83 最終決戦
すぐに軍議を開いた。
作戦を説明する。ファイリス様とロックス様にも、口裏を合わせてもらっていた。もちろん、私が転生者であることなどは伏せた。
「つまり、マリアは邪神の化身なのです。なので、古龍であるお二人も、協力してくれることになりました。そして、私にしかマリアは倒せないのです。それで具体的な作戦なのですが・・・」
その作戦というのは、私とファイリス様でマリアのいる場所まで乗り込み、マリアを討伐するというものだ。ロックス様は、こちらに残って、危機的状況の町を皆と一緒に救ってくれる。
「危険すぎる!!」
「流石にそれは・・・」
「考え直していただけないでしょうか?」
反対の声や私を心配する声が次々と上がる。ゴードンなんかは、私と一緒に行くと言ってきかない。
仕方なく私は譲歩することにした。
「では、ゴードン、そしてエリーナ、私についてきなさい。後の者はロックス様とともに、他の被害に遭っている町を救いなさい」
コウジュンが食い下がる。
「で、ですが!!私も一緒に行かせてください」
「貴方には残ってもらわなければならないのです。貴方以外に誰が、この連合軍をまとめるのですか?大丈夫ですよ。きっと戻ってきます」
それから、私は従者たち一人一人に声を掛けた。皆、涙を流していた。
でも大丈夫だ。これには秘密があるんだけどね。
★★★
話は少しだけ遡る。
軍議を開く少し前、私は人払いして、借り受けている自室に女神を召喚した。聖母ガイア像を手に持ち、私は叫ぶ。
『偉大なる聖母ガイアよ!!我に力を!!聖母召喚!!』
いつもよりもきちんとした身なりで、やる気満々の聖母ガイアが目の前に現れた。
「邪神の化身め!!覚悟しなさい!!このガイア自ら鉄槌を・・・」
「ガイア様、試しに呼んでみただけです。少しお話したいことが・・・」
それからしばらく、機嫌が悪くなった聖母ガイアを宥める。
「かなり、テンションを上げてやって来たのに!!こんなことをされたんじゃ、貴方との関係を考え直すわよ」
「そう言わずに・・・何事も準備は大事ですからね」
私は今回の作戦の概要を伝える。
「つまり、マリアの詳細な位置が分かればいいのね?だったら、これを貸してあげるわ。貴重な品だから、終わったら返してね」
渡されたのは、タブレット型の魔道具で、ガイアから使い方を教えてもらう。マリアが近くにいると反応するようで、地図機能も付いているようだった。
「これで、マリアの所に行けるでしょ?」
「はい」
「じゃあ、次はマリアの前で呼んでよね。私も忙しいんだから!!」
キレ気味に馬鹿女神は帰っていった。
まあ、これで何とかなる。後はサクっとマリアの所まで行って、聖母ガイアに任せて帰ればいいだけだからね。
★★★
私、ゴードン、エリーナは、ファイリス様に乗り、上空に舞い上がった。見送りに来ていた神官騎士団や観衆の大声援に見送られる。エリーナが言う。
「ミニサラやシェルドンがいないと、龍騎士としての私のアイデンティティが・・・」
危険だからという理由で、ミニサラとシェルドンは連れて行けないとファイリス様に言われたからだ。
でもエリーナ、ちゃんとしたドラゴンに乗っていることを忘れないでよね・・・
ファイリス様が言う。
「エリーナよ。妾では不満か?」
「あっ!!そういうわけでは・・・」
「まあよい。今日だけは、お主を妾の騎士と認めてやろう。頼んだぞ、龍騎士エリーナ」
「はい!!もちろんです!!」
感動的な光景だが、ただ、乗っているだけなのは、言わないでおこう。
馬鹿女神に貰った魔道具によるとマリアは、ルキレシア城の最上階の玉座の間にいるようで、まっすぐにそこに向かう。20分も掛からない内にルキレシア城に到着した。
今思えば、もっと早くに相談すればよかったと思ってしまう。
「それでは参ろうか!!結界は張っておくが、ちゃんと捕まっておけよ!!」
ファイリス様は、問答無用でルキレシア城の最上階に突っ込んだ。玉座の間まで一直線だった。
相変わらず、やることが規格外だ。
玉座の間には、驚愕の表情を浮かべたマリアがいた。何やら水晶玉のような魔道具で、作業をしていた。
「な、なに!?一体、貴方たちは・・・」
しばらくして、マリアが気付く。
「なんだ、偽聖女じゃないの。大した能力を持たない貴方がどうしてここへ?それに古龍も従えているし・・」
ファイリス様が怒鳴る。
「妾は従えられたのではない!!協力してやっておるだけじゃ!!」
エリーナがツッコミを入れる。
「ファイリス様!!今日だけは、私のドラゴンになってくれるって言いませんでしたか?」
「そ、そうじゃった・・・」
今のくだりはいらないだろ!!もっと緊張感を持ってよ!!
