79 建国祭
早いもので、1年が経過した。アバウス伯爵領はアバウス公国として独立を果たし、アバウス伯爵はアバウス大公となって統治を宣言した。そして今日、私たちはアバウス公国の建国際に来賓として出席しているのだ。
講和会議から今まで、粘り強くルキシア王国に講和の打診をしていたが、なしのつぶてだった。一応、建国祭にはルキシア王国の関係者も招待はしていたが、完全に無視されている。
アバウス公国の現状だが、財政は借金漬けだ。債権者は主に神聖国ルキシアとオルマン帝国で、比率は7対3となっている。また国軍を両国の国境付近に配置する場合は通知しなければならないという条約も結ばれていて、神聖国ルキシア、オルマン帝国の意向に従わなければ存続することもできない状態だ。両国にとってみても、ルキシア王国との緩衝地帯となるし、発展すれば自国にも利益が入るので、あってくれて有難い国でもある。
このまま発展すると将来、親オルマン帝国派と親神聖国ルキシア派とで勢力争いが生まれる可能性はあるが、今はそこまで気にしなくていいだろう。今のところ、アバウス公国は親神聖国ルキシア派が大半を占めている。これには私だけでなく、ドロシーの活躍も大きい。
蕎麦を売り出すためにデブル枢機卿の奥さんのスガクールさんの力を借りて、新作の演劇を上演したのだが、これが思いのほか大ヒットした。タイトルは「いっぱいのコロッケ蕎麦」だ。これも前世の記憶から似たような話を教示したのだが、原作とは程遠い内容になってしまった。
内容は、土の女神と呼ばれた5代前のアバウス伯爵の伝記を参考に民の為に頑張っている女性土魔導士に聖母ガイアの祝福が与えられるというものだ。その祝福は、民の為に頑張れば頑張るほど、蕎麦のトッピングを増やしてくれるという一風変わったものだった。
蕎麦の売り上げを上げるために無理やり、ドロシーと関連付けた物語ではあったが、オルマン帝国貴族の間では、どれだけトッピングを乗せられるかで自慢し合うことが流行ってしまった。一般庶民でもコロッケくらいはトッピングできるから、この話のウケはよく、今日に至っている。
蕎麦の味を純粋に味わえるザル蕎麦派の私にとってみれば、少し複雑な気持ちにはなるが。
建国祭も無事に終了し、私たち神聖国ルキシアの関係者、オルマン帝国の代表者、アバウス大公で今後の方針について協議することになった。まずは、アバウス大公から現状を報告してもらった。
「両国の支援もあり、復興は順調です。このまま上手くいけば、支援金も10年以内には返済できるものと思います。気掛かりと言えば、ルキシア王国からの難民が増えたことでしょうか?」
これに対して、オルマン帝国の代表者であるブラックローズ公爵も続く。
「ルキシア王国と国境を接する地域では、多くの難民が保護を求めてやって来て、問題になっている。現金なもので、ヘクター辺境伯なんかは『国境を接しなくなって、本当によかった』とか言っておるくらいだからな」
コウジュンも発言をする。
「難民の保護については、カレン様の意向もあり、最大限支援しております。ですが、軍事的な面だけで言いますと、もう戦争ができるような状態ではないので、その点は運がいいとも思ってしまいます」
保護した難民たちの話では、碌に食べる物もないのに重税で、わずかな貯えも絞り取られているという。
「人道的な面から支援をしてやりたいがな・・・・こちらも支援を条件に講和の席を設けることを要請しているのだが、全くの無視だ。普通なら向こうから講和の話を振ってきてもいいようなものだが・・・」
オルマン帝国だけでなく、我が国も根気強く講和の場を設けるように要請しているが、全く聞く耳を持ってくれない。
「それはそうと、聖女マリアだが、正式にホワイトローズ家から廃嫡となった。ホワイトローズ公爵の洗脳が解けたようで、本当にマリアがホワイトローズ家所縁の者かどうかも怪しいらしいしな。ホワイトローズ公爵を洗脳するくらいだから、マリアという女は侮れんが・・・」
まあ、邪神だしね。私の前に姿を現してくれればすべて解決するんだけどね・・・
「今後のことですが、今までの活動を継続することでよろしいでしょうか?私は聖女として、難民の保護を最優先に考え、引き続き粘り強く対話を試みようと思います」
「オルマン帝国としてもそれで構わん。相手が自棄になって攻めてきたら別だが、難民の問題さえ解決すれば、平和なほうが都合がいいからな。治安維持のため、国境付近にはそれなりの戦力を配置することになるだろうがな」
「私もそれで構いませんよ。聖女様には申し訳ないが、自国民を最優先に考えています。ルキシア王国の困っている人たちも助けてあげたいですが、物理的に厳しいですからね」
私もできるなら助けたい。でもこちらの資源も限られている。聖女としては言えないが、本音ではこのまま何十年も膠着状態が続いても、別にいいと思っている自分がいる。自分と自分の大切な人が幸せならそれでいいのだ。
ただ、聖女としては一言言っておく。
「何とかして、彼らを救済する道を諦めず模索していきましょう。それが聖母ガイア様の意思でもありますから・・・」
ブラックローズ公爵もアバウス大公も従者たちも、感動していた。
ビジネス聖女が板についてきたと思う。
★★★
式典も終わり、聖都エルサラに帰還し、通常業務を行っていたところ、急報が飛び込んできた。
「なんですって!!アンデットの大群が押し寄せて来たですって!?」
このとき私は、人生で一番悔いた。
ルキシア王国の馬鹿ども(多分マリアに洗脳されているのだろう)が、狙っていたのはアンデットを量産することだったのだ。
私はマリアの危険性を誰よりも知っていたのに・・・・
自分さえよければという思いから放置した結果がこれだ。
報告を受けたお父様は言う。
「とりあえず、様子見だな。一応すぐに出撃できるように準備をさせておくとしよう」
「お父様!!お言葉ですが、これは世界の危機です。すぐに私は出陣します!!」
気が付くと私は叫んでいた。
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