78 ダンジョン探索
冒険者ギルドの思惑は、このダンジョンの1階層と2階層で、駆出し冒険者のための訓練スポットとして活用しようとしていたようだ。そこに私の「ごく普通にダンジョン探索をしてみたい」という思惑が重なり、ミランダ氏を含むベテラン冒険者が私に指導しながらダンジョンの攻略に臨むという構図ができた。
ゴードンなんかは、かなり心配していたが、そこも何とか説得した。
「ゴードン、気持ちは嬉しいけど、これは聖女としての試練なのよ。それにベテランの冒険者もいるし、大丈夫だからね」
渋々納得したようだった。
初めてのまともなダンジョン探索は、新鮮で楽しかった。斥候職の冒険者が丁寧に罠の解除方法を指導してくれたり、ミランダ氏の助力がありながらも魔物を数体討伐することができた。また、素材の見付け方や採取方法も指導してくれた。意外なことに特に難しいことはなかった。
「聖女様はすぐにでも冒険者になれますよ。回復魔法も支援魔法も使えますから、経験を積めばBランクくらいにはなれますね。よろしければ定期的に冒険者活動をしてみては?」
ミランダ氏に太鼓判をもらった。
そんな感じで、1階層と2階層を突破し、3階層に進む
3階層は鉱山エリアだった。
「この階層は岩系のロックゴーレムやロックスネークなどの魔物が出現します。流石に剣や槍での攻撃が通りにくいので、初心者には厳しいでしょうね。ただ、ベテランになれば対処法も心得ているので、問題になりません。少し従者の方を貸してもらえますか?」
ミランダ氏の申し出を受け、ゴードン、エリーナ、アズイーサをミランダ氏の指揮下に入らせた。ミランダ氏は作戦を従者たちに伝えていく。
しばらくして、階層の攻略が始まった。多数の岩系の魔物が出現したが、彼らの敵ではなかった。ゴードンが楯でそれらの攻撃をすべて受け止め、エリーナが後方を攪乱する。そして、冒険者から借り受けた特大のハンマーでアズイーサが、魔物たちを粉砕していった。討ち漏らしがあってもミランダ氏を含めた冒険者たちが適切に対処していく。
あっという間だった。これは見せられては、彼らと私の戦闘力にかなりの差があることが分かった。
ここからは、無理をせずに後方で待機しよう。
「このような形の戦術であれば、苦労することなく討伐は可能です。流石に一般の冒険者はここまで早く討伐はできませんがね」
ミランダ氏の解説を受けた後に4階層に進んだ。
4階層には大きな湖があった。
「この階層はほとんど調査は進んでいません。湖内に何かしらのお宝があると思うのですが、湖内に入らなくても5階層に素通りできます。5階層は作りからして、ダンジョンボスがいる可能性が高いですね。ここまで基本的な構造のダンジョンなら、間違いなくいるでしょう」
「だったら我の出番だな!!湖内に入ってやろう。このビキニアーマーは水陸両用だからな」
というか、それってただの水着でしょ!!
冒険者が止めるのも聞かずにアズイーサは湖に入ってしまった。しばらくして、アズイーサが悲鳴を上げて、泳いで帰ってきた。
アズイーサのお尻には、サメ型の魔物が食いついていた。すぐに冒険者たちがサメ型の魔物を討伐する。ドロップしたのは、キャビアに似た魚の卵だった。
「水中活動に特化した冒険者でないと探索は難しいですね。ドロップ品は高級な魚卵なので、定期的に採取したいところではありますが・・・」
「それでしたら、リザードマンたちに多少の伝手はありますので、今度依頼してみますね」
その後私たちは、アズイーサに厳しく指導した後、5階層に向かった。
後日談だが、この湖での採取活動は大きな利益をもたらすことが分かり、この町に多くのリザードマンが居住することになるのだった。
5階層は、素人の私が見ても他の階層と雰囲気が違っていた。転移スポットから通路を進むと大きな扉が設置されていて、いかにも「ここにボスがいますよ」と示しているようだった。
「どのようなダンジョンボスが出てくるか分かりません。無理をせず、危なくなったらすぐに撤退を指示します」
扉の前でブリーフィングを行い、様々な想定が話し合われ、装備の点検が終わったところで、扉を開いて中に入った。
その部屋にいたのはビッグパンサーだった。大型の豹の魔物で、巨体に似合わず素早く、そして爪での攻撃は強力だという。
「Bランクの魔物ですね。このメンバーでは相手になりません」
「それって、かなり危険ということですか?」
「逆ですよ、聖女様。
じゃあ、みんなプランCの一斉攻撃でいくわよ!!ゴードン君は聖女様の護衛に入って!!」
「「「了解!!」」」
ゴードンが私の前に布陣すると一斉に冒険者や従者たちが魔法攻撃を開始し、続いて近接攻撃が得意なアズイーサと冒険者2名が斬りかかった。
こちらもあっという間に討伐されてしまった。
「ドロップアイテムは砂金ですか・・・まずまずですね。オルマン帝国との国境にも近いし、貴族向けに販売するのもいいかもしれませんね。まあ、優良ダンジョンであることには変わりはありませんがね」
結局、冒険者ギルドもこのダンジョンを優良ダンジョンに指定するみたいだった。
★★★
私たちは、ダンジョンが発見された村に10日滞在した。ダンジョン調査だけでなく、この村の東に砦を築くことになったからだ。というのもこの付近はオルマン帝国とルキシア王国との国境に面しており、ルキシア王国からの侵略を防止するためだった。ダンジョンもあり、間近で土の女神の生まれ変わりと噂されるドロシーの工事が見られるとあって、どんどんと人口は増えて行った。1か月後に再度訪問したときには、冒険者ギルドが優良ダンジョンとして正式に指定したこともあって、もう村ではないほど発展していた。
今もダンジョン開きの式典で、アバウス伯爵がスピーチをしている。
「我々は聖女様、並びに土の女神様の力をお借りして、立ち上がると宣言する。そしてこのダンジョンを「始まりの洞窟」と名付け、この町もバージニアと名付けた。我々の復興はこの町から始まるのだ!!」
住民や冒険者が沸き立っていた。
大きな問題も起きていない。強いて言えば、冒険者ギルドからビキニアーマーを着用して、無謀な突進を繰り返す神官騎士団を何とかしてほしいという要望があったくらいだ。駆出し冒険者に悪い影響が出ることは間違いないので、厳しく指導して止めさせた。
まあ、特産品は見付かるし、優良ダンジョンも発見されるし、本当に私は神に愛されているのかもしれないと勘違いしそうになる。
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