「貴方を倒しに来たのよ。邪神の化身さん」
「ど、どうしてそれを?」
私はマリアの問に答えることもなく叫ぶ。
『偉大なる聖母ガイアよ!!我に力を!!聖母召喚!!』
聖母ガイアが顕現した。しかし、聖母ガイアは普段着でお菓子を食べていた。
聖母ガイアは私にキレる。
「ちょ、ちょっと待ってよ。いきなり呼ぶなんて酷いわ!!」
「そんなこと言っている場合ですか?今の状況を考えてください」
聖母ガイアはマリアを見て、察したらしく、一旦姿を消して再び現れた。今度は正装だった。
聖母ガイアが厳かに言う。
「邪神の化身め!!私は聖母ガイア。覚悟しなさい。ホーリーライト!!」
眩い光がマリアに降り注ぐ。
しかし、マリアは平気だった。
「そ、そんな・・・私の攻撃が効かないなんて・・・」
これは非常に不味い。馬鹿だけど、仮にも神様であるガイアの攻撃が効かないなんて、想定外だ。
聖母ガイアはというと、タブレットを取り出して、必死で何か調べ物をしている。
女神なんだから、みんなの前で焦るなよ・・・
しばらくして、聖母ガイアは納得した表情をして言った。
「分かったわ!!貴方は邪神そのものね。それにそのオーラは・・・」
「気付いたようね」
「そう貴方は・・・誰でしたっけ?」
マリアが激怒する。
「私にあんな仕打ちをして覚えてないの!?私の愛しいあの人を・・・」
「顔は分かるのよ。でも名前が思い出せなくて・・・」
どうやら痴情のもつれのような、雰囲気が出て来た。
マリアが言う。
「こうなったら、今回は引いてあげるわ。ただ、いつかこの世界を滅ぼしてやるからね。たとえ1000年掛かってもね」
するとマリアは消滅してしまった。
多分だけど、逃げられた感じがする。ていうか、絶対・・・
「皆さん、協力感謝します。これで世界は救われました。それでは、私はこれで失礼します。世界に幸あらんことを!!」
聖母ガイアは消えて行った。
おいおい!!この状況で帰ったのか!?
この後どうしろと?
これは想像だが、聖母ガイアはマリアの姿をした邪神に何かしたのだろう。絶対にそうだ。
異様な雰囲気になってしまったので、私が場を収める。
「聖母ガイア様によると、後1000年は平和ということです。さあ、胸を張って帰りましょう」
★★★
再びファイリス様に乗って帰還した。
帰る途中にロックス様と合流したのだが、アンデットはいつの間にか消滅したらしい。聖母ガイアが消滅させたのか、マリアが去ったことで、アンデットが消滅したのかは分からないけどね。
今後についてだが、実際はマリアに逃げられたのだけど、ゴードンとエリーナには口留めし、表向きは聖母ガイアを召喚し、見事マリアを討ち倒したことにした。1000年後にマリアが再び現れたとしても、私にどうこうできる問題ではないしね。
しかし、ルキシア王国は荒れ果てている。
一体、誰が立て直すんだよ?
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次回が最終回です。因みに魔道具は、次の日にガイアが取りに来ました。
ちょっと短編を書きましたので、箸休めにどうぞ。
「異世界スプーンおじさん」
https://ncode.syosetu.com/n6003ki/
しがないアラフォーサラリーマン須崎啓介は電車事故に巻き込まれ、気付くと神殿のような場所に転移していた。そこには108人の乗客がおり、女神を取り囲むように人だかりができていた。女神の話では、この108人は、世界を救う使命を受けた勇者らしく、「神器」という聖なる武器を渡されて、異世界に転移されるという。しかし、この「神器」が大問題だった。順番に「神器」を渡されて、転移して行く者たちを見送る啓介だったが、途中で気付く、これってネタ切れしてないか?
案の定、108人の最後に啓介が受け取った神器はハズレ中のハズレで、武器とは呼べない「スプーン」だった。これは後に伝説の勇者となる男の始まりの物語である。
※この物語は短編ですが、反応が良ければ連載も考えております。




