お電話記録
『ワタシ、メリーさん』
「今日はどうしたの?」
『今、きさらぎ駅に居るの』
「それで?」
『星空がキレイだっタから。アナタにも見せられタらいいのにって思ってお電話しタの……』
「大丈夫だよ、メリーさん。こっちの夜景も、メリーさんに見せてあげたいくらい綺麗だから」
『ワタシ、メリ「久しぶり!」……まだ名乗りおワってないんだけど』
「最近メリーさんからの連絡が無かったから心配してたんだよ?……それじゃ、今日はどうしたの?」
『今、きさらぎ駅に居るの』
「それで?」
『今日、新しいお友達が出来たの。親友のアナタにも紹介がしたくって』
「良かったねメリーさん!……こっちも、そうだな、例えるなら順風満帆を絵に描いたように上手くいってるよ」
「ワタシ、メリーさん」
「今、きさらぎ駅に居るの」
「初めて留守番お電話ってなっタんだけどちゃんと送れてるかな?」
「……アナタの相槌が無いと寂シくて、上手く話せないよ。うん、今日はこのくらいにするね」
「……アナタに何事もないことを願っているワ」
『ワタシ、メリーさん。今きさらぎ駅に居るの』
「うんうん、それで?」
『今日は繋がっタワね、元気にシていタの?ずっと心配シてタんだから!』
「ううん、大丈夫だよ。私は、ちゃんと元気にやってるよ。心配かけちゃってごめん」
『本当?』
「うん。あのね、最近忙しかったから出られなかったんだ。あと今日だってバリバリ働いてものすっごく活躍して褒められたんだから!」
『そう……なの?』
「だからね……、これからも忙しくて電話に出られないかもしれないんだけどね、頑張ってる証拠だから心配しなくていいよ。あと私、メリーさんの楽しい留守番電話を聞いて元気を貰ってるんだ。これからも気が向いたらかけてくれると嬉しいな」
『ワかっタワ』
「ありがとう……メリーさん」
「ワタシ、メリーさん。今きさらぎ駅に居るの」
「今日はね、きさらぎ駅に雪が積もっタ話をシようと思って」
「みんな毎年のことなのに大はシゃぎシてね、タのシかったの」
「アナタも雪遊びが好きだっタでシょ?それを思い出シて久シぶリにお電話してみタの。もシかシタらアナタも雪を見て遊んでるんじゃないかって」
「雪女も太鼓判を押す雪景色をアナタにも見せタいな。ふふ、アナタが見タらきっと飛び込みタくなっちゃうのに。写真を送れないのがお電話の歯痒いところね」
「まタ、近い内にお電話するね」
「ワタシ、メリーさん。今、きさらぎ駅に居るの」
「今日はアナタの誕生日だからね、今日はお電話が繋がるんじゃないかって、思ったんだけど……。こんな日まで頑張っているの?それともワタシを忘れちゃっタのかな……」
「それは兎も角、お誕生日おめでとう。明日もお電話かけるから、もし暇があればアナタの声を直接聞きタいな」
「……それだけが、お電話の長所だから」
『ワタシ、メリーさん!今きさらぎ駅』
「うん」
『アナタ、本当に忙しいだけだったの?もう、忘れられちゃったのかと思った……』
「私が親友のメリーさんを忘れるわけないじゃん。メリーさんのこと死んでも忘れない自信がある」
『人間のアナタが「死んでも」なんて縁起の悪いこと言わないで!』
「……ごめん。それで、今日はどうしたの?」
『久しぶりに親友に会いに行こうと思ったから。それを伝えるためのお電話!今から電車に乗るね』
「あー、ごめん。ちょっとだけ待ってくれないかな……実は、いま、……ッ、大したおもてなしが出来ない、んだ。だから、1ヶ月待ってくれない?そうしたら、いろいろ片付くと思うんだ。(どうであれ)」
『……そう、分かった。アナタはいつも大事な時に強情だよね』
「……」
『おやすみなさい、お馬鹿さん』
「おやすみなさい、メリーさん」
「ワタシ、メリーさん。今、きさらぎ駅にいるの。待ってね?」
「ワタシ、メリーさん。今、さざの宮駅にいるの。今、アナタはどこに居るの?」
「ワタシ、メリーさん。昔アナタが住んでいた町にいるの」
「ワタシ、メリーさん。ワタシたちが一緒に暮らしていた部屋の前にいるの。でも、表札が違う」
「ワタシ、メリーさん。一緒にドンパチやった商店街にいるの。でも一つも思い出が見つからない」
「ワタシ、メリーさん。アナタが将来働きたいって言ってた会社の本社にいるの。もうずっと昔に辞めていた」
「ワタシ、メリーさん。アナタが入院していた病院にいるの。…………、バカ」
「ワタシ、メリーさん。ここは、あそこに似ているよ」
『(……シ、メリーさん。こ…は、あ…こに似て……よ)』
「最期のアナタはどんな気持ちだったのかな」
『(最……ナタ……どん…気……だっ……のか…)』
「ワタシハホントウニシンユウデ居ラレタノ?」
『(ワタ……シ………ノ)』
「ワタシトヒツヨウイジョウニカカワルノハ、アナタノタメニナラナイトオモッテイタ」
『(……シ……ジョウ……ノ……タメニ……ナ…………)』
「ショセンワタシハ怪異デ、アナタハ人。カンゼンニチガウワタシタチハ、ホンライト親友ニナルコトスラデキナイハズダッタ」
『(………………カ……ナ………………イ……デ………)』
「デモ、ダカラコソ!アナタヲタイセツニスルベキダッタ。馬鹿ハワタシダ、コンナニコウカイスルノナラモットワタシノキモチヲユウセンスレバヨカッタ」
『(……アナ…タ……ニ………ワタ………ノ……シ…………ク……)』
「ヤッパリシタガウベキジャナカッタ。ムリヤリニデモ、アナタノウシロニイクベキダッタ」
『(……イ……キ………テ……………)』
「アナタノハイゴニアナタガシヌマデトリツイテイレバヨカッタ」
『(……ホ…………シ……イ…………)』
「アナタと一緒に居た日々はとても刺激的で、後にも先にもアナタ以上に好きな人も怪異も居ない、そう断言できるよ。楽しい思い出をありがとう、親友で居てくれてありがとう。あの世ではゆっくりしてね」
『(………………)』