73 講和 4
「受け入れられません。この会議自体が意味のないことです。この聖女は悪魔の化身です。即刻処刑することを提案します。皆さん騙されています。聖女及びその親族の首を差し出せば、その他の者に手は出さないことは、聖女の私が保証しましょう」
ルキシア王国の聖女であるマリアの発言で、会場は騒然となる。私たちもそうだが、ヘクター辺境伯なんかは、大慌てだ。
「聖女マリア殿、どういうことでしょうか?とりあえず休戦して、ゆっくりと・・・」
「黙りなさい!!貴方もこの悪魔に唆されているのですね。こちらの偽聖女に味方するなら、オルマン帝国にも宣戦布告を致します。どちらかが、滅びるまで戦いは終わりません。これは聖戦です。ルキシア王国の皆さん!!命の限り戦いましょう!!」
これにルキシア王国の関係者は沸き立つ。見たところ、どうも目つきがおかしい。多分、スキルか何かで正常な判断ができなくなっているのだろう。口々に叫ぶ。
「聖戦だ!!聖戦だ!!」
「悪魔を殲滅するぞ!!」
そして、マリアとともにルキシア王国の関係者は会場を去って行った。もう交渉どころではなくなった。
★★★
残された私たちとオルマン帝国の関係者で協議する。ヘクター辺境伯が嘆く。
「ここまで上手くいかないとは思いませんでした。レッドローズ公爵家にどのように報告すれば・・・」
ブラックローズ公爵が応じる。
「ヘクター辺境伯、今はそれどころではない。場合によっては我らオルマン帝国にも宣戦布告すると言いおった!!すぐに皇帝陛下に報告するとともに対策を取らねば。舐められたままでは終わらせん。それにホワイトローズの者、いくらあちらの聖女がホワイトローズ家の者でも、あちらの肩を持つのは考えたほうがいいのでは?」
ホワイトローズ公爵家の関係者は困惑した表情を浮かべて言う。
「冷静に考えればそうです。しかし、なぜかホワイトローズ本家ではマリア殿に心酔している者が多くいるのです。ホワイトローズ公爵もそうのうちの一人です。このままでは、我らオルマン帝国も分裂し、最悪は内戦になるかもしれません」
「なぜだ!!あのような者の戯言を信じるなど・・・」
ここで意外な人物が口を開く。ブルーローズ公爵だ。
「実は計測器で調べたところ、マリアの周辺から「魅了」系のスキルや魔法の際に発する魔力が、常に検出されていた。つまり、スキルか魔法を使用して交渉を有利に進めようとしていたのだろう。我は、あの女を聖女とは名ばかりの偽者だと結論付ける。ホワイトローズ公爵もその魔法に掛かったのだろう」
「流石はブルーローズ公爵閣下ですね。客観的なデータからマリアが怪しいと気付くなんて・・・それにしてもなぜ計測器を用意していたのですか?」
「聖女二人が邂逅するのだぞ。研究者として、聖母ガイアが降臨する可能性が高いと考えるのは当然であろう」
場が微妙な雰囲気になった。しかし、ブルーローズ公爵の研究馬鹿な一面によって、マリアの胡散臭さが露呈したことは不幸中の幸いだろう。
ブラックローズ公爵が言う。
「研究馬鹿も偶には役に立つものだ。しかし、マリアの意図が分からん。まるで、戦争がしたいだけに思ってしまう」
ヘクター辺境伯も続く。
「それには同意します。戦況を考えれば圧倒的に不利な中で、聖女カレン殿から破格の条件を掲示されたのですから、普通なら停戦だけでも受け入れるはずです。現に途中まではルキシア王国の担当者は停戦に乗り気でしたしね」
本当にそう思う。一体、マリアの意図は何なのだろうか?
それにジョブが「邪神の化身」「死霊術死」なのも気になる。「邪神の化身」の意味は分からないが、「死霊術死」はアンデットを使役するジョブだ。魔力にもよるが、死体からアンデットを作り出すと聞く。戦争を起こして、多くの死体を集めたいだけなのだろうか?
そう思ってみても、ここであやふやなことは言えない。聖母ガイアを降臨させて、どうのという話でもない。私が悩んでいると急に空間が歪んだ。気が付くといつもの神殿に居た。
目の間にはいつにも増して正装をした聖母ガイアいた。そして、いつにも増して厳かに言う。
「聖女よ。日頃の献身的な活動に心から敬意を表します。信仰ポイントが一定数に達したので召喚されたのです」
★★★
意味が分からない。昨日、召喚されただろうが!!
少し考えてみると、ある仮説に思い至った。多分、前回のアレをなかったことにしようとしているのだろう。私もそんな経験がある。大失態を犯したとき、記憶から消そうとして、そんな行動を取ってしまうことはある。しかし仮にも神様が、そんなことでいいのだろうか?とは思ってしまう。
まあ、下手に突っついて、機嫌を損ねても困るので、必要事項を聞くことにした。
「評価くださり、ありがとうございます。それで早速質問をさせていただくのですが・・・・」
私は聖母ガイアにルキシア王国の聖女マリアの案件について、質問をした。彼女が「邪神の化身」「死霊術師」であることや、戦争を望んでいる意味が分からないことを説明した。
急に聖母ガイアの表情が変わり、狼狽え始めた。
「そ、そんな・・・「邪神の化身」ですって!!絶対に入れるはずはないのに!!夫かテティスちゃんが協力したとしか思えない!!もういいわ、世界を滅亡させてやる!!」
何がどうなってそういう結論に達したのかは分からない。しかし、世界を滅亡させるわけにはいかないので、必死で聖母ガイアを宥める。聖母ガイアは取り乱し、泣き叫んだが、次第に落ち着きを取り戻したので事情を聞く。
「貴方が鑑定したマリアという女は、邪神で間違いないわ。神々の世界では、他の神の世界に入り込んで、嫌がらせをするような神がいるのよ。この世界を管轄する神として見過ごせない事態ね。それで神が他の世界に転生する場合、その世界を管轄する神の了承が必要なのよ。私は許可なんてしていないから、パスを持っている夫かテティスちゃんが協力しているとしか思えない。もう家族として終わりかもしれない・・・・」
私の勘だが、多分馬鹿娘のテティスだろう。しかし、ここで馬鹿女神に何かされるよりも、まずは世界を救わなくては。
「犯人捜しは別にして、まずは世界の危機を救いましょう。せっかく旦那さんが一生懸命作った世界ですから、壊されるわけにはいきませんからね」
「そ、そうね・・・そうしましょう」
「ではまず、対処法やマリアのスキルについて教えてください」
「分かったわ。それじゃあ、まずマリアに会って、私の像をかざしてこう唱えるの。『偉大なる聖母ガイアよ!!我に力を!!聖母召喚!!』ってね。そうしたら、私が召喚されるから、後は私がカッコよく邪神を拘束して、神界に連れて帰るわ。それと、アンデットを使役できるから気を付けてね・・・・」
説明を聞いて唖然とした。そんな大事なことなら、早く言えよ!!
さっき、それができただろうが!!
そう叫びたかったが、馬鹿女神がまたパニックを起こしてもいけないので、我慢することにした。そして、ある程度情報を得た私は、元の世界に戻るのだった。
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