7 聖女、真実を知る
私は今、本物の聖母ガイアと話している。場所は前回と同じ神殿だった。
「まずは約束したご褒美はどうしようか?願い事一つ叶えるという話だと思うんだけど」
「そうですね・・・少し質問をさせてもらっていいでしょうか?」
「答えられる範囲ならいいわよ」
前回と違い聖母ガイアは、ラフな服装で、言葉遣いもその辺のおばちゃんと変わらない感じだった。前回のような厳かな雰囲気は皆無で、まるで隣のおばちゃんにお呼ばれした感じだった。
「前世で、私と一緒にバスに乗っていた人たちはどうなったのでしょうか?」
「ああ、それは気になるわね。前に言わなかったかしら?」
「伺ってません」
「えっとね。まず、バスの運転手だけど、奇跡的に一命を取り止めたわ。あなたと一緒にいたもう一人の女は不本意ながら転生させてやったわよ」
エリナちゃん・・・やっぱり駄目だったんだ。そうとは思っていたが、改めて事実を聞かされると自分のことのようにショックを受ける。
「一緒に居ただけの女のことを気に掛けるなんて、優しわね。でも言ったら悪いけど、生意気でいけ好かない女だったわ。今回のように事件や事故を利用して転生させる場合は誰か一人だけってことはできないのよ。全員転生させるか、全員させないかなのよね。そうでなかったら絶対に転生なんかさせなかったんだから。
一応、簡単に調べたけど、その女は多くの男を手玉に取って悪さをしていたみたいなのよ・・・」
それって前世の私だ。間違いない、聖母ガイアは私とエリナちゃんを取り違えてたんだ。
本当に腹が立つ、神様なんだからキチンと仕事しろよ。銀行で別の人間に大金を振り込んだらどうなる?大問題だろ?
産婦人科で赤ちゃんを取り違えたらどうなる?それこそ、取り返しのつかない悲劇が発生する。
私はこの馬鹿女神に少し文句を言ってやろうと思った。
しかし、この馬鹿女神は話を続ける。
「生意気なことにそのクソ女はね、転生のポイントが800ポイントもあったのよ。何をどうしたら、男を手玉に取って悪さしたアンタがこんなに評価されるのよって感じだわ」
エリナちゃんは、16歳という短い生涯を閉じたのだが、27年も生きた私の8倍も評価されていたようだ。普通気付けよと思う。
「だからね言ってやったのよ。『散々男を手玉に取って、悪さをしてきたことをちゃんと反省しなさい』ってね。そうしたらなんて言ったと思う?こう言ったのよ『私は処女で、男性とお付き合いしたことはありません。謂れのないことで反省するなんてできません』だって・・・」
だから、それって私、東野加奈子なんだから・・・。
更に馬鹿女神の話は続く。
「だからね。キチンと反省させてやろうと思って前世の記憶を封印して、スキルやジョブも全く役に立たないものばかり、付けてやったわ。例えば獣人に転生させたんだけど、「すべすべの肌」とかいうスキルを付けたりしたのよ。獣人は毛並みが命なのにね・・・・だから必要以上に時間が掛かっちゃって、貴方の面談時間がほとんど無くなったのよ。なんせ800ポイントあったんだからね。恨むんなら、あの女を恨みなさいよね」
もう我慢の限界だ。エリナちゃんは、真面目に一生懸命に生きていたはずだ。こんな薄汚れた私にまで、分け隔てなく接してくれて・・・・。
将来の夢も教えてくれた。あのときのことが昨日のことのように思い出される。
『加奈子さん、私ね、将来は弁護士になりたいの。実は小6の時にクラスでいじめられている子がいて、助けたら、今度は私がいじめられるようになったんだ。そのときは、こんなことしなきゃよかったと思ってたけど、卒業式のときにいじめられていた子が私に、「本当にありがとう」って言ってくれたんだ。
それにクラスの8割くらいの子が私に言ってくれたの、助けたいけど怖くて助けられなかった。エリナは凄いってね。
だから、困って助けを待っている人を救うために私は弁護士になるの』
こんなに頑張ってきた少女に酷い仕打ちをするなんて、こいつは聖母でも何でもない。邪神だ。
そして私は意を決して言った。
「聖母ガイア様、あなたは大きな間違いを犯してます。それは・・・」
言いかけたところで、また邪魔が入った。
黒髪の美少女が神殿に入ってきた。もうここまで来たら呪いのレベルだ。
「テティス!!今までどこに行ってたの!!あれほど変な邪神と付き合ったら駄目って言ってるじゃない」
「妾は世界を恐怖に陥れる邪神じゃ。誰の干渉も受けぬ」
「何影響されて、変な喋り方してるのよ!!もうおやつもお小遣いもあげないからね!!」
「そ、それは・・・」
何かすべてが阿保らしくなった。もう何でもいい。とりあえずこの場から離れたい。
「聖母ガイア様、お取込み中申し訳ないのですが・・・・」
「ああ、そうだったわ。嫌だもう時間がない。早く願い事を言って」
「私と一緒に転生した女性の転生先を教えてください」
「そんなことでいいの?じゃあ言うわよ。あなたが暮らす領都エルサラから南に二日程の距離にあるレーべ村よ。それと今後あなたが有名になるに連れて、あなたを潰そうとしたり、逆に利用しようとしたり、するような奴が大勢現われるから、十分気を付けてね」
「は、はい。それとですね・・・・」
「あっ!!私なんて格好をしてるの・・・ちょっと待っててね」
そう言うと馬鹿女神は服装を転生で面談したときの厳かな衣装に着替えた。
もう諦めた。
「聖女よ。前世で悪行を繰り返した者にも救いを与える姿勢はまさに聖女だ。このまま善行を積みなさい。それではあなたの未来に幸大からんことを!!」
今更取り繕っても遅いのに・・・何を考えてるんだ、この馬鹿女神は。
しばらくして、気が付くと自室に戻っていた。枕元には一回り大きくなった聖母ガイア像が置かれていた。また、信仰心を集めろってことか・・・・
とりあえず、不遇な環境にあるエリナちゃんを救い出そう!!
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