆるっと。
「耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる」
下半身をギンギンにしながら必死にお母さんを思い出す。
「耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる耐えるでござる」
過去、常時の最中に母親が入ってきたことを思い出し、ござる……萎えの極みに達する…………!!!
スーーーーーン…………!!!!
その時の彼は、世界を悟ったような顔をしていたと、アカシックレコードには記されている。
そうして夜は更け、朝日は上り、ござるの精神は仏の域にまで達する。
ガチャッ!!
ピシッ!
「愛花!今日は一緒に学校行くわよっ……てなによこれっ!!!」
(みつき様イベントでござるか。
眼福でござる…………ヘト)
ござるは力尽きた。
この夜の間、あの悲劇を意図的にフラッシュバックさせ続けていたのだ。
そんな時に現れた幼なじみ二次元美少女はまさに……枯れ地に咲いた花、暗闇を照らす光、記憶の中の思い人、それはもう余りに美しすぎた。